テレワーク導入のポイントとは? 企業の導入率や課題を解説
新型コロナウイルスの影響で、働き方において「テレワーク」という選択肢の認知が広まり、今日においては一般的になってきました。
ただ、その恩恵を存分に受けていると実感している方はどれだけいるのでしょうか。
思った以上に社内との連携に骨が折れたり、スピード感がなくなったりといった経験は案外多いかもしれません。
本記事では現状を明らかにしたうえで、「テレワーク」という働き方をスムーズに導入するために重要なポイントや、実際の導入事例をご紹介します。
目次
テレワークの導入率は増加傾向
テレワークとは
効率的な労働と長時間労働の是正を目指すうえで、「テレワーク」という働き方は外せないでしょう。
テレワークを簡単に説明すると、ICT(情報通信技術)を利用して、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を指します。「テレ」は「tele=離れた場所」、「ワーク」は「work=仕事」という意味を持ち、自由な場所や時間を選べる勤務形態を示す造語です。
テレワークには、大きく分けて3つの種類があり、主に働く場所によって分類されます。種類は以下の通りです。
- 自宅を就業場所とする「在宅勤務」
- 顧客先や移動中など施設に依存しない「モバイルワーク」
- 勤務先以外のオフィススペースで働く「サテライトオフィス勤務」
総務省が公表した「令和3年通信利用動向調査の結果」によると、2021年の企業のテレワーク導入率は51.9%です。新型コロナウイルスが流行する前の2019年ではテレワーク導入率は20.2%にとどまっていましたが、2020年に47.5%まで急増して以降、高い数値を保っています。
また、東京都が公表した「テレワーク実施率調査結果(令和4年4月)」よると、2022年4月時点での都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は52.1%でした。2022年3月時点の62.5%から1カ月で10.4ポイント減少していますが、それでもなお半数以上の企業がテレワークを導入していることがわかります。
▶出典:東京都「テレワーク実施率調査結果(令和4年4月)」
リモートワークとの違い
なお、テレワークとよく似た言葉に「リモートワーク」があります。リモートワークも「オフィス以外の場所で働く」ことを指し、基本的にはテレワークとほぼ同じ意味を持ちます。ただし、テレワークのように在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスなどの分類がないことが大きな違いです。
テレワークとリモートワークの違いとは?意味や働き方について詳しく解説
テレワークのメリット
テレワークを導入すると、業務においてあらゆる面でのメリットを享受できます。
1) 生産性の向上
場所や時間にとらわれずに働けるので、通勤や移動時間の削減や会議時間の短縮につながります。
企業がテレワークを導入する目的の中でも「勤務者の移動時間の短縮」や「定型的業務の効率性(生産性)の向上」は約半数にのぼります。
2) コストの削減
出張にかかる旅費や交通費、オフィスの費用を削減できます。
3)労働環境の改善
決まった時間に指定の場所で業務を行わなければならないという制約がなくなります。働きやすさが増し、従業員のモチベーション向上につながるでしょう。
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生産性向上とはどういう意味? 企業が実施できる7 個の対策方法
データで見るメリット
データ上の数値でも、テレワークの効果は裏付けられています。
総務省が公表する「令和2年 通信利用動向調査報告書の結果」では、7割以上の企業が「テレワーク導入の効果があった」と回答しています。これはテレワークの有用性を示す重要な数値であり、将来性の高さがうかがえます。
企業が感じる効果
企業が感じる効果として、まず挙げられるのが業務効率化による生産性の向上です。
オフィス内で仕事をしていると、ほかの仕事のサポートを突然頼まれたり、急なミーティングに呼ばれたりして、作業を中断せざるを得ない場合があります。その点、テレワークなら自分の業務のみに集中して取り組みやすく、モバイルワークなどで隙間時間の有効活用もできます。
またテレワークを導入することで、オフィスの賃料や交通費などの様々なコストが削減できるのも大きなメリットです。
さらに、オフィスワークのみの環境だと、会社の立地によっては、豊富な知識や高いスキルを持つ優秀な人材を見逃してしまうかもしれません。家庭の事情で特定の土地から動けない人や、入社に伴う引っ越しを望んでいない人もいるからです。
テレワークを導入すれば、立地問題は解決し、地方のみならず世界中の優秀な人材と仕事をすることも可能になります。これに加えて、結婚や出産、育児や介護などがきっかけで離職せざるを得ないといった状況も回避できます。多様なライフスタイルにマッチした働き方を提案できるため、企業のイメージアップにもつながるでしょう。
そして、不測の事態へ対処がしやすいのもテレワークの大きな特徴です。大きな災害が起きて交通機関が停止してしまっても、インターネットに接続さえできれば、出社せずに業務を継続できます。従業員の安全を守ることにもつながり、業務への支障を最小限に抑えられます。不可抗力の事象を理由に稼働をストップしなくて良い点は、企業にとって大きな安心材料ではないでしょうか。
従業員が感じる効果
東京や大阪など、都市圏で働く従業員にとっては、通勤時の精神的・身体的負担は相当なものになります。連日の満員電車通勤によって、始業前から疲弊している人は少なくないでしょう。
テレワークを導入していれば、通勤時間の短縮によって、心身ともに余裕を持てるようになります。空いた時間を休息や運動など、健康のために活用することも可能です。
また、テレワークは育児や介護と仕事を両立させる一助となります。ライフスタイルの変化により、キャリアを中断せざるを得ない従業員も、テレワークが導入されていれば安心です。スキルや経験を活かしながら、無理なく仕事とプライベートを両立して働き続けられます。本人にとってプラスになるのはもちろんのこと、安定した雇用が受けられるため、家計を助けることにもつながります。
それと同時に、ワーク・ライフ・バランスも実現しやすくなります。家族と過ごす時間を増やしたり、趣味の時間を楽しんだり、スキルアップなどの自己啓発に取り組めるようになるでしょう。より充実した生活が送れるため、モチベーションアップや仕事のパフォーマンス向上も期待できます。
テレワークの導入手順
テレワークの利点について理解したところで、実際に導入するにあたって、どのような手順で進めれば良いのでしょうか?
総務省が作成した「テレワークではじめる働き方改革」をもとに、導入手順をご紹介します。
テレワークの全体像を掴む
テレワーク導入までのプロセスを学び、「どんな手順を踏めば、テレワークを開始できるのか」というおおまかなイメージをつくりあげます。
従業員がテレワークでも問題なく働ける「人事・労務の観点」、安全かつ快適なシステムを使って勤務できる「ICTの観点」、導入後もテレワークを普及できるよう努める「実施の観点」の3点を意識しながら、これからの業務の進め方を把握・確認しましょう。
担当者の一部だけではなく、企業全体で同じ視点を持てるように工夫してください。方針決定から改善点の振り返りまで、1本の大きな流れを掴みましょう。
全体方針を決定する
何のためにテレワークを導入するのか、企業全体で目的や方針を定めることが重要です。この時、テレワーク導入そのものが目的にならないように注意してください。「働き方改革推進のため」「生産性を向上させるため」「コスト削減のため」など、テレワーク導入後に企業が得るメリットを具体的に提示し、従業員全員が同じ方向を向いて走り出すようにしましょう。
方針決定の間に社内から疑問や不満が出て、迅速な合意形成が難しい場合は、協議を重ねてじっくりと理解を広げていきます。社内セミナーを活用し、普段からテレワークに対する興味関心を全社的に高めておくといいでしょう。特に経営陣の理解力を高め、上層部から全従業員にテレワークの価値の高さを伝えられる形が理想的です。
社内のルールを作る
テレワークを行う際は事前に上司へ連絡し、承認をもらう一連のフローを制定するなど、社内のルールを作りましょう。また、「対象者」「対象業務」「実施頻度」も決めておき、テレワークの実施範囲を定めておくことも必要です。
導入したばかりであるトライアルの時点では、一部の職種に限定し、頻度も週に1~2回程度の低頻度から実施することになるでしょう。各部署の業務を洗い出し、現時点でテレワーク実施可能な業務をピックアップするところから始めます。その後、企業全体でテレワークの働き方に慣れてきたら、対応者や対応業務の範囲を広げ、頻度も徐々に増やしていくことをおすすめします。
これらに加えて、就業規則にテレワークに関する記載を増やし、労務管理制度を整えることも重要です。人事評価制度を確認し、テレワーク下で不適切な評価がされないよう、あらかじめルールを定めておくと、現場の混乱を防げます。「とりあえず導入だけ行い、細かいルールはあとで決める」という場当たり的なやり方は避けましょう。
ICT環境を作る
十分なICT環境が整備されていない場合は、テレワーク開始までに適切なシステムを導入しなければなりません。セキュリティ面や作業効率を考慮し、自社に合った作業環境を選ぶ必要があります。
テレワーク利用に向いたシステムとしては、デスクトップを遠隔操作する「リモートデスクトップ方式」、クラウドアプリを使用する「クラウド型アプリ方式」などが例に挙げられ、それと同様にデバイスやネットワーク、サーバーの精査も重要です。
テレワークにふさわしいICT環境には、従業員を管理する「マネジメント」、データを保護できる「セキュリティの確保」、情報共有できる「コミュニケーション」の3要素が求められます。現在のICT環境を確認し、どんなシステムを新たに導入すればいいか検討しましょう。
なお、オンラインの勤怠管理ツールやコミュニケーションツールなど、テレワークを快適に進めるためのビジネスツールも各社からリリースされています。どの製品が自社にもっともマッチしているのか検討し、議論を重ねてください。
セキュリティ対策をする
テレワークを行う際は、重要な情報を社外に持ち出すことになります。テレワーク実施前とは異なるセキュリティ対策を実施し、もしもの事態に備えなければなりません。
データ持ち出しに関するルールを定めた「セキュリティガイドライン」を作成し、作業環境や管理方法について細かなルールを決めましょう。ガイドラインを作って満足するのではなく、導入後もきちんとルールが遵守されているか、定期的なチェックまでフローに落とし込むことが大切です。なお、セキュリティ対策ソフトの使用や暗号管理など、技術的な面でもしっかりと対策を行いましょう。ただし、利用者にとって煩雑なルール設定やセキュリティ対策は、業務効率を損なう恐れもあるため、適度なバランスを考えてください。
推進のための評価と改善をする
テレワーク導入後、一定のトライアル期間を経てから、評価と改善を行います。全体方針と照らし合わせながら、問題点や課題点を洗い出しましょう。計画と比べて想定より実施が困難であったり、手間取ったりした点について社員からヒアリングを行います。意見を改善策に反映させつつ、対象範囲の拡大やICT環境の再検討など、具体的な施策へアップデートさせましょう。
ヒアリングを行う際は、時間や費用など、数で数えられる観点で評価する「量的評価」、満足度やモチベーションなどの観点で評価する「質的評価」の両方で調査しましょう。誰からも率直な意見が聞けるように、グループインタビューや匿名アンケートなど、様々な方式でヒアリングを行うことをおすすめします。
テレワーク導入で削減できる費用
テレワークを導入するメリットの一つとして、様々なコストを削減できることを挙げました。ここでは、具体的にどのような費用を抑えられるのか説明していきます。
交通費
社員に通勤定期代を支給する必要がなくなるため、従業員の交通費を大幅にカットできるでしょう。「基本的にはテレワークで、特定の日のみオフィスへ出勤」という勤務形態では、オフィス出勤日数分の交通費を実費支給する必要がありますが、それでも定期代を全額支給するよりはコスト削減が期待できます。なお、通勤費だけでなく出張にかかる移動費も削減できます。オフィス外で行う他社との打ち合わせも、Web会議ツールなどを活用すれば移動費が不要です。会議室や飲食店の利用費もかからないため、大きなコストカットになります。
人材に関する費用
新しい人材登用や入社に際して、採用コストや研修費を抑えられることもテレワーク導入のメリットの一つです。ワーク・ライフ・バランスの実現に伴って、従業員の不満が減ることで働きやすい職場だと認識されれば、離職率の低下が見込めます。従業員が定着しやすく、人員補充が不要であれば採用活動の頻度を減らすことができ、その分採用と研修にかける費用や手間が削減されます。
また、優秀な人材が他社に流出しにくくなるため、企業の競争力向上ならびに、将来的な業績アップにも結びついていきます。
オフィス家賃や光熱費
従業員が出社する必要がなければ、高額なオフィス賃料や光熱費などの諸経費を削減できます。実際に、テレワーク率が100%に到達したことで、オフィスを売却した企業も少なくありません。
一部の従業員が社内に残る場合や、低頻度でのテレワークを実施している企業でも、小規模のオフィスでフリーアドレス制度を採用すれば、スペースを削減してコストカットを図れます。オフィス縮小に伴い、デスクや椅子、来客用の応接間や会議室も削減できます。
テレワーク導入で考慮すべき費用
テレワークのおかげでコストカットできる分野もあれば、別途費用がかかってしまうものもあります。これらの出費を考慮したうえで、テレワーク導入を進めなければなりません。
情報通信機器
テレワークに必要なパソコン、タブレット端末、社用のスマートフォンなどの情報通信機器は、基本的に企業が負担します。規模が大きな企業だと、従業員全員分のデバイスを用意するために多額の費用が必要となりますが、スムーズなテレワーク実施のためには必要不可欠なプロセスです。
テレワーク用のデバイスを用意せず、従業員の私用パソコンを使って社内ネットワークへアクセスする場合でも、情報漏洩やウイルス感染に備えて、別途で会社負担のセキュリティ対策を行わなければなりません。
テレワークで使用する機器には、企業向けのセキュリティ対策ソフトを導入し、頻繁にアップデートを行いましょう。インターネットウイルスやマルウェアは日々進化しているので、定期的な更新作業が必須です。
通信回線
テレワークには、一定水準以上の通信回線が求められます。自宅に通信回線がない従業員には、ルーターの購入や固定回線の設置工事などを依頼して環境を整備する必要があります。この際の費用は、個人負担もしくは費用の一部をテレワーク手当(在宅勤務手当)として企業が支給するケースが目立ちます。
また、すでに自宅に通信回線がある場合でも、通信環境の整備と同じく、光熱費や通信料金の一部は会社が手当として支給するのが一般的です。
ビジネスツール
テレワークを快適に実施するためには、各種ビジネスツールの利用も欠かせません。勤怠や稼働状況を確認しづらいテレワークでは、明確な「働いた証拠」でもある労働時間の適切な管理が求められます。
オンライン上でも従業員の稼働状況を一括でまとめられる労務(勤怠)管理ツールやスケジュール管理ツールを導入するといいでしょう。このほかにも、従業員同士のコミュニケーションを円滑にするチャットツールや、大人数でも対応可能なWeb会議ツール、仮想オフィス空間で働けるバーチャルオフィスツールなど、様々なビジネスツールがあります。
無料で提供されるツールもありますが、セキュリティ面や操作性などを考慮すると、多機能な有料ツールをダウンロードしたほうが安心です。
テレワークの実態と限界
テレワークを促進させるために、行政も助成金を出していますが、導入率の上昇はあくまで限定的です。どういった理由があるのでしょうか。
テレワークの現状
総務省が公表した「令和3年通信利用動向調査の結果」によると、、テレワーク未導入の企業は全体の約4割です。
導入しない理由について、テレワーク未導入の企業のうち約8割が「テレワークに適した仕事がないから」と回答しました。テレワークの導入をしない企業の多くが、テレワークの導入に意義を見いだせていないことがわかります。
世界的に見ても、日本を含むアジア圏は、テレワークの導入率がかなり低い水準にあります。行政が主体にテレワークの推進を試みている韓国でも、導入率は日本と同水準です。
一方で、テレワークの発祥国であるアメリカ合衆国では、85%の導入率を誇っていて、勤務の一形態として広く普及しています。
テレワークの限界
日本社会でテレワークを取り入れたとして、必ずしも上手くいくわけではないことは事実です。さらに、テレワークの導入が上手くいくという前提が崩れると、多くのメリットが、逆にデメリットへと姿を変える危険性もあります。
例えば、下記のような流れで、テレワークの導入が生産性低下の原因になり得るからです。
①部署ごとに業務が切り分けられていないため、業務上の確認事項が増える
②質問をするたびに業務が止まる
③生産性の低下につながる
このようなリスクを回避して、日本でテレワークを導入していくためには、考え方を変えなければなりません。
テレワーク導入時に立ちはだかる課題
テレワーク導入にあたって、考慮すべき問題点についてみていきましょう。
セキュリティ面における課題
テレワークの課題としてまず挙げられるのが、セキュリティ面のリスクです。特にモバイルワークを行う際には、情報セキュリティの確保が重要な課題になります。不特定多数の人が乗車している電車内などで、機密情報が記載されている文書を開くと、どこに情報が漏れるかわかりません。情報漏洩が起きてしまった場合は、信用の喪失はもちろんのこと、企業としての責任を問われる可能性もあります。
取り返しがつかない状況に陥る前に、アクセス制限を設けたり、情報取り扱いルールを従業員に周知したりといった対応が必要です。
マニュアルの新規作成や、既存の手順を変更する際は、WordやPowerPointを利用すると管理が煩雑化してしまいます。マニュアルをどこに格納したかわからない、誰が見たかわからないという状態になれば、実施すべきセキュリティ対策など、重要な要件が伝わらない懸念があります。
マニュアルや手順書を作成・保管する際は、格納場所の明示や管理の簡略化のために、専用ツールの導入をおすすめします。
コミュニケーション不足
従業員全員がオフィス内で仕事をしていると、自然とコミュニケーションが盛んになり、情報は共
有されていくものです。しかし、統一された職場が存在しないテレワークの場合は、どうしてもコミュニケーションが不足しがちです。
コミュニケーション不足をカバーするためには、必要なデータを確実に共有できるように、情報をドキュメント化しておく必要があります。属人化している情報を整理して、誰でもアクセスできる状態を作っておくことが大切です。
また、テレワークの開始に伴って新しく使用するツールや機器がある場合は、使用マニュアルも作成しておく必要があります。
労務(勤怠)管理における課題
テレワークとは、従業員が管理者の目の届かない場所で仕事をするということです。そのため、労働時間の管理が難しくなります。虚偽申告をする従業員が出てくる可能性も踏まえながら、公平性を保つために、適切な労務(勤怠)管理を行う必要があります。
パソコンの使用時間から、始業時間・就業時間を記録するなど様々な方法がありますが、業務内容やプロセスに応じて自社にもっとも適した方法を選ぶことが重要です。管理時のルールをきちんと明確化し、社内全体に周知することも求められます。
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テレワーク時代のマネジメントの変化
テレワーク導入の企業事例
テレワークを導入したことで生産性をアップさせたり、ワーク・ライフ・バランスの充実により企業イメージを向上させたりした企業の成功事例をご紹介します。
マイクロソフトの導入例
2010年に取り組みを始めた日本マイクロソフトでは、すでに多くの効果を上げています。2015年までの5年間で、ワーク・ライフ・バランスの満足度は40%、社員一人あたりの売上は26%も改善され、残業時間は5%、女性離職率も40%削減しました。
▶出典:Work×IT「日本マイクロソフトが推進する働き方改革の最前線(後編) テクノロジーと商習慣のバランスが取れる、新しいハードワーカーとは」
同社はフェイス・トゥ・フェイスでコミュニケーションを取る大切さを理解しながら、従業員それぞれの多様な働き方も許容しています。結果、生産性アップをはじめとして、多くの効果をもたらしました。
味の素の導入例
2014年からテレワークを促進している味の素では、「どこでもオフィス」という制度を導入しています。これは、自宅やサテライトオフィスをはじめとした、セキュリティが確保された勤務場所なら、いつでもどこでも勤務できるという取り組みです。
最大週4日まで活用でき、30分ごとに利用できるので、業務内容に合わせて柔軟な働き方を実現できます。導入に際して、経営会議をサテライトオフィスで実施したり、管理職は週1回「どこでもオフィス」での勤務が義務付けたりと、自由な働き方を選びやすい土壌を作るために、上層部が積極的に働きかけているところがポイントです。
また、従業員によって業務の行いやすさに差が出ないように、全従業員へ軽量パソコンとテザリング機能付きのスマートフォンを貸し出しています。従業員に対して平等な環境を提供しているその姿勢は、「多様な人財の活躍を実現する」という目標の達成にも役立っています。
サッポロビールの導入例
サッポロビールは、導入からたった1年あまりでテレワーク文化が浸透した企業です。「従業員にとってシステムが使いやすいかどうか」を重視しており、導入後も制度の改善を続けています。
より気軽にパソコンを持ち運べるように、パソコンの軽量化に取り組むほか、セキュリティレベルを向上させて、自宅・公共両方のWi-Fiを使用可能にするなど、実際に手を動かしている従業員の立場になって考えていることがよくわかります。
また、全国で利用可能な「シェアオフィス」の一覧表を作成し、どこでも仕事ができる環境を整えています。出張や帰省の際も空き時間に勤務が可能なので、フレキシブルな時間の使い方ができるでしょう。
なお、サッポロビールがテレワーク導入時に注意した点は、「各部署の勤務スタイルに合った方法を導入する」ということです。部署が変われば、適切なテレワークの取り組み方にも違いが出てきます。基本方針や考え方は全社で統一させながら、実際の導入方法は各部署の現場の声に任せるという考え方は、参考にしやすいのではないでしょうか。
日本航空の導入例
日本航空は、テレワーク制度の利用によって、ワーク・ライフ・バランスの実現を促しています。毎年テレワーク利用者は増加しており、従業員の満足度も高まっているようです。
テレワークを行う従業員はフレックスタイム制度を併用でき、3ヶ月間の総労働時間を満たしていれば、始業時間・終業時間を所定の範囲から自由に選択できます。家事や育児など各自のライフスタイルに合った働き方を選べるため、プライベートを犠牲にすることなく働けるようになりました。
旅行先でテレワークを行う「ワーケーション」の活用にも力を入れており、自由で多様性のある働き方を促進しています。テレワークによる業務効率化のおかげで空いた時間を、家族や友人と過ごしたり、自己啓発やスキルアップのために使ったりなど、従業員がいきいきと人生を楽しめるように働きかけています。
なお、デバイス面でのサポートも充実しています。セキュリティ対策の行き届いたパソコンやスマートフォンの貸与を行っており、安全な環境下で勤務可能です。
業務の「切り出し」がテレワークの肝
「そもそも」に立ち返る
日本でテレワークを普及させるカギは、「そもそも」という問いを立てることにあります。日本でもテレワークという勤務形態が広まってきたとはいえ、欧州他国と比べると浸透しにくい状況です。一方で、アメリカ合衆国では勤務のスタンダードといえるまでに普及している理由を考えてみましょう。アメリカと日本における「雇用形態」の違いに、そもそもの答えがあります。
アメリカはいわゆる「ジョブ型」の雇用形態です。
これは「仕事に人を付ける」という考えが基本原理であり、まず必要な仕事を想定し、その仕事を担うスキルがある人材を募集します。「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」に記載されている職務が、人事・賃金制度の判断基軸になっており、求める仕事に応じられる専門性が必要となります。
また、個人の仕事と責任の範囲が明確化されているので、主体的に業務が遂行可能です。基準に基づいた成果が昇給の判断基準になるため、勤務場所が人事評定の障壁になりづらいといった背景もあります。このように、テレワークと相性が良いジョブ型雇用形態が、アメリカ合衆国のテレワーク普及を後押ししています。
一方で、日本や韓国で多く見られるのが「メンバーシップ型」の雇用形態です。
この基本原理は「人に仕事を付ける」という考え方であり、必ずしもどの仕事に就くかを想定せず、一括で大量の人材を採用します。この雇用形態は、年功序列や終身雇用を前提としており、企業が個人に仕事をあてがっていく形式です。職務範囲を明確には定めておらず、企業が必要に応じて部署の異動や転勤を命じることもできます。企業の都合によっては、別の職務を追加で割り振られることも少なくないため、個人の仕事の範囲がどこまで及ぶのかがわかりにくいところがポイントです。
また、成果よりも勤務時間や勤続期間を評価して給料が決まるため、勤務時間を測定しづらいテレワークとは相性が良くありません。
日本では「業務の見える化」がされにくい
日本とアメリカの状況を比較してみると、テレワークには「業務の見える化」が不可欠だとわかります。
アメリカの雇用形態では、採用時点ですでに個人が担う業務が可視化されていて、責任の範囲まで明示されます。従業員個人が行う業務内容とプロセスが明確に決まっているため、テレワーク勤務に必要な業務を切り出しやすいのです。
このように考えると、現在日本でテレワークが普及しない理由もわかります。ここで国土交通省が公表した「令和3年度テレワーク人口実態調査」の結果を見て、考察してみましょう。
職種別にテレワークを実施する企業の割合を見ると、テレワーカーは「管理職」(51.1%)、「研究職」(64.1%)、専門・技術職(49.8%)の割合が高く、「販売」(4.7%)、「サービス」(6.2%)、「保安・農林漁業・生産工程・輸送・機械運転・建設・採掘・運搬・清掃・包装等等従事者」(4.0%)の割合が低くなっています。
自己管理的な業務や、オンラインでも十分対応可能な職種では、テレワークの活用が活発です。これに対して、顧客と直接顔を合わせて業務を行うことが多い職種、あるいは実際に物を扱う必要がある職種では、テレワークの活用が進んでいないということがわかります。、このように、テレワークが全ての職種で必ず導入できるわけではないのが実態です。
しかし、たとえ顧客と顔を合わせることが必要な業務でも、「データの入力」や「資料・情報の収集」など、持ち出し可能な仕事は必ずあるはずです。前述した、テレワークを導入しなかった企業の多くが述べた「テレワークに適した仕事がない」という言葉は、テレワークに適した仕事を「まだ見つけられていない」と読み替えられるでしょう。
現状、日本では業務の可視化があまり進んでいません。つまり、業務の棚卸しと「見える化」によって、テレワークに適した業務の「切り出し」が十分に行われていない可能性が高いと考えられます。
個人の業務を細分化してテレワーク可能な仕事を切り出す習慣が付けば、日本でのテレワーク導入率は上昇していくはずです。
テレワークに関する助成金制度
国や自治体ははテレワークの導入を促進するために、助成金制度も整備しています。ここでは、「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」と「ふるさとテレワーク推進事業」、「テレワーク促成助成金(東京しごと財団)」の3つの制度をご紹介します。
働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)
時間外労働等改善助成金(テレワークコース)は、労働時間などの設定を改善したり、ワーク・ライフ・バランスを推進したりするために、在宅勤務やサテライトオフィスでのテレワークの導入に取り組む中小企業を対象とした助成金制度です。労働時間や年次有給休暇に関する規定を多様な働き方に対応させる場合も含みます。
中小企業にとって、テレワーク導入への大きな後押しになるでしょう。
ふるさとテレワーク推進事業
ふるさとテレワーク推進事業は、地方のサテライトオフィスなどで都市部の仕事を行う、新しい働き方を支援する事業です。
現在は東京をはじめとした大都市に人口が集中していますが、地方からのテレワークを可能にすれば、地方創生の実現に期待できます。また、地方に住む親の介護などを理由とした離職の回避にもつながるでしょう。
テレワーク促成助成金(東京しごと財団)
公益財団法人東京しごと財団による「テレワーク促成助成金」は、新型コロナ感染防止の観点から令和2年度以降、新たに始まった助成金制度です。対象は、東京都内に本社または事業所を置く常時雇用労働者999人以下の中小~中堅事業所で、在宅勤務・モバイル勤務のために必要な機器・ソフトウェアなどの環境整備にかかる経費を助成します。助成金額は上限150万円あるいは250万円で、事業所の人数規模によって異なります。
業務の見える化=マニュアル化が有効
前述の通り、日本でテレワーク導入を促進させるには、「業務の見える化」が必要不可欠です。
そこで、見える化をサポートするためには「マニュアル化」が求められます。マニュアルを作成すれば、業務内容とプロセスを明確化できるからです。
ただし、業務内容を文章で定義し、業務手順を可視化しようとすると、非常に手間がかかります。業務効率化を図るために、煩雑なマニュアル化をクラウド上のプラットフォームで作成し、配信や更新の管理ができるサービスを利用するのも一つの方法です。
『Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)』は、業務の定義や細分化を手助けし、スムーズにマニュアルを作成できます。スマートフォンやタブレットでの管理もできるため、テレワークと相性の良いサービスです。
テレワークを導入する際は、「そもそも」としてどんな業務を行っているのかを明確にし、マニュアル化することを心掛けてみましょう。
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