属人化の意味やリスク、解消方法を理解して従業員の退職を予防しよう!
業務の属人化は、勤続年数の長い人が多い職場や専門性の高い業務、従業員の業務状況が把握しにくいテレワーク下において発生しやすいとされています。本記事では、属人化が発生してしまう原因や、その解消方法について解説します。
目次
属人化の意味とは
属人化とは、ある業務の作業内容を、特定の担当者しか把握していない状態を指します。属人化が発生していると、担当者が退職した場合や休んだ場合などに業務がストップするリスクがあります。
さらに他の従業員が仕事を引き継いだ際、ノウハウが共有されていないことから、業務のスピードや品質が低下し、作業効率が悪化するだけでなく、取引先との信頼関係にまで悪影響をおよぼす可能性もゼロではありません。
一方、属人化の対義語は業務の「標準化」といい、特定の従業員だけでなく社内の誰もが一定の品質を保って同じ成果を出せる状態にすることを指します。
業務を標準化するためには、業務フローやタスクを明文化してマニュアルに落とし込み、社内で共有しておく必要があります。
属人化しやすい業務の特徴
一般的に属人化に陥りやすいとされているのは、専門性の高い業務や、担当者が他の従業員と内容を共有することなく一人で行っている業務などです。
専門性の高い業務とは、特殊なスキルや豊富な知識・経験を要するために、誰もがすぐに再現できるわけではない営業職や販売職、技術職などの職種が当てはまります。
また、専門性の高い職種ではなくとも、従業員が社内外での自分の地位や立場を守るために業務に関するノウハウを周囲と共有せず、その業務内容やプロセスがブラックボックス化してしまうケースも少なくありません。
属人化のリスク
属人化が発生している職場ではさまざまなリスクを抱えることとなります。この章では属人化によって起こり得る問題について解説します。
長時間労働
属人化は長時間労働の温床となりがちです。業務量が多くなっても他の従業員に頼むことができないため、必然的に長時間労働に陥りやすい環境です。
また、長時間労働に伴う精神的なストレスも増加し、メンタルの不調や休職、退職につながってしまう可能性も。属人化による長時間労働の問題は、非常に深刻です。
サービスの品質低下
属人化している職場では、商品やサービスの向上を目指し改善しようとしても、業務の全体像が把握できないため現状を客観的に評価できません。プロセスの中に無理が生じていたとしても発見できず、担当者が自分のミスを故意に隠す可能性もあり、いずれ重大なトラブルに発展するリスクもあります。
また、担当者しか業務内容を知らないことで管理者は業務の効率や品質を正しく判断できないほか、業務量に対する適切な人員の配置も難しくなります。
作業効率の低下
属人化が発生した業務は、作業の分担やスムーズな引継ぎが困難です。特定の社員に仕事が集中すれば、疲労やストレスの増加により、いずれは体調不良やメンタルの不調を引き起こす可能性もあります。
後任者が見つからずに作業が滞ってしまえば、組織のパフォーマンスは大きく低下します。場合によっては機会損失にもつながりかねません。また属人化した業務は、マニュアルが存在しないなどの理由から、次の担当者に大きな負担がかかりやすいのも懸念すべき問題です。
異動や退職の場合には、引き継ぎに必要な時間を確保できるかもしれませんが、体調不良や家庭の事情で担当者が急に休んでしまった場合、ノウハウを知らない社員が試行錯誤して業務を遂行しなければなりません。
これまで前任者が慣れで行っていた業務を他の従業員が行うことになれば、仕事の流れを覚えるだけでも相応の時間を要します。現場の混乱により対応が遅れ、トラブルやクレームに発展するなどの事態も想定されます。
属人化によるメリット
解消したほうが望ましいとされている属人化ですが、一部のケースではメリットとなる場面があるのも事実です。たとえば、デザイナーをはじめとしたクリエイティブな仕事は、その人にしか表現・創造できない個性が求められます。これは、属人化にある種のニーズがあることを示しています。
自分が必要とされているという感覚は、従業員のモチベーション向上にも結びつくはずです。また接客業では、ときにマニュアルを超えた臨機応変な判断やホスピタリティが要求されます。マニュアルだけでなく、個人の判断で行ったお客様ファーストの接客が感動を与え、顧客となってくれるケースも少なくありません。
ただし、これらのメリットは、あくまで一部のケースに限られたものであり、リスクが存在しないわけではありません。一人のクリエイターという才能に依存した事業経営は、存続が危うくなる可能性があります。さらに、ケースバイケースで接客対応が変わることは、お客様に不信感や不公平感を感じさせる要因になりかねません。
より広い視野で考えてみると、属人化のメリットはデメリットよりも小さいことが分かります。属人化した状況を放置し続けるよりも「その特別な対応やスキル・ノウハウをどのように標準化していくべきか」といったように、考えを転換したほうが建設的です。
業務が属人化する理由
属人化が生じる原因には、さまざまな背景があると考えられます。近年では、テレワークの実施により従業員の業務状況が不透明になりやすいことも要因のひとつだと考えられています。
マニュアルが整備されていない
業務の手順が明文化されたマニュアルが存在しないと、プロセスにおいて担当者個人の裁量や知識、経験則に依存する部分が自ずと多くなります。マニュアルの重要性は認識していても、現場の担当者が多くの業務に追われ、マニュアルを作成する時間を捻出できないといったケースも少なくないようです。
業務内容を整理し、そのポイントを誰にでも理解できるようまとめるには、それなりの時間と労力が必要です。
このように、業務内容を十分に把握する社員が限られた状況が続くと、属人化が進みます。
業務の専門性が高い
専門性の高い業務も属人化が生じやすいため、注意が必要です。高度な知識や技術を要する業務の場合、担当できる人材が限られてしまうケースは珍しくありません。特定の社員に業務が集中した状況を放置してしまえば、やがて属人化が発生します。
また高度な技術や知識を要する業務は、新たな人材の育成に一定の時間がかかるため、属人化の解消がなかなか進まない企業も多いようです。専門性の高い業務の担当者は、すでに業務過多の状況に陥っていることが少なくありません。従来の担当者が、業務と育成を一手に引き受けるとなれば、相応の負担がかかるためことにも配慮しなければなりません。
情報共有が十分にできていない
組織内の情報共有が不十分な状況も、属人化を引き起こします。情報共有の仕組みが整備されていない業務は、内容を把握している一部の従業員しか担当できません。情報共有不足を引き起こす原因として「個人がExcelで業務データを管理する」といったシステム上の問題が考えられます。
また「職場内での競争意識が強すぎて知識やノウハウを共有したがらない」などの心理的問題も潜んでいるかもしれません。さらに、多忙や人間関係がうまくいっていないといった理由も、コミュニケーション不足につながります。
近年、リモートワークの導入により、情報共有不足の課題を抱える企業が増えています。直接的な管理やコミュニケーションを取ることが難しい環境で円滑に仕事を進めるには、新たな仕組みが必要です。
属人化を解消するための対策
属人化は放置しておくとミスやトラブルの元となるため、早期の解消が求められます。この章では、属人化の解消に役立つ四つの方法を紹介します。
業務フローの可視化
業務が複雑になればなるほど、属人化も起こりやすくなります。そのため、業務の一連の流れを図解し、誰が見ても理解できるように業務フローを可視化しておくことが重要です。
業務フローが可視化されていれば、担当者の変更に伴う引き継ぎや、新人教育の際に大まかな流れを理解してもらうのが容易になります。自分が行っている業務と他部署の業務とのつながりなどもわかるため、ひとつの業務が完結するまでの全体像を把握しやすくなり、現状の問題点やその改善策を見つけたり、課題を共有したりするうえでも役立ちます。
デジタル化の促進
仕事量が多く、各人が受け持ちのタスクをこなすだけで手一杯という職場では、新人教育やマニュアル作成にかける時間を捻出できないため属人化が進みがちです。
しかし、「自分でやった方が速いから」と情報共有を疎かにしてしまうと属人化はさらに加速します。
そのため、人員不足で業務が多忙な場合、データ入力のような単純な作業はRPAやOCRなどを活用しデジタル化を進めることで、属人化の解消が期待できます。
入力手順がデジタル化され、自動で処理できるようになれば、人手や時間に余裕が生まれます。その分のリソースをより付加価値が高く、高度な判断を伴う業務に人員を割くことができれば、生産性の向上にもつながります。
責任の分散
特定の人だけがその業務に関する裁量権を持っていると、属人化に加えて不正のリスクも高まります。また、個人の責任の範囲が広すぎると、担当者がプレッシャーに感じて精神的な不調や離職につながる恐れもあります。
したがって、業務の裁量権や責任範囲は誰か一人に偏ることのないよう分散させ、状況に応じて他の人が助けに入れるように複数人で管理する体制を整備することが重要です。定期的にジョブローテーションを行い、社内の新陳代謝を図ることも属人化からの脱却に効果的です。
チームマネジメントの実施
業務を分業制にして、チームでひとつの仕事を行うように各人の業務を管理するチームマネジメントの実施も属人化の解消に貢献します。タスク管理ツールなどを活用し、今、誰が何をやっているのかをわかる状態にしておけば、上司は部下のマネジメントが容易になり、遅れが生じている場合にも迅速にサポートに入ることが可能になります。
各チームメンバーが培ったノウハウは、ナレッジ共有ツールなどを活用し誰もが参照できるようにしておくことで、人によって品質や成果量に差が生じることを回避できます。
属人化による退職を予防するコツ
属人化によって特定の従業員に負担が偏り、心身が疲弊した結果、退職に至るケースも存在します。属人化による退職を予防するためには、日常的に社内のコミュニケーションを活発化させ、個人の業務に対して継続的な評価を行う職場環境を整えることが有効です。
コミュニケーションを活発化させる
普段から職場内でのコミュニケーションが少ないと、疑問点があっても気軽に人に尋ねることが躊躇われるため、属人化が起こりやすくなります。雰囲気が明るくコミュニケーションが活発な職場では、売上目標などの数字のみにこだわらず、人材を大切にする風土づくりが欠かせません。問題を抱えていそうな従業員に「大丈夫?」と声をかけるように、日々の小さなコミュニケーションの積み重ねが退職を防ぐことにつながります。
また、コミュニケーションツールを活用し、属人的しやすいノウハウを共有することもひとつの方法です。
継続的に評価を行う
属人化の解消に向けて業務フローの可視化や社内コミュニケーションの改善、マニュアル作成などに取り組んだとしても、それで終わりではありません。それらの施策の効果がどの程度表れているのかを継続的に評価し、効果が見られないようであれば改善点や新たな方法を考える必要があります。
業務フローやマニュアルに問題がある可能性もあるため、一度作成した後も定期的に内容を見直してブラッシュアップしていきましょう。施策の効果を正しく把握するためには、事前に振り返りの時期を決め、一定期間内で定性・定量の両面から取り組みを評価する基準を定めておくとよいです。
職場環境を整える
従業員にとって「知りたい情報がすぐに得られない」「気軽に質問できない」という現状なのであれば、早期に職場環境の整備に取り組む必要があります。働きにくい職場の主な特徴として挙げられるのが、従業員同士の連携がうまくいっていないことです。ビジネスチャットや社内SNSなどのITツールを積極的に取り入れ、誰もが知りたい情報をすぐに手に入れられる状況を整備しておきましょう。
また、定期的に従業員と1on1ミーティングを行うなどして、上司と気軽に話せる場を設け、従業員が悩みや不安を一人で抱え込まなくて済むような対策も必要です。
中小企業の属人化はマニュアル作成で解決!
中小企業の中には、業務マニュアルが未作成の企業も少なくありません。効果的に属人化を解消するために、まずはマニュアルを整備するところから始めるのがおすすめです。通常マニュアルを一から作成するとなると、普段の業務をすべて洗い出して整理しなくてはならず、多くの時間がかかります。
しかし、マニュアル作成・共有できるシステムのTeachme Bizを活用すれば、テンプレートに沿って画像と文字を入れるだけでわかりやすいマニュアルが誰でも簡単に作成できます。作成したマニュアルがしっかり利用されているのかをアクセスログから分析することも可能です。
時間がなくてマニュアル作りまで手が回らないという中小企業はぜひ活用してみるのがおすすめです。
属人化解消にマニュアルを活用するメリット
ここからは、マニュアルを作成することで解決されることやメリットを紹介します。
マニュアル作成の必要性についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある人はご一読ください。
マニュアル作成の目的と必要性とは?上手に活用するためのポイント
品質が安定する
マニュアルで業務の手順やルールを明確化すれば、たとえその業務の担当者が変わっても、一定の品質を確保できるようになります。品質の安定化は、顧客の評価や満足度を高めるうえで、もっとも重要な要素です。引き継ぎ業務においても、当事者間が口頭で確認作業するよりも、効率的かつ正確に内容を伝えられます。
またマニュアルの導入は、担当者の負担軽減に有用です。業務の標準化が進めば、どのような手順で業務を進めるべきか悩む場面を減らせます。スムーズに仕事を進められる仕組みを整えることで、作業効率は大幅にアップするはずです。さらに、マニュアルの活用により、安心して他者に仕事を任せられるのも大きなメリットです。
これまで多くの仕事に追われていた担当者の精神的な重圧が低減できれば、気持ちに余裕が生まれるため、パフォーマンスの向上も期待できます。
業務改善につながる
属人化の解消に向けた取り組みは、業務改善を図る意味でも効果的です。マニュアルを作成する過程であらゆる業務が整理されるため、非効率的なプロセスや不要な業務が洗い出され、より効率的な業務フローの構築を可能にします。これまでに得たノウハウをうまく活用できる仕組みが整えば、組織全体のパフォーマンスは大きく向上するはずです。
たとえば、リモートワーク環境では個々で作業しているだけの状況に陥りがちです。しかし、必要な情報を参照して仕事を進められるようになれば、作業効率は大幅にアップします。中には、専門性が高いと思い込んでいただけで、実際には標準化できる業務が隠れているかもしれません。
属人化解消に向けたさまざまな取り組みが、業務の改善につながり、企業の成果向上へと結びつきます。
マニュアル作成による属人化の解消事例
最後にマニュアルを作成したことで属人化の解消に成功した企業の事例を紹介します。自社における属人化解消に取り組むうえで参考にしてみてください。
事例1:視覚的なマニュアルで自主レベルを向上
主に食品の提供事業を営むコープデリ生活協同組合連合会様は、従来、紙のマニュアルを運用していましたが、新たに人材を採用しても店長が読み合わせの時間を確保できず、新人が自分で学習しなければならないケースがありました。また、マニュアルの読解力にも個人差があったことから、誰が見ても理解できるような画像や映像ベースの教育ツールを探していたといいます。
そこで導入したのが、タブレット端末で作成・運用ができ、静止画と動画の両方を使用してマニュアル作成が可能なTeachme Bizです。Teachme Bizでは、全体の業務説明には静止画を使用し、精肉方法や魚の捌き方のように具体的な動作を見て覚える必要がある部分のみに動画を使うなど、シーンに応じた使い分けが可能です。導入後は以前よりも業務上のポイントがわかりやすくなったと評判で、中でもバーコード決済のやり方に関するマニュアルは閲覧数が2,000回を超える最大のヒットになったとのことでした。
事例2:年齢に関係なくスキルの均一化を実現
衛星放送WOWOWのカスタマーセンター業務を担うWOWOWコミュニケーションズ様は、18〜60歳と年齢層の幅広い新入社員の知識レベルにばらつきがあることや、北海道から沖縄まである拠点間のルールを統一することに課題を抱えていました。
そこで教育担当者のナレッジを集約し、手順書の作成や保管を一元管理できるツールとして導入したのがTeachme Bizです。新たなマニュアルツールの浸透を図るために社内報で複数回にわたって告知したほか、わかりやすい手順書を作成するコンテストを開催。その結果、パソコンの操作方法に関する問い合わせを10分の1まで削減することに成功したといいます。また、3ヶ月使用した成果を年間換算すると、管理者とコミュニケーターの工数を824時間、経費で162万円ほど削減できる見込みとのことです。
株式会社WOWOWコミュニケーションズ様|Teachme Biz
まとめ
属人化を放置していると、長時間労働や作業効率の低下、離職などのリスクが生じます。特に専門性の高い職種や、データ入力などの単純な業務は属人化に陥りやすいため、マニュアルを作成したり、RPAやOCRなどのツールを活用したりして業務を標準化し、誰もが同じ品質レベルを維持して業務を遂行できるようにする対策が必要です。人手が不足してマニュアルを作成する時間がない場合、マニュアル作成ツールを活用すれば誰でも簡単にわかりやすいマニュアルが作成できます。自社の属人化解消に向けて、ぜひ活用してみてください。