多能工とは何か? メリット・デメリットと単能工との違い

最終更新日: 2022.10.14 公開日: 2022.01.15

労働人口の減少や働き方改革が推進されている背景から、今限られた人材のパフォーマンスを最大限に発揮する「多能工」が注目されています。しかし、「生産性向上のために多能工化するべきなのは知っているが、具体的に何をすれば良いのかわからない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

本記事では、多能工の意味やメリット・デメリット、多能工化の進め方について解説します。ぜひ参考にしてみてください。


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多能工とは?

多能工とはマルチタスクとも言い換えられるように、「一人で複数の業務や作業を進めること」を指し、多能工化は組織の人材を多能工として育成することを指します。働き方改革が推進される近年では、多能工化を進め、従業員が状況に応じて複数の業務を遂行して生産性を向上することが企業にとって重要です。

多能工が生まれた背景

多能工は、世界的な自動車メーカーであるトヨタ自動車から生まれたと言われているタスクへの取り組み方です。元トヨタ自動車工業副社長大野耐一氏によって考案されました。

大野氏は、一人の女子工員が複数の機械を操作していた豊田紡織のシステムと、一人で一台の機械を使用して組み立てる自動車の製造プロセスを比較して、特定の作業だけを行うデメリットについて思案しました。

それが自動車工場の業務では大きな課題だと感じた大野氏は、無駄を徹底的に排除する方針に基づいた「トヨタ生産方式」を体系化します。自動車用の工作機械も一人の社員が複数台を使いこなす「多台持ち」を考案。さらに一人で複数の製造工程を担当するアイデアを提案します。その後、社員一人で複数の工程を担うための知識や技術、訓練を施すようになったのが多能工の始まりです。

また、以前は忙しい社員がいる一方、のんびり作業している社員もいるなど仕事量の偏りがありました。この問題を解決するため、必要なときに必要な製造工程に最適な人材を配置するジャストインタイムというシステムも構築しました。
このシステムでは一人の社員が複数の作業を行えるため、手の空いた社員が忙しい業務の応援ができるようになり、作業分担と臨機応変な人材配置が可能です。多能工化は労働力のパフォーマンスを上げ、生産性の向上も期待できると多くの企業から注目されています。また、日本企業の課題を解決するためにも欠かせない対策の1つです。

現在はITなどの技術の進歩が目覚ましく、業務内容は複雑化・多様化し、グローバルな競争環境に置かれています。競争力で国際的に対抗していくには高度な専門性と高いスキルを持つスペシャリストにあたる単能工の育成が必須である一方で、ジェネラリストに分類される多能工化が関心を集めている実態には日本社会特有の事情があります。

まず、1995年を境に生産年齢人口が減少に転じ、現在に至るまで企業の働き手が減少して続けています。一方で業務の複雑化や多様化により、一人当たりの業務の手間と量は増加の一途を辿っています。また、国が進める働き方改革の影響で残業時間に規制がかかり、一人当たりの労働時間に上限が設けられました。企業は限られた人材、労働時間内で業務を維持していく必要があり、多能工化した社員に頼らざるを得なくなっているのが実情です。

参照URL:総務省「令和2年 情報通信白書のポイント」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd121210.html

単能工との違い

単能工とは、一人で一つの業務を専門的に進めることを指します。単能工はいわば業務のスペシャリストであり、イレギュラーな事態にも対応できる存在です。しかし一方で、多品種少量生産が主流となってきた現代では単能工より多能工の存在が重要視されるようになってきています。

多能工が必要とされる業界・業種

製造業

自動車メーカーで多能工が考案されたように、特に製造業は多能工化に取り組む必要がある業界です。製造業の競争力を左右するのは品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)の3本柱であり、頭文字をとってQCDと呼ばれます。

2022年現在は原材料の価格高騰が続き、コスト削減も難しくなり、適正価格で利益を維持するしかありません。品質の良さは当たり前となっているので、残るは納期で競争することになります。納期で優位性を保てば、利益の確保や製造コストの軽減にもつながります。

製造業の納期でもっとも影響力があるのは機械稼働率です。一部の社員が機械を動かし、トラブルに対応できる人が限られると復旧するまで機械がストップした状態になり、稼働率が低下します。言い換えれば、機械稼働率を上げて納期で優位性を保つには、多能工化による稼働率の改善が必須です。

例えば、誰でも機械を作動できる環境下では、トラブルへの即時対応による安定した製造が達成されるため、利益が増加します。人材を柔軟に配置して製造人員の適正化もでき、人件費の削減につながります。また、多能工化によって製造品目を増やして、業績の拡大も目指せるでしょう。

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流通業

スーパーマーケットや商業施設などの流通業でも多能工は導入されています。スーパーマーケットは複数の部門に分かれていて、一般的に惣菜や鮮魚、精肉、品出し、レジと担当業務などがあります。

担当ごとに繁忙時が異なり、品出しは早朝から午前中が忙しい部門ですが、午後は仕事が一段落します。鮮魚、精肉コーナーなども1日の商品の販売量をパック詰めするまでは忙しいでしょう。惣菜コーナーも昼前が忙しくなる時間帯ですが、その後はゆっくりできます。一方、レジコーナーは朝方の来店客が少なく人数は必要ありません。

接客していないレジ担当を惣菜や品出し、生鮮コーナーに配置し、夕方の買い物時間にはレジコーナーに他の部門から応援を頼むようにすると、業務量がどこかに偏らず、全体の生産性がアップします。流通業やサービス業にとって多能工化は必須の取り組みと言えるでしょう。

旅館業

旅館やホテル業界も人員を柔軟に配置できる多能工化が効果を発揮する分野です。現在も一人のスタッフがフロントと客室の清掃、ホールサービス、調理の補助など裏方の仕事まで行っている施設が多いでしょう。また、フロント業務は通常はチェックインとチェックアウトの時間帯が込み合うため、それ以外は客室の清掃やレストランの調理補助を担当できます。

このように旅館やホテルの業務量を平滑化できるので、各業務のスペシャリストを雇うよりも人件費を抑えられます。社員同士のコミュニケーションも円滑になり、職場のチームワークも改善されるので、職場の雰囲気も良くなります。

多能工、多能工化のメリット

業務量の平準化

多能工化が進めば業務の属人化が解消され、業務担当者を状況に応じて柔軟に変更することができます。それにより、従業員の業務量が偏らないように業務を割り振ることが可能となるメリットがあります。

業務のリスク管理

業務を遂行できる人が複数いることで、安定して業務を継続することができます。
単能工の場合、担当者が突然休むことになった場合、業務もストップしてしまうリスクがありますが、多能工の場合は担当者が一人休んでも別の担当者を配置できます。多能工化は業務のリスク管理という面でも効果を発揮するのです。

組織のチームワーク向上

一人が複数の業務を遂行する上では、普段の担当業務では関わらない様々な仕事への関心を持つ必要が出てきます。それにより多角的な視点を持つことができ、様々な立場の人の目線に立てるため、組織のチームワーク向上が期待できます。

多能工、多能工化のデメリット

育成コストがかかる

多能工化を進めるうえで、育成は必要不可欠。特に業務が専門的スキルを必要とする場合、育成時間は長くなります。

その育成の過程で企業側は時間コストと人材コストの両方をかけなければなりません。かけたコストを無駄にしないためにも、従業員一人一人の特性も考えながら、任せる業務内容や育成計画を考える必要があります。

適切なマネジメントが必要

多能工の効果を最大限に発揮するためには、適切なマネジメントが必要不可欠となります。従業員同士の連携が取れていなければ、その時の状況に最適な人員配置をして業務効率化を行うことはできません。しかし、従業員一人一人の経験値やスキルにもばらつきがあり、従業員全員が状況を把握して業務を選択することは難しいでしょう。業務漏れやダブりが発生し、業務の無駄を生む可能性もあります。

そこで、どのような仕事の振り方をするのか判断し、指示をするマネジメント担当者をあらかじめ配置しておく必要があります。

適切な評価制度が必要

多能工化を進めることで、評価制度の見直しをする必要もあるでしょう。
仕事への評価は、一人が複数の業務を遂行する上でのモチベーションにも繋がる重要な要素です。一人が複数の業務を遂行する多能工では、全てのパフォーマンスをそれぞれ評価しなければなりません。単能工との評価の付け方とは異なる部分も多いため、適切な評価制度が整っているか今一度確認すると良いでしょう。

多能工化を進める4ステップ

では組織が多能工化を進めるにはどのようなことをすればよいのでしょうか?多能工化には4つのステップが必要となります。

業務の洗い出し

まずは業務の洗い出しをして、どの業務を多能工化するか検討しましょう。属人化している業務や人手が足りていない業務、業務効率が悪い業務などを中心に優先順位をつけ、プランを立てる必要があります。現場の従業員とコミュニケーションを取りながら、多能工化の方向性を定めることが重要です。

業務の見える化

次に必要となるのが、業務の見える化です。多能工化する業務に無駄な作業や足りない作業がないかを確認しながら、第三者が業務を習得できるように業務に必要な作業を見える化することが重要です。マニュアルを作成することも一つの手でしょう。

育成計画を作成・実施

業務の見える化ができたら、育成計画の作成に移ります。「いつ、誰が、誰に、何を、どのように」育成してスキルを習得させるのか、現場の状況を見ながら計画の時点ではっきりと決めておくことが重要です。
育成計画を作成したら、いよいよ育成の実施に入ります。

評価と振り返りを実施

多能工化を進めるうえで重要となることが評価と振り返りの実施です。当初立てた計画通りに育成を進めることは難しく、問題が発生していることもしばしばあります。
計画通りに育成が進んでいるか、問題が発生していないかを定期的に現場に確認しながら、必要があれば計画の修正をしていくと良いでしょう。修正をする際には、業務コストや従業員の負担を改善する視点が大切となります。

多能工化の導入事例

多能工化を定着させている企業には、次のような特徴があります。まず、経営者の強い意志とリーダーシップがあることです。会社全体で新たな仕組みを作るには、経営者の断固とした意志と指導力が求められるため、トップが粘り強く取り組む姿勢を見せることで社員に本気度を示すケースが散見されます。

また、社員の同意を得て協力する体制ができないと、会社全体で機能する仕組み作りはできません。現場との対話を重ね、合意のもとで進めると成功する確率が上がります。
現状を把握できる可視化システムやプラットフォームを活用できる環境も多能工化の導入を後押しします。以上の内容を踏まえて、多能工化を実現した企業の導入事例を紹介します。

トヨタホーム株式会社

トヨタ自動車のグループ会社の住宅部材工場で、多能工化を取り入れています。戸建注文住宅の製造過程の8割を工場で担当し、建築現場に据え置く手法が特徴です。

熟練した作業者も含め、閑散期には工場内や現場に投入できる人材を育成しています。インターネット回線の広域化に伴い、配線担当人員を増員するなど、柔軟な人員配置を行っている点が特徴です。

参考:日本経済新聞『トヨタ式の住宅部材生産、「多能工」育成で進化』https://www.nikkei.com/article/DGXMZO87392340Y5A520C1000000/

株式会社星野リゾート

星野リゾートはフロント、客室清掃、レストランサービス、調理補助のすべてが担当できるスタッフを教育しています。仕事の空き時間を作らず、一人がフル勤務できるシフト体制で多能工化を進めた結果、接客機会が増加しました。そこで吸い上げたお客様の声を参考にして顧客満足度も高めています。多能工化に即した評価システムを導入し、習得度や実践度を細かく数値化している点が特徴的です。
参考:ニューススイッチ『星野リゾートはなぜ強いのか。社長・星野佳路が語る「成功の条件と世界戦略」』https://newswitch.jp/p/1349

ヤオコー

スーパーマーケットのヤオコーはレジ係から品出し、惣菜製造の補助までできる人材教育をしています。レジにお客様が並んでいるときはレジ係を、惣菜製造の人手が足りないときはサポート係を増やすと店内業務の回転がスムーズになります。こちらは業務の忙しさに応じて社員の業務内容が変わる多能工化です。

リコーインダストリー株式会社

印刷・事務機器やリコー製品の販売を行うリコーインダストリーは、部門ごとにスキル情報の引継ぎができないという課題を抱えていました。そこで、エクセルを使った管理画面で社員のスキルを可視化して複数の部門で共有し、スキルの消失を予防しました。その他、年代別のスキル分布をグラフ化し、経年変化がわかるようにして退職者のスキルを早期に把握する取り組みも効果的に機能しています。

参考:日本能率協会『リコーインダストリーインタビューその3|社内の人材育成をどうする?』https://jma-cpe.jp/ricohi_003/

まとめ

今回は、多能工が求められる背景や概要、メリット・デメリット、多能工化の進め方、導入事例についてご紹介しました。複数の業務を遂行できる多能工には様々なメリットがある一方で、育成時に必要となるコストや評価制度など、企業側にかかる負担にも注意を払わなくてはなりません。
業界や業種によって適切な導入方法が変わりますが、いずれの企業でも現場の納得は必須です。

ぜひ多能工化を進め、変化に強い柔軟な組織づくりを目指してみてはいかがでしょうか。

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