RPA導入を成功させるには?成功を裏付ける導入手順と運用ルール
RPA(ロボットによる業務自動化:Robotics Process Automation)について、ここ数年耳にする機会が急激に増えました。
現に、数々の企業が生産性向上や業務効率化を目的とし、RPA導入を推進しています。働き方改革実現の救世主と目されるほか、既存のシステムを生かし比較的コストをかけずに導入できる点からも、RPAに各業界からの注目が集まっている状況です。
しかしRPAの導入には向き不向きがあり、使いこなせていない企業が多いこともまた事実です。この記事では、RPAの概要や導入成功に必要なものなどを、全体像を踏まえつつご紹介します。
目次
RPAの仕組み
RPAとは
RPAは、従来人の手で行ってきたパソコンによる定型業務をソフトウェアロボットで自動化するものです。
具体的には、ユーザーインタフェース上の操作を認識する技術とワークフロー実行を組み合わせ、表計算ソフトやメール、ERP(基幹業務システム)など複数のアプリケーションを使用する業務プロセスを自動で行います。
人の手で行っていた定型業務を代わって担う存在となることから、「デジタルレイバー(仮想労働者)」とも呼ばれます。また、複数の手順を記憶し自動的に実行する点で「マクロ」とも類似するといえます。
- アプリケーション連携の範囲:RPAはマクロよりも多くの連携が可能。
- 設定に要する知識:RPAはプログラミング知識のない人でも扱いやすい。
- 大量のデータ処理にかかる時間:RPAは大量のデータを高速で処理することができる。
RPAはなぜ注目されているか
RPAにできることを概ね把握できましたが、RPAが注目を集める理由についても整理しましょう。
ここではArvato社が紹介する5つの特徴を、主に人件費との比較でご紹介します。
1.Cost(費用)
RPAの導入コストはフルタイムで働く人件費の約3分の1程度といわれ、人的コストの削減につながるとされます。
2.Speed(速さ)
ソフトウェアは休憩や休養が必要なく、365日稼働できれば業務の処理速度を上げられます。
3.Accuracy(正確さ)
データ入力など単純作業で起こりがちな人為ミスの心配がありません。
4.Scalability(拡張性)
ビジネスアウトソーシングのように新たなリソース追加時のリードタイムがなく、調整も容易です。
5.Analytics(分析)
RPAによって膨大な量のデータが活用でき、問題の原因特定から解決策決定までの機会を多く創出できます。
RPAは機能・対象によって3つに分類される
RPAとは広義の概念で、実際にはClass 1からClass 3まで3つのレベルに細分化されており、搭載機能や対象作業によって呼び方が異なります。
Class 1. RPA(Robotic Process Automation)
ルールに沿った定型業務を正確かつ単純に実行することを得意とします。狭義の意味での「RPA」ともいえます。
Class 2. EPA(Enhanced Process Automation)
大量のデータを解析し、結果を出力することが主な適用範囲です。Class 1と異なる点は、与えられたルールや指示を踏まえつつ自律的に次の行動へ移れるところです。
Class 3. CA(Cognitive Automation)
Class2よりも高度かつ自律的に行動でき、情報整理や分析を踏まえた意思決定までを行えます。
/caption]総括すると、指示された動きを忠実に行うClass 1、現況を踏まえ先読みして判断できるClass2、Class 3です。
数字の大きなクラスほど自律的な判断や高レベルの作業を行えますが、導入コストや運用・維持コストは高くなるため注意が必要です。
各クラスが得意な作業と与えるべき業務をよく検討し、適したクラスのRPAを選択しましょう。
なお、この記事では狭義の「RPA」であるClass 1を前提にご説明します。
RPAとAIの違いとは
RPAは「ロボットによる業務自動化」であるため、AI(人工知能)と比較されがちです。両者とも人間が行ってきた作業を自動化できる点は共通しますが、「どこに主眼を置くのか」で大きく異なります。
「実行」重視のRPA
RPAは人の手で行っていた業務を自動化できますが、あくまで業務効率化のためのツールにすぎません。実際に運用する際は、人間が行ってきた業務を一定のルールに基づき再現するためのメンテナンスが不可欠です。このため、業務負担を減らせたとしても完全な自動化は困難といえます。
「思考」重視のAI
一方でAI=人工知能は自ら学習し、自律的な判断が可能です。
便利ツールとして機能するだけでなく、蓄積された情報を整理・分析して意思決定までを実行できます。RPAにはできない、データに基づく予測や推論が可能な点がAIの特徴なのです。人間が負担する多くの業務を、AIが肩代わりできる可能性もあります。
RPAの中でも、Class 2およびClass 3には機械学習機能が備わっているため、RPAの中にAIが含まれたものと考えてもよいでしょう。
RPAの現況
昨今のRPA台頭の理由
日本の生産労働人口が減少を続ける中、労働力維持と国際競争力強化の両立には、労働力の有効活用や生産性向上のための方策が必要です。
近年の「働き方改革」推進においても、人手不足を補って生産効率を上げるためさまざまな施策が講じられています。
例えば、テレワークの推進など柔軟な働き方による人材確保や、ICTの高度活用による業務効率改善が挙げられます。
昨今の人材不足にともない働き方改革が進められる流れで注目を集めたのが、これまで述べてきたRPAです。
従来あった工場の生産ラインなどにおけるIT・ロボット導入の範囲を超え、ホワイトカラー業務においてもRPA=ロボットが新たな戦力になると期待されています。
国内市場規模の拡大、1年間で4.4倍に
いち早くRPAに着目した業界は、金融業やサービス業です。銀行口座の開設や注文の予約管理など、事務作業を自動化することで効果を上げてきました。
現在は業界を問わず、人事や経理などバックオフィス業務への適用が進み、多くの企業がRPAに関心を持っています。
独立系ITコンサルティング・調査会社の株式会社アイ・ティ・アールによる調査でも、その注目度がわかります。
国内のRPA市場規模は2015年頃から急拡大し、2016年度で8億円だった総売上金額が翌年の2017年に35億円まで到達するなど、高い成長率をマークしました。
先行導入企業の成果が広く認知されることで、今後もRPAへの関心が高まり拡大傾向は続くと予想されます。
世界的に見ても、その傾向は変わりません。市場調査会社TMR(Transparency Market Research)のレポートによれば、2013年に約2億ドル程度だった市場は、2020年には50億ドルにまで拡大すると予測されています。
RPAの市場規模は国内外を問わず大きく成長しており、さらに広く浸透していくと考えられています。
RPAが効果をもたらす3種の業務
RPAの導入にあたっては、適した場面や業務を充分に検討することでより高い効果が得られます。主に以下3つの業務において、RPA導入による高い効果が期待できるとされています。
1.手間はかかるがルール化・フロー化された単純な作業
人による作業の手間はかかるものの、決められたルールに則った作業や、手順そのものが単純な作業は、RPA導入による効率化が容易とされています。
例えば書類データのチェック業務やデータ登録作業、メールの添付ファイルを所定のフォルダへ自動保存する作業などが一例です。
2.繰り返し同一の手順を実行する作業
同じ手順をルーティンで反復する作業も、RPA導入で効率を高められる業務に含まれます。例えば、インターネット上の自社に関連する文言を検索して収集する作業や、決まった文言や数字をデータ入力する作業などが該当します。
3.マニュアル化された作業
さらに条件が明確に指定されマニュアルに則って実行できる作業は、RPA化が高い効果を発揮します。現状マニュアルが存在しない業務であっても、新たにマニュアルを作成しその通りに作業を進められるものであれば、RPAにより自動化できる可能性があります。
RPAによる自動化がもたらすメリット
では、RPAで業務を自動化することが企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか?ここでは3つのメリットをご紹介します。
定型業務の効率化
作業手順がパターン化された定型業務はロボットの得意分野で、圧倒的に速く正確に作業を行えます。またロボットは事実上24時間365日の稼働が可能で、業務スケジュールの大幅な短縮も期待できます。
RPA導入による効率化で人が定型業務に手を煩わされることがなくなれば、付加価値創出のための業務に時間を多く使えるようにもなります。
コスト削減
RPAによる業務の自動化で従業員の稼働を減らせれば、人件費の削減も可能です。所定労働時間の給料、残業代や休日出勤といった手当のカットにとどまらず、人材配置にともなうコストやアウトソーシング費用も不要となり、大幅なコスト削減が見込めます。
業務品質や精度の向上
人は体調や集中力などにパフォーマンスが左右されるため、業務精度の標準化が難しくミスを発生させる可能性もあります。その点ロボットは長時間業務を続けてもパフォーマンスの安定が見込め、ミスもありません。
単純な業務をロボットが担うことで、従業員は人の判断が求められる業務に集中して取り組め、業務の質を上げられます。
RPAの限界
RPA導入・運用に課題を持つユーザー数は9割超
業務効率化に有効とされるRPAですが、導入済み・導入予定企業では従業員の多くが不安を感じているという調査結果もあります。
バーチャレクス・コンサルティング株式会社
はRPAを社内で既に導入済み、もしくは近日導入予定の企業に所属する人を対象に、RPA導入・運用に関する調査を実施しました。
その結果、RPAを導入予定の企業では、26.6%の人が「導入・運用の課題がかなりある」、65.5%が「多少ある」と答えています。導入済みの企業でも、83%が「課題を抱えている」と回答しました。
出典:バーチャレクス・コンサルティング株式会社<RPAに関する実態調査>調査結果①:企業が抱える、RPA導入に伴う課題・悩みとは?
また、導入前に最もボトルネックとなる課題としては「コスト」(67.0%)の回答が最多でした。また、導入後の課題として約半数が「人材・組織体制が不十分」と回答しています。
コスト削減や業務処理の高速化のためにRPAを導入しようとしたはずなのに、なぜ上記のような課題が生じるのでしょうか。
「デジタル」×「定型業務」以外の作業はRPAで効率化できない
効果が見込めるとはいえ、RPAの導入で全ての業務が効率化できるわけではありません。RPAで効率化できない作業とは何であるかについても、整理しておきましょう。
RPAが自動化可能なのは「パソコン上で行う定型業務」のみです。それに当てはまらない業務を、RPAで効率化することは困難でしょう。
例えば以下のような、「アナログ業務」「非定型業務」の自動化はできません。
その一方で、以下のような「デジタル」の領域における「定型業務」は自動化できます。
などの「アナログ」または「非定型業務」を自動化することはできません。
上記のように、RPAの得意分野と困難な分野を把握できていないと、導入が上手くいかない可能性があります。
導入における実質的なコストは想像より多い
また、RPAを導入するフェーズごとにはそれぞれ解決すべき課題が発生し、人的コストがかかります。かといって解決すべき課題への適切な準備・対応がともなわなければ、導入コストがさらに増大するばかりでなく、従業員の間で不安要素が生じてしまうのです。
導入前
前述の通り、導入前にRPA化が可能な業務範囲の明確化が必要です。これができていないと、設計・設定などでの出戻り発生など負担が大きくなる場合があります。
導入中
RPA導入の過程では、操作方法や設定を管理者・利用者へ共有するためのコストも無視できません。
導入後
業務変化にともない、人による定期的なメンテナンスも必要です。「人が行う業務とRPA化した業務をどう共存させるか」など、業務ルールの再設計も重要です。
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RPA導入の成功に向けて
「業務の明確化」と「スモールスタート」が重要
では、実際にRPAの導入時、失敗を回避するために必要なフェーズごとの手順を見ていきましょう。
上記の図では、各フェーズで必要となる具体的な手順を示しています。
RPA導入の推進に際し、まずは踏むべき段階を明確にイメージします。その上で、「用いるツール、対象業務、自動化の目的」を定義するための準備に注力するとよいでしょう。
導入前の目的意識や業務の選別要件にズレがあると、思った通りの効果が得られない可能性があります。
また導入時には、最小のリスクで最大限の効果を得るため、狭い範囲でトライ&エラーを反復しましょう。その効果検証を踏まえて全社に導入するか、いきなり全社導入するかで、運用面でのハードルの高さが変わります。
RPAはポテンシャルを秘めた「新入社員」と捉える
RPAは「デジタルレイバー」とも呼ばれ、従来のシステムと比較し人間により近い機能・役割を担う新戦力になると考えられてきました。
しかしRPAをただ導入するだけでは、本来の持ち味を引き出すことは困難です。人であっても「デジタルレイバー」であっても、新戦力を迎える際には彼らの役割や能力の正確な認識が必要でしょう。
野村総合研究所でプリンシパルを務める福原氏はNRI JOURNAL「RPAは即戦力のスター人材というよりは、ポテンシャルを秘めた新入社員と捉えたほうがよい」と語っています。
RPAには新入社員と同様、「得意・不得意分野がある」「教育が必要」「フォローしなければ継続的に稼働できない」といった特性があることを、頭に入れておきましょう。
右も左もわからない新人には、本人の得意と不得意を正確に理解し仕事を教えなければなりません。新人のパフォーマンスが振るわないときは、詳細に課題を切り分け解決までフォローすることが必要です。
この受け入れ対応を誤ると、潜在能力のある新人も本来の力が出せないという事態を招きます。
RPAにおいても、同様のことがいえます。一定のポテンシャルを持つ「新戦力=RPA」を生かせるか否かは、導入側の管理能力にかかっているのです。
RPA導入の前には業務改善と同じ手順を踏む
RPAを導入に必要となる準備作業の過程は、以下のようになっています。
この過程を踏むことでRPAの円滑な導入にとどまらず、それ以外の業務課題が見つかり改善へのきっかけが得られる可能性もあります。RPAの導入を進めることが、あらゆる業務課題の改善にも生きてくるといえるでしょう。
RPAを導入した企業の成功事例
ここで、実際にRPAによる業務効率化を成功させたニチレイロジグループ様の事例をご紹介します。
国内随一の低温物流拠点網と全国を網羅する輸配送ネットワークを誇るニチレイロジグループ様では、物流業界全体が直面する労働力不足を解消すべく、RPAによる業務革新に取り組むことを決定しました。その際にRPAと合わせてマニュアル作成ツール「Teachme Biz」を導入し、さらにRPAを浸透させるための独自のイベントを実施。こういった工夫によってRPAの導入が進み、年間20,000時間の業務をRPA化することに成功しました。
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▶RPA導入推進におけるTeachme Biz の活用
人材育成とマニュアル化でRPA導入を確実に
RPAの導入プロセスを確実にするためには、以下2つの方法が有効です。
RPA人材の育成
先述した通り、RPAの導入時は業務整理や業務フローの再構築が必須です。またそれらにとどまらず、導入後の継続的なメンテナンスも必要となります。
上記に際し有効な方法のひとつとして、社内のRPA人材の育成強化が挙げられます。
RPAは決められたルールに基づく行動を忠実に再現できる反面、ルールを逸するトラブルが少しでもあると作業がストップしてしまいます。その際は、人がルールを書き換えるなどで方向修正が必要です。
上記のように、RPAの導入時にはRPAをよく理解した人材育成も欠かせないのです。
実際に、RPA人材を育成することを目的としたサービスを開始した企業もあります。
パーソルテクノロジースタッフとパーソルプロセス&テクノロジーは、RPAツール「UiPath(ユーアイパス)」の知識をもった技術者を育成するサービスを、2018年9月より展開中です。
RPAの知識を有する技術者は慢性的に不足しており、人材育成や派遣によりRPA導入をサポートする需要も高まると予測できます。
ただ、長い目で見ると社内での「内製化」も非常に重要です。長期にわたり、外部の専門家に全てを任せることは現実的ではありません。
社内で効率的な運用を図りつつナレッジを蓄積し、RPA運用に長けた人材を育成することもカギになるでしょう。
フェーズごとのマニュアル化
もうひとつは、導入フェーズに合わせた業務のマニュアル化です。
RPA導入にあたっては、自動化する業務の範囲策定や、自動化業務とそうでない業務を組み合わせた新たな業務フローの設計が必要です。
導入前には、さまざまな業務から自動化可能な業務の洗い出しを行います。
この時点でRPA化の対象業務を抽出し、「マニュアル化(誰でも作業できるよう各種業務を切り分け定義すること)」をしなければ、RPAへの置き換えは難しくなります。
また導入後も、自動化された作業とそうでない作業の範囲が曖昧だと、運用効率を下げてしまいます。そこでも、業務の範囲や作業のフロー・手順の定義が必要です。
また当然ながら、操作やメンテナンスの手順を共有するマニュアル(手順書)も作らなければなりません。
その際は、小さなチーム単位で手順に沿ってRPAを運用し効果測定を行いながら、マニュアルの細かな更新や最新化を行うことも不可欠となります。
マニュアル作成にはツールを活用する
RPAを導入するにあたってマニュアルを作る場合、作成から共有まで手間のかかる作業が継続的に発生します。このとき、マニュアルの作成から更新、共有までの運用を容易にする、クラウド型マニュアル作成ツールの活用で挫折を防げる可能性があります。
都度改善点を反映した最新のマニュアルをRPA導入体制に上手く組み込めれば、RPAが能力を存分に発揮できます。また同時に、人による業務と自動化業務をバランスよく共存させられるでしょう。
RPA導入を成功させる「Teachme Biz」とは?
RPA導入に際し、マニュアル作成は欠かせません。しかし作成や共有に時間と手間がかかると、導入の停滞を招く可能性があります。マニュアル作成・共有システム「Teachme Biz」は、そのような課題の解決をサポートします。
いつどこにいてもマニュアルの作成や閲覧が可能なクラウド型ツールで、画像・動画・文字による「ビジュアルSOP(Standard Operating Procedures=標準作業手順書)」が作業手順をわかりやすく定義。データの共有や管理も、簡単に行えます。
Teachme Bizについて、詳しくは以下もぜひご覧ください。