リスキリングとは? リカレント教育との違いや経済産業省が推進する意味

最終更新日: 2022.11.15 公開日: 2022.11.05

リスキリング
近年では、多くの会社で急速なデジタル化に伴う技術革新への対応が求められています。今後重要になるデジタル人材の獲得で注目されているのがリスキリングです。この記事では、リスキリングとは何か、その背景や導入方法、導入時の注意点について解説します。

リスキリングとは? その他の単語との違い

リスキリングとは、DXなどの技術革新による変化に対応するために、業務上で必要になる新しい知識やスキルを従業員が学ぶこと、または会社が従業員に学ばせることです。リスキリングはさまざまな技術の獲得について使用される言葉ですが、DX化が進む現在においてはデジタルスキルを獲得する場合によく使用されます。

リカレント教育の違い

リスキリングは社内の業務に必要な知識やスキルを持たない従業員に対して行われるもので、従業員は会社で働きながら新しいスキルを学びます。一方、現在の会社を休職もしくは退職してから、大学やビジネススクールなどの教育機関に通って勉強するなどのケースがリカレントです。さらに、教育機関で新しいスキルを身につけたあとには、一時的に休職していた会社に戻ったり、新しい会社に入ったりして働きます。リカレント教育は、基本的に従業員が自分の意思でスキルを身につける学習を行うものですが、リスキリングは会社が主導して従業員に行う教育でもあります。

生涯学習との違い

生涯学習とは、仕事に必要なスキルを学ぶだけでなく豊かな人生を送るため常に幅広い分野の事柄を学んでいくことです。学校での教育、スポーツ、文化的な活動、ボランティア活動から趣味に関する学びなど、生涯にわたってさまざまな分野の学習を続けることが生涯学習とされています。
その内容が多岐にわたる生涯学習に対して、リスキリングでは新しい業務に必要なスキルを獲得する目的で仕事に関係する学習を行います。学習する内容を限定しない生涯学習とは、学ぶ内容が大きく異なります。

OJTとの違い

OJTは、英語の「On-the-Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」の略で、社内で行われている既存の業務を実際に行いながら学ぶ教育手法です。会議室で行う研修とは異なり、職場において上司や先輩などの指導を受け、業務を実践しながら業務に必要な知識やスキルを身につけていきます。
人材の育成計画を立てて行うOJTは、学ぶ側だけでなく指導する側のスキルアップにもつながる手法です。OJTは現在の業務を指導する場合に行われますが、リスキリングとは異なり将来的に取り入れる予定の業務では行えません。社内にまだそのスキルを持った従業員がいないケースにも、OJTは活用できません。

リスキリングが注目されている背景

リスキリングは、DX人材の育成手法として適切な方法であり、経済産業省が推進しているなどの背景から注目を集めています。近年技術革新が急激に進み、スキルを持つ人材の育成方法としてリスキリングが注目されました。

DX人材の育成

現在では、デジタル技術の革新によりさまざまなビジネスやサービスのDX化が急激に進んでいます。DX化に伴い、会社がこれまで使用していたレガシーシステムの刷新なども必要になっていきます。システムのデジタル化によって、業務内容も既存の業務からAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を使用した業務へと変化し、会社はその変化に対応しなければなりません。
DX化により取り入れたデジタル技術を活用するためには、その技術をビジネスに活用できるスキルを備えた人材が必要です。DXの推進には、エンジニアリング、データ活用、プロジェクト管理などさまざまなスキルが必要ですが、今後は営業などの業種にもデジタル技術が求められると予測されています。急激なDX化に対して、幅広い業種で必要なスキルを備えたデジタル人材が不足していることから、デジタル人材を育成する方法としてリスキリングが注目されています。

経済産業省が推進

日本では、2021年2月から経済産業省がDXの推進における会社や組織の変化と、必要とされる人材育成に関する「デジタル時代の人材政策に関する検討会」を開始しました。検討会では、主に「DX人材確保のあり方」「デジタル時代の継続的なスキルアップ」「デジタル技術を考慮した人材評価・育成方法」について話し合いがされています。
DX人材確保のあり方」では、ハイレベルのエンジニアなどを雇用するため、雇用形態の多様化、待遇面の充実、また、必要業務に対応できる人材の育成などが重要視されています。「デジタル時代の継続的なスキルアップ」とは、才能ある人材の発掘や、デジタル技術を持つビジネス系人材の育成、コミュニティの活用による学習の促進についての検討です。また、「デジタル技術を考慮した人材評価・育成方法」に関しては、スキルを評価する方法について国家試験の信頼性を活用する評価やコミュニティを活用した評価を可能にし、適切に評価されているかどうか明確にするため評価を見える化するなどの話し合いが検討会で行われています。

参照:デジタル時代の人材政策に関する検討会の概要

リスキリングのメリット

リスキリングのメリットには、採用コストの削減や業務効率化、従業員のキャリア育成などがあります。リスキリングによる人材育成により、従業員個人のスキルアップだけでなく会社側もさまざまなメリットを得られます。

採用コストの削減

リスキリングを行うと、現在働いている従業員が新しいスキルを獲得してスキルアップするため、スキルを持つ人材を新しく採用するコストを削減することが可能です。DXに対応するため、今後は多くの会社がデータサイエンティストやエンジニアなどのデジタル技術を有する人材を雇用しなければなりません。
ただしスキルを持っている優秀な人材は、ほかの会社でも募集しています。他社に人材をとられないためには、採用にかなりのコストをかける必要があります。変革のためデジタル人材を大量採用する場合には、膨大なコストがかかるかもしれません。対して、人材の採用をせずに社内の人材を活用できると、新しい人材の募集や採用にかかるコストを抑えられます。現在働いている従業員のスキルを向上させ、適切な部署に異動するだけで、人材不足の解消につながります。

業務の効率化

DX推進による業務のデジタル化は、これまで人の手で行ってきた作業の機械化により作業時間の短縮など業務効率化を実現します。手作業で業務を行っていた従業員は、リスキリングで獲得したデジタル技術による自動化ツールなどを使用すると効率よく作業を行えるため、作業負担や残業時間の削減が可能です。
これまでは手作業で行っていた入力業務などを自動化するなどの効率化により、作業にとられていた人材をコア業務にまわせるメリットもあります。会社の利益につながりやすい業務により力を入れられるため、生産性を高めて経営利益の向上も期待できます。

従業員のキャリア育成

リスキリングにより会社が従業員のスキルアップできる機会を作ることは、従業員のキャリアアップにもつながります。近年、DXの推進によりリモートワークが普及し、新しいスキルを必要とするさまざまな働き方が増えています。
リスキリングでは従業員が新しいスキルを身につけることが可能です。スキルアップにより対応できる業種が増加するため、従業員は幅広い業務のなかからキャリアを選択できるようになります。従業員のキャリア育成が行われると、社内で人材が不足している部署が出ても、ほかの部署から適切なスキルを持つ人材を異動することが可能です。
それにより会社側は雇用のバランスがとれるメリットもあります。DX推進による自動化・機械化などの変化で、スキルの合わない従業員の人員削減を避けるためにも、幅広い部署で働けるスキルを身につける従業員のキャリア育成が役立ちます。

リスキリングの導入方法

リスキリングは、その目的・対象を明確化してから、従業員のスキルを見える化、教育プログラムとコンテンツを決定し、業務負担を抑えられる学習環境を構築して行うことが大切です。身につけたスキルは実践してしっかりと身につけていく必要があります。

①リスキリングの目的・対象を明確化する

リスキリングを導入する際には、最初にその目的や対象を明確にする必要があります。定めた目的は、従業員に説明し共有することも大切です。リスキリングを実施する背景や、リスキリングの最終目的を説明し、実際に行う従業員の理解を得ると、目的が達成しやすくなります。
リスキリングでは、従業員がこれまでの仕事をしながら新しいスキルについて学ばなければなりません。業務上の負担が増加するため、リスキリングに積極的に取り組んでもらうためには従業員にもメリットがあることを説明し、納得を得てから導入します。

②従業員の既存スキルの見える化をする

リスキリングの際には、現状で従業員一人ひとりがどのくらいのスキルを保有しているのか、今後はどんなスキルが必要になるのかを洗い出す必要があります。従業員が自分にどんなスキルが必要か把握できると、必要なスキルと現在のスキルとのギャップがわかり、効率よく学ぶことが可能です。
また、目的とするキャリアを形成するにはどのスキルを獲得しなければならないのか、従業員が自身で把握することも大切です。ツールを活用するなどスキルマップを準備していると、従業員が現在のスキル状況を確認して自発的に学習できます。

③教育プログラムとコンテンツを決める

リスキリングの教育プログラムは、従業員が必要なスキルに合う内容のものを選びます。また、研修会、オンライン講座、eラーニングなど、学習方法にはさまざまなコンテンツがあるため、従業員の業務に負担がかからない方法を選択することも大切です。
教育プログラムを自社で制作するケースもありますが、制作には充分な知識と高額のコストがかかります。近年ではリスキリング向けのeラーニング、研修などのサービスが増えているため、自社の業務内容・学習方法に合う教育プログラムを社外サービスで見つけることはそれほど難しくありません。適切な教育プログラムを選び、リスキリングに活用します。

④学習環境の整備

リスキリングは仕事しながら学習する教育手法です。そのため、リスキリングを導入する場合は、就業時間内に学習時間を設ける必要があります。従業員に業務上の負担がかかりすぎることを防ぐためには、無理のないスケジュールで学習時間を設定しなければなりません。
就業の合間に手軽に学習できる環境の構築も重要です。普段業務で使用するアプリケーションから学習プログラムへ簡単にアクセスできるシステムや、従業員のスキルを随時確認できる学習システムの構築など、業務と学習の両立がしやすい環境を整備すると、学習時間を確保しやすくなります。

⑤習得したスキル・知識を実践で活用させる

リスキリングを行いスキルや知識を獲得したあとは、スキルを実践で使って実用レベルの力を身につける必要があります。従業員が学習プログラムで必要な知識を得たとしても、実際の業務でスキルを使わないとスキルの習得度は確実とはいえません。
ただし、まだ実践できるシステムが導入されていないなど、獲得したスキルを実践で使えないケースもあるため、実践になるべく近い環境でトライアルなどを試して経験しておくことが大切です。

リスキリング実施時の注意点

リスキリング実施時には、その注意点に気をつけなければなりません。従業員に負担をかけずやる気を出してもらうためにも、注意点に気をつけてリスキリングを実施することが大切です。

リスキリングの社内認知度を高める

日本ではまだリスキリングの認知度が高くありません。まずはリスキリングとは何かを従業員に知ってもらうために、海外でリスキリングを実施した企業の成功例を紹介したり、リスキリングのメリットを伝えたりして社内認知度を高めることが必要です。

社内の理解を促し取り組みやすい環境を整える

リスキリングでは、DXにより変化する業務に対応できる人材の育成を行います。実際に学習を行うのは従業員一人ひとりのため、各従業員がリスキリングを実施する目的を理解している必要があります。自発的に学習に取り組む意欲をもっていないと新しいスキルの獲得は難しいため、会社はリスキリングの社内認知度を高めて従業員の学習に協力することで、リスキリングを成功につなげられます。

社員の自発性を尊重する

リスキリングにおいては、社員の自発性も重要になります。仕事をしながら学習しなければならないため、自発的な学びがなければ、しっかりと学習するのは難しいでしょう。さらに、厳しい学習方法では、業務への負担が大きくなる場合があります。リスキリングを成功させるためには、学習時間の確保など従業員が自主的に学習へ取り組める環境づくりを構築することが大切です。

モチベーションを高める仕組みを作る

リスキリングは、スキルを獲得するための学習を継続することでその効果を高められます。ところが、従業員のモチベーションの高さを維持できないと学習の継続は難しいため、会社は従業員がリスキリングでモチベーションを維持できる仕組みを作ることが大切です。
リスキリングが従業員のキャリアになぜ必要なのかを明確にし、一人ひとりが把握できていると、モチベーションアップにつながります。また、習得したスキルや資格を評価する制度、手当の設定などが、スキル習得へのモチベーション維持を可能にします。

まとめ

DXを始めとする様々なデジタル技術の革新により、企業には従業員に必要なスキルや知識を習得させる「リスキリング」の推進が求められています。リスキリングを推進することで、採用コストの削減や業務効率化、従業員のキャリア形成など、企業側と従業員側の双方に様々なメリットが発生します。
DX推進にリスキリングを取り入れる場合、適切な計画を立てて手順通りに行うことが大切です。ぜひ、従業員が積極的に取り組める環境や仕組みを整備しながら、リスキリングを取り入れてみてください。

この記事をSNSでシェアする

「ビジネス用語解説」の最新記事

マニュアルで生産性革命をおこそう

マニュアルは、上手く扱えば「単なる手順書」以上に大きな効果を発揮します。
生産性の向上はもちろん、「企業を大きく変える」可能性を秘めています。

Teachme Bizは、マニュアルであなたの企業にある課題を解決し、
生産性を向上するパートナーでいたいと考えております。
「組織の生産性を向上したい」「変える事に挑戦したい」と思う方は、
わたしたちと生産性の向上に挑戦してみませんか。

マニュアル作成・共有システム
「Teachme Biz」はこちら