経済産業省による「2025年の崖とは?」わかりやすく解説

公開日: 2024.07.05

経済産業省による「2025年の崖とは?」わかりやすく解説

「2025年の崖」は、経済産業省によって示された、企業のITシステムに関する重大な課題を指す言葉です。2025年には、古くなったITシステムが企業のDXの障害となり、毎年多額の経済損失が生じる可能性があると警告されています。本記事では、「2025年の崖」の背景や課題、それらへ対処するための戦略について解説します。


製造業におけるDXの課題と解決方法 資料ダウンロード

2025年の崖とは

「2025年の崖」は、経済産業省が発表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」で示された言葉です。このレポートでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を訴えていますが、多くの企業経営層がその必要性を理解しつつも、実際の対応が進んでいない現状に警鐘を鳴らしています。

特に問題視されている点のひとつは、既存のITシステムが複雑化し、ブラックボックス化していることです。これにより、2025年以降、毎年最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘されています。これは、複雑化したシステムの維持と更新にかかるコストが増大し、新たなビジネスモデルの構築や市場の変化に対応する力が弱まるためです。

経産省の報告によれば、DXの推進は企業が未来に向けて持続的に成長するための重要な鍵であり、今後のITシステムの見直しと適切な投資が求められています。企業は、技術的な負債を解消し、効率的なITインフラを構築することで、競争力の強化も目指せます。
詳細については、経済産業省のDXレポートをご参照ください。

参照元:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省

そもそもDXとは?

DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略であり、データとデジタル技術の活用を通じてビジネスを革新することを指します。狭義の意味では、IT技術を駆使して業務プロセスやビジネスモデルを抜本的に変革し、新たな価値を創造する取り組みです。

経済産業省が示すDXも、このビジネスの革新を指しています。企業がデジタル技術を用いて競争力を強化し、顧客体験を向上させることが目標です。取り組みとしては、例えばビッグデータの解析により消費者のニーズを正確に把握し、製品やサービスの改善に役立てることが挙げられます。また、AIやIoTの活用も、効率的な生産管理や予防保守を可能とし、コスト削減や品質向上に結び付きます。

DXは企業の成長と持続的な競争力を確保するための重要な手段です。DXの概要をさらに詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。

関連記事:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義やその必要性をわかりやすく解説

なぜ2025年なのか

2025年が注目される理由のひとつは、20年以上前に各社の業務に合わせて作られた複雑なレガシーシステムが、現在でも国内で多く稼働していることです。これらのシステムでは、開発当初の設計や技術が古くなり、メンテナンスや運用が困難になってきています。この老朽化したシステムが企業のDXの妨げとなり、効率的な業務遂行を阻害する可能性があります。

また、2025年は団塊世代が後期高齢者となるタイミングです。レガシーシステムの開発に携わった世代も引退することで、IT分野における人材不足が一層深刻化すると予想されます。それと共に、レガシーシステムの維持や更新がますます難しくなり、システムがブラックボックス化するリスクも高まります。ブラックボックス化とは、システムの内部構造が不明確になることです。そうなると、社内の担当者でもシステムの何をどう動かすとどのような挙動をするのかが把握できなくなりかねません。

先述した通り、経済産業省は、このような状況が続けば2025年以降に毎年最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告しています。企業は早急にレガシーシステムの見直しと、DXの推進を図る必要があります。技術的負債を解消するためには、新たなビジネスモデルに対応できるITインフラの早急な整備が重要です。

2025年問題との違い

「2025年の崖」と「2025年問題」は、どちらも2025年をターゲットにした重要な課題ですが、その内容は異なります。2025年問題とは、団塊世代が後期高齢者となることで生じる労働人口の大幅な減少や、超高齢社会の進行に伴う社会的・経済的影響を指します。具体的には、労働力不足や社会保障費の増大、医療・介護サービスの需要増加などが挙げられます。

この2025年問題がさらに深刻化すると予測されるのが2040年問題です。2040年には、団塊ジュニア世代が高齢者となり、さらなる労働人口の減少と社会保障費の負担増が予想されます。これに対応するために、今から効果的な対策を講じることが求められています。

一方、「2025年の崖」は、企業のITシステムに焦点を当てた問題です。特に、20年以上前に開発されたレガシーシステムの老朽化やブラックボックス化が、2025年以降の企業の経済活動に深刻な影響を及ぼす可能性が指摘されています。このようなシステムの問題により、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れ、競争力が低下するリスクが高まるとされています。

「2025年の崖」で示された課題

2025年問題が労働人口の減少や超高齢社会の進行に焦点を当てているのに対し、「2025年の崖」は企業のITシステムに関する深刻な課題を浮き彫りにしています。ここでは、経済産業省が示す「2025年の崖」に関する具体的な課題について詳しく見ていきます。

レガシーシステムの継続

2018年のDXレポートでは、レガシーシステムが企業の成長を阻む大きな障壁であることが指摘されました。レガシーシステムを維持するために多くのIT人材が費やされ、結果としてDX推進の足かせとなっています。古いシステムの保守にリソースが奪われ、新しい技術の導入や革新的なプロジェクトが進められない状況が続いていることが課題です。レガシーシステムの問題は、DXレポート2.1と、それに続くDXレポート2.2でも重要な課題として取り上げられています。

参考:経済産業省「DXレポート2.2(概要)」

レガシーシステムの問題に対する経営層の理解不足

2018年のDXレポートでは、レガシーシステムの問題に対する経営層の認識不足も大きな課題とされていました。多くの経営層が、システムの老朽化やブラックボックス化がビジネスに与える深刻な影響を十分に理解していないため、適切な対策の遅れがあった形です。この認識不足が、企業全体のDX推進を妨げる一因となっていました。2022年のDXレポート2.2では、DXの重要性は認知されてきているものの、未だ不十分であるとの認識が示されています。

システムを刷新するコスト

システムの刷新には莫大なコストがかかることも、DXを進める上での大きな障壁となっています。2018年のDXレポートでは、システム更新のための資金調達や予算確保が難しく、結果的に古いシステムのまま運用を続けざるを得ない企業が多いことが指摘されています。このコストに関しては、DXレポート2.1や2.2では大きく取り上げられていないものの、依然として重要な問題のひとつです。

ユーザ企業とベンダー企業の関係性

ユーザ企業とベンダー企業の関係性がいびつであることも、DX推進の障壁のひとつです。2018年のDXレポートでは、ユーザ企業がベンダー企業に依存しすぎることで、柔軟なシステム導入や運用が難しくなっている状況が示されています。DXレポート2.1や2.2でも、こうした関係性の見直しが必要であるとされていますが、依然として多くの企業で問題が解消されていません。

DX人材の不足

DX推進のために必要な人材が不足していることも、重大な課題です。レガシーシステムの保守に多くのIT人材が割かれているため、新しい技術の導入やDXプロジェクトに充てる人材が不足しています。また、ユーザ企業とベンダー企業の両方でIT人材が不足していることが、さらに問題を深刻化させています。これに対処するためには、DX人材の確保と育成が急務です。DXレポート2.1では人材育成のジレンマとして、技術の陳腐化に人材の育成速度が追いつかないといった問題が示されており、人材不足の解消は困難と見られます。

「DXレポート」で示された対策

「2025年の崖」で浮き彫りになった課題を解決するためには、具体的な対策が不可欠です。経済産業省が発表した「DXレポート」では、これらの課題に対する明確な対策が示されています。ここでは、企業が抱える課題を解決するために示された対策について解説します。


dxツール

経済産業省の「DXレポート」とは?

経済産業省がデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた研究会を通じて発表した「DXレポート」は、DX推進の重要性と必要性を訴える重要な文書です。特に、「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」は、日本企業が直面する課題と、それを克服するための指針を示しています。このレポートは、DXの推進がなされなければ日本企業の競争力が著しく低下することを警告し、多くの企業や経営者の関心を集めました。

最新版である2022年7月の「DXレポート2.2」は、さらなる詳細な分析とDXに関する推奨事項を提供しています。このレポートでは、デジタル技術の導入と活用がいかに企業の競争力を高めるか、そして持続可能な成長を実現するかについて報告されており、経産省はこの文書を通じて、企業が取るべき戦略や行動指針を示しています。

DXレポートは、企業がDXを推進する際の重要な参考資料となり、多くの企業がその内容を基にDX戦略を策定しています。さらに、経営層や社員全体がDXの重要性を理解し、具体的な行動に移すための指針としても欠かせません。

参照元:デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会

レガシーシステムからの脱却

2018年のDXレポートでは、レガシーシステムからの脱却が重要なテーマとして取り上げられました。具体的には、クラウド技術や最新のデジタル技術を活用することによる、古いシステムから新しいシステムへの移行が推奨されています。クラウド化によって、コスト削減と業務効率の向上が期待できます。また、データのリアルタイム分析やAIの活用により、迅速な意思決定が可能となり、ビジネスの競争力を維持できます。

この問題はDXレポートの発表後も解決しておらず、DXレポート2.1でもクラウド化や新技術の導入に対する重要性が示されています。レガシーシステムからの脱却により、企業は古いシステムに依存することなく、迅速かつ柔軟に市場の変化に対応できるようになります。さらに、DXの一環として、ユーザ企業とベンダー企業の共創文化を推進し、IT人材のスキルアップや新しい技術の習得することも重要です。レガシーシステムからの脱却は、単に技術的な問題を解決するだけでなく、企業全体の成長戦略にも直結する重要な取り組みです。

経営層によるDXの牽引

2018年のDXレポートでは、経営層自らがDXを牽引することが求められました。経営層がDXの重要性を理解し、見える化することで、全社的なDX推進が促進されます。これにより、経営層のリーダーシップが発揮され、DXの取り組みが効果的に進むことが期待されます。DXレポート2.1や2.2でも、経営層が行動指針を示すなどの積極的な関与が強調されており、全社員が一丸となってDXを推進する体制が重要とされています。

DX人材の確保

2018年のDXレポートでは、レガシーシステムの保守に貴重なIT人材が割かれている状態を脱却し、DX分野に人材をシフトする重要性が示されました。DXを推進するためには、IT人材の育成と確保が不可欠です。IT人材のスキルアップと新しい技術の習得を推進し、企業にはこれらの人材の効果的な活用によって、DXの成功を目指すことが求められています。

デジタルで収益向上を達成するには?

DXの重要性が叫ばれる中、企業はデジタル技術を単なる効率化や省力化の手段と捉えるだけではなく、収益向上のための強力なツールとして活用する必要があります。DXレポート2.2においても、「デジタルで収益向上を達成するための要因」が解説されています。ここからは、企業の収益向上を目指すためのデジタル活用方法について解説します。

デジタルを収益向上に活用する

デジタル技術を活用する際には、単に効率化や省力化だけにとどまらず、創造や革新につなげることが重要です。ポイントとしては、新規デジタルビジネスの創出や、デジタル技術の導入による既存ビジネスの付加価値向上などが挙げられます。デジタル技術を活用して新しいビジネスモデルを構築し、従来の業務を一歩進んだ形に変革することが必要です。

このような新しいビジネスモデルの構築においては、顧客体験の向上や市場ニーズの変化へ迅速に対応することが求められます。例えば、データ分析を活用して顧客の行動パターンを理解し、パーソナライズされたサービスを提供すれば、顧客満足度を高め、リピート率を向上させることが可能です。また、AIやIoTの導入により、製品の品質管理や生産効率を向上させれば、コスト削減と収益向上の両立にも期待できます。

経営層がDX推進の行動指針を示す

経営層がデジタルトランスフォーメーション(DX)を効果的に推進するためには、単にビジョンや戦略を示すだけでなく、社員全員が具体的に取るべき行動の指針を明確に示すことが重要です。経営層はDXに関する明確なビジョンと戦略を設定し、それを全社員に共有することが求められます。

例えば、新しい技術の導入や業務プロセスの改善に対する具体的な目標を設定し、各部署がその目標に向けてどのように行動すべきかを明確に示すことなどが挙げられます。このように具体的な行動指針を示せば、社員一人ひとりが自身の役割を理解し、積極的にDXの取り組みに参加できます。

また、DXの進捗状況や成果を定期的に分析し、その結果を社員全員と共有することも重要です。社員に対してDXの成果や改善点を明確に伝えることで、組織全体のモチベーションを維持し、さらなる取り組みへの原動力につなげましょう。

価値観を共有する企業が協同する

DXの成功には、社内だけでなく、外部との協同も重要です。特に、価値観やビジョンを共有する企業との協同は、相互の補完によって、より大きな成果を生む可能性があります。例えば、技術パートナーシップを通じて最新のデジタル技術を取り入れたり、共同開発プロジェクトを実施したりすることで、双方の強みを活かしたイノベーションを実現できます。

また、異業種とのコラボレーションも有効です。異なる業界の知識や技術を融合させることで、新しいビジネスチャンスを創出し、市場での競争優位性を高められます。さらに、業界全体における規格の策定に参加することで、業界全体のDX推進に貢献し、自社のポジションを強化することも可能です。

まとめ

本記事では、2025年問題との違いを踏まえつつ、「2025年の崖」で示された具体的な課題と、その対策について解説しました。2025年の崖では、レガシーシステムの維持費用増大や市場競争力低下が予測されます。特に、老朽化したITシステムがボトルネックとなり、結果的に企業の成長を阻害しかねないことに対しては、早急に対応しなければなりません。

「2025年の崖」の対策としては、経営層のリーダーシップと具体的な行動指針の提示、レガシーシステムからの脱却、DX人材の確保が重要です。企業が多角的に対策を講じることで、持続的な成長と競争力の強化を実現し、2025年以降の経済リスクに備える必要があります。

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