製造業における技術伝承の課題を解決するマニュアル活用方法とは?
目次
技術伝承とは?
企業にとって、スムーズな技術伝承を行うことは大きな課題となっています。とりわけ製造業は熟練の従業員が長年の経験や勘といった言葉では表現しづらい技術を培っており、そのノウハウを後継へと伝えるのは容易ではありません。
技術伝承にまつわる数多くの課題をクリアして、若手従業員を育てるにはどうしたらいいのでしょうか。本記事ではマニュアルの活用をベースとしながら、具体的なポイントをお伝えします。
技術伝承とは?
改めて技術伝承とは、熟練の従業員が持つ技術やノウハウ、知識などを後継となる社員に引き継ぐことです。
技術伝承で共有される情報には、「形式知」と「暗黙知」の2つがあります。
形式知は作業の具体的な手順など言葉で表せる情報であり、きちんと整理をすれば体系的に伝えやすい情報です。一方、暗黙知は長年の経験や勘、あるいは直感に基づく判断・知識といった、言葉に表しづらい情報を示します。
両者の情報は、会社にとっては技術力を支える大きな財産のようなものです。着実に次世代に伝承するため、組織全体で取り組む必要があります。
技術伝承の現状
製造業の知識やノウハウの伝承の「成功率」はわずか15%
図1は「中小製造業における標準化や技術伝承の取り組み状況」。「うまくいっている」がわずか15%で、残りの85%は「取り組んだがうまくいっていない」あるいは「取り組んでいない」が占めています。
あらゆる産業の中で最もとりわけ「技術」や「効率」にシビアな製造業でさえこのような状況ですから、他業界であればなおのことです。
これまで当社はマニュアル作成ツールを提供する企業として、さまざまな企業様に対して「自社のノウハウを社内で共有できていますか?」とお伺いしてきましたが「カンペキにできています!」と言う方にお会いしたことは、ほとんどありません。
技術や知識を伝承する「仕組み」がないまま毎回同じことを繰り返し教えても、結局上手く伝わりません。大半の企業が、非効率な技術伝承に悩みを抱えたままでいると推測されます。
(参照:「中小製造業における技能・技術伝承の実態に関するアンケート調査」(2013)人工知能学会)
そもそも技術伝承は後回しになりやすい領域
前項の図1でもう一つ着目すべきは、40%もの企業が技術伝承にそもそも取り組んでいないという現実です。
技術伝承は会社を挙げて取り組むべきテーマであることは、先ほどもお伝えしました。しかし、実際のところ経営の視点から見ると、技術伝承は後回しになっているのです。
図2は「中小企業(全般)の経営者が重視する経営課題」です。
回答の多い順にグラフを見ていくと、売上やコストなど短期的な収益向上に影響するものへの関心は高い傾向です。一方で、企業連携や海外展開など中長期的な課題への回答数は少なくなっています。
つまり多くの企業は、「目先の利益確保に追われ、将来に向けた取り組みは後手になりがち」なのです。
人材・後継者育成を含む社内体制強化も同様です。「知識・技術の伝承は先送りされ、結局手が付けられていない」という図1の結果をはっきりと裏付けています。
(参照:「中小白書」(2013)中小企業庁)
技術伝承の課題
重要度の高さに比べてなぜ技術伝承には取り組めず、取り組んだとしても頓挫してしまうのでしょうか。大きくは3つの理由が考えられます。
若手従業員の教育の仕方がわからない
ベテラン従業員の中には、丁寧に仕事を教わって技術を習得した人もいれば、先輩の見様見真似をしながら自力で技術を身につけた人もいるかと思います。前者であれば多少技術伝承もしやすいかもしれませんが、後者の場合は以下の2パターンの思考に陥りがちです。
パターン1:自分があまり指導を受けずにできたのだから、今の若手も同じように見様見真似でできるはず
パターン2:自分は教えてもらえなかったから若手にはしっかり教えたいが、指導されたことがないので教え方がわからない
いずれの場合であっても、いざ指導する立場に立たされたときに上手く教えられないという状況は同じです。そもそも会社として技術伝承のノウハウがないまま現在に至っているために、個人任せにすると「何をしたらいいのかわからない」状態になってしまいます。
ベテラン従業員が後輩の教育に時間を割けない
そもそもベテラン従業員が目先の業務に手一杯で、技術伝承に時間を割けないという課題もあります。
技術伝承において、若手がベテランの仕事ぶりを見て、技術を目で盗むのは簡単ではありません。技術を共有するためには、時にOJTでつきっきりの指導をすることも必要です。
しかし現在は人材不足などによって業務に余裕がなくなり、教育の時間を十分に確保するのが難しいという現実があります。
技術を上手く言語化できない
冒頭でも述べたように、技術伝承で伝える内容には「形式知」と「暗黙知」があり、伝承したい技術を体系的に整理しようと思っても、全てを言語化するのは難しい部分があります。
例えば微妙な手先の動きや動作のスピード感、力加減などはなかなか言葉では表せません。実際、一般社団法人大阪中小企業診断士会の「中小企業における『技能伝承(継承)』の実態調査と提言(2017年)」によると、技術(技能)伝承を行っている企業の中でマニュアルを用いている企業は少ない傾向です。
しかし、OJTは技術者によって教える内容が異なってしまう可能性が出てきますし、社員の時間が取られるという課題は解決しません。仮に何とか伝承できたとしても、会社は後継者が成長した後に、いずれまた技術伝承の壁に直面することになります。
【総括】技術伝承が上手くいかないのはノウハウや仕組みがないから
ここまでに挙げた課題をまとめると、総じて「会社として技術伝承のためのノウハウや仕組みを構築・蓄積できていない」ことが原因だといえます。
つまり「個々人の指導が上手くないから」「担当者がきちんと時間を取らないから」といった個別の問題ではないのです。
技術伝承の課題を解決するのは「わかりやすいマニュアル」の構築
会社全体の取り組みとして技術伝承の仕組みづくりが必要とはいえ、やはり後手に回ってしまう、何から手を付けたらいいのかわからないといった企業は多いはず。そんなときにおすすめしたいのが、マニュアルの活用です。
マニュアルはベテラン従業員が蓄積してきた膨大な知識やノウハウを体系化・可視化する手段として非常に有効なものであり、ここまでに挙げてきた3つの課題の解決にもつながります。以下では、そのポイントをお伝えします。
技術伝承でマニュアルを活用するための3つのポイント
ポイント1.画像や動画で暗黙知まで伝える
まず「言語化できない暗黙知もある」という課題を解決するには、ただのマニュアルではなく「わかりやすいマニュアル」を作り上げることが大切です。
文字だけではなく画像や動画を用いて、言語化が難しい内容について細かなニュアンスまで伝えきれるようにしましょう。
この方法のメリットは、ベテラン従業員自らがマニュアルを作成しなくても、ヒアリングと撮影を行えば別の担当者が作成を担当できることです。作成のための時間も取りやすくなるでしょう。
ポイント2.マニュアル×OJTで育成の時短を図る
わかりやすいマニュアルが完成したら、効果的な運用を図ります。まずはマニュアルを用いて従業員各々に自学自習をしてもらいましょう。ベースとなる知識がしっかり頭に入った状態でOJTを行えば、ただ単にOJTを行うよりも、作業の再現はかなり容易になるはずです。
実作業を行った後にわからない、忘れてしまった部分があれば、再びマニュアルで確認。こうしたサイクルを作れば、効率的に技術伝承を進められます。
技術伝承の全てをベテラン従業員の教育スキルに委ねなくて済むため、OJTの時間は短縮が可能ですし、指導自体も技術を習得するためのコツや勘所を教えることに集中できます。マニュアルをベースにすれば、指導内容にバラつきが出ないのも会社としてメリットとなるでしょう。
ポイント3.新たなノウハウはすぐに反映する
技術伝承を行う中でもっと改善したほうが良い部分が出てきたら、マニュアルに即時反映しましょう。これまでは従業員ごとにバラバラだったやり方が徐々に統一され業務の標準化が進めば、技術伝承はさらにやりやすくなります。
会社としても、最新のノウハウがきちんと形となって蓄積されていくのは非常に有益です。例えばベテラン従業員が予期せぬタイミングで退職してしまったといった状況においても、技術力が丸ごと失われずに済むからです。
技術伝承をマニュアルで推進した事例
TeachmeBizなら画像や動画を利用したマニュアルを簡単に作成でき、クラウドに保存することで更新・変更などの管理もしやすくなります。実際にそんなTeachme Bizの利点を活用し、技術伝承を行った事例をご紹介します。
製造業のノウハウ共有(大鉄精工株式会社様)
これまではノウハウを紙のノートによって共有していたという大鉄精工様。手書きのラフなイラストでは手順や内容がわかりにくい上に、汚損や紛失、盗難の面で不安を抱えていました。
そこでマニュアル作成ツールを導入し、スマートフォンさえあればマニュアルを簡単に作成できる環境を整備。マニュアルに現物写真を入れることで、ノウハウが格段に見やすくわかりやすくなりました。ノウハウ共有だけでなく、若手を指導するための教科書としてもマニュアルを活用しています。
機械整備の技術伝承(株式会社井上整備センター様)
井上整備センター様の場合はもともと社内にマニュアルが存在せず、伝承すべき熟練の技術・知識が失われていく危機感を覚えていました。
そこでiPadで直感的にマニュアルを操作できる環境を整備し、機械の「カルテ」やお客様向けの資料、サービス提案記録といった幅広い用途でマニュアルを活用。特殊な修理作業もマニュアルに記録されるため、若手たちへの技術伝承に役立っています。
迅速な取り組みが競合他社と差をつけるチャンスになる
技術伝承にまつわる課題は、今に始まったものではありません。仮に社内で技術伝承に取り組んだ実績があったとしても、「何年か前に取り組んだが失敗した」「失敗したと聞いたからやっていない」といった情報が、技術伝承の仕組みを作らないもっともな理由として捉えられてしまいます。
しかし、そういった「過去の情報」だけで会社としての施策を判断するのは危険なことです。
スマートフォンやタブレット、クラウドサービスといったテクノロジーが本格的に普及し始めたのは、ここ数年の話です。それらの技術が、積年の課題解決に役立つ場面が確実に増えています。デジタル技術をどこに活かしたらいいのかわからないのであれば、まずはマニュアル作成からスタートしてみてください。
本記事で提示した技術伝承の現状や課題を見て、「だからやらない」のか、「だからやる」のか。過去にとらわれず現在の最新動向を察知し、将来に向けて一歩踏み出すことが、競合他社と差をつけられるかどうかの分かれ目ではないでしょうか。
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