【会社側】退職手続きマニュアル|退職前後にやるべきこと・必要書類を解説

退職手続きでは、「担当者によって対応が異なる」「書類の漏れや遅れが起こる」などの課題がよく見られます。こうした問題を解決するのに役立つのが「退職手続きマニュアル」です。
本記事では、会社が退職前後に行うべき手続きや必要となる書類について、時系列でわかりやすく解説しています。ぜひ参考にしてください。
目次
- 1 従業員の退職日までに会社側が行うべき手続きの内容
- 2 従業員の退職後に会社側が行うべき手続きと必要書類
- 3 会社から退職者宛てに送付が必要な書類
- 4 退職手続きを行う際に注意したいケース
- 5 複雑な退職手続きのマニュアル化には「Teachme Biz」がおすすめ
- 6 まとめ
従業員の退職日までに会社側が行うべき手続きの内容
従業員が退職する際は、定められた期限内に手続きを正確に進める必要があります。ここでは、確認すべき手続きの流れと、それぞれの時期に応じて対応すべき具体的なポイントについて解説します。
2週間~1ヵ月前まで:退職願(届)の受理と退職日の決定
業務の引き継ぎや後任者の選定・育成には、事前に十分な準備期間を設ける必要があります。そのため、退職を希望する従業員には、できるだけ早く退職の意思を伝えてもらうことが重要です。
まずは、会社の就業規則で定められている退職申出の期限を確認し、従業員と相談のうえで退職日を決定します。ただし、民法627条1項によると、従業員が退職の申し出をした2週間後であれば、会社を辞めることができます。民法は就業規則よりも優先されるため、退職日を1ヵ月後にするよう従業員に強制できない点には注意が必要です。
退職日が決まったら、今後必要となる手続きの流れについて丁寧に説明し、正式な退職願(届)を提出してもらいます。記録を残すためにも、口頭のみでのやり取りは避けましょう。書面での提出を原則とすることで、後のトラブルを防げます。
2週間前まで:退職手続きの説明
退職の2週間前までに、従業員へ退職後の手続きについて丁寧に説明しましょう。健康保険の任意継続や国民健康保険への切り替え、住民税の支払い方法など、生活に関する制度の違いについて具体的に案内します。
また、離職票や退職証明書などの必要書類については、種類や交付時期を明確に伝え、従業員が漏れなく準備できるよう配慮します。あわせて、健康保険の任意継続制度の利用希望や証明書の要否も確認し、個別の状況に応じて対応するようにします。
2週間前まで:退職者が希望する書類の確認
退職予定の従業員が安心して次のステップに進めるよう、必要書類の確認は可能な限り退職の2週間前までに済ませておきましょう。失業給付の申請や再就職先での手続きに加え、国民健康保険や年金への加入に必要な書類がそろっているかどうかも、事前に確認しておくことが大切です。
特に退職証明書など、会社が発行しなければならない書類については、本人の希望を確認したうえで早めに準備を進めることが、退職後の不安や手続きの遅れを防ぐためのポイントとなります。
以下で、健康保険や証明書類など、確認すべきポイントを解説します。
健康保険の任意継続の意思確認
退職後も健康保険に加入を継続したい場合は、任意継続被保険者制度を利用できます。ただし、利用にはいくつかの条件があります。まず、退職までに被保険者期間が2ヵ月以上であることが必要です。
また、保険料はすべて本人が負担しなければなりません。資格を失った日から20日以内に、本人が申請する必要もあります。企業としては、これらの条件をわかりやすく説明し、従業員には利用意向の確認を早めにすることが求められます。
退職証明書の要不要の確認
退職証明書は公的な書類ではありませんが、退職者から発行を求められた場合、企業はこれを発行する義務があります。転職先への提出や国民年金の免除申請などに使用されることがあるため、退職証明書の発行を希望するかを本人に事前に確認する必要があります。
退職証明書には、就業期間や退職理由などが記載されます。ただし、記載する項目は労働者が求めたもののみに限られているため、発行の際には本人の希望を正確に確認し、準備を進めることが大切です。
退職所得の受給に関する申告書(退職金を支給する場合)
退職金を支給する際は、従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を退職日までに受け取る必要があります。この申告書が提出されない場合、退職所得控除を受けられず、所得税や住民税の源泉徴収額が本来より多くなる可能性があります。そのため、適切な税務処理を行うには、申告書の提出を従業員にしっかりと促し、従業員の税負担が増えないよう配慮することも必要です。
2週間前まで:情報セキュリティ・機密保持などに関する確認(誓約書)
退職前には、情報漏洩や不正競争のリスクを防ぐため、秘密保持義務や競業避止義務に関する誓約書を取り交わします。特に、業務で機密情報を扱っていた従業員に対しては、退職後も守秘義務が継続することを明確に伝えましょう。
誓約書には、業務上使用または作成した資料やデータ、マニュアルの返却義務も盛り込むことで、情報の持ち出しを未然に防げます。競業避止義務については、適用される期間や対象となる業務の範囲を具体的に示します。ただし、過度に厳しい内容とならないよう、実際の事情に即して設定する必要があります。
2週間前まで:業務引き継ぎの管理
退職者の最終出勤日まで2週間となった時点では、後任者の決定や業務引き継ぎの準備を本格的に進める必要があります。引き継ぎ作業は、最終の出勤日の3日前までに完了するようにスケジュールを立てておくことで、思わぬトラブルや急な対応が必要になった場合にも、慌てずに対処できます。
また、業務内容は口頭で伝えるだけでなく、「引き継ぎ書」や業務マニュアルなどの文書にまとめ、後任者はもちろん、他の社員も内容を把握できるようにしておくことが大切です。さらに、この時期には取引先への退職の挨拶や後任者の紹介も済ませておくことで、社外との連携が滞ることのないように配慮しましょう。
引き継ぎ書に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
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引き継ぎ書の作り方|手順、ポイントをわかりやすく解説
退職日まで:従業員から各種貸与品などを回収
会社の資産が漏洩したり紛失したりしないよう、退職日までに貸与品の回収やアカウントの停止を行わなければなりません。ここでは、パソコンや社用携帯、資料・データなど、退職時に確認すべき回収物について解説します。
PCや社用携帯、社員証など
退職時には、まず会社から貸与しているパソコンやスマートフォンなどの電子機器を優先して回収します。なぜなら、これらの機器には業務に関する機密情報など、重要な情報資産が含まれており、適切な管理が求められるためです。
さらに、社員証や入館証についても、セキュリティ上の理由から退職日までに必ず返却してもらうことが必要です。事前に貸与品の一覧を作成し、本人と一緒に確認しながら回収作業を進めることで、返却漏れやトラブルを未然に防げます。
業務で作成した資料やデータ、取引先の名刺など
業務の引き継ぎを行う際には、従業員が作成した資料やデータはすべて会社へ返却することが基本です。また、名刺や顧客リストなど、取引先の情報が記載されたものについても、機密情報として厳重に回収し、情報漏洩のリスクを未然に防ぐ必要があります。
特に、リモートワークが普及した現在では、退職後も個人のパソコンやスマートフォンに会社の情報が残っている場合があります。そのため、データの保存や転送を禁じるルールを徹底し、従業員一人ひとりに機密保持の重要性を認識させることが大切です。さらに、社内システムのアクセス権限を適切に管理するとともに、必要に応じて秘密保持契約を締結することも、情報流出を防ぐ有効な対策となります。
健康保険証
退職に伴い、健康保険の資格は退職日の翌日に失効します。これまで、年金事務所に提出する「健康保険・厚生年金保険資格喪失届」に保険証の添付が必要だったため、被保険者およびその扶養家族の保険証を退職日までに回収する必要がありました。
しかし、2025年12月2日以降に退職(資格喪失)となる被保険者の保険証については、従来の健康保険証が原則無効となるため、事業主への返却は不要となります。退職者には、無効となった保険証を適切に破棄するよう周知徹底してください。
なお、資格確認書が交付されている場合は、有効期限内であれば資格喪失時に返却が必要となるため注意が必要です。
退職日まで:退職金の準備(退職金を支給する場合)
退職金を支給する際は、退職金規程に従って正確に金額を算出し、支給日までに十分な資金を準備しておく必要があります。あわせて、退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を受領したうえで、必ず源泉徴収額の計算も行いましょう。
なお、退職金を最終給与とは別に支給する場合は、事前に支給日や振込先について本人に連絡しておくことで、誤解や支給遅延を防げます。また、退職金の明細書も発行してください。
退職日まで:年金手帳・雇用保険被保険者証などの返却(会社預かりの場合)
年金手帳や雇用保険被保険者証を会社で保管していた場合、退職日までに必ず本人に返却してください。年金手帳には基礎年金番号が記載されており、再就職の際に社会保険へ加入する際や、無職期間中に国民年金へ切り替える手続きにも欠かせません。
また、雇用保険被保険者証も、転職先で雇用保険に加入する際に必要な重要書類です。これらは退職後の生活設計にも関わるため、確実に返却し、本人が受け取ったことをしっかり確認することが大切です。
従業員の退職後に会社側が行うべき手続きと必要書類
従業員が退職したあと、会社が速やかに対応しなければならない行政手続きがいくつかあります。これらの手続きには事前に提出期限が設けられているため、提出が遅れるとトラブルが発生しかねません。
ここでは、退職した従業員に関して会社が行う必要のある手続きや、提出すべき書類についてわかりやすく解説します。
退職日翌日から5日以内:所轄の年金事務所に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を提出
退職後の社会保険の手続きは、できるだけ早めに行うことが大切です。健康保険および厚生年金の資格喪失日は、退職日の翌日となるため、資格を失った日から5日以内に、「資格喪失届」を管轄の年金事務所へ提出する必要があります。
この手続きが完了すると、退職者が国民健康保険へ切り替える際に必要な「資格喪失証明書」が交付されます。手続きを迅速に行うことで、次の保険へのスムーズな加入につながります。
退職日翌日から10日以内:所轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」を提出
雇用保険の資格は、退職日の翌日をもって自動的に失われます。そのため10日以内に「資格喪失届」を所轄のハローワークに提出しなければなりません。
また、退職者が失業給付を希望する場合には、「離職証明書」を作成する必要もあります。これらの手続きを進めるためには、賃金台帳や出勤簿、退職届などの必要書類を事前に用意しておきましょう。必要な手続きを期限内に行わない場合、退職者が失業給付を申請する際に支障が生じる可能性があります。
退職日の翌月10日まで:退職者が居住する市区町村に「給与支払報告・給与所得者異動届出書」を提出
基本的に、従業員の住民税は会社が給与から天引きして市区町村に納めており、これを「特別徴収」といいます。従業員が退職した場合、住民税の徴収方法を「普通徴収」へ切り替える必要があります。なお、退職日が1月から4月までの場合は、会社が未納分の住民税を一括徴収するのが一般的です。
そのため、退職した月の翌月10日までに「給与支払報告・給与所得者異動届出書」を退職者の居住する市区町村に提出します。提出が遅れると、会社に特別徴収の督促状が送付されることがあります。退職者の住民税納付に支障が生じる可能性もあるため、会社側が遅れずに対応することが求められます。
会社から退職者宛てに送付が必要な書類
退職手続きが完了したら、会社は、退職者が今後社会保険や税金に関する各種手続きを遂行できるよう、必要な書類を適切に交付しなければなりません。これらの書類には、法律で交付が義務付けられているものと、退職者本人の希望により発行されるものの両方があります。ここでは、それぞれの書類の内容について解説します。
手続き後速やかに:健康保険資格喪失証明書(退職者が希望する場合)
退職後に国民健康保険へ切り替える際などに必要となるのが「健康保険資格喪失証明書」です。健康保険の資格を失ったことを証明する書類で、退職者が国民健康保険へ加入する際などに必要になります。退職者から希望があった場合に発行するものなので、必要かどうかを事前に確認しておくことが大切です。
公的に定められた書式はありません。一般的には、年金事務所や健康保険組合に資格喪失届を提出したあとに、会社が発行するか、年金事務所や健康保険組合に発行してもらいます。いずれにしても、手続きが終わったら速やかに退職者に送付しましょう。
手続き後速やかに:離職票(退職者が希望する場合)
退職者が雇用保険の失業給付を受けるには、離職票の提出が必要です。会社は退職後、「被保険者資格喪失届」および「離職証明書」をハローワークに提出します。後日「離職票-1」と「離職票-2」が発行されて会社に送付されるので、速やかに退職者の住所へ郵送してください。
また、離職票は、原則として59歳未満の希望者に交付されますが、59歳以上の場合は希望の有無に関係なく必ず発行されます。離職票は、求職活動や失業給付の申請に直接関わる大切な書類です。手続きが遅れると失業給付の申請にも影響が出るため、忘れずに早めに手続きを行いましょう。
退職後1ヵ月以内:源泉徴収票
退職者には、退職した年の1月1日から退職日までの給与・賞与・源泉徴収税額が記載された源泉徴収票を、会社が退職日から1ヵ月以内に交付する義務があります。
この書類は、年内に再就職した場合は新しい勤務先での年末調整に、再就職しなかった場合は確定申告に必要です。税務手続きを進めるうえで非常に重要な書類であるため、会社は確実に交付し、本人へ適切に渡すことが求められます。
退職手続きを行う際に注意したいケース
退職手続きを進める際には、一般的な流れだけでなく、個々の状況に応じた配慮も求められます。ここでは、よくあるケースごとに注意すべきポイントをわかりやすく紹介します。
派遣社員の場合
派遣社員の退職は原則として契約期間満了時に行われますが、体調不良や家庭事情などやむを得ない事情がある場合には、期間途中での退職が認められることもあります。派遣社員の雇用主は派遣先企業ではなく派遣会社であるため、退職手続きは基本的に派遣会社が中心となって進めます。通常、派遣先企業が直接手続きに関与することはありません。
ただし、現場での業務の引き継ぎや貸与物の返却などの調整は必要です。手続きの漏れや認識の相違を防ぐためにも、派遣会社との間でしっかりと情報を共有することが大切です。
パートやアルバイトなどの場合
パートやアルバイトの場合でも、雇用保険や社会保険の加入条件を満たしていれば、退職時には所定の手続きが必要です。特に、短時間勤務の方に適用される社会保険の基準は、法改正によって変更されることがあるため、常に最新の情報を確認しましょう。
退職証明書の発行や資格喪失届の提出など、正社員と基本的には同様の手続きが必要となります。ただし、正社員とは異なり、雇用保険には加入しているが社会保険に加入していないなど、個別に状況が異なります。雇用契約の内容をもとに、どの保険へ加入しているか、必要書類の提出状況なども含めて確認し、手続きの漏れを防ぐようにしましょう。
技能実習生など外国人従業員の場合
外国人従業員の社会保険や雇用保険の手続きは、基本的に日本人と同じ方法で行います。
外国人を雇用している場合だけ必要になる手続きが、「外国人雇用状況の届出」です。「外交」や「公用」以外の在留資格を持つ人を雇う場合、雇用の開始・終了時にこの届出をすることが法律で定められています。退職する外国人従業員が雇用保険に入っている場合は、雇用保険被保険者資格喪失届を出すことにより、この届出をした扱いになります。雇用保険に入っていない場合は、「外国人雇用状況届出書」を退職日の翌月末日までにハローワークに提出する必要があります。
この届出は、在留資格の変更や更新、または就労資格証明書を申請する際にも必要となるため、きちんと管理することが大切です。外国人を雇うときも、関係する法律を守り、丁寧に手続きを行うことが求められます。
退職者が失業保険給付を希望している場合
退職後に失業保険を受け取るには、会社が速やかに離職票を作成・交付することが不可欠です。離職証明書には退職理由の正確な記載が求められ、「自己都合」か「会社都合」かによって給付開始時期が大きく異なります。
自己都合退職では、7日間の待機後さらに原則1ヵ月の給付制限があり、受給まで時間がかかります。支給日数は加入期間などにより異なりますが最長150日です。一方、会社都合退職なら待機期間後すぐに給付が始まり、支給日数も最長330日と長めです(加入期間と年齢により異なる)。いずれも一定以上の雇用保険加入期間と再就職の意思があることが条件となります。
複雑な退職手続きのマニュアル化には「Teachme Biz」がおすすめ
退職手続きには、人事・給与担当者と退職者の双方にさまざまな作業が発生します。情報共有が十分でないと、手続きの漏れや認識のズレが起こる可能性があります。
Teachme Bizを活用すれば、画像や動画を使ってステップ形式で手続きを説明したマニュアルを作成できます。誰でも直感的に手順を理解でき、対応の漏れを防げます。このマニュアルはクラウド上で共有でき、内容の更新もリアルタイムで反映されます。さらに、自動翻訳機能により、外国人従業員にも母国語で正確な情報を伝えることができ、職場の多様性にも柔軟に対応可能です。
まとめ
従業員が退職する際、会社側には退職願の受理から行政手続き、税務処理、業務の引き継ぎ、貸与品の回収、情報セキュリティの確保まで、幅広い対応が求められます。各手続きを所定の期限内に行い、退職者へ必要書類を交付するためには、細心の注意が必要です。
また、雇用形態の違いや外国人労働者など個々の状況に応じて柔軟に対応することも求められます。すべてを漏れなく進めるためには、手順をマニュアル化しておくことが有効です。
「Teachme Biz」を活用することで、こうした複雑な業務も効率的に進めることが可能になります。画像や動画を使ったステップ形式のマニュアルを使って手順を共有し、退職手続きをスムーズに進めましょう。










