OJTとは? Off-JTの違い、メリットや効果的な進め方を解説
OJTは、多くの企業が行っている新人教育の手法です。業種・業界を問わず広く浸透している一方で、実は「現場任せになる」という大きな課題を抱えています。
本記事ではそんなOJTについて、基礎情報からおさらい。Off-JTと比較したときのメリット・デメリットを改めてご紹介した上で、OJTの課題を解決するための効果的な進め方についてもご紹介します。
「なんとなく慣習でOJTを行っているが、もっと効率を上げたい」「OJTによる新人教育が会社の負担になっている」と感じている方はぜひ参考にしてください。
目次
そもそもOJTとはどのような教育手法?
OJTの意味
OJTは「On The Job Training」の略称で、日本語では「現任訓練」のことです。アメリカ発祥の育成手法だといわれています。
OJTは座学ではなく、現場での実践形式で業務のトレーニングを積む育成手法のことを指し、先輩や上司、そのほか教育専門のトレーナーが新人に対してマンツーマンで逐一指導を行うのが一般的です。
例えば飲食店のOJTであれば、新人社員がトレーナーの指示をあおぎながら実際にお店に出て、お客様に対して接客を行います。お客様からしてみればトレーナーも新人も同じ店員であり、緊張感を持って取り組まなければなりません。
このように練習ではなく本番の状況の中でその場に応じて必要な知識を習得しながら経験を積むため、スピーディな育成が可能とされています。
Off-JTとの違い
OJTと比較される手法としては、Off-JT(Off The Job Training)があります。Off-JTはOJTとは異なり、現場以外で行われる育成手法や訓練全般を指します。
例えば講師を招いての研修、セミナー、通信教育、e-ラーニングなども全てOff-JTです。
OJTとOff-JTの大きな違いは、「教育内容」「学べること」「コスト」の3つにあります。それぞれを簡単に見てみましょう。
育成内容
OJTの場合は現場に出て、トレーナーが都度新人に対して必要な知識やスキルを教えます。このため、OJTでは社員一人ひとりの個性や性格、学習スピードに合わせた柔軟な教育が可能です。
一方Off-JTは、基本的に1対多数を想定されたカリキュラムで教育を受けることがほとんどです。個別指導は難しい代わりに、会社として標準化された業務にまつわる知識・手順を一律的に教えられるのが特徴です。
学べること
OJTはリアルタイム性の高い教育手法なので、新人は仕事に必要な勘や経験に基づいたノウハウなど、非常に実践的なスキルを得られます。
Off-JTは文章化できるような体系化された知識や概念など、汎用的なスキルを身に付ける際に有効です。ただしOff-JTであっても、よりリアルな現場に近いシチュエーションでの研修を行うなら、実践スキルの獲得も可能です。
コスト
OJTは業務の中で教育を行うため、教育のための時間や場所を確保する必要がありません。トレーナーの人的リソースは必要になりますが、Off-JTに比べると基本的に低コストで済むケースが多いです。
一方Off-JTは業務とは別の場所をセッティングする、講師を招く、教材を用意するといった準備に手間がかかります。時間的・人的・金銭的コストはOJTに比べて高くなりやすいでしょう。
OJTのメリット・デメリット
Off-JTと比較して見えてくる特徴以外にも、OJTにはさまざまなメリットがあります。もちろんデメリットも数多く存在するので、両方を正確に把握しておきましょう。
メリット
育成効率が良い
Off-JTとの比較にもあった通り、OJTは実際に現場に立つため業務の一連の流れに必要で即座に役立つ知識やスキルを素早く身に付けられます。不明点があれば、すぐにトレーナーに聞けるのも利点ですし、実務に直接関わることでモチベーション高く、責任感を持って取り組めるでしょう。「現場で活躍する即戦力社員」を育成するには、非常に効率の良い方法だといえます。
社員同士でコミュニケーションを深められる
OJTでは上司と部下、先輩と後輩といった関係性のペアが密に連携して業務を行うため、必然的に両者の間では活発なコミュニケーションが発生します。
お互いに信頼関係を築きながら業務にあたれば、新人にとっては職場における心理的安全性が保たれ、何か困ったことがあったときも相談しやすくなるでしょう。
指導者の成長につながる
OJTが成功するかどうかは、指導者側――トレーナーが上手く指導できるかどうかが大きな要素を占めます。
どんな順番で学べば人が成長できるのか、どう伝えれば説明をしっかり理解してもらえるのかなど、試行錯誤を繰り返すことで指導者はトレーナーとしてスキルアップできます。OJTによる教育経験を積み重ねれば、新人育成も効率化していくはずです。
デメリット
業務に必要な知識全てを教えられるわけではない
OJTはあくまで目の前の業務に対して必要な知識・スキルを教えることになるので、業務知識を体系的に得られるわけではありません。
例えばそもそも業務を何のために行っているのか、現在のような業務手順になっている理由、そのほか基本的なビジネスマナーや仕事に対する姿勢・マインド、事業の仕組み、今後仕事の幅を広げていくための知識・技能の習得などは、OJTだけではまかないきれません。
指導者に負担がかかりすぎる
OJTは基本的にマンツーマンで行われますが、これは指導者からしてみると大きな負担です。何もわからない新人に常に目を配りながら、自分が普段行っている業務もいつも通りこなさなければならないからです。新人指導にリソースを割いた結果自分の業務が滞ると、現場としては生産性の低下につながります。
人によって教育スキルが異なる
メリットでもご紹介したとおり、OJT成功の鍵はトレーナーが握っています。しかし中には指導に向いている人、いない人がいるため、トレーナーの指導方法によっては、新人が得られる知識やスキルが大きく偏ってしまいます。
同じ期間OJTで指導を受けていたのに、Aさんはばっちり業務をマスターして、Bさんはまだわからない業務があり手順もおぼつかない……といったことも起こり得るのです。
OJTに向いていない業務
OJTは人材の早期育成に効果的な方法ですが、中にはOJTによる教育が適さない職種や業務があります。以下にその特徴を詳しく紹介します。
専門的な知識が求められる業務
専門的な知識を必要とする職種や業務は、OJTには向いていません。一例としては、経理、会計、法律、医療、デザイン、IT、学術といった分野が挙げられます。
これらの業務は、もし何の知識もない人間が現場に出たとしても、基礎知識から教えることになるため、トレーナーの負担が非常に大きくなります。そのため、Off-JTや場合によっては学校や通信教育を利用して、基礎知識の学習や資格取得といった事前準備が必要になるでしょう。
イレギュラーが多い業務
通常業務が日によって異なっていたり、勤務時間が不規則であったりする業務もOJTには向いていません。例えば、勤務時間が不規則なクリエイティブ系や、気象・時勢などに左右される業務、救命・救助といった一刻を争うような職業などが挙げられます。
こうした職種は仕事の流れを体系化しにくく、かつイレギュラーな業務が多いため、教える内容も幅広くなります。OJTを適用した場合、教える側・教えられる側ともに負担が大きくなってしまうため、教育には別の方法を採用した方がよいでしょう。
OJTのよくある課題
指導方法が現場任せ
厚生省の「能力開発基本調査(平成30年)」によると、計画的なOJTを正社員に実施した企業の割合は62.9%で、いかにOJTが日本の企業の現場に浸透した指導方法なのかがわかります。
しかし、OJTは実際のところ指導方法もその内容も「現場任せ」になりがちなのが実情です。
現場で忙しく働いていた社員がいきなりOJTを任されても、新人をどう育成すればいいのかわかりません。その結果、育成に時間がかかる、あるいは時間をかけても上手く指導できず、新人が上手く育たないといった状況が発生します。
そうなると新人は初歩的なミスを頻発し、指導者は対応に追われ、現場負担ばかりが大きくなる悪循環です。適切な指導を受けられなかった新人は離職してしまうかもしれません。
事前になんの準備もなく、現場任せでOJTを行うのは非常にリスクが大きいのです。OJTのデメリットばかりが浮き彫りになってしまい、現場としては「新人教育は大変」「できれば担当したくない」といった忌避感につながります。
トレーナーの時間不足
OJTではトレーナーが自身の通常業務をこなしつつ、部下や後輩を指導しなければなりません。そのため新人教育に専念できるトレーナーに比べると、どうしても教育や指導に割く時間が少なくなります。
トレーナーが自身の業務に追われている時は、教わる側が放置されてしまう懸念もあるでしょう。
「せっかく現場に出ているのに何も学べていない」といった事態を防ぐには、トレーナーが余裕を持って自身の業務や後輩の指導に取り組める配慮が必要です。マネジメント側はトレーナーの日常業務を減らすなどして、適切な仕事の配分を行いましょう。
トレーナーのモチベーション維持
OJTの期間中、通常業務と新人の指導を並行して行うトレーナーの負担は増えてしまう傾向にあります。自身の業務へ思うように時間を割けなかったり、一定期間重要なプロジェクトから外されたりすることによる心理的ストレスも考慮しなければなりません。OJTも重要な業務のひとつですが、その意義を理解していないと、忙しさのあまり指導が場当たり的になってしまう懸念も生じます。
トレーナーのモチベーションを維持するためには、OJTがいかに重要な業務であるか、その意義を理解してもらうことが大切です。また、評価がついてこなければモチベーションも上がらないため、トレーナーの仕事に適切な評価が与えられることも事前に説明しておく必要があるでしょう。
OJTトレーナーに必要なスキル
OJTトレーナーに必要なスキルとして、「ティーチングスキル」と「コーチングスキル」の2種類が挙げられます。それぞれの特徴や違いを解説します。
ティーチングスキル
ティーチングとはその名の通り、知識やノウハウなどを「教える」ことを指します。業務の具体的な進め方や顧客情報といった具体的な情報を、教える側から教わる側へと一方向に伝える技法が「ティーチングスキル」です。これは、仕事の流れが体系化されていて答えが明確にある場合に有効な方法です。
OJTは現場での実践を通じて新人を育成する手法ですが、ただ先輩や上司の仕事を見せるだけではスキルが身につきません。仕事の目的や内容、手順を理解させなければ、現場で役立つ人材には育たないでしょう。そのため、トレーナーは「なぜ(WHY)」「何を(WHAT)」「どのように(HOW)」行うのかを的確に説明する必要があります。ティーチングスキルは、そのためにとても大切なものです。
また目的や方法を教えるだけでなく、その後で相手に適切なフィードバックを行うことも重要です。「どの程度できているか」「どの部分が足りないのか」「どの部分を改善するべきか」など、具体的に指示を与えることで、教えられる側のスキルも効率的に向上します。また、一方的なコミュニケーションにならないために、その都度分からないことがないかを質問する機会を設けるようにしましょう。
コーチングスキル
ティーチングスキルがはっきり答えや方法を教えることであるのに対し、「コーチングスキル」は教わる側が自身で答えに気付けるよう導いたり、支援したりする技法のことを指します。
コーチングでは、相手が自分で考えて行動できるよう、適切な質問を投げかけたり、ヒントを与えたりしながら相互にコミュニケーションを取ります。相手の性格や個性によって適した導き方は異なるため、トレーナーはティーチングよりさらに高いコミュニケーション能力が必要とされます。また、相手の可能性や能力を信じ、成長するまで寄り添える粘り強さも重要です。
コーチングは、自発性を発揮する人材が育つことを目的に行います。ティーチングの場合は指示待ち人間になりやすいのに対し、コーチングでは双方向のコミュニケーションを取るため、対人スキルが磨かれやすく、信頼関係が築けるようにもなります。
OJTの効果的な進め方
OJTはトレーナーと新人の間だけで行われるものではなく、企業全体の取り組みとしてしっかり管理・運用しなければならないものです。以下では、そのためのポイントをいくつかご紹介します。
OJTの目標を定める
まずは企業や部署が求める人物像を明確にした上で、OJTを通して新人に到達してもらいたい目標を決めましょう。目標から逆算して、どんな期間で何を実施するのか、具体的なOJT計画を定めることが大切です。
このとき大目標だけではなく小目標も設定し、計画のマイルストーンの中に組み込んでいきましょう。例えばスキルの習得時期などが小目標になります。
PDCAサイクルを回す
目標に基づいた計画を実施する際は、PDCAサイクルを意識しましょう。「Do」にあたる部分が実際のOJTの指導ですが、ただ指導をして終えるのでは意味がありません。
計画が順調に進んでいるか、もし遅れがあればどのような指導を行うべきなのかを都度確認し、改善計画を改めて立てて計画に反映し、また実践する……という流れを繰り返しましょう。
こうしたPDCAサイクルを回すことによって、指導の質を落とさず、計画的にOJTを進められます。
指導者に対してOJT研修を行う
指導者は基本的に現場で働く社員であり、決して育成のプロではありません。「PDCAを意識しよう」とだけ言われても上手く運用できない可能性が高いので、実際にOJTで指導者自身がどのような動き方をすべきなのか、事前に研修を行うことも大切です。
OJTがどんな目的を持っており、自分がどんな動きを求められているのかが明確にわかれば、指導者も安心しモチベーション高く取り組めます。
そのほか、研修では以下のような指導が必要です。
- 最近の若手社員の傾向など前知識の習得
- ワークショップやケーススタディによる実践的な指導
OJTがスタートしたら、指導者自身の指導方法についてもマネージャーと一緒にPDCAを回していきましょう。会社全体としてフォローアップをしながらOJTに取り組むことが重要です。
OJTとOff-JTを適宜併用して効率を高める
OJTにOff-JTを加えると、指導者の負担を減らし、なおかつ効果的な教育が可能になります。
例えば業務マニュアルを用いて、新人社員に事前に業務にまつわる基礎知識を学習しておいてもらうという方法もその一つです。予習をしておくことでOJTの現場でも全くゼロからの指導は必要なくなり、スムーズに進む可能性が高くなります。
またPDCAの振り返りでも、マニュアルを参照すればどこが悪かったのか良かったのかを把握しやすくなります。マニュアルを教科書的な存在として扱うことで、「指導者によって教える内容が違う」といった懸念も少なくなるでしょう。
若手の傾向を把握する
トレーナー役を務める社員にとって、年齢の離れた若手社員との接し方は悩ましいものです。近年の若年世代は真面目な性格の人が多く、言われたことは確実にこなし、仕事へのモチベーションも高い一方、失敗を極端に恐れて受け身になる傾向があります。
時には上司から注意されるのを避けたいあまり、ミスや失敗があっても相談しない可能性もあります。しかしそれでは、業務に支障をきたしかねません。トレーナーはそうした若手の傾向を理解し、常日頃からコミュニケーションを取って彼らが相談しやすい関係を築いておく必要があります。
また若手が自発的に動けるよう、研修の方法を工夫してみるのもよいでしょう。ワークショップやケーススタディなどを組み込むのもひとつの方法です。参加型にすることで、自身で考え行動する能力が培われやすくなり、学習定着率の向上も期待できます。
具体的な計画を立てる
OJTは行き当たりばったりで実施しても、効果的に進められるものではありません。育成の効率を上げるためには、期間やペースを具体的に計画する必要があります。
最初に目指すべきゴールを設定した上で、入社後1カ月、3カ月、半年の節目に達成するべきレベルを設定するなど、具体的な計画書を作りましょう。目標を明確にすることで、教えられる側もモチベーションを維持しやすくなり、社内での現状把握や目標の共有も容易になります。
達成基準を設定する
目標が達成できたかどうかを、誰が見ても把握できるよう基準を設定することも重要です。「1カ月で10件契約を取る」、「1週間で企画書を3枚作成する」など、数値化できる達成基準があればそれを設定するのが理想的です。
しかし職種によっては、基準を数値化しにくいこともあります。その場合は、「電話応対ができるようになる」、「営業先で一人でお客様に説明ができる」など、客観的に判断しやすい具体的な基準を設定しましょう。
まとめ
OJTは実践形式で行われるため、本来なら教育効率の良い優れた方法です。しかし実際には教育方針が現場任せになってしまい、新人にしっかりと業務の知識や技術を身に付けてもらえない、あるいは身に付けるまでに時間がかかる可能性があります。
こういった状況を回避するには、OJTを行うための事前準備や指導者への研修を行うことが非常に大切です。手間がかかると思うかもしれませんが、しっかりとしたフォローアップ体制を構築すれば、それだけ会社として新人育成の知見が蓄積され、人材採用や業務効率化にも貢献するはずです。
OJTはマニュアルを活用するなどOff-JTとの組み合わせが非常に有効なので、より良い方法を常に模索して、新人育成を成功させてください。