DX人材育成のためにどうすればいい? 事例やポイントを解説
DXを推進するために、企業はDX人材を育成する必要があります。この記事では、企業がDX人材を育成することが求められる背景を踏まえた上で、DX人材育成のメリット、現状の課題や具体的な人材育成方法について解説します。企業の成功事例や助成金の利用なども紹介していますので、DX人材を育成する際の参考にしてください。
目次
DX人材とは?
企業におけるDXとは、デジタル技術を駆使してビジネスモデルを変革し、自社の優位性を確立する取り組みのことです。そしてDXを進めるにあたって必要となるのが、DX人材です。DX人材という言葉に明確な定義はありませんが、一般的にはDXを推進できる高度なIT知識やスキルを持つ人材を指します。
DX人材にはデータを活用する専門的な技術やプロジェクトを牽引する力、企業を変革するマインドセットなど、幅広い知識・能力が必要です。さらに自社の業務への深い理解や、社員と連携して協力しあう姿勢、発想力や論理的思考力なども求められます。
「そもそもDXとは」について改めて確認したい方は、以下の記事をご一読ください。
>>DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義やその必要性をわかりやすく解説
DX人材の育成が求められる背景と現状
そもそもなぜ、DX人材を育成すべきであると言われているのでしょうか。「DXを推進するにはDX人材が必要である」というのは当然の理屈ですが、実際の背景はぼんやりしている人が多いかもしれません。
ここではDX人材が求められる背景や現状について解説します。
【背景】日本企業のDX推進が進まないため
まず声高にDXが叫ばれている一方で、実際のところ日本はDXが遅れています。遅れているからこそ政府がガイドラインを発信し、企業が正しく社会のゲームチェンジについていけるように促しているのです。
DXが進まない原因として、ビジョンや戦略の不足、既存システムのブラックボックス化などが挙げられます。簡単に言えば、「何のためにDXをするのか目的ややり方が分からないし、そもそもシステムが古く複雑になりすぎて、新しいシステムが十分に活用できない」という状態です。
これらの状態を脱却するために必要となるのが、経営の中期計画に基づいて変革を実行できる先導者、すなわちDX人材です。
【現状】DX人材になり得る人材不足が深刻化している
経済産業省によると、2018年の時点でIT人材の不足数は22万人ほどで、2030年には多く見積もって約79万人のIT人材が不足すると試算されています。IT人材自体は増え続けると予想されていますが、簡単には今後の人材不足を補えません。
IT人材とDX人材はイコールではありません。ですがDX人材には深いデジタルリテラシーが求められるため、IT人材の不足はそのままDX人材の不足にも直結します。実際に経済産業省は、DX実現のために重要な役割を担う「IoTやAIを活用する人材」も今後大幅に不足すると予想しています。
現状の採用市場においても、DXの知見がある希少な人材はパイの奪い合いが続いています。だからこそ今後は、「従来のシステムの受託開発や保守を行っていた人材」を「IoTやAIを活用できる人材」へと育成し、DXを推進していく重要性が高まるというわけなのです。
DX人材を社内で育成する4つのメリット
DX人材は中途採用や外部のリソースから獲得することも可能です。ですが、社内の既存人材を育成することで多くのメリットを得られます。
1. DX推進に適した体制を構築できる
DXは、企業全体で取り組むべきものです。複数の部署や社員が連携して推進する必要があり、決して一部の部署や人材で完結できるものではありません。社内の人材は企業の文化や人間関係をよく理解しています。そのため、専門性が高い外部コンサルタントが単独で行うよりも、スムーズに取り組みを進められる可能性が高いです。
DXの目的はデジタル技術の導入でなく、変革です。そのため、自社の強みや弱点、改善点を把握している社員が主導してDXを推進し、変革を達成することが望ましいです。
2. 自社に適したDXを実装できる
自社にDX人材がいると、何より自社にとって最適なDX推進を企画することが可能です。DX人材はシステムをうまく活用して、業務改善や新事業開発などの経営戦略を考える立場ですが、ここに自社の事業ドメインへの深い理解が加われば、非常に頼もしい存在になることが期待できます。
例えば既存システムを活用するだけでなく、現場の状況に適合した革新的なシステムを開発したり、さらには既存事業とのシナジーを生み出すような新規事業を創出するといったことが実現できます。
企業の事業内容や規模などによってDXの最適解は異なります。自社の事業や既存のシステムについて深く理解している社員をDX人材へと転換させることで、自社に適したDX実装の実現が期待できます。社内のDX人材には現場の声も届きやすくなり、システムの問題点の迅速な把握や改善につなげられるというメリットもあります。
DX人材の育成や変革の成功には費用や時間が必要です。しかし、成功すれば生産性が高く競争力のある事業運営へと生まれ変わらせることが期待できます。
3. 社内システムの一貫性を保てる
DXの推進にあたって社内システムの開発・改善などを外部ベンダーに任せきりにしてしまうと、システムの一貫性が保たれずトラブルが生じるリスクがあります。既存システムとの互換性がないシステムが導入されたり、自社の事業に適していないシステムが開発されたりする事態が起きかねません。
自社のシステムについて熟知しているDX人材がいれば、経営や事業を俯瞰的に見ながら、自社に適合した一貫性のあるシステムを構築しやすくなります。
また、DXは既存システムを改修したり、新規事業を立ち上げたりすれば達成できるわけではありません。その後も継続的にアップデートしながら安定的な運用をする必要があります。その点においても、自社でDX人材を育成し、一貫性のあるシステムを生み出すメリットは大きいと考えられます。
4. リスキリング環境を構築できる
DX推進は、社内のリスキリング環境構築につなげられます。経済産業省が公開している資料では、リスキリングの定義を「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と説明しています。企業が既存の人材に、特にデジタル関連のスキル・知識を身に付けさせる取り組みがリスキリングです。
前述の通り、現代はビジネスモデルの変化や技術革新が進む一方で、IT人材の不足が深刻化しています。そのため多くの企業がデジタルに強い人材の育成に向けて、リスキリングの導入を検討するようになりました。経済産業省の資料においても、リスキリングはDX時代の人材戦略であることが強調されています。
DXを推進するには、デジタル化によって創出される新たなビジネスや、既存システムの変化へ対応しなければなりません。社内にリスキリング環境を構築することで、DX人材を育成する基盤が整えられます。
参照:経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
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DX人材の育成における3つの課題
いざDX人材育成を掲げたとしても、実際にはうまく進められるとは限りません。その場合は、以下に紹介する課題を洗い出し、改善につなげましょう。
課題1:何から始めればよいのかがわからない
DX推進は自社の社風や業務形態に合った形で進める必要があり、部署や社員の理解と協力が必要です。DX人材の育成もまた、全社的に行う必要があります。
しかしながら、部署や立場などによって必要となるデジタルスキルは異なるため、学ぶべきスキルや具体的な育成方法が不明確になる可能性が高いです。とりわけ社内にDX推進の旗振りを行える人員がいない状態で始める場合、何から学習を始めればいいか分からなくなってしまいます。
そのような状態から始める場合、まずはDX文化の醸成が必要です。IPA(情報処理推進機構)と経済産業省が2022年に策定した「デジタルスキル標準」では、経営陣だけでなく全ての社員がDXに理解・関心を持ち、自分のこととして捉える必要があるとしています。
まずは全ての社員にDXに関する理解を深めてもらい、人材育成を推進する基盤を作るところから始めましょう。
参照:経済産業省・IPA|デジタルスキル標準 ver.1.0 (2022年12月)
課題2:実務につながらない
DXに関連する学びを実務に生かすには、データの入手先や分析方法、マーケティングへの活用方法など、既存の実務に関するさまざまなスキルが求められます。
また、想定外のトラブルが発生する場合もあります。座学で学んでいない事態でも焦らず適切に対応するには、トライアル・アンド・エラーを繰り返しながら解決策を見いだしていく以外にありません。実務を経験する中でフィードバックを受けながら改善を繰り返し、デジタルスキルを確立しましょう。
課題3:新規ビジネスまで発展しない
DX人材の育成によって、業務効率化など多くのメリットを得られます。しかしながら、すぐに新規ビジネスへと発展させられるとは限りません。新規ビジネスの創出に必要なデータやノウハウの蓄積には、時間がかかります。
また、これまでにない発想を基に開発されたサービスや製品であっても、市場のニーズに合わないかもしれません。試行錯誤してもうまくいかなければ、社員のモチベーションが低下する恐れもあります。
新規ビジネスを始めるにあたっては短期的な成果を求めず、長期的な視点からDXを推進することが重要です。そのためには、社員のモチベーションを維持するような取り組みや工夫が必要となります。
DX人材の育成方法|4つのステップ
社内でDX人材を育成するには、段階的に取り組む必要があります。以下に紹介する4項目のステップを参考にしてください。
STEP1:デジタルに強い人材を選ぶ
初めに重要となるのは、適性がある人材の選出です。まずは自社にとって必要なDX人材像を明確にしましょう。それぞれの社員が持つスキルを可視化し、把握します。その上で、企業や業務の現状に問題意識を持ち、デジタルに強い人材を選びます。その際のポイントとしては、役職や部署などを限定せず、幅広い人材の中から選ぶことです。
DXを牽引するリーダーを育成する場合、知識や技術に加えて、コミュニケーションスキルやマネジメントスキルも重視しましょう。ただし、多くのスキルを求めすぎても社員に負担がかかり、学習にかかるコストも増大するため、注意が必要です。
STEP2:スキルを学ばせる
人材を選出したら、次にスキルやマインドセットを学ばせる段階に移ります。座学やe-ラーニング、セミナーなどを通して知識やスキルを習得させましょう。同時に、習熟度を把握するために、定期的に社員の知識やスキルを可視化し、習得レベルを確認することも重要です。
学習内容はITに関する項目だけでなく、積極的に学ぶ意欲やリーダーシップ、粘り強く取り組むといったマインドセットを形成するプログラムを組むようにしましょう。
STEP3:実務でスキルを磨かせる
知識やスキルを身に付けた後に必要となるのは、実務への応用です。OJTを通して知識・スキルやマインドセットを実務に生かせるようにしましょう。実際の業務においてトラブルや課題に直面することで、社員は現状を把握し、改善点を見いだせるようになります。
まずは、社内の小規模かつ難易度が低いプロジェクトから始めることが望ましいです。スモールスタートから徐々に成功体験を積み重ねることで、知見や実行力、自信が得られ、大規模なプロジェクトへと発展するための足がかりになります。
STEP4:スキルを実務で応用させる
実務スキルを磨いた後は、応用段階に移ります。DXの最終的な目的は、企業を変革して競争力のある組織へと発展させることです。そのため、DX人材学習によって得た知見は既存の業務だけでなく、新規の価値創造へと役立てられる必要があります。
この段階ではうまく先に進めず、挫折してしまう可能性が高くなります。そのような場合、スキルアップや課題解決能力を身に付けることを目的とした講座・研修の受講が役立ちます。デジタルテクノロジーは日々進歩しており、最新のスキル・知識を常にキャッチアップすることが必要です。そのためにも、継続的に学習する体制を構築する必要があります。
社内での学習や実務に加えて、社外の講座・研修を活用しましょう。社外のネットワークを活用すれば、自社では得られない情報を得られるようになり、DX人材同士の交流を通じて刺激を受けられます。
DX人材育成の支援:人材開発支援助成金
一定のコストがかかるDX人材育成には、公的な支援制度の活用がおすすめです。厚生労働省が提供する人材開発支援助成金は、事業主が労働者に職業訓練(職務に関連した専門的知識や、技能習得を目的とするもの)などを行った場合、経費や訓練機関の賃金の一部が企業に支給される制度です。
7つの訓練コースが設けられており、それぞれ支給要件は異なります。その中でもデジタル人材の育成を支援するコースが「人への投資促進コース」です。これは、デジタル人材を育成する訓練やオンライン研修、労働者が自発的にする訓練などが対象です。
また、「事業展開等リスキリング支援コース」でもDX推進のために必要な訓練に対する助成をしています。助成額や助成の流れなど、詳細を知りたい方は以下のリンクから確認してください。
参考:人材開発支援助成金
DX人材育成に成功した企業事例3選
DX人材の育成をすでに導入している企業は数多くあります。以下に示す3社の事例を参考に、自社に合った方法を検討しましょう。
事例1:産学連携によるDX人材の育成
空調・化学事業を展開する企業では、AIの活用や技術開発、システム開発を担う人材の不足といった課題を抱えていました。しかしながら、IT人材獲得に向けた企業間の競争は激化しています。そのため、AIやIoT分野に長けた人材を自社の既存社員から計画的に育成することにしました。
具体的には、産学連携による社内講座を設立しました。1年目はプログラミングやAI・IoTの基礎、自社の技術を学習し、2年目は現場で演習を実施します。全社員から希望者を募り、2年間は通常業務を行わず学習に専念するという本格的な体制が構築されました。習熟度を確認するために、受講生は基本情報技術者試験などの公的資格を受検します。
この取り組みによって1,000人を超えるデジタル人材を育成しており、資格試験の合格率も全国平均を上回る結果を出しました。受講を修了した社員は、その後さまざまな部署で業務効率化や新規事業創出に取り組んでいます。今後も中長期的な人材育成を目指し、より高レベルのDX人材育成を進めています。
事例2:業務改善システムの内製化
食品の製造販売企業では、DX人材育成によってシステムの内製化に成功しています。以前はシステム開発を外部ベンダーに委託していましたが、仕様変更に時間がかかるなど非効率的でした。また、機能追加を繰り返すことでシステムが複雑化してしまい、コストや担当部門の負荷も増大していました。しかし、ITを専門としていないため、システム開発ができる人材が足りません。
そこで導入したのが、高度なプログラミング知識がなくてもシステム開発ができるローコード開発ツールです。コストを抑えられる上に短期間で開発できる利点によって、変更点に対しても迅速かつ柔軟に対応できるようになりました。社員が学習しながら開発することでDX人材が育成され、DX推進にもつながっています。ペーパーレス化や業務自動化を進め、コスト削減や業務効率化を実現しました。
事例3:DX専任の部門を設立
通信事業を展開している企業では、法人営業部門にDX本部を設立しました。メンバーは営業部門や企画部門、エンジニアを中心に、さまざまな部署から集められました。通信事業で培った基盤や技術に基づき、小売・飲食から社会インフラ、医療など多くの分野に対して課題解決のサービスを立案・提供しています。
また、DX人材育成を進めることを目的とした「事業プロデューサー制度」も設立しています。DX人材に求められるスキルは、事業企画の開発運営や管理、発想力や実行力、コミュニケーション能力などさまざまです。DX推進部門と人事部門が連携し、育成する対象者の決定、OJTやOFF-JTの実施、スキル測定という流れで人材育成を行っています。
DX人材を育成する際に注意したい3つのポイント
DX人材をうまく育成するには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。「とにかくスキルの高いエンジニアを探して育てればいいだろう」といった安易な考えではミスマッチが起きてしまうため、注意しましょう。
注意1:ITスキル一辺倒ではビジネスの革新にはつながらない
DX人材はどの職種でも、既存のビジネスプロセスに革新を起こす役割を担っています。しかし大きな変化を社内に促すにあたっては、他の社員から不満を持たれたり、協力を得られなかったりするケースも少なくありません。
対策としては、社長や役員の合意を得たり、スモールスタートで小さな成功を積み重ねたりとさまざまな方法が考えられます。しかし、いずれにせよDX人材には推進力とともに、精神的なタフネスや柔軟性が強く求められます。ときにはこれらが、ITスキルよりも重要となるでしょう。
これはIPAが唱えるDX人材の適正因子――「柔軟な対応力」や「失敗したときの姿勢」、「いざというときの突破力」などにも合致します。
参照:IPA(情報処理推進機構)「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」
注意2:知識や技術のアップデートが常に求められる
デジタル領域は変化が激しいため、常に最新の知識や技術をキャッチアップしつづける必要があります。
DX人材を育成する際は、ただ単に知識を詰め込むというよりは、時代の変化を敏感に察知して新しいことを積極的に取り入れる力を身につけさせましょう。
DX人材の育成は基本的に座学やワークショップ、OJTの繰り返しになりますが、知識のキャッチアップという観点で、前述した社内外のネットワーク構築に目を向けることも重要です。
注意3:長期視点で育成し、あらゆる手法も同時に検討する
DXを実現するには、これまでに存在していなかったシステムやビジネスを創造する人材を育成しなければなりません。そのためには、ただ闇雲に育成をするのではなく、そもそもDXでどのようなことを実現したいのか、自社にはどのようなDX人材がどれだけ必要なのか、といった要件をある程度固めておくことが非常に重要です。
また、短期間でのDX人材育成は難しいため、長期的な視野で取り組みましょう。その上で内部人材の育成だけにこだわらず、必要に応じて中途採用を行ったり、外部リソースを活用したりするなどあらゆる手法を組み合わせることも必要です。
まとめ
DX人材は、企業がデジタル技術を駆使してビジネスモデルを変革する、DXを推進するために必要です。しかしながら、DXをはじめとするIT人材の不足は深刻化しています。社内でDX人材を育成することで、自社に適したDX実装や内部体制構築が可能になり、リスキリング環境の構築にもつなげられます。企業の成功事例なども参考にしながら長期的な視点から育成し、DXを成功に導きましょう。
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