研究開発用試薬をはじめとする約3万品目の化学製品を世界中に提供する東京化成工業株式会社様。「試薬を通じて社会貢献する」を理念に掲げ、北米、ヨーロッパ、中国、インドに海外拠点を持ち、ISO 9001認証やGMPに準拠した高い品質基準を維持しています。同社では、グローバルに事業を拡大するにつれて、作業の標準化と技術継承という二つの大きな課題が浮き彫りになってきました。こうした課題の解決に向けて、マニュアルの標準化と業務の可視化に本格的に取り組み、その一環としてTeachme Bizの導入を決断。全社的な品質管理体制の強化を実現していきました。品質管理部門取締役の鈴木様、ロジスティクス統括部長の大澤様、試験部の渡邊様、品質保証部の八巻様、製造部の愛甲様に、この改革の軌跡をお聞きしました。

グローバル展開における作業レベルの統一と技術継承の壁
―――各部門におけるTeachme Biz導入当時の課題をもう少し詳しく教えてください。
大澤様 日本、米国、欧州、中国、インドに物流拠点を持つ当社では、基幹システムを共通化していますがー、導入から5年が経ち、次第に各現地法人での独自運用が生じてきました。新しいプログラムや手順を導入する際も、説明資料が文字中心だと各国のスタッフに正確に伝わりにくく、統一した運用を維持することが難しいという問題がありました。
鈴木様 品質管理部門では、拠点間でのマニュアル管理と技術継承という二つの大きな課題を抱えていました。深谷工場の試験部を基準に、世界各拠点へ業務基準を展開する方針を掲げていたものの、マニュアルの更新情報が適切に共有されず、拠点ごとにバージョンが異なるという問題が発生していました。また、経験豊富なベテラン社員の知識やノウハウをいかに次世代に継承していくかも大きな課題でした。特に手作業による分析業務などは、言語だけでは伝えづらく、形式知としての整理が難しい領域です。これらをいかに可視化・標準化するかは今後の事業拡大と品質向上を両立するために避けては通れない重要なテーマであると認識していました。
渡邊様 具体的な例を挙げると、深谷工場とつくば事業所で微妙に手法が異なっているケースを確認したことがあります。標準物質の乾燥方法や溶液調製の測定回数に差があったなど、本来であれば、こうした作業は統一された手順で実施すべきですが、実際には拠点ごとに“流派”のような独自のやり方が定着していました。こうした状況を踏まえ、どの拠点でも同じ業務レベルを確保できるよう、手法の標準化を進めたいと考えていました。
八巻様 品質保証部ではシステム関連の業務が多く、その影響もあり業務の属人化が進んでいました。マニュアルを作成・共有し、業務を可視化する過程で、担当者自身が「自分がどのような業務を行っているのか」を十分に把握できていない実態が明らかになりました。
このような状況は、業務の共有や作業の均一性といった観点からリスクが高く、急な欠員が発生した際の対応が困難であることも問題でした。このリスクを解消し、状況を改善したいという強い思いがありました。
愛甲様 製造部では、3万を超える弊社製品を供給するために、製品を作り続けています。作り上げられた製造手順をもとに製造を行っていますが、複雑なものは、書面の説明では伝わりにくく、微妙なニュアンスや違いを言葉や写真だけで理解することには限界がありました。これらの製造技術を継承していくことは急務であり、安定生産を継続していくためには取り組まなければいけない課題です。
標準化の鍵はフォーマットの統一と視覚情報の活用
―――それらの課題をどのように解決していったのですか?
大澤様 最初に気づいたのは、文字だけのマニュアルには限界があるということでした。特にグローバル展開において、言語の壁を越えるには視覚情報が重要です。また、担当者によってフォーマットがバラバラだと統一性が保てません。そこで、誰が作っても同じ形式になるようなマニュアル作成の仕組みが必要だと考えました。
Teachme Bizを選んだ決め手は、動画やイメージの編集のしやすさと、システム自体でフォーマットが統一される点です。ExcelやWordでもフォーマットは決められますが、それはルールで決めなければならず、守られないこともあります。システムの仕様として統一性が担保される方が、拠点間の標準化には効果的だと判断しました。
鈴木様 マニュアルは文字だけでなく、視覚的に理解できることが重要です。分析機器の操作や検査手順においては文章による説明だけでは十分に伝わらないケースが多くあります。たとえば色の変化や細かな操作感覚など、言葉では表現しにくい部分を視覚的な情報で補完することは非常に有効だと思います。口頭では伝えにくい色の変化「このぐらいの色になったら終了」といった経験に基づく判断基準も、動画があれば一目瞭然。これまで文書だけでは伝わりにくかった職人技が具体的な形となり、技術継承の効率化につながっています。 ISO 9001の文書では概念的・原則的な説明が中心となりますが、実際の現場作業では具体的な手順に落とし込むことが求められます。概念的な文書と実務的な手順書の両者を補完し合う形で、業務の標準化を進めていきました。
作業の標準化で実現したグローバル品質管理
―――導入後、どのように改善が進んでいきましたか?
渡邊様 まず、マニュアル作成の全体像を把握するために、必要な業務内容のリストアップから着手しました。この作業に約3ヶ月を要しましたが、その結果、作成すべきマニュアルが約300件になることが判明しました。そこで、作成チームには「1人あたり年間15件」を目標として設定し、「完璧を目指すよりも、まずは作成して継続的に改善していく」という方針で取り組みを進めました。
その結果、拠点ごとの作業手順の統一が大きく進展しました。たとえば、分析作業における測定回数を標準化したことで、統計的な精度を確保しながらも、効率的な検査体制を構築することができました。また、マニュアルに視覚情報(写真や動画)を取り入れることで、海外拠点との連携もスムーズになりました。日本と海外で使用している機材の違いも、写真を見れば一目で理解できるため、言語の壁を越えた技術共有が可能になりました。
大澤様 ロジスティクス部門では、場所を選ばずマニュアルにアクセスできる環境が整い、離れた拠点間でも同じ品質のサービスを提供できるようになりました。現在、世界中の拠点で注文商品の約9割は翌日に配達できる体制を実現していますが、これは標準化された業務プロセスがあってこそ。拠点ごとの独自運用が減り、共通の高品質オペレーションに繋がっています。
八巻様 品質保証部では、週に1回のマニュアルレビュー会を実施し、業務の標準化と改善を同時に進めてきました。レビュー会では、「このSTEPの後には、具体的にどのような作業を行っていますか?」という質問に対し、作成者が答えられない場面が見られることもありましたが、そうしたやりとりを通じて、より良い手順を提案し合うことができ、業務全体を見直す良い機会となりました。
加えて、マニュアルに基づいた業務交換も行いました。作業依頼時にマニュアルのリンクを共有することで、「この作業をお願いしたい」と具体的に依頼できるようになり、業務の効率化に繋がったと感じています。また、業務交換を通じて、これまで属人化していた作業についても、少しずつではありますが、分散、共有できる希望を持つことができました。
現場での実用性を高める工夫
―――現場での活用はどのように進めたのですか?
渡邊様 試験部では、装置の近くにQRコードを貼付し、関連するマニュアルへ即座にアクセスできるようにしました。これにより、PCまで戻る手間が省け、その場で必要な情報を確認できるようになった点は、大きなメリットです。
さらに、ポータルページ機能を活用して、マニュアルを作業順序に沿って整理しました。「左上から右下に向かって作業順序に沿ったレイアウトにしているので、例えばある測定をする場合、最初にガスを開けて、次に機器の設定をして...という流れが一目でわかります。」これにより、新人教育でも順序立てた指導がしやすくなりました。
八巻様 グローバル展開における言語の壁については、Teachme Bizの自動翻訳機能を活用して対応しています。海外スタッフでも検索しやすくするため、英語と日本語の対応表を作成することで、どの言語の担当者でも必要なマニュアルを見つけられる仕組みも構築しました。また、多言語での自然言語検索がしやすくなる機能も開発中だと聞いているので、さらに検索しやすくなることを期待しています。
マニュアル作成作業の苦手な製造現場にAIが貢献
―――製造部は他の部とは異なる苦労があったと伺いました
愛甲様 製造部門では当初、パソコン操作に不慣れなスタッフも多く、マニュアル作成への抵抗感がみられました。他部署のように「まずは6割程度のクオリティで良いから作ってみよう」と始めたものの、なかなか進まない状況でした。
転機となったのがTeachme AIの導入です。動画マニュアルの最大の障壁だった編集の手間がAIによって軽減され、AIが自動で動画を分割してくれるため、どこで区切るか悩む必要がなくなりました。一連の作業を撮影するだけでマニュアルの下地ができあがるので、作成のハードルを下げることにつながりました。
特に連続した製造工程では、写真での段階的な撮影で漏れが生じると再撮影の手間が発生していましたが、動画なら一度の撮影で完結できます。
最近では、意欲的な社員の一部が首元にアクションカメラをセットして自分の作業を撮影し、マニュアル作成まで進めています。自分のペースでマニュアル作成ができるようになり、時間をうまく使ってマニュアル作成する姿がみられるようになりました。
一方で、設備の表示画面や品質チェックポイントなど、詳細確認が必要な部分では写真を活用するなど、作業に応じた使い分けを行っています。
鈴木様 製造部のマニュアルが格段に増えたのはAI導入の大きな成果だと思います。
愛甲様 新人教育の方法も変わりました。以前は一回の指導では理解が不十分で、最低でも2回は説明していたことも、教わる側がマニュアルで事前学習してから実地で学ぶことで、指導回数を減らせるようになってきました。「何も知らない状態」から指導を始めるよりも、事前にイメージを持っていることで学びの質が上がり、習得スピードの向上と指導する側の負担軽減にも結び付いています。
作業の標準化と技術継承の未来
―――最後に、この取り組みで得られた気づきを教えてください。
鈴木様 作業の標準化を進めたことで、「試薬を通じて社会貢献する」という当社の理念を、より高いレベルで実現できるようになりました。世界中どこでも同じ品質の製品やサービスを提供することは私たちの使命であり、そのための基盤づくりが大きく前進したと実感しています。また、ベテラン社員の知識や技能を明確なかたちで記録・共有できるようになったことで、これまでの課題であった 技術継承も可能となりました。
大澤様 AIについては、正直懐疑的に思っていたのですが、実際に使えるレベルのマニュアルが生成されることに驚きました。特に製造部でのマニュアルの数が大幅に増え、現場の可視化が進んでいると聞いています。これは当初の期待以上の効果だと思います。
渡邊様 「流派」とも言えるような個人ごとの手法の違いが解消され、統一された品質管理が実現できるようになりました。ポータルページ機能を活用した順序立てた新人教育も可能になり、教育の質も向上しています。
愛甲様 これまでマニュアルの中では形にしにくかった微妙な色の変化や音、判断基準なども視覚的に伝えられるようになりました。事前学習と実地教育の組み合わせで、教育の効率も上がっています。多岐にわたる設備を用いて製造しているため、年に一度しか使用機会がない設備などもあります。そういったものを使用する際は、【製造時=マニュアル作成の機会】ととらえ、マニュアル作成に取り組む様子もみられます。マニュアル作成に対しても技術の継承に対してもスタッフの意識が少しずつ変化しているのを感じています。
―――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
大澤様 グローバル展開をさらに進め、すべての拠点でより使いやすい環境を整備していきたいと考えています。言語や文化の壁を越えて、どの国のスタッフでも同じ品質のサービスを提供できる体制を強化していきます。
鈴木様 今後は教育面での活用をさらに進めていきたいと考えています。マニュアルに基づく教育の実施に加え、その習得度の確認、さらには定期的な再教育までを一元管理できるようになれば、より効率的な人材育成が可能になります。このような取り組みが組織全体の技術力の底上げにつながると期待しています。
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https://biz.teachme.jp/casestudy/tokyokasei/(事例動画あり)