CD/DVD/ゲームソフト、アパレル、トレーディングカード/ホビー、ブランド品、スポーツ用品などを取り扱い、「本だけじゃないブックオフ」を全国展開するブックオフコーポレーション。同社は「古本屋」のイメージから見事脱却し、リユース業界の先陣を切ってコロナ禍以降も好調な業績をたたき出している。しかし、全国に散らばる何百という店舗のフォローを行う本部機能がどう動いているのかは、意外に知られていない部分だ。
特に同社の場合、B2Cのリユース事業という特性上、日々大量に持ち込まれる商品を査定、値付けするといった専門知識が店舗に求められる。これは、実際に店舗をまわすパートアルバイトといったスタッフに対しても「均一な情報共有」を基にした人材育成の徹底がなされなければ、実現できるものではない。特にハイブランド商品を扱う店舗なら、真贋(しんがん)を見極めるための知識習得も必須だ。ブックオフコーポレーションではどのように実現しているのか? リユース商品部 ハイブランドグループを取材した。
ITmediaビジネスオンライン 2023年6月23日掲載記事より転載
※導入目的、課題、効果はITmediaビジネスオンラインには掲載されておりません。
基準外製品は「100個のうち1つでも流通させない」 本部機能の役割と苦労
同社のリユース商品部 ハイブランドグループは、主に二つの業務を中心として動いている。
一つはバッグや財布、腕時計、貴金属といったハイブランド商品の真贋確認。これは実物を本部に送ってもらい目視確認する、あるいはWeb会議ツールで全国の店舗とつながり、映像を見て本物かどうかを見極めるというもの。その後店舗スタッフと買い取り額をすり合わせ、顧客に提示する内容を決定するまでが一連の流れだ。
もう一つは、取り扱いブランドに関する情報共有。ハイブランド商品の真贋の見極め方、店舗運営の業務上必要となるマニュアル、価格算出表などの資料を幅広く作成し、各店舗へ配信している。
なお、ハイブランド商品の査定は店舗でも資料を基に行うが、前述した通り複眼的な意味で本部でも細部をチェックする。1日100件以上の確認を行うことも珍しくないというが、それだけの労力を割くのは「100個のうち1つでも基準外製品(コピー品等)を流通させてはいけない」との姿勢を貫いているためだ。
「ハイブランド商品の知識が深い専門社員が店舗に在籍していれば、買い取り価格5万円未満の商品はそこで処理できる。ただ、専門社員が配属されていない場合と、買い取り価格5万円以上の場合は、われわれが実物を見て判断している」と、ハイブランドグループの今田大貴氏は語る。
同グループが担当するのは、ハイブランド商品を扱う100店舗以上。それだけの店舗数を、少数精鋭の8人体制で管理しているという。
これについて今田氏は「この体制は今後も維持していくが、その一方で商品の真贋を見極められる社員、店舗スタッフの育成にも力を注いでいる。具体的には、基準外製品の見極めポイントや商品の相場変動に関する情報更新を徹底することで専門的知識を深掘りし、かつそれを店舗スタッフが確実に身に付けられるよう、マニュアルを配信してフォローしている」と話す。
しかし数年前まで、店舗に配っていたマニュアル、資料は紙ベースだった。一部情報はPDF化してメール送付することもあったが、それを店舗スタッフが確認したかどうかは不明だった。本部では、所属している日本流通自主管理協会 AACD※から絶え間なく入ってくる重要情報の処理、店舗への配布に追われ「マニュアル作成、情報の配布業務で1日が終わることも少なくなかった」と今田氏は振り返る。
※並行輸入品市場における「偽造品」や「不正商品」の流通防止と排除を目的に活動する民間団体
紙からデジタルへ――電子マニュアル導入、予想以上の功績とは
このような状況に課題感を持ち、2018年に導入したのが、クラウド上で誰でも簡単にマニュアルを作成、更新、閲覧できるスタディストの「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」だ。
今田氏は「Teachme Bizは業務効率化だけではなく、事業拡大にも寄与した」と話す。具体的には、情報更新速度が圧倒的に高まり、マニュアルの作成、配信スピードが向上。課題だった閲覧状況の可視化が可能となり、地域ごとに発生していた情報格差も解消された。その結果、収益増にもつながったのだという。
今田氏と同じく同社ハイブランドグループに所属する山田雄康氏は「店舗に配属されている社員には、マニュアル確認のほか年に一度、研修機会を設けるなどして情報のキャッチアップに努めてもらっていた。しかし、メールが埋もれて確認が遅れる、研修開催日に参加できず後日情報を確認するなど、どうしてもタイムラグが発生する。パートアルバイトはさらに情報確認が遅れることになり、最新情報を把握できていない可能性がある中で査定を行うことに、心理的なプレッシャーがかかっていた」と回想する。
「今は、最新情報、最新マニュアルは全てTeachme Biz上で確認できる。持っている情報の量と質は、全国どの店舗でも、どのスタッフでも変わりない状況を生み出すことができた。スタッフの負担を軽減できたことで、従業員エンゲージメント向上にもつながっている」(山田氏)
取り扱いブランド数が3倍以上に 収益増、顧客体験にもインパクト
また、Teachme Biz導入によりインパクトが大きかったのは「買い取り可能商品が増えたこと」だ。今田氏は「以前までは、例えばルイ・ヴィトンを取り扱うにしても、情報更新が追い付かないため買い取り対象はバッグと財布のみで、貴金属は除外する――といった制限が出ていた。この場合、基準外製品を買い取るリスクは回避できるが、商品拡張ができない。そのため収益減になり、何より貴金属の買い取りを希望して店舗にきていただいたお客さまの体験価値を下げてしまう。Teachme Bizはこういったジレンマをも解消し、リピート率向上にも寄与している」と話し、笑顔を見せる。
Teachme Bizによる定量的な効果を整理すると、まず資料作成にかかっていた時間を4分の1まで短縮することに成功した。加えて、16種だった取り扱いブランド数は50種まで拡大。0.1%ほどだった基準外製品の買い取り発生率も、およそ0.02%まで下げることができた。これは、AACDから届く情報をTeachme Bizによって即時、配信できるようになり、基準外製品を見極めるスタッフの“真贋力”が強化されたからにほかならない。
評価制度の見直しにも寄与 「マニュアル」という枠を超えた効果
このような変革に際しては、まず情報共有の停滞、遅延の要因であった各店舗の紙マニュアルを回収。今後はTeachme Bizでマニュアル、最新情報の確認をするよう店舗に求めた。これはペーパーレス化の推進だけでなく、社内資料の紛失、情報漏えい対策といったリスクマネジメントにもつながった。導入から1年後には、「不明箇所が発生した際はTeachme Bizで情報をチェックする」というルーティンを確立できたという。
さらに最近では、配信したマニュアルから出題内容を作成する社内検定試験をスタート。受験対象者はハイブランド商品の査定に携わる専門社員で、検定に合格すれば等級により社内資格手当が付与され、給与に還元される制度も整えた。これによって深い専門知識を持つ社員を公正公平に評価できるようになっただけではなく、テスト勉強のため自然とTeachme Bizの閲覧率が向上。結果として、ツール定着による専門知識への深い理解、商品査定時のチェックポイント確認の習慣化が促進され、自律型人材の育成にもつながっている。
「現場の声」で新たな挑戦も 生まれた“余力”がもたらしたもの
ハイブランドグループメンバーは現在、業務効率化によって生まれたリソースを、これまで不十分だった店舗視察に充てている。「配信したマニュアルがどのように使われているか、店舗の実態、売り場状況、スタッフの対応力などを確認できる余力が生まれた。発信した情報が店舗に浸透しているか、あらゆる角度から見られるようになった」(今田氏)のは大きな変化だ。
現場の声を直接聞くことは、より効果的なマニュアル作成にも生きる。店舗スタッフからは、画像や文章が分かりにくいといった問題点の指摘から、「こういったマニュアルがあれば働きやすくなる」といった提案まで、本部メンバーにはない視点から意見をもらえるといい、マニュアルのブラッシュアップに役立つだけではなく、新しい研修を設計する際の参考にもなっている。実際に、現在はパートアルバイト向けにも研修機会を設けているほか、「今後は画像と文字だけではなく、動画を使ったマニュアルも拡充する」と今田氏。ハイブランド商品の取り扱い方、買い取った商品のクリーニングなど、画像と文字だけでは伝わりにくかったマニュアルを進化させることでサービスの付加価値を高め、ブックオフというブランド強化につなげる狙いだ。
Teachme Bizでアップデートを続けるブックオフ 今後の展望は?
現在のハイブランドグループは、Teachme Bizのさらなる活用のため、メンバーの操作スキルアップを課題としている。Teachme Bizを提供するスタディストの協力を得ながら、活用方法やアップデート内容の把握を最適化することでマニュアル配信に対応できる人員を増やし、より効果的な人材育成を進めていく考えだ。
また直近では、マニュアルをコース化し教育コンテンツとして利用できる「トレーニング機能」を活用したアイデアも浮かんだ。山田氏は「トレーニング機能を使えば、一人でマニュアルを見て学び、社内検定を受けて自身の知識量、理解度を確認できるようになるはず。それによって育成速度を加速させたい」と期待を込めて語る。
真贋の見極めという専門知識が求められる領域で、かつ全国スタッフを対象とした人材育成を見事、成功させたブックオフのリユース商品部 ハイブランドグループ。本来、手段であるはずのツール導入をゴールとしてしまう企業が少なくない中、デジタルシフトによりさまざまな成果を得たストーリーは、DXによる生産性向上の良例としても手本になる。さらなるアップデートに挑戦する同社に、今後も期待したい。