なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか?〜変革のリーダーを導き、対立を正しく扱う方法とは〜

公開日: 2024.03.22

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弊社スタディストが、経営者/リーダーの皆様向けに開催したオンラインイベント「なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか?」にて、バランスト・グロース・コンサルティング株式会社の取締役 西田徹さんに講演いただきました。

講演では、西田さんの著書である『組織が変われない3つの理由』をもとに、組織変革や組織内での対立の扱い方などについてお話しいただいています。

本記事では、西田さんの講演内容をサマリーとしてお届けします。

目次

組織開発と戦略構築は統合して考えなければいけない

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バランスト・グロース・コンサルティング 西田さん(以下、西田):簡単に自己紹介いたします。
キャリアとしては、まずリクルートに入社しました。当時、「組織開発」事業があった会社はリクルートぐらいで、最先端だったためです。リクルートでキャリアを積む中で、組織開発がいったん成功したのになぜか途中で元気がなくなってしまう現場がありました。そういった会社には何が足りないのか考えた結果、「経営戦略こそが処方箋だ」と考えました。

そこで、ボストン・コンサルティング・グループに転職し、経営戦略のコンサルティングを担当することになりました。しかしそこで、いかに戦略の重要性を提言しても実行に移してくれる企業は非常に少ないという現実に直面しました。無力感を抱くと同時に、私は組織開発と戦略構築は統合して考えなければいけないという結論に達しました。

その後、何度かの転職やプロセスワークとの出会いを経て、現職に至っています。
2023年12月27日には、新たな書籍『組織が変われない3つの理由』を出版しました。

変革を実現する戦略的組織開発とは?

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西田:今回は「なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか」というメインテーマとともに、関係の深いサブテーマである「メンバー間の対立」と「変革のリーダーシップ」について、計3本立てでお話しします。

まず、みなさんに質問です。
経営者、事業責任者、リーダーの方。みなさんは戦略を立てましたか?これにはほぼ100%の方がイエスとお答えになると思います。

続いて質問です。その戦略は、実行されましたか?過去にもこの質問をしてきましたが、「実行されましたか」の質問に対しては目を伏せる方が多いです。

みなさんが立てた戦略は、きっと良い戦略なのだと思います。では、良い戦略なのになぜ実行されないのでしょうか。
まずこの点を考えていきたいと思います。

戦略実行のヒント:コングルーエンスモデルとは

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西田:そのヒントとなるのが、1977年に作られた、組織開発と経営戦略を統合したコングルーエンスモデルです。
外部環境は常に変化し、それに合わせてビジョンや戦略も作り直さなければいけません。すると、より具体的な重点課題・組織構造/業務プロセス・組織文化・人材といった部品も、ビジョンや戦略に合うよう作り直す必要があります。これらがうまく作り直せるとアウトプットが出るというのが、コングルーエンスモデルです。

コングルーエンスという言葉は「一致している、足並みが揃っている」という意味です。
外部環境変化に足並みが揃った戦略と、打ち出された戦略に対して足並みが揃った4つの部品によって、結果が出るということになります。

外から「良い戦略」を与えた場合に起こる「インコングルーエンス」

西田:では、外部から良い戦略を与えるとどうなるのか。例えば、マッキンゼーさんや、御社の中の非常に優秀な経営企画部員に依頼してみます。するとその方々は、変化した外部環境にぴったり合う戦略を作ってくれます。

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西田:良い戦略ができたからこれで結果も出るんじゃないか、と思いたいところですが、なかなかそうもいきません。この状態では、組織文化や人材が取り残され、戦略が実行されないからです。
古い組織文化と新しい課題が合わない、あるいは、昔からの人材の能力と新しい業務プロセスが合わないといったインコングルーエンスが起きて、結果が出ないのです。

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西田:また、何度もブームが繰り返されている組織開発ですが、これをやることで仲の良いチームができてみんな元気になります。しかし、これだけでは業績・売上・利益になかなかつながりません。

多くの企業で、以前は仲良くできていた部署同士が今は対立している、という状況があります。これは、外部環境の変化に戦略が対応できていないため、組織にひずみが起きている状態です。外部環境の変化を無視して組織開発をおこなったとしても、根本の原因である戦略が何も変わっていないので、すぐにもとの状態に戻ってしまいます。

このあたりが、今回のメインテーマである「なぜ、あなたの会社で立てた『良い戦略』が実行されないのか」という問題の構造です。

戦略実行のポイントは「内発的動機づけを尊重」

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西田:インコングルーエンスを回避する方法を考えましょう。
図の左側は、外部から素晴らしい戦略を与えた場合です。先ほど見たとおり、現場の当事者意識が低いまま出来の良い戦略だけが来ても、戦略は実行されません。

では、どうすればいいのか。内発的動機づけを尊重するのです。
現場の当事者意識を高めていき、危機感が高まったら現場が自分で打ち手を考えるようにします。打ち手の出来の良さは低くても構いません。出来が60点の戦略でも、自分たちで作ったものなので実行に移されます。これがポイントです。

実行すると、戦略の良いところと悪いところが見えてきますから、改善していけばいい。自分たちで少しずつ改善するなかで、さらに当事者意識が高まっていきます。するとより良い打ち手ができ、当事者意識も高まり、成功にたどり着きます。

組織開発によってIBMをV字回復させたガースナー

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西田:「内発的動機づけ」を実践しているのが、IBMのルイス・ガースナーさんです。ご存知の方も多いと思いますが、超カリスマのプロ経営者です。ハーバード大学ビジネススクールを卒業、マッキンゼー出身。彼によるIBMのV字回復は有名です。倒産寸前だったIBMは、彼がCEOに就任し、IBMのタブーを破ってお客さま向けにオーダーメイドのソリューションを提供したことで、目覚ましく株価が上昇しています。

ここで、ガースナー本人の声を聞いてみたいと思います。

『私がIBMの経験で学んだ最も素晴らしいことをお話ししましょう。組織文化は、大企業を経営するための様々な要素の1つに過ぎないと、最初は思っていました。だって、そうですよね。マーケティング、ファイナンス、製造があります。そしてようやく組織文化のことを考え始めるのが普通です。でも違うのです。組織文化が全てなのです。』

西田:ガースナーが伝えたいことは「多くの人は、組織文化を、大企業を経営するさまざまな要素のひとつに過ぎないと思っているが、違います」ということ、「Culture is Everything。組織文化がすべてなのです」ということです。これを言えるからこそ、ガースナーは組織開発のカリスマでありプロなのです。

組織文化を直接変えるのではなく、「行動」から変えていく

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西田:みなさんも、自社の組織文化を良い方に変えたいとお考えでしょう。そこでよくある打ち手が、標語やハンドブックの作成です。これらはまったくの無駄ではありません。しかし、組織文化の理論をご理解いただくと、その考えも変わると思います。

まず、組織文化には自己増幅サイクルがあります。それは特に、組織がうまくいっているときほど起こります。

そして組織文化が強いと、特定の行動が強く奨励され、スタッフは無意識のうちにその行動を行うようになります。

その行動や組織文化が外部環境や戦略に合っていればパフォーマンスが出ます。売上や利益が上がり、お客さまも喜ぶ。すると無意識のうちに「うまくいっているじゃないか」「我々の暗黙の行動規範はすごいんだ」と、組織文化が増強されていきます。

しかし、組織文化が時代遅れになってしまった際は、どこかでサイクルを断ち切らなければいけません。その際に多いのが、新たな組織文化の標語を張り出したりハンドブックを配ったりすることです。しかし、残念ながらこれは理論的に効果がないとされています。

もちろん例外はあります。こういった打ち手が効果的なのは、組織文化を直接変えられる創業社長などが実行した場合のみです。例えば「スピード!スピード!スピード!」で有名な、楽天の三木谷 浩史さん。彼のように、楽天で働く方にとってカリスマとしか思えないような大物社長なら、組織文化を直接変えることはできると思います。ガースナーでさえそれはできなかったので、ガースナーは違うことをしました。

組織文化に直接アプローチするのではなく、多少強引でも社員の「行動」のほうを変えさせることで、組織文化を変えさせたのです。
社員の行動を変えさせた結果、より良いパフォーマンスが得られると、「暗黙の行動規範と違うことをやってみたら、かえってうまくいった」と組織文化が書き換わっていきます。

その代表例が、ガースナーの「白シャツ禁止令」です。
ガースナーは、社員に白いシャツやダークスーツを着ることを禁止しました。
それまでIBMでは、白いシャツとダークスーツの着用が常態化していました。過去にお客さまが白いシャツとダークスーツを着ていることが多かったため「顧客と同じ服装を」という思想からです。しかし、お客さまのファッションが変わった現代にも、IBMには白いシャツとダークスーツ着用という規則だけが残ってしまったのです。これでは本末転倒ですね。
なのでガースナーは「お客さまと同じような服を着る」という本来の意味で白シャツ禁止令を出したのです。

社員の服装(行動)を変えたことにより、組織文化が書き換わり、IBMは顧客重視の文化を取り戻すことができました。

組織文化が変わることで、経営戦略も変わる

西田:ガースナーが組織文化を変えたことで、経営戦略にも変化が現れます。
ここで登場するのが、IBMの子会社の社員であるデニー・ウェルシュです。IBM本社を主流派とするなら、ウェルシュは子会社の所属なので、非主流派の人なんですね。

ガースナーは著書『巨像も踊る』で、『運が大きく味方した、デニー・ウェルシュと会ったことだ』と綴っています。

ウェルシュは秀逸なアイデアを持っており、ガースナーの白シャツ禁止令で顧客重視の文化が取り戻された状況で、ようやく非主流派も声を大にできるようになったのです。

ガースナーが実行した、IBMのタブーを破り、他社の競合の製品も取り扱いメンテナンスもするという、大胆な戦略。実はこれを考えたのはガースナーではなくウェルシュです。

つまり、ガースナーが白シャツ禁止令によって組織文化を顧客ファーストに書き換えた。それによって非主流派の人物から、顧客ファーストにマッチした秀逸な戦略が出てきた。この戦略をガースナーが採用し、IBM全社戦略そのものになった、という流れです。

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西田:ガースナーが実行したIBMの改革を、もう一度先ほどの図解を照らし合わせて見てみましょう。
組織文化を変えることによって当事者意識を高めた、あるいはウェルシュのようなもともと当事者意識が高かった人が社内で声を上げられるようになった。そして、ウェルシュが自ら考えた戦略を実行し、実行していくなかでより精度の高い戦略へと持っていった、ということです。

組織内の対立を力に変える

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まったく異なる2種類のガチ対話

西田:次に、サブテーマとなる「対立を力を変えるには?」に入ります。
IBMの改革でウェルシュの戦略を実行する際にも、賛成派の人たちと反対派の人たちでものすごい対立が起きたことが想像できます。

身近な例を挙げると、営業部と製造部の対立がわかりやすいと思います。この対立をどうすれば組織の力に変えられるのでしょうか。

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西田:組織で起こるさまざまな対立で、大事なのは「ガチ対話をすること」です。ガチ対話には2種類あり、多くの場合は「自己防衛のためのガチ対話」から始まります。自分の弱みは楯で守ってさらさず、相手を理屈でへこませようという対話です。
そこから徐々に、「大切な思いを開示しあうガチ対話」へと移行していきます。自分の弱みもさらけ出して、ノーガードで本音をぶつけ合う。腹を割って話している状態です。

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西田:対立と対話について、氷山モデルも交えてご説明します。
商品の納期で例えると、製造部門は「納期が2週間はないと、ちゃんとした商品は製品は納入できない」と言い、営業部門は「ライバル社は1週間の納期でやっている。うちも1週間で納品できないとお客さんは買ってくれない」と言います。お互いに相容れない意見です。ここが氷山で表面上に見える意見です。

その氷山の下には、実はそれぞれの深いこだわりや価値観があります。製造は「原価率が大事なんだ」という価値観を持っているかもしれないし、営業は「原価率よりも売上のボリュームが大事だ」という価値観を持っているかもしれない。それぞれがお客さまに提供する「価値」について違った思いを持っているのです。
この価値観を理解するために、氷山の下にある自分の思いを相手に開示したり、相手の思いを理解したりする。これが「大切な思いを開示しあうガチ対話」です。

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西田:しかし、「大切な思いを開示しあうガチ対話」にたどり着くためには、まずはお互いに激しく相手を攻撃し合うところを通過しないといけません。いきなり「大切な思いを開示しあうガチ対話」に至る直接のルートは存在しないのです。
異なる意見は、まず対立しなければいけない。それも、折衷案や妥協案に落ち着くのではなく、しっかり対立しなければいけない。
なぜなら、「薪を燃やし尽くす」というプロセスが必要だからです。自分の大切にしていることや、相手に対する違和感をとことん出して、自分が主張したいことを伝えきることで、己の中のくすぶりが綺麗に燃え尽きた状態を作ります。そうすることで、相手の氷山の下を受け止められるようになり、「大切な思いを開示しあうガチ対話」が起こるのです。

対立を対話に変える技法、エンプティ・チェア

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西田:対立を対話に変えるための方法として、心理学の療法でも使われる「エンプティ・チェア」をご紹介します。エンプティ・チェアは、実在の人物が空っぽの椅子に座っていると仮定して、その人物に伝えたいことを伝えるという技法です。

仮に、製造部長Aさんと、営業部長Bさんがいるとします。AさんとBさんは、直接顔を合わせるといつも喧嘩になります。そこでAさんに、空っぽの椅子にBさんが座っていると仮定し、言いたいことをとことん言ってもらいます。

すると、営業部長Bさんに対して、多くの不満が飛び出します。先ほどの納期の例えでいうと、「納期が1週間は非現実的だよ、そんなことをして不良品のロットが出たら結局こちらの責任になるだろう、お前に責任が取れるのか」といった具合です。
実際にはBさんは不在なので、どれだけ厳しく問い詰めるようなことを言ってもBさんは傷つきません。なので、どんどん言ってもらいます。ここで大事なのは、Bさんに対する苛立ちを薪を燃やし尽くすまでぶつけることです。

とことん薪を燃やし尽くしたあとは、今度はAさんがBさんの椅子に座り、Bさんになりきってもらいます。これをロールスイッチと言います。「Bさんのつもり」ではなく、とことんBさんになりきってもらうのが大切です。すると不思議なことに、Bさんの置かれている立場や気持ちや情報を、Aさんがとたんに理解できるようになります。

Aさんも、営業部長のBさんがノルマや営業目標数字を持っているとか、手ごわいライバルと戦っているとか、最近売上が伸び悩んでいて社長も怒っているとか、そういったことは事前に知識としてわかっているはずです。けれども、普段Aさんはそんなことは意識していません。
それが、一旦薪を燃やし尽くした状態で営業部長の椅子に座った瞬間、普段Bさんが感じていることや考えが、本当に自分がBさんになったかのように理解できるという現象が起こるのです。Bさんの氷山の下を深く理解するという状況ですね。

ここで思いっきり営業部長のBさんの立場を味わったあと、最後にAさんにはもとの椅子に戻ってもらい、あらためて空っぽの席のBさんに話しかけます。すると、先ほどとは打って変わって「Bさん、すまなかった。営業部長の椅子に座るのがこれほどにも重責だとは知らなかった」と、心の底からの言葉が出ます。

ここでわかるとおり、大切なのは対立をして燃やし尽くすことです。
その結果、相手の氷山の下を受け止められるようになり、「大切な想いを開示したガチ対応」が起こるのです。

変革のためのリーダシップ

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西田:ここまで、変革を実現するための戦略的な組織開発や、対立を力に変えるお話をしました。最後に、変革を起こすための理想的なリーダーシップのあり方について解説します。

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西田:リーダーシップ理論のなかで、古典的かつ本質的といわれているのが、PM理論です。Pがパフォーマンス(目標達成行動)で、Mはメンテナンス(集団維持)です。これらの能力値の高低によってリーダーシップは4種類のタイプに分けられ、もっとも理想的なのは、図における右上のタイプです。

しかし、このPM理論が誕生したのは、昭和の高度成長期の時代です。その時代は「既存の手順をやり切ればいい」という考え方が前提にあったため、現代の理論にはそのまま当てはめられません。ここに加味すべきは、「変革」の要素です。

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西田:しかし、「既存の手順をやり切る」と「変革を起こす」は、相反する要素ですよね。ここで参考にしたいのが、組織開発や心理学を研究するロバート・キーガンが提唱した「成人の発達段階理論」です。

この理論では、人は大人になるにつれて、他者優先という知識を身に付けます。そしてステージ3の環境順応型知性では、環境に順応するために、他者に追随し外側の枠組みに合わせます。

成人がさらに発達すると、今度は自分の信念から導かれる知性を身につけるといわれています。これが、ステージ4の自己主導型知性です。自分なりの羅針盤を持ち、枠組みから自立していく。さらに成長すると、ステージ5の自己変容型知性となります。

先ほどのPM理論でお話しした「既存の手順をやりきる」のは環境順応型知性に相当します。そして、「変革を起こす」のが自己主導型知性です。そのため今回は、ステージ3の環境順応型姿勢と、ステージ4の自己主導型知性に焦点を当てます。

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西田:環境順応型知性と自己主導型知性を、リーダーシップサークルと合わせて考えてみます。サークルの下半分が、既存の手順をやり切る環境順応型の姿勢で、上半分が、変革を起こす自己主導型の姿勢です。

既存の手順をやり切るにはどうしても完璧主義的なリーダーシップが必要となり、マイクロマネジメントやパワハラ的になってしまいがちです。
しかし、変革を起こすには、戦略的に考えて決断していくというリーダーシップが必要になります。

人との関係性についても同じです。既存の手順をやり切るには、受身・帰属・保守的であることで、むしろうまくいく傾向にあります。しかし、変革を起こすための関係性を作るには、チームプレーやメンタリングが重要で、ともに働くという意識が必要です。

質疑応答

Q.頭に血が上った状態での対立が起きている場合、最初に取れるアクションはどのようなものがありますか。

A.頭に血が上った状態の対立は、決して悪いことではなく、腹を割った対立に進むためのステップと捉えていただければと思います。取れるアクションとして一番いいのは、もし外部ファシリテーターの方がいらっしゃれば、エンプティ・チェアをおこなっていただくことです。外部ファシリテーターがいない場合は、試しに人事の方がファシリテーターをやってみてもいいかもしれません。

Q.プロセスワークをまず自社でやろうとしたときに、コーチ役としてどのような人選が適任でしょうか。

A.理想としては、プロセスワークコーチングを学んだ人がいいです。次に、システムコーチングのORSC(オルスク)のプログラムを卒業された方は、プロセスワークを理解しているので安心して依頼できます。なお、私の会社にご依頼いただいた場合は、プロセスワークコーチングの専門家が担当いたします。

ただ、社内にこのような専門家がいなくても、やってみる価値はあると思います。専門知識がない人がコーチ役をおこなっても、すべてのケースで劇的な効果があるとはいえませんが、いくつかのペアは気づきを得られることがあります。
エンプティ・チェアの質を高めるためには、『エンプティチェア・テクニック入門』という書籍を読んだり、プロセスワークの源流となるゲシュタルト療法というカウンセリングについて調べてみたりするのがおすすめです。

Q.自社の組織には、否定から入る文化があります。切実な悩みとして変化を起こしたいのですが、文化を変えるための第一歩のアドバイスをいただけないでしょうか。

A.否定から入る文化を作り出している方は、おそらく社長や常務ではないでしょうか。一番いいのは、そういった文化を作り出しているキーパーソンたちに、リーダーシップサーベイなどを受けていただくことです。が、なかなか難しいですよね。

キーパーソンから変えていくのが難しい場合は、中間から地道に文化を変えていく方法を取っていきましょう。とある企業では、まさに社長や常務が否定から入るパワハラの方でした。その方々の首に鈴をつけることはできないので、代わりに新任管理職研修では、必ずリーダーシップサーベイを受けてもらうようにしています。
否定から入る方は、リーダーシップサークルでいうところの「操作完璧主義」が突出します。社内で否定の文化が再生産されないようにするために、これからリーダーになる新任管理職に、研修の時点で気づき、良い方向に矯正してもらうのが狙いです。

Q.エンプティ・チェアについて、相手の状況を想像してもそんなにすぐに受け入れられるものでしょうか。歩み寄りはできても、すぐに譲れない部分があるかと思います。

A.相手の状況を、知識としては知っていても、自分の価値観が邪魔をして目を逸らしてしまうという状況があると思います。思いっきり言い尽くして薪を燃やし尽くすと、自分の固定概念や決めつけがニュートラルなり、目を逸らしていた情報も入ってくるようになります。そして、相手になりきった結果「この椅子に座っていたくない、向かいの相手(自分自身)は本当にひどいやつだ」と思うようになるのです。

わかりやすく怒りの感情で例えていますが、実際、怒りよりも悲しみや苦しみが表出することが多いようです。相手が自分のせいで悲しんだり苦しんだりしている様子がよくわかり、「自分はなんてひどいやつなんだ、変えていかなきゃ」と思えるようになれば、対話が一歩も二歩も進んでいきますよ。

対人関係ですから、自分が変われば相手も一緒にいい方に変わってくれる。エンプティ・チェアは、そういう理屈のワークです。ぜひ一度、体験してみてください。

まとめ

狭義の組織開発ではなく、成果が出る組織に変えていくためのリーダーのあり方や、対立を力に変える方法について、詳しく解説いただきました。今回の内容が、みなさまの次のアクションに繋がることを願っております。

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