障害者雇用とは?課題と解決方法、障害者差別解消法に合わせた合理的配慮も紹介

最終更新日: 2024.01.30 公開日: 2023.12.06

障害者雇用とは?課題や解決方法を紹介

多様性のある共生社会を実現するためには、障害者雇用によって誰もが活躍できる場を提供することが重要です。本記事では、障害者雇用制度の概要や法律、企業が障害者を雇用する際の課題と解決方法、活用できる助成金などについて解説します。

障害者雇用について概説

障害者雇用とは、民間企業や自治体などが障害のある人だけを対象とした特別枠で障害者を雇用する制度のことです。障害者が能力を活かして社会で活躍できる環境を作るために設けられた制度で、一般雇用とはそもそも目的が異なります。そのため、障害者を雇用することは企業や自治体が果たすべき社会的責任として認識されており、従業員が一定数以上の規模にある事業主は、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用しなくてはなりません。

障害者雇用の対象者

障害者雇用の対象となるのは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)の3つです。

  • 身体障害者:身体障害者手帳1~6級に該当もしくは7級の障害が2つ以上重複する人
  • 知的障害者:児童相談所などで知的障害と判定されている人
  • 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人

また、障害者雇用は原則として「障害者手帳」の保有が条件となります。

合理的配慮は障害者雇用における義務

合理的配慮とは、障害のある人が社会生活を送る上で直面する障壁を取り除くために、一人ひとりに応じた周囲のサポートや環境整備を行うことです。障害の有無に関わらず、誰もが社会参加できる「共生社会」を実現するために欠かせないものであり、障害者雇用において非常に重要な考え方です。

合理的という表現には、事業者と障害者のどちらか一方の事情だけに配慮するのではなく、「双方が納得する方法を検討する」という意味合いがあります。例えば、「視覚障害者との契約締結時には書類内容の読み上げを行う」「聴覚障害者との面接では手話によるフォローを行う」といった対応が企業による合理的配慮の事例として挙げられます。

2016年の障害者雇用促進法の改正で、民間企業には合理的配慮が「努力義務」とされていました。しかし2024年に施行される改正障害者差別解消法によって、合理的配慮の「努力義務」が「法的義務」に変わります。

合理的配慮の提供例:
筆談や手話、文字起こしツールを導入するなど、意思疎通の配慮を行う
短時間勤務やフレックスタイム、リモートワークを導入し、柔軟な働き方を認める
業務手順や方法は明確にマニュアルにまとめ、スムーズに業務を進めてもらう
スロープの設置や、座席位置の変更など物理的な環境調整を行う

不当な差別的取扱いの具体例:
障害者に対してのみ特定の資格があること等を応募要件とする
障害があるからという理由だけで、低い賃金を設定する・賞与を支給しない
能力に基づくことなく、障害を理由に特定の業務を割り当てる
人事評価制度に基づき昇進基準を満たす場合でも、障害がある理由で昇進対象としない

参考: 合理的配慮の参考事例集(内閣府)

障害者雇用促進法で定められる法定雇用率

障害者雇用促進法により、一定数以上の従業員を抱える事業主には、法定雇用率以上の障害者雇用が義務付けられています。2023年度現在、民間企業の法定障害者雇用率は2.3%です。そのため、43.5人以上の従業員を雇用している事業者は、障害者を1人以上雇用する必要があります。さらに、法定雇用率は今後段階的に引き上げられ、2024年4月には2.5%、2026年4月には2.7%に変更されます。

年度 法定雇用率
2023年度 2.3%
2024年度 2.5%
2025年度 2.5%
2026年度 2.7%

法定雇用率を達成していない事業主に対しては、ハローワークから行政指導が行われるほか、従業員数100人超の未達成企業からは障害者雇用納付金が徴収されます。それにもかかわらず雇用率が改善されない場合、企業名が公表される罰則規定が適用されます。

ただし、障害者を雇用するには、作業施設や設備の改善、環境整備、安全確保などが必要であり、企業側に経済的負担がかかります。そのため、法定雇用率未達成の企業から徴収された納付金は、法定雇用率を達成している企業の経済的負担を軽減するための調整金や報奨金として支給される仕組みとなっています。

企業が障害者雇用を行うべき理由

企業が障害者を雇用することは、法的義務を果たすという側面だけでなく、業務効率化や人手不足の解消にもつながります。

多様な人材の確保と人材不足の解消につながる

少子高齢化によって生産年齢人口が減少し、さまざまな業界が深刻な人材難に陥る中、人手不足の解消法の一つとして注目されているのが障害者雇用です。障害の特性を理解し、それに配慮した適切な人員配置を行えば、企業にとって大きな戦力となります。

現在は、IoTやコミュニケーションツールといった技術の進歩により、障害者が担える業務の幅が拡大しています。また、テレワークや時短など働き方の選択肢も増えているため、障害者はより自分に合った条件で働きやすく、活躍の可能性が高まっています。障害者としても自分に合った仕事に就くことで長く安定して働き続けられるため、不足する労働力を補うと同時に共生社会の実現にも近づきます。

組織全体の効率化を図れるきっかけになる

障害者が働きやすい職場環境を整備することにより、業務の最適化や効率化のきっかけとなり、組織全体の効率化につながります。

障害者雇用のポジションを創出するには、既存の業務から障害者が対応できる業務を切り分ける必要があります。障害のある人が従事できる業務は、一般的に難易度が低く、複雑な判断や意思決定が必要ないこと、一度覚えれば繰り返し行えることなどが特徴で、典型的な定型業務などが該当します。

また、切り出した業務を障害者が取り組みやすい状態に整備するためには、さまざまな業務を作業単位に分解し、プロセスを可視化する必要があります。この過程ですべての業務を見直すことが必要となり、潜在的な現場の問題も浮かび上がります。その結果、マニュアルや業務フローの整備が促進され、これまで後回しにされていた業務効率化が進み、生産性の向上が期待できます。

社会的責任を果たし、ダイバーシティを推進できる

近年、企業経営においては「ダイバーシティ推進」や「社会課題解決」という視点がますます注目されています。企業が障害者を雇用することで、誰もが活躍できる場を提供する意味では、社会貢献につながり、CSR(社会的責任)を果たすことができます。CSRとはCorporate Social Responsibilityの略語で、企業活動のプロセスに多様性や人権への配慮などを組み込んでいく考え方のことです。企業は自社の利益拡大を目指すだけでなく、企業活動に関わるすべてのステークホルダーを視野に入れ、より良い社会を作っていく責任があります。

さらに、障害の有無にかかわらず、多様な人材を活用することは、それだけ幅広い価値を生み出すことができます。それにより、ビジネス環境の変化に柔軟に対応でき、より多様な視点からイノベーションを生み出すことができます。

障害者雇用のよくある課題

障害といっても身体障害や知的障害、精神障害など、さまざまな種類があり、同じ障害でもその程度には個人差があります。そのため、障害者雇用にあたってはそれぞれの障害特性に応じた設備投資が必要です。

また、障害のある人は対応可能な業務範囲が限定的であるため、一人ひとりの障害特性や能力に合わせてできることを判断しなければなりません。本人の希望を聞いて話し合いをするなど、周囲の理解と細やかな配慮が求められます。

障害者雇用の課題を克服する方法

障害者雇用を推進するには、コストや社内の体制整備といった課題を克服する必要があります。ここでは、障害者雇用を成功させ、障害者に企業の戦力として活躍してもらうために企業が取り組むべきことを解説します。

助成金や支援制度の活用

障害者を雇用するにあたっては、施設や設備のメンテナンス、支援機器の導入、雇用管理などを行う必要があり、多くのコストが生じます。そこで、企業のコスト負担を軽減するため、障害者雇用に取り組む企業に対しては助成金や税制上の優遇制度が設けられています。障害者を受け入れるための設備投資は助成金を活用して補うことが可能です。

利用可能な助成金には、以下のようなものがあります。

    • 障害者を雇用した場合:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース、発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)、トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース)
    • 施設の整備や適切な雇用管理のための措置を行った場合:障害者雇用納付金制度に基づく助成
    • 障害者の職業能力開発訓練を行った場合:人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)
    • 障害者が職場に定着するための措置を行った場合:キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)

    >>出典:厚生労働省「障害者を雇い入れた場合などの助成」

    また、厚生労働省が管轄する助成金以外にも、各自治体が提供する補助金制度が存在することがあるため、それぞれの自治体の情報を確認してみてください。助成金を活用して職場環境を整備することは、障害のある人だけでなく、すべての従業員の働きやすさにつながる可能性があるため、積極的に利用することをおすすめします。

    社内理解の形成

    障害者を雇用して働いてもらう上では、周囲の理解と協力が必要不可欠です。社内の受け入れ体制が整っていない状況では、従業員からの反発が予想されるほか、本人が働きにくさを感じてしまい、長期的な定着が見込めません。社内理解を形成するためには、障害者雇用を行い、合理的配慮を実施する旨の強いメッセージを経営層が発信する必要があります。また、研修を実施するなどして障害者への配慮事項を周知することも重要です。

    サポート体制の構築

    社内理解の形成に続いて、障害のある従業員へのサポート体制も整備しましょう。職場環境のバリアフリー化や障害特性に応じたツールの導入といったハード面の支援だけでなく、障害者が他の従業員と良好な人間関係を築けるよう、ソフト面でのフォローも必要です。本人の障害特性について事前に職場単位で共有するほか、上司は障害者本人と周囲の従業員に定期的に状況の聞き取りを行い、問題があればその都度解決策を講じることが大切です。

    障害者の活躍できる業務の洗い出し

    応募してきた障害者が担当できる作業を選別するためには、あらかじめ現状での社内業務を精査しておく必要があります。業務プロセスや各作業にかかる時間、必要なスキルなどを整理しておきましょう。業務の選別には一定の手間と時間がかかりますが、障害者に任せられる業務が増えれば既存の従業員の負担軽減につながります。

    業務内容の把握と問題点の洗い出しなどをはじめとする「業務効率化」のプロセスについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
    業務効率化のアイデア10選 進め方と成功のポイントを解説

    障害者が理解しやすいマニュアルの作成

    障害のある人は、複雑な理解や状況判断が難しい場合があります。そのため、わかりやすいマニュアルの作成は、仕事内容を早く覚えてもらうためにも、ミスを防ぐためにも重要です。マニュアルを整備することで、障害者も企業の戦力になります。

    マニュアルを作成する際は、文章を簡潔にまとめ、障害者にとってわかりやすい表現を心がけましょう。また、ステップ構造や文字の色分け、写真や図の利用などの工夫が効果的です。
    マニュアル作成について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてみてください。
    マニュアル作成のコツ|作成方法・手順5ステップと運用ポイントをまとめました

    障害者雇用の課題解決に「Teachme Biz」を活用した事例

    「Teachme Biz」は、テンプレートを使って、わかりやすいマニュアルが簡単に作成できるツールです。ここからは、障害者雇用の課題解決にTeachme Bizを活用した企業の事例を紹介します。

    株式会社ヤマコー様

    プラスチックダンボールの加工・販売を行う株式会社ヤマコーは、2019年に「障がい者雇用優良事業所(JEED)」として全国表彰を受けました。現在多数の障害者が在籍していますが、製造現場における手順確認や注意事項の確認にTeachme Bizを活用しているそうです。手の動かし方や姿勢などを動画でわかりやすく説明し、誰もが同じように加工機を扱えるようにしたことで、障がいのある従業員も戦力になっているといいます。

    実績10万社の取引を支える
    業務の平準化・属人化解消へ
    株式会社ヤマコー様

    日本航空株式会社様

    日本航空株式会社では、Teachme Bizの導入により、動画を用いた視覚的なマニュアルの作成が可能になったことで、聴覚障害者がより専門性の高い業務を担えるようになったそうです。以前は、画像と文字で作成した資料をもとに筆談で社員教育を行っていましたが、Teachme Bizを活用してビジュアルメインで業務伝達を行うことで、聴覚障害者でも作業イメージが湧きやすくなったといいます。

    遠隔で新システムの構築をスムーズに
    障がいのある社員の活躍にも貢献
    日本航空株式会社様

    障害者の受け入れに「Teachme Biz」がおすすめ!

    前述したように、障害者を雇用するために事前準備しておきたいのが、業務マニュアルです。分かりやすいマニュアルがあれば、コミュニケーションに必要以上に悩むことなく研修や育成を進められます。

    障害者のみならず外国人など多様な人材をマニュアルで教育・研修をするなら、マニュアル作成・共有システム「Teachme Biz」がおすすめです。「Teachme Biz」では、画像、動画、テキストを活用したビジュアルベースのマニュアルを作成でき、文字だけのマニュアルよりわかりやすく明確に作業手順を定義できます。さらに、20言語以上に対応する自動翻訳機能が備わっているため、多国籍のスタッフがいる環境でも、誰もが理解しやすいマニュアルを作成・共有できます。

    まとめ

    本記事では、障害者雇用の概要や、法改正に伴って企業が行うべきことなどについて解説しました。企業や自治体などは法律によって障害者雇用が義務化されており、補助金や助成金による支援を受けとれる制度もあります。人材不足を解消する貴重な戦力としても、障害者雇用を検討してみてください。

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