VUCA(ブーカ)とは? 予測困難な時代に必要なフレームワークやスキル
現代は新型コロナウイルス感染症の流行をはじめ、将来の予測ができない時代です。この記事ではVUCA(ブーカ)の概要や注目される理由、VUCAを構成する要素などを解説します。VUCA時代に想定される事態をふまえ、企業・組織として求められる体制づくりやスキル、有用なフレームワークについても理解を深めましょう。
目次
VUCA(ブーカ)とは?
将来の予測ができない時代や世の中のことを「VUCA(ブーカ)」と呼びます。
VUCAとは、以下の4つの要素から頭文字を取った造語です。
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
VUCAの時代では、これまで長年築いてきた常識や慣習が通用しなくなり、さまざまなビジネスに変革が強いられ、社会が大きく変わります。
まずはVUCAを構成する要素について、具体的に内容をご紹介します。
Volatility(変動性)
「Volatility(変動性)」は、予測できない事象が発生し、急激に世の中が変化することといった意味があります。具体的には、新型コロナウイルス感染症の流行や、国家間の紛争などが例として挙げられるでしょう。
企業にとってもテレワークが一般化するなど、従業員の勤務環境は大きく様変わりしました。また、現在ではIT技術の進歩や、消費者の価値意識が多様化したことで市場の変化も早くなっています。
このような変化に対応していくには、社会全体を俯瞰し、流動性を先読みできるかどうかがポイントです。
Uncertainty(不確実性)
「Uncertainty(不確実性)」は、世の中にあふれる情報について、何が正しくて何が誤っているのかの判別が困難であることを指します。新型コロナウイルス感染症の対処法・治療法が確立できていない状況や、それにまつわるフェイクニュースの拡散なども、不確実性の例として挙げられます。
企業にとって、不確実性は今後の事業推進に大きな影響を与えるため、十分に注意が必要です。まんべんなく情報収集をしながら仮説を立て、検証し、物事の本質を見極めましょう。
Complexity(複雑性)
「Complexity(複雑性)」とは、影響を与える要素の数が多く、さらに絡み合うことで把握が困難となり、容易に解決できないことを指します。昨今は社会や消費者の価値観、行動が多様化しているため、あらゆる場所でさまざまな要素が複雑に絡み合っています。
特定の要素を見るだけでは問題を解決できないため、複雑性を考慮するのは困難かつ多大な労力がかかります。しかし、企業価値を高めるためには、アンテナを高めて積極的に情報収集し、課題の本質を見極め、的確な解決策を探っていくことが重要です。
Ambiguity(曖昧性)
「Ambiguity(曖昧性)」は、ある事象が複数の意味に捉えられ、どれが正解なのか分からないことを指します。近年は、SNSを通じて消費者が自由に意見や評価を発信できるようになり、テレビや雑誌などによる画一的なブームや価値観の形成は見られなくなりました。それに伴って消費者意識の多様化が進んだことで、需要に対し企業はどのような方針や施策を講じるのがベストかを判断するのが難しい状況にあります。
そのため、状況に応じて何を正解と捉えるべきか、的確に見定めることが求められます。消費者のニーズをより具体的に把握し、ビジネスへの活用を目指しましょう。
VUCAが注目される理由
VUCAは、1990年代以降にアメリカで生み出された軍事用語です。米軍がテロ組織と戦争を行うにあたり、それまでのノウハウでは対処しきれない新たな状況に対応するために、VUCAを前提とした戦略が用いられ始めました。
現代は戦場だけでなく市場においても、グローバル化や政治・金融への不安、IoTやAIといったテクノロジーの進歩など、企業を取り巻く環境は変化し続けています。消費者の価値観も変化しており、社会やビジネス、生活に大きな影響を与えています。
このダイナミックな動きに取り残されないためには、企業として情報分析を怠らず、効果的な戦略を立てる必要があります。そのため、予測困難な時代を示すVUCAの概念がビジネスにおいても取り入れられ、重視されています。
VUCA時代に予測される変化の例
VUCA時代には予測不能な事態が連続して起こるため、従来の考え方や方法で対応することは困難です。一方で、画期的な商品やサービスの創出につなげられるかもしれません。VUCA時代に起こり得る事態を理解し、ビジネスチャンスにつなげましょう。
1. これまでの常識が通用しなくなる
VUCAの時代では、これまで常識と考えられてきたビジネスモデルや慣習の多くが通用しなくなる可能性があります。不確実で曖昧、複雑に絡み合った状況を目の前にして、企業は「常識」であった慣習や過去の成功体験に固執することなく、新たな「非常識」を受け入れていくことが必要になるのです。また、目まぐるしく変化する社会や環境に合わせて、人や技術といった経営リソースの最適化を図り、時代に取り残されないようにする努力も求められるでしょう。
2. 革新的な商品やサービスが現れる
VUCAの要素は、ビジネスにとってマイナス面ばかりではありません。将来が予測できないからこそ、これまでなかったような商品・サービスの市場創出や、画期的なビジネスモデルを構築できるチャンスがあるのです。
例えば、以前は出前といえば、店舗の従業員が自社車両を使って注文者へ配達するのが一般的でした。しかし、現在では配達専門のサービスに登録しているアルバイトが自前の交通手段で配達し、手数料を得るといった新しいビジネスモデルが浸透しています。
時代の変化は今後もますます速度を増していくと見られ、それに合わせて新しく便利な商品やサービスが次々にリリースされるでしょう。このような新市場にいち早く参入できれば、失敗のリスクは否めないものの、高い優位性を得られる可能性があります。
3. 予測不能な事態が次々と起こる
現在は、多くの企業や人々にとって想定していない出来事が起きやすい状況にあります。世界的にはパンデミックの発生や国家間の争い、金融危機などが代表的です。国内に目を向けてみると、テレワークをはじめとした働き方の変化や、定年制度・年功序列制度の崩壊なども、新たな動きと捉えられます。消費者の価値観も多様化し、一律に満足度を高める施策は難しくなってきました。つまり、もはや過去の経験や勘だけで将来を予測することは困難な状況です。
企業や組織ができる対策としては、DXを進め、AIなどの最新テクノロジーも駆使しながら、予測の精度をできるだけ高めることが挙げられます。また事業においても、将来を予測し、状況に合わせてスモールステップで柔軟に修正できるように設計することが重要になるでしょう。
VUCA時代に必要な企業・組織のスキル
VUCA時代を乗り越えるには、企業・組織にさまざまなスキルが求められます。特に重要なのは、以下に示す柔軟性や思考力、情報収集のスキルです。
1. 変化に対応できる柔軟性
企業・組織には、さまざまな変化を柔軟に捉え、臨機応変に対応するスキルが必要です。
現代は予測困難な事態が次々に起こり、企業を取り巻く環境は刻々と変化しています。従来のやり方や経営方針に固執していると、時代の波に取り残されるかもしれません。
そのため、企業としては予測の精度を高めることやリスク低減などの対策は重要です。しかし、将来の予測が外れ、想定外の事態が生じることは珍しくありません。まずは焦らずに状況を受け入れ、今何が起きているのかを経験や勘ではなく、企業・組織が収集した客観的な事実やデータに基づいて分析し、正確に把握しましょう。そのうえで何をすべきなのかを考え、適切な意思決定を行わなければなりません。固定観念にとらわれず、企業として初めての取り組みや戦略も積極的に試してみましょう。
2. 課題解決のための思考力
企業の経営層や従業員には、課題を発見して解決するための思考力が必要です。予測できない事態が多発すれば、企業・組織はさまざまな問題に直面することになります。しかし、正解が分からない問題もあります。例えば新型コロナウイルス感染症など、これまでになかった問題については、過去のデータから解決方法を見つけるのは困難です。
解決のためには、収集した情報をもとに、個人、企業全体が対策を取る必要があります。その際に重要なのが原因を分析し仮説を立てる論理的な思考力、判断力です。課題に対して仮説を立てて検証し、新しい仮説に改善点を反映させましょう。このプロセスを繰り返して最善策を模索していくことは、たんに問題解決に役立つだけでなく、思考力を養うことにもつながります。
3. 情報収集のスキル
社会には市場の動向や消費者の関心など、あらゆる情報があふれています。企業は膨大な情報にアクセスすることで、より有益な施策を検討できます。今やインターネットで簡便に情報を得られる時代ですが、中には間違った情報もあります。そのため、正誤を正確に判断するスキルが大切です。
情報は鮮度も重要なので、最新の情報を収集し続ける必要もあります。収集した情報を精査し、分析することで適切な戦略を打ち出しましょう。VUCAの時代では、どの情報が課題解決の突破口につながるか予測できません。国内外に広く目を向けてアンテナを張ることで、小さな変化に気づきやすくなります。
VUCAの時代を生き抜く企業・組織の作り方
上述のスキルを身につけたうえで、さらにVUCAの時代を生き抜ける企業・組織をつくる必要があります。企業・組織として取り組むべきことについて、以下に示す3つの重要なポイントを押さえましょう。
1. リカレント教育を行える環境をつくる
近年、「リカレント(Recurrent)教育」と呼ばれる、社会人が学び直しをする動きが注目を浴びています。リカレント教育とは、大きく変化する社会や職場、生活に対応するため、高校や大学を卒業したあと、社会人になってもアンテナを高く持ち、日々アップデートされる情報を理解するために学ぶことです。
目まぐるしく変化するVUCA時代では、既存の情報にとらわれていては時代遅れになりかねません。また、これまで習得してきたスキルや知識だけでは解決できない課題も出てくるでしょう。
そのため、「勉強するのは最初のうちだけ」といった固定観念にとらわれず、企業は社員が必要と感じたときに、いつでも安心して学べる環境づくりを進める必要があるのです。
2. リーダー育成に力を入れる
VUCAの時代においては、未然に混乱を回避し、現場のチームを牽引できるリーダーの存在が不可欠です。リーダーはただ漫然と指示を上から下に伝えるだけでなく、目前の課題に対して迅速な状況把握を行うとともに、マネージャーや経営層へとタイムリーに共有することが求められます。
また、人材確保のためには雇用の多様化(ダイバーシティ)が求められています。実現のために、リーダーは性別や人種の異なるさまざまな個性を持った従業員と、その事情に対応できるスキルが必要です。それぞれが尊重し合えることがベストですが、ときにはチームワークがうまく回らないこともあるでしょう。そこで、各メンバーの力を最大限に活かすために、マネジメント能力に長けたリーダーを育成することも、VUCA時代の企業には求められるのです。
3. 判断から実行までの素早さの向上に力を入れる
常に変化し続ける市場では、意思決定や行動に時間をかけていると、競合他社にシェアを奪われかねません。そのため、市場全体や他社の動向を観察したり、仮説を構築したりする時間を極力削減することが重要です。いかに素早く意思決定し、すぐに実行に移せるか、といったスピードが鍵となるでしょう。
VUCAの時代は、状況を客観的に捉えたデータを素早く集めて可視化することで、的確かつ迅速な判断を行う必要があります。データ分析に長けた人材の育成に力を注ぎ、常にデータを意思決定へ活かせる環境を整えましょう。客観的なデータに基づいた意思決定は現場が理解しやすいため、実行に移すまでの時間が短く済みます。
4. フレームワークOODA(ウーダ)を使いこなす
上述の意思決定を行う方法として挙げられるのが、OODA(ウーダ)ループです。OODAループは、VUCA時代に役立つ思考のフレームワークとして注目されるようになりました。
OODAの特徴
OODAは、以下の4つの要素から頭文字をとった用語です。VUCAと同じく、元々は軍事用語でした。- Observe(観察)
- Orient(状況判断)
- Decide(意思決定)
- Act(行動)
Observe(観察)は、市場や消費者、他の企業の現状などを観察するプロセスです。観察といってもただ「見る」のでなく、主に情報収集を行います。自社事業の実態や人員数、業績といった内部的な情報のほか、同業他社や市場全体の動向、顧客行動、社会情勢などの外部的なものまで幅広く収集しましょう。
収集する際には固定観念や過去の経験にとらわれないよう、事実に基づいた生のデータのみを扱います。この時点で不確かな予測や個人の考えで情報を取捨選択していると、その後のプロセスに悪影響を及ぼしかねません。
Orient(状況判断)は収集した情報を分析し、現状を理解するプロセスです。情報をもとになんらかの事象が発生していることを見つけ、それがなぜ起きたかを仮説立て、状況を判断します。例として、高級路線の自社製品の販売数減少と、低価格な他社製品のシェア拡大が同時に起こっていた場合には、より安価な製品を求める方向への顧客心理の変化や、自社製品の付加価値が需要に合わなくなったことなどが考えられます。なるべく客観的な視点で状況を推測し、正確な意思決定に繋がる方向性を見いだすことが大切です。
Decide(意思決定)は、どのような行動をとるかを決定するプロセスです。状況判断で立てた仮説をもとに、具体的な目標を決め、そのために最適な行動を選びます。Orientで挙げた例に当てはめると、自社製品の販売数を増やすために値引きキャンペーンを行う、付加価値が需要に沿うよう製品仕様を見直すことなどが考えられます。また、発生した状況が一時的であると見なせる場合などでは、「何もしない」ことも選択肢のひとつです。
Act(行動)では、Decideで決めたプランを実行します。行動したあとには、再度Observeのプロセスを行い、行動によって生じた変化を見つけ出しましょう。特に変化が見られなかった場合にも、その施策では効果が得られなかったという事実が新たな状況判断や意思決定の材料となります。
このように4つのプロセスを繰り返し、望む結果を得られるまでループしましょう。
なお、プロセスのなかでは特にOrientの重要度が高く、「ビッグオー」とも呼ばれます。何度も繰り返すなかでOrientのプロセスをより正確にこなしていけるようになれば、不確実性や曖昧性といったVUCAの要素を低減できます。また、状況把握を迅速にすることで意思決定にかかる時間を削減でき、何度もループを回しやすくなります。
PDCAとの違い
OODAループと比較されやすいフレームワークとして、PDCAサイクルが挙げられます。PDCAは目標達成のためにPlan(計画)を立ててDo(実行)し、効果をCheck(評価)して、Action(改善)するサイクルを回します。OODAとPDCAは役割や目的が異なります。PDCAは中長期的な視点から業務改善を目指すものであるのに対し、OODAは適切な状況判断を行い短期で良い結果を目指すものです。またPDCAは一連のプロセスを終えるまでが1セットですが、OODAでは前のプロセスに戻る、プロセスを省略するなどが可能です。
PDCAサイクルはまず計画を立ててから実行に移すため、想定外の事態に対応できない場合があります。OODAはまず観察によって状況を把握することからはじめるため、柔軟な対応ができ、想定外の事態への対処に向いているという点が異なります。
VUCAの時代における人材育成は業務のマニュアル化が鍵
VUCAに対応した人材育成を始めるにあたって、何から手を付けてよいかわからないかもしれません。例えば、テレワークの導入で職場環境が大きく変化した企業では、従来のような集団かつ対面での研修や、オフィスでのOJT教育にはあまり効果は見込めません。
そこで、組織における人材育成に活用できるのが、「業務のマニュアル化」です。業務は以下のように分類できます。
- 経験や知識がモノをいう「感覚型」
- 一定のパターンから選択する「選択型」
- 誰でもできる「単純型」
「感覚型」は実際に手を動かし、業務の経験値を積み上げることでしかスキルを磨けません。一方で「選択型」や「単純型」は、基本的に業務マニュアルを作成し、共有することで飛躍的にスキルアップを望める領域です。さらに、業務の多くはこの2種類に当てはまります。
実際に、業務マニュアル作成・共有ができる、ビジュアルSOP(Standard Operating Procedures)プラットフォームの「Teachme Biz」が30社を対象に行った調査では、どのような業種でも86%はマニュアル化が可能という結果を示しています。
(参照:社内の86%の業務はマニュアル化できる! ~30社の業務を見てわかったこと~)
図やイラスト、動画などを盛り込めば、誰でも理解しやすいマニュアルを作成でき、効果的な人材育成が見込めます。その点、「Teachme Biz」では、独自のシステムでマニュアルを作成するとともに、クラウド上で即座に共有も可能です。現場でのトレーニング進捗状況を確認する分析機能も搭載されているため、一人ひとりに対してのきめ細かな育成も叶うでしょう。
まとめ
情勢の変化が激しく、不確実で複雑、曖昧な「VUCA時代」において、先の見通しを立てるのは困難です。そのため、変化に柔軟に対応し、課題解決できる企業・組織づくりを目指しましょう。そのためにはOODAループなどを活用しつつ、情報収集や人材育成に力を入れる必要があります。
組織づくりや人材育成には「業務のマニュアル化」が役立ちますが、重要なポイントは誰もが簡単に扱えるようにすることです。クラウド上でマニュアルを作成できるシステム「Teachme Biz」にはさまざまな機能が搭載されており、簡便に更新や情報共有ができます。この機会に、ぜひ導入を検討してみてください。