セールスイネーブルメントとは? 意味や役立つツールなど基礎を解説
営業力の強化は、多くの企業にとって真っ先に取り組むべき重要課題です。近年デジタルツールの利用拡大などを背景に、従来の人材育成とは異なるアプローチで組織全体の営業力強化を目指す「セールスイネーブルメント」という概念が注目されています。本記事では、セールスイネーブルメントの概要から関連ツールまで紹介します。
目次
セールスイネーブルメントの意味とは?
アメリカで始まった「セールスイネーブルメント(Sales Enablement)」とは、営業分野で成果を出すために、テクノロジーを駆使するなどの方法で営業組織全体を改善するしくみのことです。従来の人材育成が個人の資質を伸ばすことを目的としているのに対し、セールスイネーブルメントでは総合的な視点から継続的に成果を出せるチームの育成を目的としています。
今の時代は商談内容や電話での会話、メールで送信したURLのクリックなど、あらゆる情報をデータとして蓄積可能です。このような営業活動の履歴はデジタルツールを通して蓄積され、可視化されます。そしてセールスイネーブルメントでは、成約率が高い商談の特徴や好成績をあげる営業パーソンが行っていることといった、従来は個人の資質とみなされていた営業活動のノウハウなど顕在化されていないものも含めて蓄積・分析し、改善に役立てることで営業力強化を目指します。
セールスイネーブルメントの概念自体はそれほど新しいものではなく、すでに2000年以前から存在していました。しかし当時はそれを支えるテクノロジーが発達していなかったため、それほど社会の関心を集めませんでした。
しかし、2000年代以降になりMAやSFAツールが普及したことで状況は変わりました。顧客の行動やニーズなどがデジタルデータとして取得できるようになり、それを活用したデジタル変革の重要性が高まった2010年代になってから、セールスイネーブルメントは本格的に浸透しはじめました。
セールスイネーブルメントがなぜ今注目されているのか
2020年代に入り、ツールの提供や成功事例の紹介など、ビジネスシーンでセールスイネーブルメントについて耳にする機会が増えています。いま、業種・業界を問わず多くの企業がセールスイネーブルメントに注目している理由としては、以下の3つが挙げられます。
進化するマーケティング手法を活用しきれていない
ひとつめは、営業部門をはじめ組織全体で最新のデジタルマーケティングの手法を活用しきれていない点です。
2010年代に入るとスマホを起点とした消費者行動の変化やWebサイト・SNSを軸にしたマーケティング活動など、企業を取り巻く環境は大きく変化しました。デジタルマーケティングの進化は著しく、MAツールで顧客の行動を可視化してアプローチできたり、ビッグデータを活用して今まで見えなかったニーズを把握できたりなど、テクノロジーを活用したさまざまな手法が広がっています。
ただ、多様化したデバイスへの対応や膨大な量のデータ分析、AIの活用など、デジタルマーケティングの手法がより高度になった一方で、蓄積したデータを全社で横断して戦略的に活用する動きはそれほど活発化しませんでした。そのため、自社内で膨大なデータを蓄積しているにもかかわらず、営業部門はその資産を活用しきれていないことが課題となっています。
セールスイネーブルメントによってマーケティング部門と営業部門が連携してデータを活用する体制が整えば、より多くの効果が期待できます。そのため、課題解決の手段としてセールスイネーブルメントに注目が集まっています。
また、マーケティング部門と比べて営業部門では、テクノロジーを利用した自動化・効率化が進んでいない点も課題となっています。日本は、先進国のなかでも労働生産性の低さが指摘されています。人口が減少傾向にあり、働き手不足が社会的な問題になるなか、営業部門においても業務効率化は不可欠です。CRMのデータを自動集計する、自動で記録した情報をシステムに転記するなど、マーケティング用途で蓄積したデータを活用してノンコア業務を自動化することが可能です。この取り組みにより、営業パーソンが顧客対応に注力できる環境を整えられる点でも、セールスイネーブルメントに注目が集まっています。
営業活動の属人化が課題となっている
ふたつめは、営業活動の属人化が課題となっていることです。営業活動の良し悪しが営業パーソンの個人的な資質に依存してしまうことや、顧客との折衝内容が組織で共有されておらず、担当者本人にしかわからない状態を営業活動の属人化と呼びます。「A社の情報は担当者のBさんに聞かないとわからない」「このプロジェクトはCさんがほとんど担当しているので、彼がいなくなったら成り立たない」といった状態が該当します。
属人化は、多忙のため情報共有を行う時間がとれない、マニュアル作成にまで手が回らない、といった時間的な余裕がないために起こる場合や、情報を共有する体制が整っていないという組織的な問題から起こる場合があります。自分の優位性を失いたくないという理由で情報を抱え込んでしまう場合もあるでしょう。
特に営業部門は、早くからデジタル化による情報共有が進んだマーケティング部門と異なり、属人的な面が強い傾向にあります。営業活動はもちろん、新入社員の育成に際しても、先輩社員に同行して実際の商談の様子を見ながらノウハウを学ぶOJTが広く行われています。
しかし、組織として効率化・合理化を行うためには属人化の解消が欠かせません。CRM・SFAなど情報を一元管理する体制を整える、ツールの活用により情報共有を自動化するなど、テクノロジーの活用によりセールスイネーブルメントを実現することで課題解決が可能です。セールスイネーブルメントによって営業活動を数値化すれば、属人化した営業プロセスでも再現性を担保できます。
また、成績の良い営業パーソンの行動や知見を社内で共有するしくみを整えることで、属人化しがちなノウハウを組織全員で共有できるようになります。ノウハウの共有により新人育成期間の短縮や営業品質の向上、引継ぎ業務の効率化などが期待できます。
セールスイネーブルメントの市場規模が拡大している
セールスイネーブルメントが注目される背景として、最後に挙げられるのは関連する市場規模が拡大している点です。セールスイネーブルメントの市場は世界的に急拡大しており、リサーチ会社のMarketResearch.comが発表したレポートでは、セールスイネーブルメントプラットフォームの市場規模は2020年で13億ドル、2027年には45億ドルにまで急成長すると予測されています。
国内でも市場は順調に拡大しており、IT調査会社のITRの発表では、セールスイネーブルメントツール市場は2021年度で25億円、2022年度で31億円と予測されています。
出典:ITR「 ITR Market View:SFA/統合型マーケティング支援市場2019」
ITRの調査はセールスイネーブルメントツールに絞った予測のため、コンサルティングサービスなどの関連ビジネスは含まれていません。そのため、周辺ビジネスを含めるとさらに市場は大きくなると考えられます。スタートアップをはじめ新規企業の参入も増えており、この流れは今後も続くとみられています。
また、市場が拡大している要因のひとつとして、新型コロナウイルス感染症の拡大も影響しています。感染症対策としてリモートワークやオンライン商談が盛んになり、営業活動のデジタル化が進んだため、企業がセールスイネーブルメントに取り組みやすい環境が生まれています。
セールスイネーブルメントによる効果とは?
セールスイネーブルメントを推進することで、どのような効果が期待できるのでしょうか。代表的なメリットとしては以下の3つが挙げられます。
営業プロセスの標準化
契約前の顧客に対して営業活動を行い、契約に至るまでの工程を営業プロセスと呼びます。従来、「この顧客は成約する可能性が高い」「こうすると成功しやすい」といったものは、営業パーソンの経験や感覚に基づく部分が多くありました。そのため、営業プロセスは属人化しやすく、また明確に人に伝えることが困難でした。
セールスイネーブルメントを進めることで、営業活動に関連するデータに基づき、成功パターンなどを客観的に判断することが可能です。これにより営業プロセスを標準化でき、組織としての営業品質向上が期待できます。また、いままで隠れていた課題の発見や営業プロセスの最適化にも貢献します。
売れる営業マンの行動可視化
営業プロセスと営業パーソンが行った行動、そしてその結果を可視化することで、成功しやすいパターンを組織で共有できるようになります。パターンに基づき全員が仕組み化された内容を実施することで、より確度が高い営業活動を行えます。
たとえば成績が良い営業パーソンは、提案資料のなかに顧客の課題を解決する具体的な内容を含めている、成約に至るまで3回以上の商談を行っている、商談の中で特定の内容に触れているなど、セールスイネーブルメントによりこういった行動の可視化や共有がスムーズに行えます。また、営業内容の可視化は、課題の発見にもつながり、施策の成果把握や改善をするのにも有効です。
顧客ニーズの把握・管理
セールスイネーブルメントは、組織内に対する効果だけでなく、顧客に対する効果もあります。社会や顧客の価値観が多様化するなか、顧客ニーズを把握することが営業活動には不可欠です。デジタルツールを使い、インターネット行動履歴の蓄積やオンライン施策の効果測定などを行うことで、顧客が持つニーズを正確に把握できます。
セールスイネーブルメントにより、蓄積したデータを効率的に営業活動に活用できます。そのため、顧客ニーズの把握・管理をするには、マーケティング部門と営業部門の連携が肝心です。
企業でのセールスイネーブルメントの進め方
自社でセールスイネーブルメントを導入する際には、いくつかのステップを踏む必要があります。効果的にセールスイネーブルメントを進めるためにも、以下のプロセスを実施してみてください。
1. 営業データの蓄積・管理
セールスイネーブルメントを実現するためには、まず営業活動の現状を把握し、課題を明らかにすることが必要です。そのため、CRMやSFAといったツールを用いて営業データを蓄積するのが取り組みの第一歩です。蓄積するデータは、売上や受注額、商談の履歴などが挙げられます。それらデータに基づき、自社の目指すゴールを明確にしましょう。
また、IP電話やオンライン会議ツールでやりとりした内容も記録すれば、営業履歴として分析に活用できます。そのためにも自社にとって有用なツールを選定し、導入することが重要です。
2. セールスイネーブルメント部門の設置
セールスイネーブルメントは営業組織を強化するものですが、営業部門に限定した活動ではなく、人事部と連携した研修の実施や情報システム部門と協力してシステムを整備するなど、全社を横断した取り組みになります。そのため、全社を横断できるようセールスイネーブルメントを統括する部門を新設するのが望ましいでしょう。新部門には、分析を行う人員やプログラム開発を行う人員を配置します。
3. 育成プログラムの企画と実施
蓄積した営業データを分析し、営業力強化を実現するために必要な育成プログラムを開発・実施します。プログラムを作成する際は、高い成績をあげている営業パーソンが実施していることは何か、どのようなトークをしているか、提案資料にはどのようなことが書かれているかなどを、ノウハウとして蓄積し育成コンテンツとして社内で共有すると有効的です。
集合研修を実施するほか、マニュアルを作成したり、プレイブックと呼ばれる台本を作成したりして、誰でも同じ品質で、再現性のある営業活動が行えるようにします。また、プログラムを実施した後は、成果を評価し、次につなげていくことが大切です。
セールスイネーブルメントを実現するポイント
セールスイネーブルメントを実現するためには、いくつか注意すべきポイントがあります。以下に紹介する3つのポイントを理解し、効果的なセールスイネーブルメントを実現しましょう。
企業や営業担当が抱える課題を優先する
セールスイネーブルメントは営業力全体を押し上げる取り組みであり、その対象は非常に幅広いものです。そのため、何から始めてよいか戸惑うこともあるでしょう。
より実行的なものにするためには、自社が抱える課題に対して優先度をつけて、高いものから取り組んでいくことがポイントです。特に営業担当が感じている不安要素を理解した上で、課題解決を実施していくとよいでしょう。
連携部署を巻き込んだ全体最適化をする
セールスイネーブルメントは、全社横断的な取り組みです。そのため営業部門のみならず、マーケティング部門や人事部門、カスタマーサポートなど、営業活動に関わる部門を巻き込んで行うことが必要です。コミュニケーションを密にとり、関連する部署すべてを対象とする意識が重要となります。
ツール活用によるセールステックを意識する
セールステックとは、CRMやSFAツール、MAツールなどのITツールを活用して、営業(セールス)を効率化する手法です。セールスイネーブルメントを実現するためには、セールステックによるデータ蓄積・分析・活用が不可欠です。
各ツールの具体的な内容は、次の項目にて詳述します。
セールスイネーブルメント実現に役立つツール
セールスイネーブルメントを実現するためには、ITツールを活用した顧客情報の共有や営業情報の可視化が不可欠です。セールステックを実施するために用いられる、代表的なツールとしてはCRMツールとSFAツールが挙げられます。
CRMツール
CRM(Customer Relationship Management)ツールとは、顧客属性や契約情報、コンタクトした履歴など、営業関連のデータを保存するシステムです。顧客に関連した情報を一元管理することで、顧客との関係を良好に保ち、満足度を向上させます。蓄積したデータは問い合わせなどの顧客対応に用いられるほか、分析してマーケティングや営業活動に利用できます。
SFAツール
SFA(Sales Force Automation)ツールとは、営業パーソンが行った営業活動の履歴を商談開始から成約(失敗)まで記録するシステムです。一連の履歴を蓄積することで営業活動が可視化され、情報共有や営業担当者同士の連携が可能になります。また、見積書作成やスケジュール管理などの機能を備えており、それらを自動化することで営業活動の効率化を実現します。
セールスイネーブルメントを学ぶのにおすすめの本
セールスイネーブルメントは聞き慣れない概念であるため、理解が難しいと感じる方も少なくないでしょう。そこでもっと深掘りするためにも、セールスイネーブルメントについて書かれた書籍で学ぶことは有効です。
セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方
まだ情報が少ないセールスイネーブルメント領域において、引用されることも多い書籍です。実際に企業のセールスイネーブルメント推進に携わった山下貴宏氏が執筆しています。基本的な概念をはじめ、導入手順や国内有名企業での取り組み事例も取り上げられています。
なお、同書では、セールスイネーブルメントは「成果を出す営業パーソンを輩出し続ける人材育成の仕組み」と定義されています。
営業力を強化する世界最新のプラットフォーム セールス・イネーブルメント
米国に本社を持つ世界最大級の営業系コンサルティンググループで、CEOとして活躍したバイロン・マシューズ氏を中心に執筆された書籍です。組織で携わった事例を解説しながら、セールスイネーブルメント実現に向けた取り組みを解説しています。実践的な内容となっており、導入を検討している企業におすすめです。
セールスイネーブルメント定着に向けた社内研修に「Teachme Biz」
「Teachme Biz」は、組織にとって不可欠なマニュアル作成をサポートし、社内で共有しやすくするためのサービスです。用意されたテンプレートに沿って画像やテキストを入れるだけで、ステップ化されたマニュアルが完成するので作成する手間を大きく削減できます。
また、マニュアルを活用しやすいようキーワード検索機能やタスク配信機能も備えており、使い勝手が良いのも特徴です。Teachme Bizを活用すれば、セールスイネーブルメントを推進するにあたって必要になる、マニュアル作成や社内共有の手間を軽減できます。
まとめ
セールスイネーブルメントとは、テクノロジーを活用し、組織的に営業力を強化する取り組みです。顧客ニーズの変化やオンライン営業の増加などビジネスを取り巻く環境が変わるなかで、企業も変化に対応するしくみを整えることが不可欠です。本記事を参考に、セールスイネーブルメントを実現する取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
営業力の強化は、多くの企業にとって真っ先に取り組むべき重要課題です。近年デジタルツールの利用拡大などを背景に、従来の人材育成とは異なるアプローチで組織全体の営業力強化を目指す「セールスイネーブルメント」という概念が注目されています。本記事では、セールスイネーブルメントの概要から関連ツールまで紹介します。