製造業がDX化を成功させるには?成功事例や課題解決の具体策
コロナ禍、半導体不足、原油価格の高騰など、日本の製造業はいま激しい逆風に晒されています。この難局を乗り切るための鍵と目されているのがDX化に取り組むことです。そこで本記事では製造業におけるDX化の重要性や進め方、実際の成功事例などについてわかりやすく解説します。
目次
製造業のDXとは
そもそも製造業のDXとは何を意味するのでしょうか。
元々、DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)という概念を最初に提唱したのは、2004年当時、スウェーデンでウメオ大学の教授を務めていたエリック・ストルターマン氏だとされています。この時期にストルターマン氏が提唱した段階だと、DXの概念は「デジタル技術によって人々の生活により良い影響を与えること」という程度の緩いものでした。
しかしその後、DXという言葉はさまざまな識者によって解釈を加えられていきました。日本でも経済産業省が「デジタルガバナンスコード2.0」という資料において、以下のようにDXを定義しています。
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- 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
日本の経済界においてDXといえば、まずは経済産業省によるこの定義が挙げられるのが基本です。DXはさまざまな業界において取り組まれており、その業界の名を頭に冠して「〇〇DX」と呼ばれることがあります。「製造業のDX」または「製造業DX」もその一種です。先の経済産業省の定義に則せば、製造業DXとは、製造業における「製品・サービスやビジネスモデルの変革と、業務・プロセス・企業文化といった企業活動の変革」を意味することになります。
なぜ製造業にDXが必要なのか
製造業においてDXが必要とされている理由としては、急激に変転する社会情勢の影響が挙げられます。
コロナ禍をはじめとするさまざまな要因によって、現在の製造業は非常に不確実性が高まっています。半導体の不足や、ウクライナ情勢の影響を受けて原油価格が高騰したことによるエネルギー問題などもそのひとつです。こうした大きな社会情勢の変化は、各製造業者の事業運営にも大きな影響を与えるものですが、事前にその発生を予測することは容易ではありません。
そのため、経済産業省は、いまの製造業は目の前の環境変化にいち早く適応する自己変革能力 (ダイナミック・ケイパビリティ)の強化が重要であると指摘しています。そして、このダイナミック・ケイパビリティを強化するための手段として有望視されているのがDXです。
参照元:経済産業省 2022年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)「第2節 サプライチェーンの強靭化に向けた取組」
製造業は日本経済を支える重要産業のひとつであり、日本全体で国際競争力を維持していく上でも、製造業におけるDX化の推進は非常に重要です。そのため、経済産業省はDX化を推進する企業を各種の支援制度で積極的に援助したり、デジタル人材の育成に力を入れたりしています。
このような状況下で、DX化に成功した企業とそうでない企業とでは、今後の事業存続を支える自力に大きな違いが出てくると予想されます。いまの製造業でDXが重要視されている俯瞰的な理由は、以上の通りです。
製造業がDXに取り組むメリット
「DXは、ダイナミック・ケイパビリティの強化に役立つ」と言われても、いまいち具体的なイメージが湧かない人も多いかもしれません。そこで以下では、製造業がDX化を推進することで得られる具体的なメリットを紹介します。
人に代わる新たな働き手として活用
AIやロボット技術などを活用することで、これまで人が手作業で行っていた業務を自動化・省人化できます。今のAIは非常に進化しており、一部の領域においては人間を上回る能力を発揮するほどになりました。加えてAIやロボットは、人間と違って疲れませんし、怪我などを心配する必要もありません。
そのため、AI技術やロボット技術などを活用して業務を積極的に機械化していくことで、作業品質の安定やコストの削減などが期待できます。また、機械が一部の作業を代替してくれる分、人間の従業員には余裕が生まれるので、より生産的な仕事に集中しやすくなります。実際、経済産業省の「2022年版 ものづくり白書」によれば、デジタル技術を活用したものづくり企業の5割以上が、生産性の向上に効果があったと回答しているとのことです。
参照元:経済産業省「2022年版 ものづくり白書(令和3年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要案」
情報の見える化による全体最適化
IoT化を通して工場における製造工程をデータ化および見える化することで、全体最適化を図れるのも大きなメリットです。IoT(Internet of Things)とはモノにインターネット接続機能を搭載し、データ収集をしたり、各種IoT機器の一元管理をしたりできる技術を意味します。
こうしたIoT技術などを活用して、作業プロセス全体の最適化を実現できるように設計された工場は「スマートファクトリー」と呼ばれ、次代の製造業の目指すべき姿として注目されています。製造現場のスマート化に取り組み、IoTで収集したデータなどを基に製造工程を分析していくことで、これまで見過ごされてきた「ムリ・ムダ・ムラ」といった問題の効果的な改善が可能です。
新しい価値の創出
新しい価値の創出が起こりやすい企業風土を醸成していけるのもDXに取り組むメリットです。先述のように、DX化を促進すれば人間は単純作業から解放され、より創造的な仕事に従事できます。また、さまざまなデータの分析を通して、絶えず問題の発見・改善のサイクルを回していくことで、既存製品の改善はもとより、新しい製品・サービスの開発もしやすくなります。
たとえば、自社内の課題解決のために開発したシステムが、他社にとっても魅力あるソリューションになっていたということもあるかもしれません。このように、DX化を推進することでイノベーションが起こりやすい環境を作り、自社の課題や社会課題の解決に寄与できます。
製造業がDXに取り組む際の課題
コロナ禍の影響で製造業界において加速したDXですが、その際に解決すべき課題も多いのが現状です。以下では、製造業がDXに取り組む際に克服すべき主な課題について解説します。
人材確保・育成の促進
「2022年版 ものづくり白書」によると、製造業の就業者数はこの20年間ほどのあいだに約157万人も減少しており、全産業に占める就業者数の割合も減少傾向にあります。いまや日本の製造業では、後進を指導する人材も、育成対象となる若年労働者も不足しているのが実情です。こうした状況を受けて、政府は人材育成の促進に向けた支援を新たな課題として挙げています。
人手不足なのは、DX化推進に必要なIT人材についても同様です。IT人材は現在、社会的に不足しており、外部から優秀な人材を引っ張ってくるのは容易ではありません。そのため、製造業では外部からIT人材を確保することに努めると同時に、自社の既存人材に対してデジタル教育を施して育成していくことが求められます。この育成システムが確立すれば、将来的に作業の自動化が進んでも、従業員はITの管理運用などの新しい役割を見つけて活躍し続けることが可能です。
参照元:経済産業省「2022年版 ものづくり白書(令和3年度 ものづくり基盤技術の振興施策)」
現場の属人化からの脱却
「職人芸」などの言葉に示されるように、日本の製造業は伝統的に現場の作業員の技術や経験に支えられてきました。しかし、そのように個人のマンパワーに依存した状態は業務の属人化と表裏一体であり、事業の安定性を失うリスクになりえます。とくに、労働人口の不足によって技術の継承者が不足しつつある現状では、なおさらそのリスクは見過ごせません。
そこで製造業のDXにおいては、こうした属人化した工程をいかに見える化し、システムへと落とし込んでいくかが大きな課題になります。この属人化が孕むリスクや解消法について詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
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業務の属人化を解消する方法とは?原因と標準化の進め方を解説
ビジネスモデルの変革
これまで日本の製造業では「働き方改革」や「社内コミュニケーション強化」といった、業務効率化や生産性向上に関わる課題を主な対象としてデジタル活用を進めてきた経緯があります。しかし冒頭で述べた通り、DXの大きな目標は「ビジネスモデルの変革」であり、新たな価値創出を通して世界での競争力を高めていくことです。
業務効率化や既存サービスの改善などもたしかに重要ですが、なんらかの抜本的な変化や飛躍がなければ、国際市場で大きな成長を見込むのは容易ではありません。昨今では「ビジネスモデルの変革」に取り組む企業も増えつつありますが、まだ多いとはいえないのが現状です。
製造業DXにおける課題解決の具体策
上記のような課題を解決し、DX化を推進していくための具体策としては、主に以下の方法が挙げられます。
業務フローの見直し
DXに限らず業務改善に取り組む際は、第一に既存の業務フローを徹底的に見直し、そこに潜んだ「ムリ・ムダ・ムラ」を見える化することが重要です。その後、それらの課題を解決できるような仕方に業務フローを再構成します。
業務マニュアルの作成
上記の見直し作業で属人化している業務や、作業工程が統一されていない業務を発見したら、業務マニュアルを作成・共有します。マニュアルに従って全員が統一された方法で作業するようになれば、属人化の解消や作業品質の均一化を見込むことが可能です。DXによって新たに生じた(変化した)業務についても、新しくマニュアルを作る必要があります。
業務効率化ツールの導入
人手不足が深刻化している製造業では、業務を効率化・自動化していくことが重要です。業務フローの見直しを通して、ITツールで作業を効率化・自動化しやすい箇所を抽出し、それに対応したツールを導入します。
クラウドサービスの導入
上記の業務効率化ツールをはじめ、DXに取り組む際にはクラウドサービスを積極的に活用するのがおすすめです。サーバなどの初期投資やシステムメンテナンスなどの手間を要せず利用できるクラウドサービスは、費用面でも労力面でも高効率で迅速にDX化を進めていくための大きな助力になります。
製造業がDX化を進めるときのポイント
続いては、実際にDX化を推進するにあたって押さえるべきポイントを解説します。
現状把握をして課題を明確化
DXを行う際は、まず現状把握をして課題を明確化することが重要です。この作業を疎かにしていると、優先順位の低い課題にリソースを費やしてしまったり、必要のないITツールを導入したりすることになりかねません。課題の洗い出し作業は、現場の意見も参考にしながら組織全体で取り組み、DXによって解決したい課題を共有します。
体制の整備
ITエンジニアやデータサイエンティストなどの専門スキルを持った人材を確保し、DX化を推進できる体制を整備することも重要です。DX専門の担当部署の新設も検討する価値があります。DX用の予算確保も欠かせません。こうした体制を整えたら、DXで必要なデータ収集のためのツールなどを選定・導入します。
データ収集による見える化
現場が抱える課題を明確化するには、各工程の情報をデジタルデータとして収集・可視化・分析することが重要です。リアルタイムに現場のデータをモニタリングできるようにすることは、DX実施後の効果検証などの際にも役立ちます。
データを活用しビジネスモデル変革
課題の明確化やツールの導入が終わったら、デジタル技術によって既存の課題解決に取り組みます。しかし先述のように、業務効率化などの取り組みはDXの最終目標ではありません。業務効率化だけで満足せず、デジタル化したさまざまなデータを活用して、製品・サービス・ビジネスモデルの創出へとさらに取り組んでいくことが重要です。
製造業におけるDX化の成功事例
製造業におけるDX化推進の事例は数多くあります。以下では、その中からコニカミノルタ株式会社とトヨタ自動車株式会社のDX成功事例を紹介します。
コニカミノルタ株式会社|データサイエンスを活用
コニカミノルタ株式会社は、現場の技術者とデータサイエンティストの密接な連携を通して、生産工程の変革を実現しました。同社では生産設備の自動化とAIなどを活用したデータサイエンスを組み合わせることで、自動化したプロセスのデータ収集・データ分析・現場へのフィードバックのサイクルを回していき、製造現場の生産性向上に取り組みました。さらに、こうした課題解決のプロセスを全社で標準化・共有し、次の取り組みへと活かしていくことで、これまで50件以上ものDX化に成功しています。
参照元:コニカミノルタ「データサイエンス技術 - テクノロジー」
トヨタ自動車株式会社|工場IoT
トヨタ自動車株式会社は工場のIoT化によるDXを実現しました。同社はまず、工場と現場などの部署間にまたがる情報共有基盤を「工場IoT」として構築しました。この「工場IoT」では3D CADデータなど、これまで個別に保存されて活かしきれていなかった既存のデジタルデータを一元管理することが可能です。このように既存のデジタルデータを拾い上げて一元的な管理の下に置くことで、同社はムダなデジタル化をせずに素早く有用なデータ収集を完了させ、高い費用対効果でDXを成功させました。
まとめ
日本の製造業は、現在の不透明な社会情勢による悪影響に加えて、人手不足や業務の属人化などの課題を慢性的に抱えています。こうした難しい状況の中で事業の持続可能性を高めるには、DXに取り組み、ダイナミック・ケイパビリティを強化していくことが重要です。
本記事で解説したように、業務の属人化解消のためには業務マニュアルの作成が有効ですが、ここでもITツールが役立ちます。クラウド型のマニュアル作成ツール「Teachme Biz」を導入すれば、簡単にマニュアルの作成・共有が可能です。業務のマニュアル化に取り組む際はぜひご活用ください。