物流DXとは? 物流業界が抱える課題とその解決に向けた取り組み
物流業界が抱える課題のひとつに、労働力不足が挙げられます。慢性的なドライバー不足に頭を悩ませ、人手不足の解消に四苦八苦している企業は少なくありません。このような課題は、DXで解決が可能です。本記事では、物流業界が抱える課題やDXに取り組むメリット、取り組みにおけるポイントなどを解説します。
目次
物流DXとは
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略で、デジタル技術を用いてビジネスに変革をもたらすことです。単にITツールやデジタル技術を導入するだけでなく、組織やビジネスモデルを変革し、ビジネスでの優位性を確立する取り組みがDXです。
そして物流DXは、文字通り物流業界におけるDXです。配送や輸送、保管、荷役、流通加工といった物流事業で発生する業務において、AIやIT機器を活用します。例えば、物流管理システム導入による物流業務の可視化や管理の効率化、ドローンを活用した新たな配送サービスなどが挙げられます。
物流DXの市場規模
DXの市場規模は拡大の一途をたどっています。株式会社富士キメラ総研が公表した資料「2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編」によると、国内における2020年度のDX市場規模は1兆3,821億円ですが、2030年度予測では5兆1,957億円と、2020年度に比べ3.8倍も拡大すると見られています。
参照元:株式会社富士キメラ総研「2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編」
一方、株式会社富士経済が公表した資料によると、次世代物流システムの市場規模は2026年に9,627億円に達すると予想されており、これは2020年度比で60%増の数値とのことです。物流業界で事業を営む多くの企業がDXの取り組みを進めているため、次世代物流システムの市場規模が拡大していると考えられます。
参照元:株式会社富士経済「次世代物流システム・サービス市場を調査」
物流業界が抱える課題
DXへの取り組みを始める前に、自社が抱えている課題を明確にしましょう。課題が明確になれば、より効果的な解決手段を見出せる可能性があります。また、DXを進めるうえで優先的に取り組むべき課題が明らかになるため、まずは課題の抽出と明確化が急務です。
ここでは、物流企業によくある課題を3つ解説します。
人手不足
物流業界は、ただでさえ人手不足が慢性化している業界です。しかも、働き方改革関連法案の施行によって、ドライバーの年間時間外労働時間の上限が2024年4月以降、960時間に制限されます。これにより物流業界はさまざまな打撃を受けることから、物流における「2024年問題」と呼ばれています。
働き方改革関連法案は、時間外労働の上限規制や年次有給休暇取得の義務化、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目的に制定されました。ただ、働き方改革関連法案の施行により、ドライバーは従来のように残業ができず、収入が激減するおそれがあります。
なかには、よりよい収入を求めて離職する従業員が出てくるかもしれません。このような事態を回避するには、労働環境の改善や条件の見直し、ロボットや物流システムの導入による業務効率化などが有効です。
小口配送の増加
インターネットやモバイル端末が普及し、誰もが当たり前のようにインターネットショッピングを利用する時代になりました。また、新型コロナウイルスの感染拡大により外出を控える方が増え、ネットショッピング需要が高まった結果、小口配送が増加しました。
小口配送の増加が物流企業に与える影響は小さくありません。小口の荷物が数多く倉庫へ保管されるようになり、管理が複雑化した企業も見られます。また、小口配送はトラック積載率の低下を招き、業務効率の悪化にもつながります。
IT化の遅れ・システムの老朽化
物流業界は、以前からIT化の遅れが指摘されていました。IT化に積極的ではない企業も多く、依然としてアナログな手法で業務に取り組んでいるケースも見られます。
また、システムの老朽化も課題のひとつです。老朽化したシステムは業務効率の低下だけでなく、業務の属人化も招きます。業務が属人化すると、特定の従業員しか業務を遂行できず、その従業員に突然休まれると業務が立ち行かなくなるおそれがあります。
データの集約や活用ができていない企業も少なくありません。物流業界では、部門ごとに独立したシステムを構築しているケースが多いためです。このような状況では部門間の緊密な連携が取れず、非効率の発生や業務負荷の増加につながります。
DXにより改善・解消できる課題
DXへの取り組みによって、業務効率化やコスト削減などのメリットを得られます。また、配送状況の可視化や人手不足の解消、ヒューマンエラーの防止といった効果も期待できます。
業務効率化
デジタル技術の導入によって、従来人の手で行ってきた業務の自動化や無人化を実現できます。簡単な作業や定型業務などをツール・システムに任せることで、従業員は人の手でしかできない業務に注力でき、業務効率化と生産性の向上につながります。
例えば、ピッキングシステムの導入は業務効率化に有効です。小口配送の増加によって複雑化した倉庫管理も、ピッキングシステムを導入すれば管理が容易になり、荷物がどこにあるのかも可視化できます。
また、自律運行AIを搭載したドローンを活用できるようになれば、わざわざドライバーが再度訪問する必要がなくなり、業務効率がアップします。
コスト削減
DXの推進はコスト削減にも有効です。例えば、物流に関する各種手続きを電子化すれば、紙を用いずデータでやり取りできるためコスト削減につながります。電子化によるペーパーレス化を進めることで、用紙代や印刷代、請求書を送る際の切手代などのほか、人的コストも削減できます。
配送状況の可視化
DXによって配送状況の可視化が可能です。例えば、動態管理システムや配送管理システムなどを導入・運用すれば、車両の現在地や状況などをリアルタイムに把握できます。
ドライバーの現在地や配送状況を正確に把握できれば、管理者はそのときどきに応じた適切な指示を出せます。現在地を把握したうえでマップを確認し、最短で配送できるルートを指示する、といったことも可能です。
配送状況の可視化に伴い、ドライバーはより効率よく業務を遂行できます。その結果、顧客のもとへ従来よりも早く荷物を届けられ、顧客満足度の向上にもつながります。
ドライバー不足の解消
物流業界が抱える大きな課題のひとつが、ドライバー不足です。常態化する長時間労働や賃金の低さなど、ドライバー不足の原因は多々ありますが、DXへの取り組みによりこうした状況の改善が見込めます。
例えば、AIドローンや自動運転技術を採用したトラックを導入すれば、人間のドライバーに代わって目的地まで荷物を運んでくれるため、人手不足の解消に役立ちます。
また、動態管理システムによる配送の最適化も、ドライバー不足の改善に有効です。管理者は、ドライバーの位置や配送状況をリアルタイムに把握できるため、そのときどきの状況に応じた適切な指示が可能です。より効率的に配送業務を行える環境が整えば、少ない人員でも業務を遂行できます。
これらの施策により、既存ドライバーの労働環境も改善されます。従来よりも快適に働けるようになれば、ドライバーの離職を回避できるほか、人材獲得もしやすくなるでしょう。
ヒューマンエラーの防止
物流業務においてヒューマンエラーはつきものです。物流倉庫でのピッキング業務を、未だに人の手で行っている企業は少なくありません。大量の荷物から目的の荷物を見つけ取り出す作業は、ミスが発生しやすく業務効率も低下します。
ピッキングロボットの導入によって、上記のようなミスの回避が可能です。人間のようにミスを犯さず、スピーディーに作業を進めてくれるため業務効率も高まります。従業員の負担軽減につながる点もメリットです。
ピッキングロボットに限らず、単純作業や定型業務を自動化・システム化することでも、同様の効果が期待できます。
物流業界で行うDXのポイント
物流業界で事業を営む企業がDXに取り組むにあたっては、現場と経営陣が連携することが大切です。また、DX推進をけん引する人材の確保や、計画的にデジタル化を進めていくことも、DX成功のために重要なポイントです。
現場と経営陣が連携して取り組む
DXを成功させるには、経営陣と現場が独立した状態で進めるのではなく、連携しあって取り組まなくてはなりません。経営層がすべきことは、DXの目的を明確にしたうえで、その必要性や導入のメリット、価値などを従業員へしっかり伝え浸透させることです。
DXの影響を特に受けるのは現場であるため、現場を無視して経営陣だけで取り組んでしまうと、従業員の反感を買いかねません。経営陣が指揮をとりつつ、現場と協力して取り組みを進めていきましょう。
DX人材を確保する
DXを進めるにあたっては、DXに精通したIT人材を確保しなくてはなりません。DXは単なるデジタル化ではなく、その先を見据えた取り組みが求められます。そのためには、たしかなノウハウや技術が必要であるため、ITに精通した人材は不可欠です。
早急にDXを進めたいのであれば、外部からの人材獲得を考えるのがベターですが、昨今はさまざまな業界でIT人材の獲得競争が激化しており、思うようにいかないことも考えられます。IT人材の誘致を進めるのはもちろん、それと並行して自社でIT人材を育成する取り組みも重要となるでしょう。
また、さまざまなデジタル技術を導入すると、現場の働き方が大きく変化します。従業員がスムーズに対応できるよう、マニュアルの整備も進めなくてはなりません。
計画的に導入を進めていく
DXは一朝一夕に実現するものではありません。課題の抽出や導入するツール・システムの選定など、手間も時間もコストもかかります。行き当たりばったりではスムーズに導入が進まないばかりか、通常業務に支障をきたすおそれもあるため、計画的に導入を進めていきましょう。
事前にきちんと計画を練ることからスタートです。綿密なスケジュールを組み立て、その通りに進めていくとよいでしょう。また、ツールなどの導入によって短期間で効果を実感できる部分、取り組みやすい部分から着手するのも大切なポイントです。
物流業界で取り組めるDX事例
「DXを推進したいと考えているものの、何から着手すればよいのかわからない」と頭を抱える企業経営者や担当者の方は少なくないでしょう。このようなケースでは、他社のDX事例に目を通すと、自社の課題解決に通じるヒントが得られるかもしれません。
輸送・配送ルートの最適化
輸送や配送ルートの最適化によって、業務効率化や生産性の向上といった効果が期待できます。配送ルートの最適化とは、ムダなく最短距離で目的地まで荷物を届けられるルートを導き出すことです。
毎回同じルートを走行しているケースでも、さまざまな要因によって効率が低下することはあります。例えば、天候の変化や事故、突発的な渋滞の発生などが挙げられます。
近年では、天候や道路状況のデータをAIが分析し、そのときどきに応じた最適な配送ルートを導き出す取り組みが進められています。このようなシステムを導入すれば、迅速に最適な配送ルートを割り出せ、効率的な配送業務の実現が可能です。
物流管理システム
在庫管理システムや入出庫管理システムを導入し、これらのシステムで扱うデータを一元化してシームレスに連携すれば、大幅な業務効率化が期待できます。
複数のシステムを導入しているケースでは、「Aのシステムの情報をBのシステムへ手入力で反映させないといけない」といったシーンが発生しかねません。物流管理システムでデータを連携させれば、一度の入力で全システムへ情報が反映されるため効率的です。
また、システムの導入と連携は、業務の最適化にも有効です。配送ルートの傾向や入出庫履歴などの可視化によって分析がしやすくなり、効果的に業務の最適化が進められます。
ペーパーレス化・情報のデジタル化
DXの推進とコスト削減に有効なのが、ペーパーレス化です。資料などを紙媒体ではなくデータで扱うようにすれば、保管スペースの削減や情報共有のスピードアップ、印刷コストの削減などさまざまなメリットを得られます。
デジタル化したデータを一元管理できる環境が整えば、分析も容易に行えるようになります。分析した結果に基づき、課題解決につながるヒントの発見や改善策の立案が可能です。
書類の電子化に有効なツールとして、AI-OCRが挙げられます。AIを採用したOCRは、従来のOCRに比べて文字の認識精度が高いうえ、さまざまなフォーマットにも対応可能です。RPAとの連携により業務の自動化を進めれば、さらなる業務効率化を実現できます。
AGV(自動搬送ロボット)
AGVとは「Automatic Guided Vehicle」の略で、自動搬送ロボットのことです。決められた範囲内をロボットが稼働し、重量のある荷物もスムーズに運搬してくれます。近年では、物流倉庫にこのAGVを導入する企業が増えてきています。
従来の倉庫業務では、従業員が倉庫内を歩きまわって目的の荷物を抽出していました。一方、AGVを導入すれば、商品が保管されている棚を従業員がいる所定の場所まで運搬してくれるため、従来のように倉庫内を歩きまわる必要がありません。
ただ、AGVはあらかじめ設定したルートしか移動できないものが多く、事前に地図情報のインプットが必要などのデメリットもあるため、注意が必要です。
自動運転技術
自動車の自動運転技術も昔に比べ、ずいぶんと進歩しています。現在でも研究や実験が進められており、いずれ実用化すると考えられます。
すでに大手運送企業では、自動配送ロボットの実験へ積極的に取り組んでいるところもあります。拠点間の輸送を自動配送ロボットに行わせたり、荷物を指定した場所へ届ける実験をしたりと前向きに取り組んでいるため、実用化までそれほど遠くないのかもしれません。
ドローン配送
ドローンを活用した配送も実験が進められています。ドローンを配送に利用できれば、陸路でのアクセスが難しい場所へも容易に配送が可能です。
空を飛べるドローンであれば、道路状況に左右されることなく、最短距離で目的地へたどり着けます。そのため、従来に比べて大幅な作業効率の向上が期待できます。
マニュアルの整備
DXを進めるにあたり、さまざまなシステムやツールを導入するため、マニュアルの整備も忘れてはなりません。システムやツールの使い方、ルール、作業の手順書などを用意していないと、現場が混乱するおそれがあります。
マニュアルを作成するのなら、紙ではなく電子マニュアルがおすすめです。特にクラウドで作成や編集ができ、オンラインで共有できるツールを用いれば、なお便利に活用できます。
DXで必要になるマニュアルの作成ならTeachme biz
上述したように、物流企業がDXを進めるうえでは、作業手順書やシステムの使い方などを解説したマニュアルの整備が必須です。マニュアル作成ツール「Teachme biz」であれば、誰でも簡単にわかりやすいマニュアルを作成できるためおすすめです。
Teachme bizでは、画像や動画を用いた伝わりやすいマニュアルを簡単に作成できます。用意されたテンプレートに画像や文字を入れるだけでマニュアルを作成でき、編集も容易です。オンラインでマニュアルを共有できるのはもちろん、従業員がマニュアルをきちんと使っているかどうかを確認する機能も実装されています。物流DXに向けた体制づくりの一環として、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
物流業界が抱えるさまざまな課題を解決するには、DXの推進が有効です。DXへの取り組みによって、業務効率化やドライバー不足の解消、ヒューマンエラーの防止、配送状況の可視化などさまざまなメリットを得られます。
DXへ取り組む際には、経営陣と現場が協力して進めることが大切です。また、DXに精通した人材を確保し、計画的に進めていかねばなりません。取り組みにあたり、さまざまなシステムやツールも導入するため、現場がスムーズに対応できるよう、適切なマニュアルを準備することも忘れないようにしましょう。