製造業の人手不足はなぜ起こる? 解消に有効な3つの対策
製造業は、日本経済の成長を牽引してきた重要産業ですが、人手不足が深刻化している業界でもあります。人手不足は、ときに事業存続を危うくするほどの大きなリスクであり、早急に対処しなければいけない問題です。そこで本記事では、日本の製造業における人手不足の現状をはじめ、その理由や懸念される悪影響、解決策などを解説します。
目次
製造業における人手不足の実態
現在の製造業は慢性的な人手不足に悩まされています。経済産業省・厚生労働省・文部科学省が共同で毎年発行している「2022年版 ものづくり白書」によれば、製造業の就業者は約20年間で157万人減少している状況です。人手不足は多くの業界で進んでいる課題ですが、全産業に占める製造業の就業者割合も約20年間で3.4ポイント低下していることから、製造業の人手不足は他産業と比べてもより顕著に進んでいると考えられます。
参照:2022年版 ものづくり白書|経済産業省・厚生労働省・文部科学省
厚生労働省が公表している2023年1月時点の職種別有効求人倍率でも、生産現場全般の職種を意味する「生産工程の職業」は2.0倍と高い水準です。特に「機械整備・修理の職業」は4.38倍、「金属材料製造等」は3.32倍というように非常に高い求人倍率になっており、深刻な人手不足状況が顕著に示されています。
参照:令和5年1月分一般職業紹介状況(職業安定業務統計)|厚生労働省
製造業が人手不足に陥る理由
「ものづくり大国」として国際的に高い評価を得てきた日本の製造業は、なぜこのような人手不足に陥ってしまったのでしょうか。以下では、製造業が人手不足に陥る主な理由を3つ解説します。
労働人口の減少(少子高齢化)が影響している
製造業で人手不足が進んでいる第一の理由は、少子高齢化による労働人口(生産年齢人口=15歳~64歳)の減少です。総務省統計局の「労働力調査(2022年版)」によれば、2022年時点で15歳~64歳の人口は7,413万人と報告されています。2012年時点だと8,055万人存在したことから、この10年で日本の労働人口は約600万人も減少した計算です。
参照:労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の概要|総務省統計局
このような少子高齢化の影響は製造業の人材構成にも表れています。「2022年版 ものづくり白書」によれば、製造業の若年就業者数は約20年間で121万人減少している一方で、高齢就業者数は33万人増加しています。こうした人手不足に対応するには多様な人材を活用していくことが重要になりますが、製造業では女性の就業者数も約20年間で90万人減少しており、全体的に厳しい状況です。
参照:2022年版 ものづくり白書|経済産業省・厚生労働省・文部科学省
3K(きつい・汚い・危険)のイメージが残っている
労働人口が減少した結果、各業界・企業は限られた労働力を奪い合わなければいけなくなりました。しかし、全産業に占める製造業の就業人口割合が減っていることからも分かるように、製造業はその人材獲得競争に後れを取っていると言わざるをえません。
他産業と比べて就職希望者が少ない理由としては、製造業に対して「3K」というイメージを持つ人が多いことが挙げられます。3Kとは「きつい・汚い・危険」を表しており、このマイナスイメージが製造業から人を遠ざける一因となっています。もちろん、この3Kが当てはまるかは工場ごとに異なりますが、そうした先入観によって最初から就職先の選択肢から外されてしまうと、アピールをするのも困難です。
フォローアップ(教育)に失敗している
新しく就職する人が少ないならば、離職者数を抑えることが重要になります。厚生労働省の「令和3年雇用動向調査」によれば、2021年の製造業の入職者数は約66万人、離職者数は約78万人でした。離職率9.7%という数字は全産業の平均よりも優れた結果です。しかし、当然この数字は企業ごとに異なりますし、実数として離職者数が入職者数を約12万人超過していることを踏まえれば、安心していい状況ではありません。
製造業にて離職者が出てしまう一因としては、フォローアップ(教育)に失敗していることが挙げられます。「2022年版 ものづくり白書」では、製造業でOJT/OFF-JTを実施した事業所の割合が2019年度から2020年度にかけて正社員・非正社員の双方で低下していることが示されています。この背景にも人手不足が関係しており、人材育成の問題として「指導する人材が不足している」と回答した事業所が6割を超えていました。とはいえ、人手不足を理由に従業員へのフォローを怠ってしまえば、それが離職へつながり、さらに人手不足が強まる悪循環に陥ってしまう恐れがあります。
参照:2022年版 ものづくり白書|経済産業省・厚生労働省・文部科学省
製造業の人手不足が与える影響と負のスパイラル
上記でも触れたように、人手不足の恐ろしいところは、人手不足による悪影響がさらなる人手不足につながる負のスパイラルを作りかねないことです。人手不足は教育の不足以外にもさまざまな悪影響を製造業に与え、ときには回復不能なダメージを与えてしまいます。以下では、そうした悪影響の主だった内容を解説します。
生産性が下がり利益率の低下を招く
いくら従業員が努力しても、人手不足が深刻化すれば、生産性の低下を抑えることは容易ではありません。生産性の低下は利益率の低下を招き、それがさらに企業の価値や競争力の低下へとつながっていきます。求職者の立場からすれば、将来性のある企業、安定した企業に就職したいと思うのは当然の心理です。したがって、こうした状況は求人の不人気を招き、さらに人手不足を加速させる原因になります。
生産ラインの縮小・削減に繋がる
利益率が圧迫されれば、設備投資などに回せる資金的余裕も減り、増産体制を築くのが困難になっていきます。それどころか、現状維持すら難しくなり、生産ラインの縮小につながることもあるかもしれません。生産ラインの縮小は生産力や企業競争力の低下、そして人手不足の深刻化を招き、ますます抜け出すのが難しい負のスパイラルができあがってしまいます。
企業の競争力が低下する
上記で「人手不足が生産性の低下や競争力の低下を招く」と述べてきましたが、その具体的な構造は以下の通りです。
まず、人手不足が深刻化すると、従来ならば新人に任せていたような仕事も中堅・ベテランの作業員が担当しなければいけなくなってきます。すると、今度はその従業員が担当していた仕事をまた別の誰かが担当するか、その従業員が過重な負担を被りつつ元々の作業もこなす必要に迫られます。どちらにせよ、熟練人材の酷使による生産性低下や、労務環境の悪化などの悪影響が出ることは避けがたい状況です。
熟練の従業員なら、もしかしたらそうした状況にも耐えられるかもしれません。しかし、そうした属人的な解決は、その従業員が退職などしたらすぐに破綻してしまう危うい選択です。また、そのように従業員に負担を押し付けていると、それこそ「3K」のマイナスイメージを悪化させてしまい、人材獲得に悪影響が出る可能性もあります。
製造業の人手不足を解消するために有効な3つの対策
では、負のスパイラルの根幹である人手不足を解消するためには、どのような施策を行えばいいのでしょうか。以下では、人手不足の解消に有効な対処法を3つ紹介します。
1.今まで目を向けていなかった人材まで採用枠を拡大する
社会全体で労働人口の減少が進んでいる現状では、今までは見逃していた人材にも採用の間口を広げていくことが重要です。雇用拡大の機会がある人材としては、以下で示すように「シニア世代」「女性」「外国人」の3つが主に挙げられます。
シニア世代の再雇用を促進
第一に挙げられるのが、実務経験が豊富なシニア世代を再雇用することです。特に不足しがちな指導者としての役割を与えることをおすすめします。実際、指導者としてシニア世代を再雇用する事業者は多く存在し、「2022年版 ものづくり白書」でも、技能継承のために「退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による再雇用を行い、指導者として活用している」と答えた事業所は約6割としています。
参照:2022年版 ものづくり白書|経済産業省・厚生労働省・文部科学省
ただし、再雇用する際には、再雇用者にそれまでの役割や負担などを期待しすぎないように注意しなければなりません。再雇用者の賃金は、退職前よりも低下するのが通常です。それにもかかわらず以前と同じ責任を押し付けてしまうようでは、再雇用者のモチベーション低下につながってしまいます。
また、再雇用者に従来の仕事をそのまま担当してもらうのは、属人化の解消を先送りしているだけにすぎません。したがって、シニア世代を再雇用する際には、負担を押し付けすぎないように注意し、後進の育成を主目的にするのがおすすめです。
女性の雇用を促進
総務省の「労働力調査」によれば、過半数の産業で女性就業者数が増加するなか、製造業に関しては前年比-0.3%の減少を見せています。人手不足に苦しんでいる状況で、女性の社会進出を活かせないのは非常にもったいないことです。
現状の日本社会では、育休・産休後の職場復帰に困難を覚える女性が多いため、柔軟に働きやすい環境を整えた上で女性の積極採用を進めていけば、一定の効果が得られると期待できます。
参照:労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均|総務省統計局
外国人採用の促進
少子高齢化によって国内の労働力自体が将来的に減っていくことを鑑みれば、外国人の採用を促進することも検討の価値がある選択肢です。実際、政府も技能研修制度を設置するなどして、外国人労働力の活用を進めています。
ただし、外国人を採用する際には、やはり言語や文化の違いがネックになりがちです。したがって外国人の採用を促進する際は、社内マニュアルの多言語化や、多様性を尊重する企業風土の醸成など、受け入れ態勢を整えることが重要になります。
2.イメージアップ戦略で3Kを払拭する
SNSやメディアなどを活用して、イメージアップ戦略を行うことも重要です。先に触れた通り、「製造業は3Kである」という偏見が人材不足を招いている側面もあるため、そのイメージを払拭していくことも採用強化には欠かせません。
例えば、作業現場を清潔に保った上でSNSやメディアで実際の作業現場の様子を発信すれば、「汚い」というイメージを払拭しやすくなります。また、機械による効率化・自動化などによって「きつい」「危険」を排除してそれを発信すれば、男性と女性双方に訴求する効果が見込めます。
3.デジタル化による業務プロセスの改善・人材育成の強化を行う
採用活動の強化と併せて進めたいのが、AIやIoTなどのデジタル活用によって業務プロセスを改善することです。業務の効率化・自動化によって従来よりも少ない人数で仕事が回せるようにすることは、人手不足の解消、従業員の負担軽減、生産性向上などさまざまなメリットを生み出します。
また、ベテランのノウハウなどをマニュアル化し、人材育成体制を強化することも重要です。業務のマニュアル化をすることで、新人も業務内容を体系的かつ効率的に学びやすくなります。また、誰もが決まった手順や方法で作業を行うようになることで、業務品質が統一しやすくなり、属人化の解消につながるのも大きな利点です。このように、業務のマニュアル化は人材育成の効率化や属人化の解消に役立ち、事業の安定的持続を促進します。
人材育成による人手不足解消には「Teachme Biz」が便利
上記でも触れた通り、製造業の人手不足や属人化を解消するには、人材育成を強化することが必要であり、その手段として業務のマニュアル化が有効です。とはいえ、自分自身では業務を難なくこなせる熟練人材も、その技術を言語化して説明するのは苦手ということも少なくありません。実際、手作業の多い製造業では、言葉にして説明するのが難しい作業内容が多いことも事実です。
そこでおすすめしたいのが、作業手順書を動画マニュアルという形式に落とし込めるクラウドサービス「Teachme Biz」の導入です。動画マニュアルなら作業工程を映像で説明できるので、文章や画像だけでは理解が難しい作業も伝えやすくなります。また、分からなければ何度でも再生して確認できるのもメリットです。
Teachme Bizを導入すれば、テキストや画像に加えて動画も活用してマニュアルを作成できるようになります。動画の撮影はスマホやタブレットでも行えるので、大がかりな撮影機材をそろえる必要もありません。無料トライアルも受け付けているので、まずは気軽に試してみてはいかがでしょうか。
まとめ
人手不足はさらなる人手不足を招く負のスパイラルを生じさせてしまう危険性があるため、事業を安定的に持続させていくためには優先的に対処しなければならない課題です。製造業における人手不足の解消策としては、多様な人材の雇用促進のほか、ITツールなどを用いた業務効率化や人材育成に取り組むことが挙げられます。
マニュアル作成ツール「Teachme Biz」を活用すれば、テキスト・画像・動画を織り交ぜて分かりやすいマニュアルを作成し、人材育成や業務改革を効果的に進めることが可能です。人手不足対策に取り組む際は、ぜひ「Teachme Biz」の導入をご検討ください。