政府から見た日本のDX~現状とこれからを紐解く~

最終更新日: 2022.08.12 公開日: 2022.04.14


近年、日本のビジネスシーンには、「DX」という単語を聞かない日がないほど、デジタル化の波が訪れています。しかしその一方で、「日本はデジタル化が数年遅れている」という声も同様に上がっています。このような状況の中、日本企業のDXを推進している経済産業省では、どのような方針を掲げ、活動しているのでしょうか。本セッションでは経済産業省様をお迎えし、日本のDXの実情や民間企業の優れた取り組み・ヒント、今後のDXの方針について詳しくお伺いします。

あわせて読みたい
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義やその必要性をわかりやすく解説

政府としてDXを推進する「経済産業省 省務情報政策局」

スタディスト 庄司(以下、庄司):このセッションでは、「政府から見た日本のDX」と題し、経済産業省の奥村 滉太郎さんにお越しいただきました。本日はよろしくお願いいたします。

経済産業省 奥村さん(以下、奥村):よろしくお願いいたします。

庄司:貴省では、政府としてDXを推進し、その進捗などをまとめた『DXレポート』を作成しています。本日は、貴省の政府としてのDXへの取り組みや課題などを、詳しくお伺いできればと思います。まずは、簡単に貴省のご説明を頂けますでしょうか。

奥村:はい。私は現在、経済産業省の省務情報政策局、情報技術利用促進課に所属しております。通称、ITイノベーション課というところですね。この課では、デジタル人材の育成やIT関係の試験の運営などを行っており、業務ごとにさまざまな班があります。私のいる班は、DX関連の制度を取り扱っていまして、私は特に企業領域のDXを担当しております。

DXとは「競争上の優位性を確立すること」

庄司:まず、政府におけるDXの位置づけを教えていただけますか。

奥村:2021年度の政府の方針において、DXは非常に重要な項目として位置づけられています。『経済財政運営と改革の基本方針2021』、いわゆる「骨太方針」と言われる政府の文書にどのように盛り込まれるかで政府の中での重要度が分かるのですが、DXは「成長を生み出す4つの原動力」として中央に挙げられています。厳密には「官民挙げたデジタル化の加速」ということで、

  • デジタル・ガバメントの確立
  • 民間部門におけるDXの加速
  • デジタル人財の育成、デジタルデバイドの解消、サイバーセキュリティ対策

この3つを挙げています。2021年に「デジタル庁」が発足して話題になりましたが、民間部門におけるDXの加速も同様に、成長戦略の柱のひとつとして取り組んでおります。

庄司:政府としても重要な位置にあるDXの推進ですが、DXをどのように定義していますか?

奥村:DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。

ここで大事なのは「競争上の優位性を確立すること」です。デジタル技術を利用して経営改革するだけでなく、「顧客接点や外部との接点を通じて付加価値を作り出すような変化」、つまり「競争上の優位性の確立」を含めて、「DX」であると我々は考えています。

私個人の考えですが、誤解を恐れずに一言で言うなら「儲けられる」のがDXだと思っています。

庄司:DXは、実際にはどのように進んでいくものなのでしょうか。

奥村:DXの進め方については、

  • 電子化(Digitization)
  • デジタル化(Digitalization)
  • デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)

の3段階に分けて、よくご説明しております。

最初は、紙の資料をはじめとしたアナログなものを、PDFに変換するなどしてデジタル世界に持っていくこと、「電子化」から始めます。

次に、電子化された情報・データを活用しながら、私たちの行動にデジタルを取り入れていくのが「デジタル化」です。PDFデータを活用して会議をオンライン化したり、請求書をデータ化して会計ソフト上で管理したり、といった形ですね。

そして、さらに顧客や社会のニーズに応えるために、業務や組織の在り方を変えるのが「デジタルトランスフォーメーション」です。窓口にAIを活用することで24時間対応を可能にしたり、オンライン化に伴いBtoBからBtoCに事業を拡大したり。このように、デジタル技術を使って人と人、人と物のつながり方を変え、本当にやりたかったことをやっていくのが、DXではないかと考えます。

そういう意味でも、DXにおいて大事なのは

  • 自社が提供すべき価値や強みを見直したうえで進める
  • 顧客視点で新しい価値が提供できているかどうかを考える

この2点だと考えています。

DXを始めるなら、自社の状況がわかる「DX推進指標」がおすすめ

庄司:こうした方針を踏まえ、政府のDXの取り組みについて教えていただけますか?

奥村:冒頭でお話いただいた「DXレポート」は有名なのですが、ほかにも弊省では、各企業のDXレベルに合わせ、「DX推進指標」「DX認定」「DX銘柄企業・注目企業の選定」等を行っています。

まず、「これからDXに取り組みたいが何から着手すべきか」という企業様には、「DX推進指標」の利用をおすすめしています。これはDXの推進度を測る自己チェックツールです。自己診断を実施し、その結果をサイトに入力すると、他の提出企業のDX取組状況と自社を比較できる「ベンチマーク(レポート)」が得られるものです。ダイエット前にまず体重計に乗るようなイメージですね。

DXに向けて一通り準備ができた状態の企業様には、「DX認定」をご利用いただきたいです。他にはあまりない「法律に基づいて行われる認定」で、2021年1月までの約1年で254件認定しており、「認定に向けた取り組みの中でDXに向けての体制の整理や、具体的な行動について社内で議論ができてよかった」というお声も頂いているので、この「DX認定」をひとつのベンチマークとして目指していただきたいです。

「さらにDXをどんどん進めていきたい」という企業様には、我々が「DX銘柄企業」「DX注目企業」といった形で、その事例を世の中にご紹介する活動をしています。こちらは、2021年度は464社中28社がDX銘柄に選ばれました。例えば、自作ツールで不動産業界全体のDXを進めたSREホールディングス様や、AI予測で発注数を先読みし、自動発注を可能にしたトラスコ中山様などが選ばれております。

特に、2番目にご紹介した「DX認定」は、全ての事業者を対象としており、認定に関する費用もかかりません。Teachme Bizを使われているところでは、丸井グループ様や船場様といった、必ずしも所謂「IT企業」に限らず、比較的アナログ寄りな事業内容の企業様も認定されております。1年中いつでもオンラインで申請できますので、ぜひ申請をご検討いただければ幸いです。

また、DXに関する取り組みとしてはこのほかにも、課題解決型AI人材育成プログラムの「AI Quest」や、「突出した人材」を発掘・育成する「未踏IT人財発掘・育成事業」など、IT人材の育成にも力を入れており、あまり知られていないものもありますが幅広くDXを支援する取り組みを進めています。

庄司:DX銘柄は、上場企業の数に対して狭き門のように思えるのですが、厳しい審査があるのでしょうか?

奥村:そこは少し誤解を解きたいところもあります。

全ての上場企業の数に対して受賞者の割合は小さいように思えるのですが、毎年同じ取り組みをエントリーして評価されるようなものではないんですよね。

DXは「トランスフォーメーション」つまり「変革」が前提なので、新しい変化を評価したいと思っています。

なので、むしろ「自社の業界は常連ばかり」と思う業界こそチャンスだと思っていただけると正しい理解かなと。また、業界ごとにエントリーを受けているので、応募が少なそうな業界もブルーオーシャンかなと思って手を上げていただければ。

庄司:なるほど。たしかに毎年変革をできるところは早々ないので、意外とチャンスは大きそうですね。

経営戦略に繋がるDX 重要なのは自社の強みの再認識

庄司:色んな取り組みがありますが、「何から始めようか」とお困りの企業様に対して、まずどこからやることをおすすめされますか?

奥村:経産省の取り組みの中ではDX推進指標がおすすめですが、もっと抽象的なことで言うと、多くの経営者が取り組まれているように自社の強みを改めて考えてみるのがいいと思います。

例えば、ピアノの売り上げが減ったら、ピアノ運送業者の売上も減ってしまいますよね。でもそのとき、「要は大きくて精密なものをしっかり運べるのがうちの強みか」とわかっていれば、精密機械の運送を始めとした別事業に舵を切れますし、こうした経営戦略がDXにも繋がります。

庄司:ちなみに、弊社のTeachme BizもDX推進に活用されることがあるのですが。奥村様の立場からマニュアルサービスや弊社のサービスはどのようにDXに貢献できそうだとお考えでしょうか?

奥村:今日「いつ話そう」とチャンスを伺っていたトピックです(笑)。

実はこのセッションの案内をTeachme Bizで送っていただきました。会場までのルートなどが写真とポイントが載ったシンプルな解説がついているだけではありますが、テキストだけの説明や地図アプリなどと比べて、迷ったり解釈の余地が少ないのが良いですよね。

地図アプリって意外と読むのが難しいですし、わからないと結局電話で問い合わせてお互い時間を使うことになりますので、何度も生じるお互いの手間を省いているという点でも良い仕組みですよね。

あえてもっと話を広げて考えてみるとと、たとえば沢山の拠点でやってほしい手順を伝えるときに、従来だと現場に浸透させるために教育役の人が一生懸命全国を回って教える時間や手間がかかるのを、デジタルの活用によって全国で同時に習得ができる状態にできるのは、大きな価値と言えるのではないでしょうか。

庄司:ありがとうございます。弊社はもちろんマニュアルの価値を信じているのですが、1度の体験でそこまで汲み取ってご理解いただけて驚きました。

ちなみに、DXの話に戻ってしまいますが、今後、実施しようとお考えの政策や取り組みについて、公表できる範囲で教えてください。

奥村:「うちにはDXとか関係ないよ」と思っている企業様にも、我々から踏み込んで、DXの必要性や始め方をお伝えしていきたいです。また、DX銘柄の対象は上場企業だけですが、非上場企業を対象にした表彰の制度も考えています。このセッションが公開される頃には公開されていると思いますので(DXセレクション)、ぜひ今後の展開も楽しみにしていただければと思います。

※本セッション収録後の4/8に中堅・中小企業等向けのDXの手引きも公開されました。
経済産業省(2022)「中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き

庄司:大事なのは、自社の強みや付加価値の源泉を改めて考え、その経営戦略にDXを取り込んでいくことなのですね。勉強になりました。

皆さまもぜひ、経済産業省様のDXの取り組みに注目いただければと思います。改めまして奥村さん、本日はどうもありがとうございました。

奥村:ありがとうございました。

スタディストでは今回のセッションのテーマでもあったDXの概要についてまとめたホワイトペーパーもご用意しています。ぜひ併せてご覧ください。

dxの基本

この記事をSNSでシェアする

関連記事

\Teachme Bizで効果的な人材教育を/

Teachme Bizの概要資料を
ダウンロードする

「セミナーレポート」の最新記事

マニュアルで生産性革命をおこそう

マニュアルは、上手く扱えば「単なる手順書」以上に大きな効果を発揮します。
生産性の向上はもちろん、「企業を大きく変える」可能性を秘めています。

Teachme Bizは、マニュアルであなたの企業にある課題を解決し、
生産性を向上するパートナーでいたいと考えております。
「組織の生産性を向上したい」「変える事に挑戦したい」と思う方は、
わたしたちと生産性の向上に挑戦してみませんか。

マニュアル作成・共有システム
「Teachme Biz」はこちら