ヒヤリハットとは? 業種別の事例や報告書の書き方まで解説

最終更新日: 2022.09.23 公開日: 2022.07.07

ヒヤリハット

「ヒヤリハット」は、業種にかかわらず発生する可能性があります。そのため、企業には事例から学び、防止する取り組みが必要です。この記事では、ヒヤリハットの概要や原因、業種別の代表的な事例を解説します。また、ヒヤリハットが発生した場合にナレッジとしてまとめ、共有する「ヒヤリハット報告書」の書き方やポイントも把握しましょう。


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ヒヤリハットとは

「ヒヤリハット」とは、「ヒヤリとする」あるいは「ハッとする」といった言葉から生まれた言葉で、一歩間違えれば重大な事故になりかねなかった出来事を「発見すること」を指します。同じような意味合いの言葉として「インシデント」がありますが、客観的に「事故に至る可能性があった出来事そのもの」を指すため、厳密にはヒヤリハットとは異なります。
通常、事故は予期できず、思わぬところで起きる可能性があることから、どのような業種、職場においても、ヒヤリハットは存在すると考えてよいでしょう。

ヒヤリハットに関する「ハインリッヒの法則」

ヒヤリハットを語る上で欠かせないのが「ハインリッヒの法則」と呼ばれるものです。1931年、アメリカの損害保険会社に所属していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が、労働災害5000件について調べた結果、導き出した法則として世界中に認知されるようになりました。

厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」で、以下のように紹介されています。

    「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」

(引用元:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo24_1.html

ハインリッヒの法則は、別名「1:29:300の法則」とも呼ばれ、1件の重大事故の裏には数多くのヒヤリハットが存在することを示しています。逆にいえば、ヒヤリハットを見逃さずに対策を取ることは、重大事故の発生を未然に防ぐことにつながるのです。

ヒヤリハットが起こる主な原因

ヒヤリハットは、あらゆる職場で起きる可能性があります。ではなぜ発生するのでしょうか。主な原因を理解して、労働災害を防止するのに役立てましょう。

焦りや油断などメンタル面

ヒヤリハットは、業務の経験年数とは必ずしも関係ありません。新人でもベテランでも、条件がそろえば発生する可能性があります。時間に間に合わなくなりそうで焦ったり、普段からしている業務だと油断して確認がなおざりになったりすると、ヒヤリハットが起きやすくなるでしょう。

情報共有やコミュニケーション不足

チームワークで仕事をしているのにもかかわらず、報・連・相がきちんと行われていなかったり、指示内容を聞き漏らしたり、メンバー間の認識が異なっていたりすると、作業誤りによるヒヤリハットが発生しやすくなります。昨今テレワークが浸透するにともない、組織内でのコミュニケーションは不足しがちな傾向があるため、一層の注意が必要です。
とくに、従業員への教育や注意喚起が不足している職場では、ヒヤリハットの発生リスクが高まります。業務遂行にも支障が出てしまうため、職場の皆が情報を共有しやすい仕組みをつくり、お互いに注意を促せる職場にしましょう。

職場環境改善の不徹底

3つ目の原因は、職場環境に存在する問題点を改善できていないことが挙げられます。例えば、作業スペースや道具の保管場所が散らかっていたり、汚れていたりしても、見て見ぬふりで放置しているような例です。これではヒヤリハットの頻度が増え、大事故につながるおそれがあります。
そこで、仕事をしやすいように整理、整頓し、不要なものを廃棄する、必要なものの定位置を決める、定期的に清掃する、などの環境改善に向けた対策を講じましょう。そうすることで、ヒヤリハットの発生を少しでも抑えられるようになるでしょう。

【業種別】ヒヤリハットの事例とその対策

ヒヤリハットは、どのような業種でも起きる可能性があります。ここからは、業種別にどのような事例があり、どう対策すればよいのかを解説します。

製造業でのヒヤリハット

製造業の現場では資材や製品、容器など数多くのものがある環境下で大型の機械を動かす場面も多いため、作業員の安全性を意識した作業が必要です。
ある現場では、フォークリフトで運搬中にシャッター下を通過しようとしたところ、歩いている作業員と接触しそうになる事例がありました。フォークリフト以外でも何らかの機械を動かしているときは、「周囲には誰もいないだろう」と勝手に思い込まないよう気を付けなければなりません。常に事故の可能性を考えながら、人が出てくるかもしれない場所では、一時停止や安全確認を徹底することが重要です。

運送業でのヒヤリハット

運送業では、運転中の脇見などによる交通事故のほか、作業前後に起きる事故にも気を配る必要があります。
一例として、運転手が他の作業者とともにトラックから荷下ろしをした際の事例があります。作業を終えて運転席に戻った後、作業者が後方にいたのに気付かずにバックさせてしまいました。
運送業では大きな車体のものを運転することが多いため、死角も多く、人命に関わる大きな事故につながりかねません。少しでも車を動かす際には、上下左右や周囲をあらかじめしっかり確認するようにします。誘導者がいない場合は、安全に出やすいようにバックで駐車しておくのも有効な対策です。

介護業でのヒヤリハット

介護現場では、介護者・被介護者双方が怪我をしかねない状況が起こりえます。
例えば、被介護者を車椅子からベッドへ移動させようとして持ち上げたところ、介護者が腰を痛めてしまった例がありました。介護者の体への負担のみならず、一歩間違えれば被介護者が落下してしまう事故にもつながりかねません。
被介護者を移動させるときは、車椅子とベッドの高さを合わせ、被介護者をなるべく持ち上げないようにする必要があります。そうすることで介護者の腰にかかる負担を軽減させられるでしょう。

建設業でのヒヤリハット

建設現場では、比較的大きな資材が大量に置かれており、それらを運搬する必要もあるため、大事故につながるリスクも大きくなります。
例えば、大きな箱を運搬中の作業員が、現場に落ちていたパイプにつまずいて転倒しそうになった事例がありました。資材は無造作に置くのではなく、どこに何があるのかわかりやすいように整理整頓する必要があります。運搬する前に作業員が通路を安全に通れるようにスペースを空けておくことや、視界が遮られにくい運搬用具を使用することも必要でしょう。

医療・看護業でのヒヤリハット

医療現場では、さまざまな場面でヒヤリハットがあり、なかには怪我や医療事故につながりかねないものもあります。人手が少なく疲れが出やすい夜中や明け方に入院患者を世話する際には、一層注意が必要でしょう。
例えば、夜中に寝たきりの患者の体位を変える際、不自然な姿勢で行ってしまい、看護師の腰をひねった事例がありました。大人の患者を動かすのは重労働となるため、ベッドを作業しやすい高さにしたり、体位変換の手順にきちんと従うことで、看護師の体にかかる負荷を減らすことが必要です。

接客業でのヒヤリハット

接客業でも事故は起こりえます。一例として、バックヤードで清掃作業をする際、漂白剤が入っていたボトルをしっかり洗浄しないまま別の洗剤を入れてしまうケースがありました。塩素系の漂白剤と酸性の洗剤が混ざると、化学反応により塩素ガスが発生します。すぐに換気したことで事なきを得ましたが、身体に悪影響を与え、命の危険さえある状況です。
同様の問題を避けるためには、洗剤などの使用時はボトルのラベルをチェックする、空き容器に別の洗剤を入れない、塩素系または酸性の洗剤を使用した後は水でしっかり流す、といった対策があります。

ヒヤリハット報告書とは

ヒヤリハット報告書は、その事象を経験した当事者が、その状況や原因、対策などの項目を記載し、共有するための文書です。
一度ヒヤリハットが発生した場合、今後同様のヒヤリハットが二度と起きないように対策を立てることが、労働災害予防の観点から重要です。しかし、ミーティングの際に口頭で報告するだけでは、限られた出席メンバーにしか共有できません。

ナレッジの蓄積のためにも、「ヒヤリハット報告書」を活用することは有益です。個人のヒヤリハットを組織やチームメンバーに効率的に共有するのに便利なため、さまざまな業種で用いられています。
文書化することで、将来同じ職場で働くメンバーを含め、全てのメンバーに共有しやすくなります。また、ヒヤリハットの発生箇所、発生頻度、発生原因などを分析したり、分析結果から再発防止策を検討したりするのも容易になるでしょう。

ヒヤリハット報告書の書き方

では、ヒヤリハット報告書の具体的な書き方について、介護現場での記入例を交えながら紹介しましょう。
前提として、まずヒヤリハットが発生した事象を以下のように「5W1H」に分解します。そうすることでヒヤリハットについて、必要な情報を漏れなく、わかりやすく整理できるためです。

  • When(いつ?)
  • わかる範囲で、ヒヤリハットが発生した時間について具体的に書きます。
    (例)「2022年6月30日 10時15分」など

  • Where(どこで?)
  • ヒヤリハットが起きた具体的な場所について書きます。
    (例)「寝室」など

  • Who(誰が?)
  • 主体は誰なのかを書きます。
    (例)「佐藤○○様」など

  • What(なにを?)
  • 対象となる物や行動について書きます。
    (例)「ベッドから落ちそうになっているところを発見」など

  • Why(なぜ?
  • ヒヤリハットが起きた原因について書きます。
    (例)「ベッドの柵をつけ忘れた上、30分ほど目を離していたため」など

  • How(どうした?)
  • ヒヤリハットについてどう対処したかを書きます。
    (例)「ベッドに戻して、柵をつけた」など

ヒヤリハット報告書の書き方のポイント

前述したように、ヒヤリハット報告書は、5W1Hの要素を軸にして情報を整理します。では、他にどのようなポイントを押さえると、よりよい報告書になるでしょうか。

客観的事実に基づくようにする

ヒヤリハットは、「ヒヤリ」「ハッと」した事象を取りあげているため、報告書にも当事者の心情などをつい盛り込んでしまいがちです。しかし、報告書を作成する目的は、労働災害につながる可能性がある事象を分析し、再発を防止することにあります。
そのため、主観は交えず、あくまで客観的な視点で、発生時に見聞きした事実のみを記載するようにしましょう。もし記憶があいまいであれば、正確に覚えている範囲で構いません。
また5W1Hのうち「Why」は推測が含まれやすい項目です。その際は、「恐らく…のためと思われる」といったように、推測であることを明示しましょう。できれば、推測の根拠も書いておくと、信頼性のある報告書になります。

根本的な原因を考察する

今後の再発防止を図るためには、なぜヒヤリハットが発生したのかといった、根本的な原因を探ることも重要です。
例えば、「人」に由来する原因としては、寝不足やチェック漏れなど、「設備」に関しては機械の故障や点検不足が考えられます。「環境」については資材が整理整頓されていなかったこと、「方法」については、作業フローの誤りなどが挙げられるでしょう。
原因はひとつとは限らず、複数の要素が直接的原因になっている場合や、直接的原因のほかに間接的原因もある場合もあります。考えられる原因をさまざまな切り口から洗い出すことが必要です。

具体的な対策・改善案を提示する

ヒヤリハットの原因を考察したあとは、それに基づいて、再発防止となる具体的な対策案や改善方法を検討します。例えば、「チェック漏れ」が原因であれば「複数人でのダブルチェック体制を築く」、「機械の故障」によるものであれば「点検頻度や項目を最適化する」、「作業フローの誤り」なら「作業フローやマニュアルをわかりやすいものに修正し、改めて共有する」などが考えられるでしょう。
ヒヤリハットが発生した原因について、本来どう対処すれば発生を防げたのかを考えることで、具体的な対策を立てられます。ヒヤリハットをただの反省で終わらせるのではなく、再発防止に活用できるのです。

分かりやすい言葉で専門用語は避ける

ヒヤリハット報告書は、経験した当事者の周囲にいるスタッフや社内の関係者だけではなく、場合によっては社外の人と共有する際にも使われます。例えば、介護の現場で、被介護者の家族の方に状況を説明する際などです。
そのため、できるだけ専門用語や省略語は使わず、社外の人を含めて誰が見てもわかりやすい報告書となるように記載する必要があります。平易な言葉を使い、5W1Hを軸に簡潔な文にまとめることを心がけましょう。

まとめ

ヒヤリハットは、業種や個人の経験値にかかわらず起きる可能性があります。適切にヒヤリハット報告書を作成し、共有する仕組みづくりが大切です。しかし、情報の共有や対策の運用には手間がかかることから、「Teachme Biz」といったマニュアル作成・共有システムを活用するのも一案でしょう。

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