実施すべき労働災害対策とは?労働災害の原因も解説

一度でも労働災害が発生すると、従業員の心身に大きな影響を及ぼすだけでなく、業務の生産性低下も招く恐れがあります。そのため、企業において、労働災害への対策は必須です。
本記事では、労働災害の概要や原因、具体的な対策例などを解説します。これから労働災害対策の実施を検討しているものの、具体的にどのような施策を実施すればよいのか悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
労働災害とは
労働災害とは、労働者が業務中、または通勤中に被った負傷、疾病、障害、あるいは死亡を指します。具体的には、以下のような事故や事例が労働災害として挙げられます。
| 労働災害例 | 労働災害の概要 |
|---|---|
| 転倒 | 床の濡れで滑ったり、段差につまづいたりすることで転倒した |
| 転落 | 建設現場の足場やトラックの荷台などの高所から落下した |
| 業務中の熱中症 | 夏場の猛暑の中、十分な空調のない屋内や屋外での現場作業中に熱中症で倒れた |
| 業務上のメンタルヘルス | 上司からの過度なパワハラにより、うつ病を発症した |
令和6年に公表された統計によると、休業4日以上の労働災害は4年連続で増加しており、年間13万人を超えています。
企業や組織には従業員の心身を守るためにも、労働災害の対策が必要になるでしょう。
出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」
労働災害の原因
労働災害の原因は人的要因や作業要因など、いくつかの種類に分類されます。効果的な対策を実施するうえでも、労働災害の原因を把握しておきましょう。
人的要因
人的要因とは、労働者個人の行動や心理状態、スキル不足などが原因にあるものを指します。
慣れや注意力の低下などは、正常な判断や認知を妨げ、労働災害を引き起こす原因となります。
| 人的要因の例 | 発生する労働災害の例 |
|---|---|
| 納期やノルマによる焦り | 急いで搬送しようとフォークロアを急旋回させ、荷崩れや横転を起こす |
| 正しい作業手順を知らない | 化学物質の正しい取り扱いを知らず、保護具をつけずに作業して熱傷を負う |
| 睡眠不足で注意力や集中力が不足 | 重機の運転中に一瞬の意識混濁(居眠り)を起こし、周囲の作業員をはねる |
作業要因
作業要因とは、作業の方法や手順などに起因する要因を指します。
「これくらいなら大丈夫」という判断や安全意識の欠如から、意図的に危険な方法で作業をしたり、決められたルールを破ったりすることは労働災害を招く原因のひとつです。
| 作業要因の例 | 発生する労働災害の例 |
|---|---|
| 「これくらいなら大丈夫」と安全確認の手順を飛ばす | 周囲に人がいないかを確認せずに、クレーンを動かし、資材と壁の間に作業員を挟む |
| 作業効率を上げるために、非常停止スイッチを操作できない状態にする | エラー解除の手間を省くため安全装置を無効化しており、詰まった資材を除去しようとした際に機械が突然作動し、手を巻き込まれる |
| ヘルメットや安全帯、保護メガネなどの着用を怠ったり、正しく装着しなかったりする | グラインダーでの作業時に保護メガネをつけておらず、散乱した金属粉が目に刺さる |
設備的要因
設備的要因とは、業務で使用する機械や設備、装置の不備・不具合に起因する要因です。機械の老朽化や点検不足による突発的な誤作動なども、以下のような労働災害を引き起こします。
| 設備要因の例 | 発生する労働災害の例 |
|---|---|
| プレス機のブレーキが摩耗しており、踏んでから止まるまでにタイムラグがある | 異変に気付いてペダルを踏んだが機械がすぐに止まらず、金型に手が挟まれて骨折・切断する |
| コンベアのベルトが劣化してひび割れているが、交換せずそのまま稼働させている | 稼働中にベルトが突然破断して跳ね上がり、近くにいた作業員の顔面を直撃して負傷する |
| 回転する刃物や歯車部分に、巻き込み防止用の「安全カバー(覆い)」がついていない | 作業中にバランスを崩してよろめいた際、露出していた歯車に衣服や手が巻き込まれる |
環境的要因
環境的要因とは、労働者が業務を行う作業環境や作業場所の整備状態に起因する要因です。作業場の整理整頓が不十分、床が水で濡れている、などの状態は労働災害を引き起こします。
| 環境要因の例 | 発生する労働災害の例 |
|---|---|
| 給排水や油の漏れを放置し、通路の床が常に濡れて滑りやすくなっている | 荷物を運搬中に濡れた床で足を滑らせて転倒し、床に腰や頭を強く打ち付けて骨折する |
| 機械の電源コードやエアーホースが床に這ったまま放置されている | 通路を歩行中に床のコードに足を取られてバランスを崩し、近くの機械や壁に激突して負傷する |
| 倉庫の電球が切れたまま放置され、足元や手元が薄暗い | 足元の段差や障害物が見えず躓く、あるいは手元が見えず作業ミスで負傷する |
組織的要因
組織的要因とは、企業の管理体制や組織の運営方法、企業風土に起因する要因です。経営陣の安全意識やリスク管理の仕組み、労務管理の在り方なども、労働災害を引き起こす原因のひとつです。
| 組織要因の例 | 発生する労働災害の例 |
|---|---|
| 組織全体で業務上の安全ルールが整備されていない | クレーン作業の合図や合図者が決まっておらず、各自のタイミングで荷を動かした結果、荷の下敷きになる |
| 適切な労働時間管理が行われておらず、長時間労働が常態化している | 連日の残業や休日出勤による極度の疲労・睡眠不足から、うつ病を発症する |
| 新人への教育や具体的な指示が不足している | 危険性の教育を受けないまま未経験の機械操作を任され、安全な止め方がわからずに可動部に手を巻き込まれる |
労働災害を対策すべき理由
労働災害を対策すべき理由として、法的義務を遵守するため、業務効率を維持するためなどが挙げられます。企業内での労働災害対策が十分でない場合は、これらの基礎をしっかりと理解しておきましょう。
労働者を心身ともに保護するため
労働災害は労働者の負傷や疾病、最悪の場合、死亡を招くこともあるため、対策することで労働者の心身の保護につながります。
職場での転倒や機械への巻き込まれ、高所からの転落や腰痛などは、本人がケガをするだけでなく、職場全体にも大きな緊張感を与えます。また、労働災害が起きるかもしれないと業務に対して不安や恐怖心をもち、生産性が低下する恐れもあるでしょう。
床の清掃や機械の安全カバー装着、保護具の着用といった労働災害対策を徹底することで、従業員全員が不安なく働ける職場環境を構築できます。
法的義務を遵守するため
労働災害対策を実施することで、労働安全衛生法や労働基準法などで定められた基準をクリアし、企業としての責任を果たせるようになります。労働災害では以下のような法律が関わります。
- 労働安全衛生法:安全衛生管理体制の整備や危険防止措置、安全衛生教育の実施を事業者に義務付ける
- 労働契約法:事業者は労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をする義務がある
- 労働基準法:労働条件の最低基準を定め、長時間労働や過重労働の防止を求める
労働災害対策が不十分だと、事業者・経営者に対して罰金や懲役刑が科される場合があります。
以下の資料では労働基準法の遵守に向けて、勤務間インターバルの確保や就業時間外の連絡の制限などへの具体的な対応策について解説します。何から手を付ければいいのかわからないという方は、ぜひ参考にしてみてください。
【社労士監修】労基法改正の議論を見据えて~現場崩壊を防ぐ業務標準化とマニュアル活用術~
業務効率を維持するため
労働災害が発生すると、人員不足や稼働停止によって業務効率の低下を招きます。
「安全対策を徹底すると、業務効率を下げる」と誤解されることも珍しくありません。しかし、実際には労働災害が発生した際には以下のような事態が発生し、現場の業務効率を低下させます。
- 人員不足と負担増:現場の担当者が離脱することで全体の生産性が落ち、残された従業員への負担が増えて作業ミスが誘発する
- 現場の稼働停止: 事故原因の調査や安全確認のため、ラインや現場が一時的にストップする
- 事後処理への対応:労働災害について、労働基準監督署への報告書の作成、再発防止策の策定など、管理職の時間と労力が奪われる
労働災害対策を徹底することで、業務の中断をなくし、安定して高い生産性を維持できるようになります。
労働災害の対策例
労働災害の対策例として、作業前には必ずKY活動を行う、業務マニュアルを導入するなどが挙げられます。労働災害の原因別に、どのような対策が効果的なのかを把握していきましょう。
【人的要因】作業前には必ずKY活動を行う
組織全体で作業前にはKY(危険予知)活動の実施を義務付けるようにしましょう。KY活動とは、作業開始前に「どのような危険が潜んでいるか」を現場のメンバーで話し合い、それを回避する対策を共有する取り組みです。
具体的には、作業開始前の朝礼やミーティングで、以下の項目について話し合います。
| 何をするのか | 概要 |
|---|---|
| 現状把握 | 「この作業、この場所にはどのような危険があるか?」を全員で出し合う |
| 本質追究 | 洗い出した危険の中から、とくに重要な「危険のポイント」を絞り込む |
| 対策樹立 | そのポイントを解決するための具体的な対策案を話し合う |
| 目標設定 | その日の安全目標を決め、作業前には「〇〇よし!」の指差し呼称で確認する |
従業員全員が「今日の作業で何が危ないのか」を再認識し、業務中の油断や注意不足などをなくし、労働災害を未然に防止できるようになります。
以下の記事ではKY活動の進め方や記入例などを解説しています。どのようにKY活動を実施すればいいのか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
▼あわせて読みたい
KY活動とは? 進め方・活動表の記入例・ネタ切れを防ぐ方法
【作業要因】業務マニュアルを導入する
安全で効率的な作業方法を明文化し、誰が作業しても安全に業務を進められる状態にするのもおすすめです。正しい作業手順だけでなく、以下のような安全に関する項目も記載します。
- 各作業工程における「これをやると危険」「ここには手を触れない」といった禁止事項や注意点を理由とともに明記する
- 作業時に着用すべき服装や保護具、使用すべき工具を明示する
- 以上やエラーが発生した際の対応方法を記載する
業務マニュアルを整備することで、従業員全員が正しい作業方法を把握し、組織全体で安全に業務を進められる体制が構築できます。
【設備的要因】機械設備のメンテナンスを常習化する
機械設備の点検や保守、修理を日常の業務フローに組み込み、習慣化しておきましょう。具体的には、以下のような取り組みを実践するのがおすすめです。
- 定期点検計画の作成:機械の種類や使用頻度に応じて、点検頻度や項目を定めた計画を作成する
- 点検スケジュールの作成:日次・週次・月次・年次ごとに点検すべき項目を決める
- 消耗品の定期交換:完全に壊れる前に、稼働時間や期間に応じて部品の交換を定期的に行う
組織的にルールを定めておかなければ、「気が向いたときに実施する」「まだ動くから大丈夫」と問題を先送りにしてしまいます。メンテナンスを習慣化することで、労働災害のリスクを根本から低減できます。
【環境的要因】設備周辺を事故が発生しにくい環境にする
設備そのものだけでなく、その周囲の物理的な作業環境を整えるのも大切です。たとえば、以下の取り組みを実践しましょう。
- 「4S(整理・整頓・清掃・清潔)」の徹底:設備内の清掃を徹底し、通路の障害物や床の水濡れ・油を除去しておく
- ゾーニングを行い安全通路を確保する:床面にラインを引き、歩行者用通路と機械稼働エリア・車両の道路を完全に分ける
- 安全柵の設置:機械の危険な可動範囲に人が物理的に立ち入れないよう柵を設け、物理的に侵入できないようにする
従業員の意識や注意に頼って労働災害対策を徹底するのは限界があります。物理的な取り組みを実践して、労働災害が発生しにくい環境を整えるのが効果的です。
【組織的要因】長時間労働を防止する
企業が組織全体で業務量や労働時間を適切にコントロールし、過度な残業や休日出勤を常態化させないようにしましょう。
単に「残業を禁止する」といったルールを作成するのではなく、業務プロセスや労務管理など、根本的な取り組みを行う必要があります。
- 労働時間を把握する:ICカードやPCのログ記録、勤怠管理システムなどを用いて、全従業員の正確な労働時間を把握する
- 業務の分散と人員配置の最適化を目指す:特定の個人に負担が集中しないよう、複数の従業員への作業分散や人員の補充を行う
集中力や判断力、健康状態などは休息時間に大きく影響を受けます。長時間労働を防止するだけでも、労働災害の原因となる人的要因を取り除くことができるでしょう。
労働災害を対策する際に意識すべきポイント
労働災害を対策する際には、過去のヒヤリハット事例の共有や定期的な業務マニュアルの更新などを意識する必要があります。より効果的な労働災害対策を実施するためにも、これらのポイントを押さえておきましょう。
過去のヒヤリハット事例を記録、共有する
労働災害対策を実施する際には、業務中に発生したヒヤリハット事例を記録し、共有する体制を構築しましょう。
ヒヤリハットとは、労働災害には至らなかったものの、一歩間違えれば重大な事故につながっていたかもしれない「ヒヤリとしたり、ハッとしたりした出来事」です。
「ハインリッヒの法則」によると、1件の重大な事故の裏には、29件の軽傷事故があり、さらにその裏には300件のヒヤリハットが隠れていると言われています。
ヒヤリハット事例を共有し、全員で対策を講じることで、重大な労働災害の発生を未然に防ぐことができるでしょう。
以下の記事では、ヒヤリハットが起こる原因や具体的な対策なども解説しています。ヒヤリハットの理解を深め、対策したいと考えている方はぜひ参考にしてください。
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ヒヤリハットとは? 業種別の事例や報告書の書き方まで解説
また、以下の資料でも製造業におけるヒヤリハット対策の方法をまとめています。ヒヤリハット対策を社内に浸透させる方法も解説しているので、気になる方は以下のリンクより詳細をご覧ください。
\製造業向け/リスクマネジメントしっかりできていますか?~現場を守る!ヒヤリハット対策編~
業務マニュアルは随時更新する
業務手順や安全ルールをまとめたマニュアルを、一度作って終わりにするのではなく、定期的に内容を更新するようにしましょう。
現場の状況や実態は、新しい機械の導入や法改正などに伴い変化し続けます。そのため、更新することなく古いマニュアルのままでは、記載されている内容と現場の実態にズレが生じ、形骸化する恐れがあります。
「半年に1回」「1年に1回」など、定期的にマニュアルを見直す機会を設け、常に最新の状況を反映させましょう。
以下の記事では、定期的にマニュアルを更新する重要性を解説しています。マニュアル改訂の必要性や具体的な進め方などを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
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マニュアル改訂の目的とは?ルール決めのコツや手順を徹底解説
リスクアセスメントを実施して、優先度の高いものから対策する
リスクアセスメントを通して、危険度の高いものや発生頻度の高いものから優先的に対策するのがおすすめです。
リスクアセスメントとは、職場に潜んでいる危険な要素を特定し、危険性や発生確率からそのリスクを評価したうえで、優先度の高いものから対策を講じる手法です。優先度の高いものから対策を講じることで、限られたリソースを効率的に活用し、効果的に労働災害を防止できます。
具体的には以下の手順でリスクアセスメントを実施しましょう。
- 危険性のある要素をリストアップする
- 各要素について危険性の高さと発生確率の高さを掛け合わせて、リスクの度合いを算出する
- リスクの高いものから順に優先度を決定する
- 優先度の高いリスクから対策を実施する
- 対策結果を記録し、内容を見直して改善する
まとめ
従業員の心身を守ったり、法的義務を遵守したりするためにも、労働災害対策は欠かせません。
労働災害には、人的要因や作業要因などが挙げられ、それぞれの要因に対応した対策を実施する必要があります。たとえば、人的要因への対策としては作業前のKY活動の実施が効果的であり、作業要因への対策には業務マニュアルの作成が有効です。
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