日本の労働時間は長すぎる!? 原因と企業にできる対策
日本の労働時間は長すぎる、といった話を耳にしたことがある方は少なくないでしょう。しかし、果たしてその話は真実なのでしょうか。本記事では、日本の労働時間が本当に長いのか、資料をもとに検証します。併せて、長時間労働が発生する原因や具体的な対策についても解説します。
目次
日本における労働時間の動向
日本の労働時間は長すぎる、日本人は働きすぎである、といった声はよく耳にします。これが真実なのかそれとも噂レベルの話なのか、はっきりさせるために公式な資料でチェックしてみましょう。
厚生労働省が公表している「労働経済の分析」は、労働時間や雇用に関する課題と現状を、統計データとして整理した報告書です。令和4年度版の資料によれば、2021年における月間総労働時間は136時間となっています。
こちらの資料で見ると、2013年から2021年にかけて月間総労働時間は減少しています。働く時間が長すぎる、働きすぎとよく耳にするものの、データでは年々減少しているのが現状です。
なお、2021年の総労働時間が136時間なのに対し、前年は135.1時間でした。ここだけを切り取って見ると、労働時間が増えているように感じますが、そうとも言えません。なぜなら、前年の2020年は新型コロナウイルスの感染が拡大した年であり、多くの企業が時短や休業といった選択をしたためです。
世界と比べて日本の労働時間は長いのか
海外の国々と比べると、日本の労働時間は長いと言われること多いものの、実際のところ年間休日数には大きな差はありません。ただ、長時間労働に勤しむ労働者の多さが資料からは窺えます。
年間休日数に大きな差はない
「データブック国際労働比較2022」によると、2020年における日本の年間休日数は138日となっています。これだけでは多いのか少ないのか判断が難しいため、他の先進各国と比較してみましょう。
同年でもっとも年間休日数が多かったのはドイツで、143日となっています。そして、次点にイタリアとフランス、日本が138日で並び、イギリスが132日との結果になりました。このことから、日本は世界の各国と比べて極端に休日が少ないわけではないことが分かります。
ただ、年次有給休暇の数を見ると、世界の先進各国に比べやや少なくなっています。ドイツの年次有給休暇数が30、イタリアとフランスが25、イギリスが20なのに対し、日本は18です。
長時間労働者が多い
「データブック国際労働比較2022」の一人当たり平均年間総実労働時間を見てみましょう。新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2019年を見ると、日本の一人当たり労働時間は1,644時間、アメリカは1,777時間、カナダは1,690時間、イギリスは1,537時間となっています。
データで見ると、一人当たりの平均年間総実労働時間は減少傾向にあります。また、数字だけを見るとそこまで日本人の労働時間が長いようには見えませんが、この調査には労働時間が短いパートタイムの方も含まれています。それを踏まえると、日本の労働時間が少ないとはいえないでしょう。
もうひとつ、厚生労働省が公表している「過労死等防止対策白書」を見てみましょう。資料の「諸外国における週労働時間が49時間以上の者の割合(令和2年)」では、日本は15%となっています。アメリカは14.2%、イギリスは11.4%、フランス9.1%、ドイツ5.9%との結果なので、先進各国と比較して日本の週労働時間は多いことが読み取れます。
日本が長時間労働である原因
長時間労働に陥る原因として、慢性的な業務過多が挙げられます。やることが多すぎて、自然と労働時間が伸びるケースです。また、マネジメントがきちんとできていない、企業文化に問題があるといったケースでもこのような状況に陥りがちです。
業務過多の状態が続いている
業務過多な状態が続いていると、労働時間が長くなりがちです。業務量が多すぎる場合、従業員一人あたりの担当する仕事が多くなり、自然と残業も増えます。十分な数の人員がいればまだしも、そうでない場合には個々の従業員に過度な負担が生じ、健康リスクが発生する懸念もあります。
業務過多な状態が続くと、従業員のモチベーション低下も招きます。どれほど頑張っても先が見えず、いたずらに体力と精神力を消費してしまうため、仕事に対する意欲や組織への愛着を失ってしまい、そのまま離職するケースも考えられるでしょう。
貴重な人材が離職すると、残された従業員にはさらなる負担がのしかかります。その結果、従業員が健康を損ねて休職する、モチベーションが下がり生産性が低下する、離職されるといった悪循環にも陥りかねません。このような状況を打破するには、どこかでこの悪循環に歯止めをかける必要があります。
マネジメントができていない
長時間労働の原因は、管理職のマネジメント不足かもしれません。管理する立場の人間がプロジェクト全体の進捗や部下のタスクを把握できていない、といった状況では長時間労働の原因となりえます。
例えば、プロジェクトの進捗状況を正確に把握できていないと、納期が近づいたタイミングで作業の遅れに気づくかもしれません。このようなケースでは、作業の遅れを取り戻し納期に間に合わせるため、無理な残業を敢行することも考えられます。
また、部下が抱える業務量を把握できていないと、長時間労働を見逃してしまうおそれがあります。部下としては、管理職が何も言ってくれないため、体に鞭打って長時間労働を続けてしまうかもしれません。
十分なマネジメントスキルを有していない人材を、管理職に就かせることで長時間労働が発生する可能性もあります。このようなことが起こらないように、管理職たる知識やスキル、経験が十分かどうかを事前に見極めなくてはなりません。
企業文化に問題がある
長時間労働や休日出勤などを美学と捉えるような企業文化では、従業員の長時間労働が常態化してしまう可能性があります。また、日本では組織への忠誠度や社内での頑張っている姿勢を評価する企業も少なからず存在します。このような企業文化が長時間労働の原因となりえるため、注意が必要です。
組織への忠誠度が評価されるような企業文化の場合、従業員は評価してもらおうと無理な長時間労働に勤しむことは十分考えられます。頑張りが認められ評価されたとしても、そこで味を占めてまた評価してもらおうと長時間働こうとするかもしれません。
繁忙期と閑散期の波が激しい
繁忙期と閑散期の差が激しい企業も、長時間労働が発生しやすいため注意が必要です。このような企業では、閑散期にあわせて人員を配置しているケースが多いためです。
繁忙期にあわせた人員配置にすると、閑散期になったとき人手が余ってしまい、余計な人件費がかかってしまいます。そのため、閑散期を基準に人員を配置し、業務が忙しくなってもそのままの人数でこなそうとする企業が少なくありません。
閑散期に何とか仕事を回せるくらいの人員を配置していた場合、繫忙期になれば手が回らなくなるのは当然です。必然的に個々の従業員に過度な負担がかかってしまい、集中力やモチベーションの低下を招くおそれがあります。
このようなケースでは、せめて繁忙期だけでも臨時的に人材を採用するなどの対策が求められます。そうしないと、従業員に過度な負担がかかるだけでなく、業務品質の低下も招いてしまいます。
長時間労働の対策5つ
長時間労働の発生は生産性の低下や従業員の離職など、さまざまなリスクを招きます。このようなリスクを回避するため、適切な長時間労働対策に努めましょう。対策としては、ツールの導入や新たな勤務制度の採用、評価制度の見直し、コミュニケーション活性化などが挙げられます。
ツールなどを導入し、勤務時間やタスクを見える化する
プロジェクト管理ツールやタスク管理ツール、勤怠管理システムなどのツールを導入すれば、勤務時間や業務量、進捗の可視化が可能です。管理者は部下の業務量や進捗をリアルタイムに把握でき、特定の従業員に負担が集中しているときは、増援を送るといった対処もできます。
プロジェクトやタスクの管理が可能なツールの導入により、業務効率化も図れます。個々の従業員は、自身の仕事がどれくらい進んでいるのか、残りのタスクはどれくらいあるのかといったことを迅速に把握でき、効率的に業務を進められます。効率的に業務を遂行できる環境が整えば、無駄な残業も少なくなるでしょう。
長時間労働の防止に役立つツールは数多くリリースされています。導入の際には、費用だけでなく実装されている機能や特徴、操作性などを確認したうえで検討を進めましょう。トライアル利用が可能なツールであれば、導入前に機能や操作性をチェックできるため安心です。
フレックスタイム制度などを取り入れる
フレックスタイム制のような、残業削減につながりそうな勤務制度を採用するのもひとつの手です。フレックスタイム制は、出社や退社のタイミングを個人の裁量に任せるスタイルの勤務制度です。
フレックスタイム制度のもとでは、従業員が自らの裁量である程度の労働時間を決められます。自分の仕事は終わっているのに定時まで帰れない、といったこともなく、ワークライフバランスの実現にも寄与します。無駄な残業の削減にも効果が期待できるため、導入を検討してみるのもよいでしょう。
ただ、フレックスタイム制度は勤怠管理が複雑になるデメリットがあるため注意が必要です。終業時間が個々の従業員ごとに異なるため、管理が難しくなってしまいます。また、労働時間をきちんと管理できる従業員でないと、かえって生産性の低下を招くおそれがあるため注意が必要です。
評価制度を見直す
日本では、古くから仕事への取り組み方や組織への忠誠心、頑張りなどを評価する企業が多くを占めていました。しかし、このような評価制度では、頑張っている姿勢さえ見せれば評価の対象になりかねず、無謀な長時間労働に及ぼうとする従業員も出てくると考えられます。
長時間労働を防止するため、既存の評価制度を見直すのもひとつの手です。もしかすると、現在の評価制度が長時間労働を発生させる原因になっているかもしれません。
例えば、頑張りではなく成果を評価する制度を導入してみてはいかがでしょうか。また、時間あたりの生産性を評価できる制度も長時間労働の防止に有効です。
成果のみを重視する制度では、従業員が頑張りすぎてしまい、結局長時間労働を生み出す原因となってしまうかもしれません。一方、時間あたりの生産性を踏まえて評価を行うようにすれば、従業員は与えられた時間のなかで最大の成果を出す必要があるため、より効率よく働こうと考えます。
ムダな作業が含まれていないか洗い出し見直す
無駄な作業が含まれていると、余計な手間がかかってしまい労働時間が長くなってしまいます。そのため、業務プロセスを見直し、無駄な作業が含まれていないか洗い出すのも長時間労働対策として有効です。
まずは、取り組んでいる業務を細分化してみましょう。そこから、無駄な作業をピックアップします。もちろん、ただ洗い出すだけではなく、無駄な作業を排除する取り組みが求められます。
必要ない作業であれば、思い切ってカットしましょう。また、無駄ではないものの効率が悪い、といった作業はITツールの導入で効率化を図るのもひとつの手です。例えば、定型業務に時間がかかりすぎているのなら、RPAを導入して自動化する、といった方法が考えられます。
ITツールの導入によって、作業の自動化や効率化が進めば、限られた人員でこれまでと同じ、もしくはそれ以上の成果を生み出せます。人手不足の解消にもつながり、業務品質も向上します。
コミュニケーションを活性化する
チームの連携不足が長時間労働の原因となるケースも珍しくありません。コミュニケーションを適切にとれず、情報の共有が遅れた結果、業務全体が遅れてしまい残業が発生する、といったことが考えられます。
このような事態を回避するアイデアとして、コミュニケーションツールの導入が考えられます。ビジネスチャットやグループウェア、社内SNSなどのコミュニケーションツールを導入すれば、チームのコミュニケーション活性化につながり、スピーディーな情報共有が可能です。
また、ツールだけに頼るのではなく、チームの連携を強化できるような取り組みも求められます。例えば、チームの結束を図るため定期的に食事会を開く、週に一度は対面でのチームミーティングを行うなど、メンバー同士が交流を図れる環境を作ってあげるとよいでしょう。
チームのコミュニケーションが活性化すれば、情報の伝達や共有が遅れることもなくなり、スムーズに業務を進められます。また、メンバー同士で気軽に話ができる雰囲気が生まれれば、誰かが困っているとき相談にのる、手助けするといったことができ、協力しつつ業務を進められるため長時間労働の解消につながります。
長時間労働は生産性の低下や従業員の離職にもつながるため、適切な対策をしましょう。「Teachme Biz」を導入すると、簡単に業務のマニュアル作成、共有、分析ができます。マニュアルによって業務を可視化し、その利用状況を分析し改善していくことで業務効率化ができ、長時間労働の解消にも役立ちます。
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