労働人口減少の対策とは? 日本の現状や働き方改革の進め方を紹介
昨今多くの日本企業が人手不足に悩まされていますが、その背景のひとつにあるのが労働人口の減少です。この問題は少子高齢化が進行するとともに、今後ますます深刻になっていくと予測されます、そこで本記事では、現在における労働人口のデータや、将来さらに深刻化する働き手不足に備えてどのような対策をすべきなのかなどを解説します。
目次
現在の日本の労働人口のデータ
少子高齢化が進行している日本において、社会を支える労働人口は現在どれほど存在するのでしょうか。また、一見同じような意味に思える「労働力人口」と「生産年齢人口」という言葉には、どのような違いがあるのでしょうか。
労働力人口と生産年齢人口の違い
労働力人口とは、15歳以上の人口のうち、就業者と就労意欲のある失業者を合算した人口です。就業者とは収入を伴う仕事を調査期間中に 1時間以上行った人を指すため、正社員などのフルタイム労働者だけでなく、アルバイトやパートなども含まれます。年齢制限もありませんので、学生やシニアのアルバイトなども含まれます。なので、何らかの仕事に就いている人、または就こうとしている人の実数値に近いのが労働力人口です。
これに対して生産年齢人口とは、単純に15歳以上65歳未満の年齢層の人口を意味します。ここには学生や専業主婦(夫)など、仕事をしていない人も含まれるうえ、65歳以上の労働者の存在は想定されていないので、労働者全体の実数を正確に反映しているとは言えません。しかし、生産年齢人口にあたる層は年齢的な面からみて社会を支える中核層であるため、これが減っていくことは非常に大きな問題です。
労働人口は減少が続いている
総務省統計局のデータによれば、2022年5月時点で日本の生産年齢人口は約7,420万人とされています。同時期の日本の総人口は約1億2,507万人なので、現在における日本の総人口に占める生産年齢人口の割合はおよそ60%です。
参照:人口推計(令和4年(2022年)5月確定値、令和4年(2022年)10月概算値)
7,420万人というと多いように思われるかもしれませんが、ピーク時の日本の生産年齢人口は1995年の 8,716 万人でした。そこから考えると、30年も経たないうちに日本の生産年齢人口は、約1,300万人、15%近く減少したことになります。しかも、この生産年齢人口の減少は、少子高齢化に伴って今後もますます進行していくことが確実です。
たとえば厚生労働省の資料「平成28年版労働経済の分析」によれば、2060年の総人口は8,674万人、生産年齢人口は4,418万人にまで落ち込むと予測されています。現在の生産年齢人口と比較して、実に3,000万人近くも減ることになります。その一方、同じく2060年には65歳以上の高齢人口が3,464万人に及ぶと予測されており、大きく労働人口が減少していく一方で、増大する社会保障費をどのように維持していくのかが喫緊の課題となっています。
労働力不足の背景
昨今多くの日本企業が人手不足問題を抱えています。その理由は、上記の「生産年齢人口の減少」のほか、「有効求人倍率の上昇」や「都市部への人口一極集中」なども影響した複合的なものです。
生産年齢人口の減少
日本全体で労働力不足を引き起こしている主因が、すでに紹介した生産年齢人口の減少です。労働市場における主力年齢層である生産年齢人口が国規模で大幅に減少すれば、当然人手の確保は難しくなります。労働力という限られたパイを奪い合う人材獲得競争に負けた企業は、高齢化によって社員が退職していく穴を埋められずに人手不足に陥りやすくなります。
有効求人倍率の上昇
有効求人倍率の上昇も人手不足の理由です。有効求人倍率とは、1人の求職者に対して何件の求人件数があるか平均化した数字です。有効求人倍率が増えることは求職者にとってはありがたいことですが、企業にとっては自分の会社が選ばれない可能性を高めることになります。
厚生労働省の資料によれば、日本の有効求人倍率は、1990年代にバブル崩壊、2009年にはリーマンショックの影響を受けて大きく低迷し、一時は0.4倍にまで落ち込みました。しかし、その後は上昇に向かい、2010年代後半には1.5倍付近で推移するまでに持ち直します。2020年以降は新型コロナウイルスの影響を受けて再び倍率が低下しましたが、現在では再び上昇に転じています。
参照:国内統計:有効求人倍率
有効求人倍率の上昇の影響は、特に人気の低い業界や中小企業において顕著です。たとえば、「平成28年版労働経済の分析」によれば、「運輸業・郵便業」「宿泊業・飲食サービス業」「医療・福祉」における人手不足感が高まっているとされています。また、「技能工」や「単純工」などの職種は、景気の影響も受けやすいようです。
参照:労働経済の分析
都市部への一極集中
地方の企業にとっては、都市部への人口一極集中も人手不足に拍車をかける大きな原因になっています。日本は、東京・名古屋・大阪の三大都市圏に人口が極度に集中しています。特に東京の人口過密状態は著しく、国土交通省の資料によれば東京都を中心に構成される首都圏の総人口は2020年時点で4,434万人と、日本の総人口の30%以上を占めています。
参照:首都圏整備の状況
こうした結果、三大都市以外の地域は慢性的な転出超過に陥っており、人手不足になりやすくなっています。人が少なくなればその分地域の産業は衰退し、それがさらに人手の流出を煽るという負のスパイラルが地方経済の大きな課題です。
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将来の人口予測
日本の将来における労働力減少はどのように進行していくのでしょうか。見通しをつけ、対策をとるためにも、将来の人口予測を理解しておくことは重要です。
将来の労働人口予測
すでに述べたように、少子高齢化に伴って将来の労働人口は加速的に減少していくことが予想されます。総務省の「平成28年版情報通信白書」によると、日本の総人口は2030年に1億1,662万人、2060年には8,674万人まで減少すると予測されています。そしてそれに伴い、生産年齢人口である15~64歳の人口は、2030年に6,773 万人、2060年には4,418 万人へと減少していくとされます。14歳以下の人口は1982年から一貫して減少し続けており、少子化に歯止めをかけられていないのが現状です。
参照:平成28年版情報通信白書
出産年齢の女性も減少する見込み
日本の総人口が減少すれば、当然それに伴って25~39歳の女性も減少していきます。子どもを産む可能性が高い年齢の女性が少なくなれば、人口減少がさらに加速するのは自明でしょう。特に日本においては、出生率(ひとりの女性が生涯で出産する子どもの数の平均値)が非常に低くなっているのでなおさらです。
厚生労働省のデータによれば、日本の出生率は1970年代の第二次ベビーブーム時には2.0を超えていたものの、それ以降は減少に転じて、2019年には1.36にまで低下しています。一般に人口を維持するには出生率が2以上は必要であるため、現状の数字はかなりの危険水準です。
少子化(出生率の低下)の背景には、女性の社会進出が関係しているという指摘が多くされています。実際、家庭よりも職場優先という風潮が強い日本の企業風土はまだまだ根強く、保育サービスの不充実や旧弊の男女観の影響などもあり、女性が子育てをしながらキャリアアップを目指すのは難しいのが現状です。また、核家族化によって実家の援助を受けるのが難しくなったことや、教育コストの増大、老後の生活に対する経済的不安なども原因として挙げられるでしょう。こうした問題をただちに解決するのは難しく、出生率が今後急激に好転するとは期待しにくいのが実情です。
労働人口の減少による影響
労働人口の減少、ひいては人手不足が深刻化することによって、企業にはどのような影響が生じるのでしょうか。代表的なものとしては、労働環境の悪化や事業の縮小などが挙げられます。
労働環境の悪化
人手不足によって最初に顕在化するのが、労働環境の悪化です。従来よりも少ない人数で、既存の業務をこなし続けようとすれば、一人当たりの労働負担は当然大きくなります。その結果、時間外労働や休日出勤が増えてワークライフバランスが崩れ、余裕のなさから職場の雰囲気も悪くなり、その結果さらに多くの人が離職していくという負のスパイラルに陥りやすくなります。従業員に負担がかかりすぎれば、ヒューマンエラーによるミスや事故の増加、従業員の心身の健康が害されるリスクが高まることも懸念されます。
事業の縮小
人手不足が深刻化していけば、いくら従業員が頑張っても既存の業務をこなすのが難しくなるため、事業の縮小をせざるをえません。既存の業務はなんとかこなせる場合でも、新規事業を立ち上げる余力まで確保することは難しくなるでしょう。
競争力の低下
労働環境の悪化や事業の縮小は、最終的に企業の競争力低下を招きます。たとえば、労働環境の悪化は、従業員のモチベーション低下へつながり、一人当たりの労働生産性さえ下げてしまうおそれがあります。また、本来主力となって事業を牽引していく中堅以上の社員も、人手不足によって雑務に忙殺されるようになり、イノベーションを起こすような創造的な仕事へ集中しにくくなるでしょう。
また、既存の基準では人材の採用が難しくなった場合、新入社員の質の低下や人件費の増加なども避けられないかもしれません。離職が増えれば、中途採用にかかるコストも増大します。このように、労働力の減少は企業やその社員をさまざまな面から圧迫し、競争力や成長の可能性を阻害することになります。
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労働人口減少の対策として企業ができること
上記のような事態を避けるには、既存の従業員が「この会社に長く勤めたい」と願い、求職者が就職先として魅力を感じるような職場でなければなりません。そのために企業はどのような対策をとるべきなのでしょうか。企業ができる労働人口減少の対策としては、以下のようなものがあります。
そもそも働き方改革とは何か知りたい方は、上記を確認してから下記を読み進めてみてください。
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長時間労働を解消する
まず挙げられる対策は、長時間労働の是正です。長時間労働は従業員のワークライフバランスや心身の健康を損ない、仕事へのモチベーションや労働生産性を低下させる原因になります。また、求職者にとっても、長時間労働が横行している企業は敬遠したい対象です。したがって、働き方改革の一環として、まずは労働時間の短縮を目指しましょう。具体的な対策としては、不要な作業の洗い出し・見直しや外注による業務のスリム化、あるいはフレックス制の導入などが挙げられます。
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ダイバーシティを推進する
ダイバーシティの推進も効果が期待できる施策です。ダイバーシティとは日本語で「多様性」のことで、さまざまな属性や背景を持った人が一緒に働きやすい職場にすることを意味します。たとえば女性や障害者、高齢者、外国人など、従来活用しきれていなかった人材に広く活躍の場を与えることで、人手不足を緩和しやすくなります。
多様な人材を雇用することで、さまざまな考え方や価値観による化学反応が生じ、イノベーションが創出しやすい職場になることも期待できます。ダイバーシティを促進するには、さまざまな事情を持った人達に配慮して、社内の制度や働き方などを整備し直すことが重要です。
ワークライフバランスの支援を行う
長時間労働の是正やダイバーシティの促進にも通じることですが、ワークライフバランスを改善する支援を行うことも大切です。ワークライフバランスの改善とは、仕事とプライベートの双方を両立できるようにすることを意味します。
たとえば、時短勤務やテレワークによる柔軟な働き方の導入、産休・育休制度の充実などがその一例です。また、制度を整えても、職場の雰囲気がその利用にネガティブであれば実際の効果は薄くなってしまうので、経営層や管理職も含めた意識改革も同時に進めることが重要です。ワークライフバランスを整えることは、求職者へのアピールと離職の防止になります。
業務効率化に取り組む
人手不足対策としては、業務効率化も欠かせません。人手不足のなか、従業員に過度の負担を与えないようにしつつ事業を継続するには、従来よりも少ない時間や労力で多くの成果を出せるような仕組みを構築することが必要です。
業務効率化のポイントとなるのは、作業・時間・コストの3つの観点から無駄を減らすことです。業務プロセスや経理状況などを点検し、社内に潜む無駄を可視化することから始めましょう。
IT技術を利活用する
業務効率化と関連して、IT技術の利活用も人手不足対策の鍵になります。たとえば、RPAのようなITツールを活用すれば、PCで行う単純な定型業務をシステムが自動で処理してくれるようになります。これは業務の省人化や迅速化、ヒューマンエラーの抑制などにつながる施策です。従業員はこの自動化によって空いた時間を、より創造的な仕事に充てられるようになるので、生産性の向上も見込めます。
また、クラウドツールやWeb会議システムを活用すれば、従業員は社外からでも業務を行い、会議にもオンライン上で参加できるので、テレワークの浸透もすすみます。このように、ITツールの導入は、人手不足対策のさまざまな側面に役立てることが可能です。ただし、ITツールを活用していくうえでは、それを有効活用できるような組織改革も重要になってきます。
まとめ
少子高齢化に伴う労働人口の減少はすでに始まっており、今後はさらに加速していくと考えられます。
人手不足が深刻化すると労働環境は悪化し、事業の縮小や競争力の低下が起こるなど、ますます企業の存続が難しくなります。
また、従業員に「この会社で長く働きたい」と思ってもらえるような職場にするためにも、企業は、早めに人手不足対策を進めていくことが重要です。
業務効率化やITツールの活用など今できることから対策を行い、より良い環境づくりを行っていきましょう。
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