TPM活動とは?ロスを防ぐ8本柱と具体的な進め方を解説
製造業において、設備の稼働率を向上させ、生産効率を最大化することは重要な課題です。その解決策のひとつがTPMです。TPMは、設備の予防保全を強化しながら、現場の生産性を最大限に引き出すことを目的にしています。
本記事では、TPMの基本概念や、ロスを防ぐ「8本柱」の詳細、それを実践するための具体的なポイントについて解説します。
目次
TPM(Total Productive Maintenance)とは?
TPMとは、製造現場や設備に発生するロスを未然に防ぎ、最終的にゼロにすることを目指す生産保全活動です。設備の維持・改善を通じて生産効率の向上を図ることを目的としており、現場の作業員が主体的に関与する点が特徴です。
この活動は、1971年に社団法人日本プラントメンテナンス協会によって提唱されました。現在では、自動車部品や電子機器、食品など、多くの製造業で導入が進んでおり、設備の安定稼働と品質向上を実現するための手法として定着しています。
なお、「TPM活動」という表現が使われることもありますが、TPM自体に「活動」の意味が含まれるため、本記事では「TPM」と表記します。
実施の目的
TPMの目的は、ロスを未然に防ぎ、設備の安定稼働を実現することで生産ラインの効率を向上させることです。設備の故障や不具合が発生すると、生産が停止し、納期遅延やコスト増加の原因となります。そのため、日常的な保全活動を通じて予防的なメンテナンスを行い、計画外のトラブルを防ぐことが重要です。
TPMの導入により設備のパフォーマンスを最大限に引き出せるため、生産性の向上が期待できます。さらに、品質のばらつきを抑え、不良品の発生を減らすことで、結果として品質向上や企業の競争力強化にもつながります。
TQMとの違い
TPMと混同されやすい概念として、TQM(Total Quality Management)があります。TQMは、企業全体の品質向上を目的とするマネジメント手法であり、製品の品質だけでなく、生産プロセスや組織全体の改善にも取り組む点が特徴です。
一方、TPMは設備の維持管理に焦点を当て、設備の安定稼働と生産ロスの最小化を目指します。つまり、TQMが「品質」を軸にした包括的な改善活動であるのに対し、TPMは「設備管理」を通じて生産効率を向上させる活動です。どちらも企業の競争力向上に重要ですが、それぞれの目的やアプローチが異なるため、適切に使い分けることが求められます。
TPSとの違い
TPS(Toyota Production System、トヨタ生産方式)は、トヨタ自動車が確立した生産管理手法であり、主に「ジャストインタイム」と「自働化」の二つの考え方を柱としています。ジャストインタイムは、「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ生産する」という考え方です。自働化は、異常が発生した際に、機械が自動で生産を停止し、または作業者がラインを止めることで、不良品を作らない仕組みです。
一方、TPMは設備のメンテナンスを通じて生産ロスを削減することを目的としており、TPSの実現を支える要素のひとつとされています。TPSでは効率的な生産システムの構築が重要ですが、そのためには安定した設備稼働も欠かせません。TPMとTPSは相互に補完し合う関係にあり、併用することで生産効率をさらに向上させることが可能です。
TPMで定義される生産システムの「ロス」
TPMは、製造現場の生産性を最大限に高めるために、さまざまなロスを定義し、それらを削減することを目的としています。以下では、「設備」「人」「原単位」という3つの側面から、それぞれのロスを解説します。
「設備」の効率化を阻害するロス
TPMでは、設備の効率化を阻害するロスとして、「設備が正常に稼働できなくなるロス」「調整のために停止するロス」など以下の8つを定義しています。
- 故障ロス:突発的・慢性的な設備の故障(修理に5~10分以上かかる)による生産停止の時間ロス、不良発生による物量ロス
- 段取り・調整ロス:製品の切り替えや調整にかかる時間ロス
- 刃具交換ロス:摩耗した工具や部品の交換による生産中断の時間ロス、不良発生や手直しによる物量ロス
- 立ち上がりロス:新たな生産開始時の試運転や調整にかかる時間ロス、不良発生や手直しによる物量ロス
- チョコ停・空転ロス:ワークの詰まりや引っかかりなど、修理や部品交換を伴わない短時間(5分以内)の時間ロス
- 速度低下ロス:設備が設計上の最大速度で稼働しないことによる時間ロス
- 手直し・不良ロス:設備の不具合による不良品の発生による物量ロス、修正作業にかかる時間ロス
- シャットダウン(SD)ロス:設備の定期点検やメンテナンスによる時間ロス、設備の立ち上げに伴う物量ロス
こうした設備面のロスを最小限に抑えるには、計画的なメンテナンスの実施が不可欠です。設備が安定して稼働できる環境を整えることで、生産ラインの中断を防ぎ、効率的な製造を実現できます。
「人」の効率化を阻害するロス
生産現場の効率向上には、設備管理だけでなく、作業者の動きにも注目する必要があります。人の作業が非効率では、設備のパフォーマンスを最大化しても生産性は向上しません。そのため、TPMでは人の効率化を阻害するロスとして、以下の5つを定義しています。
- 管理ロス:作業の指示待ちや情報伝達の遅れによる時間ロス
- 動作ロス:不要な動きや物の探し回りによる時間ロス
- 編成ロス:作業の割り当てが適切でないことによる時間ロス
- 自動化置き換えロス:本来自動化できる作業を手作業で行うことによる時間ロス
- 測定調整ロス:不良品防止のための測定や検査作業により生産が停止する時間ロス
作業環境の整備や適切な人員配置、業務の自動化推進によって、これらのロスを削減し、生産効率を向上させることが重要です。
「原単位」の効率化を阻害するロス
生産には原材料やエネルギーといった資源が必要です。しかし、これらの資源が適切に管理されていない場合、無駄が発生し、コスト増加や環境負荷の増大につながります。そのため、TPMでは「原単位の効率化を阻害するロス」として、以下の3つを挙げています。
- 歩留まりロス:素材重量と製品重量の差、素材投入総量と製品重量の差による物量ロス
- エネルギーロス:電力や燃料などのエネルギーの過剰消費によるロス
- 型・治工具ロス:製造に用いる金型や治工具の制作・補修によるロス
これらのロスを削減するためには、生産工程の最適化、エネルギー管理の徹底、定期的な設備保守が不可欠です。資源を有効活用することで、生産コストの削減と環境負荷の軽減を同時に実現できます。
TPM活動を構成する8つの柱
TPMの中核となるのが、「TPMの8本柱」と呼ばれる取り組みです。特定の分野に偏るのではなく、包括的に取り組むことが重要です。以下では、それぞれの活動が果たす役割について解説します。
個別改善
生産現場では、設備や生産プロセスごとに異なるロスが発生します。個別改善とは、それらのロスを特定し、継続的に改善を進める取り組みです。
例えば、特定の設備で頻発するトラブルを分析し、根本的な原因を解決することで稼働率を向上させることが可能です。また、生産ライン全体の作業フローを見直し、不要な手順を削減することで、作業効率の向上にもつながります。
自主保全
自主保全とは、現場の作業者が自ら設備の点検や簡単なメンテナンスを行う取り組みです。一般的に設備の保全は専門の技術者が担当しますが、日常的な点検や軽微な調整を現場の作業者が行うことで、設備の異常を早期に発見し、大きな故障を未然に防げます。
例えば、稼働前のチェックで異常な振動や異音がないかを確認したり、部品の摩耗具合を点検したりすることで、突発的なトラブルのリスクを低減できます。そして、設備のダウンタイムを最小限に抑え、安定した生産体制を維持することが可能です。
計画保全
設備の突発的な故障は、生産ラインの停止を引き起こし、納期遅延やコスト増加の原因となります。これを防ぐために、事前に計画を立てて定期的に保全作業を行うのが計画保全です。
設備の摩耗や劣化の進行を把握し、適切なタイミングで部品の交換や修理を実施することで、長期的に安定した稼働を維持できます。また、過去の故障データを分析し、最適な保全スケジュールを策定しておけば、予期しないトラブルを事前に防ぐことが可能です。
品質保全
設備が正常に稼働していても、不良品が発生すれば顧客からのクレームによりロスが生じます。品質保全は、不良の発生を防ぐために設備や工程を最適化し、製品の品質を安定させるための重要な活動のひとつです。
例えば、設備の精度が低下すると、製品の寸法誤差や仕上がりにばらつきが生じることがあります。そのため、設備の状態を常に監視し、適切な調整を行うことで、不良品の発生を未然に防げます。また、不良品が発生した際に流通を防ぐための品質検査の精度向上も、品質保全の重要な要素となります。
教育訓練
TPMを効果的に推進するには、現場の作業者が設備保全や改善活動に必要な知識とスキルを備えていることが重要です。教育訓練では、オペレーターや保全担当者だけでなく、現場に関わるすべての従業員が設備の仕組みやメンテナンスの基本を学び、問題発生時に迅速に対応できる力を養います。
定期的な研修や実技指導を通じて、設備の異常を見抜く力を身につけることはもちろん、改善活動に主体的に取り組める人材を育成することも重要です。
安全衛生環境
製造現場では、作業者の安全確保が最優先です。安全衛生環境への取り組みは、労働災害を防ぎ、快適な作業環境を維持することを目的としています。事故や災害が発生すると、作業の中断による時間的な損失だけでなく、作業者の健康や企業の信頼にも悪影響を及ぼします。
そのため、安全マニュアルの整備や危険箇所の定期点検、作業者への安全教育の徹底が必要です。また、環境負荷の低減を目的として、廃棄物削減やエネルギー消費の最適化を進めることも、持続可能な生産活動につながります。
設備初期管理
新しい設備を導入する際は、設計段階から適切な管理を行うことで、将来的なロスを防げます。設備初期管理とは、設備の導入前から運用開始後までのプロセスを適切に管理し、スムーズな立ち上げを実現するための取り組みです。
設備が本格稼働した後も、実際の運用状況をモニタリングし、問題がないかを継続的にチェックすることが重要です。定期的なヒアリングやデータ分析を通じて改善点を見つけ、より効率的な運用を実現します。
管理・間接部門の保全
TPMは、生産現場だけでなく、管理部門や間接部門にも適用されます。例えば、生産計画の策定や在庫管理の最適化、資材調達の効率化など、工場全体の運営を支える業務もTPMの一環として改善を進めることが重要です。
管理部門が積極的に保全活動に関わることで、現場と連携しながら生産の最適化を図れます。全社的にTPMを推進することで、より高いレベルでの生産性向上が期待できます。
TPMにおける自主保全の進め方【7ステップ】
紹介したTPMを構成する8つの柱の中で、設備を安定的に運用するための基本的な取り組みが「自主保全」です。これは単に清掃や点検を行うだけでなく、現場作業者自身が設備の構造や動作の仕組みを理解し、異常の兆候を素早く察知できるようになることを目的としています。そのためには、実践を積み重ねていくことが重要です。自主保全は、以下の7つのステップで進められます。
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①初期清掃:設備の隅々まで清掃し、異常の有無を確認する
②発生源・困難個所対策:汚れや故障の発生源を特定し、清掃しやすい環境を整備する
③自主保全仮基準の作成:点検・清掃・潤滑などの基本的な維持活動の基準を策定する
④総点検:点検項目を整理し、点検技能教育を実施するとともに、設備の各部品を細かく点検し、異常を発見したら改善策を講じる
⑤自主点検:効率的な清掃・点検基準を作成し、チェックシートを活用しながら点検項目を継続的に改良する
⑥標準化:点検作業を現場に定着させ、管理項目を標準化し、維持管理を徹底してシステム化を推進する
⑦自主管理の徹底:点検の維持と保全記録の保存・解析を実施し、設備改善やコスト削減につなげる
TPMを導入するためのポイント
TPMを成功させるには、継続的な取り組みが不可欠です。そのためには、経営層から現場の作業者までが一体となって推進することが求められます。また、効果的な施策を立案するには、データを活用した分析や最新技術の導入といった科学的アプローチも重要です。以下では、TPMの導入を成功させるための具体的なポイントについて解説します。
会社全体で取り組む
TPMは、現場作業者や保全担当者だけが取り組むものではなく、経営層や管理部門を含めた会社全体で推進する必要があります。そのためにはまず、TPMの基本を学ぶための教育プログラムや社内研修を実施し、従業員の意識を高めることが重要です。
また、各設備の重要度を見極め、優先的に保全活動を行う対象を決めることで、より効果的な取り組みが可能です。すべての設備に均等な時間をかけるのではなく、特に生産への影響が大きい設備を重点的に管理することで、限られたリソースを最大限に活用できます。
定量データの収集と分析を行う
TPMの効果を最大化するには、定量データを収集・分析し、現状の課題を明確にしましょう。感覚や経験に頼った保全活動では、問題の本質を見落とすこともあります。データに基づいた分析を行うことで、設備の状態や生産性の変動を客観的に評価でき、根本的な改善策を講じることが可能です。
収集したデータは単なる記録として残すのではなく、継続的に分析し、保全活動の最適化に活用することが大切です。例えば、過去の故障履歴とメンテナンス履歴を照らし合わせることで、特定の部品の劣化傾向を把握し、予防保全のスケジュールを最適化できます。また、生産ロスの原因をデータ分析によって特定し、設備の運用方法を改善することで、生産効率の向上につなげられます。
管理指標の整備・構築を行う
TPMの効果を最大化するには、管理指標(KPI)を設定し、進捗状況を可視化することが欠かせません。どのような成果を目指すのかを明確にし、改善のプロセスを定量的に評価できる仕組みを整えることが重要です。
例えば、設備の稼働率、故障発生率、修理時間、保全コストといった指標を設定し、日々の推移を記録することで、改善の成果を客観的に把握できます。
最新のテクノロジーを取り入れる
近年、TPMをさらに効率化するために、IoTやAIなどの最新技術を活用する企業が増えています。これらの技術を適切に導入することで、設備の安定稼働と生産性の向上を実現できます。
IoT機器を用いることで、リアルタイムで設備の状態を監視し、異常を早期に検知することが可能です。また、AIを活用したデータ分析により、過去の故障パターンを基に予測を立て、最適なメンテナンススケジュールを自動で提案してくれます。
まとめ
TPMは単なる設備管理にとどまらず、企業全体の競争力を強化する戦略的な取り組みです。生産活動におけるロスの定義を把握し、8本柱と呼ばれる改善活動を包括的に進めることが大事です。
TPMを効果的に推進するには、現場の作業者だけでなく、経営層や管理部門も積極的に関与し、組織全体で保全活動を支援することが求められます。
また、近年ではIoTやAIなどの最新技術を活用することで、リアルタイムのデータ収集や異常検知が可能になり、より精度の高い予防保全が実現できます。最新技術を活用しながら、現代の製造現場に適した形で導入し、継続的な改善を進めていきましょう。