【小売業】生産性を向上させるための対策と現状
日本の小売業は、生産性が低いと言われています。この記事では、そもそも生産とは何を指し、なぜ低いのかについて紹介したうえで、生産性を向上させるための対策も併せて解説します。生産性向上に必要なマニュアル整備の方法や、便利なサービス活用のポイントを押さえましょう。
目次
小売業における生産性の現状
生産性とは、投入量(労働力や設備、原材料)と、投入により得られる製品やサービスの産出量の比率です。少ない投入量でいかに多くを産出するかが企業においては重要であり、生産性を向上させることが課題となっています。
生産性には「人時生産性」と「労働生産性」がありますが、小売業はどちらの生産性も低いのが現状です。2つの生産性の概要について、以下の資料をもとに解説します。
人時生産性
人時生産性(にんじせいさんせい)とは、1人の従業員が1時間働くことでどれほどの利益を生み出すかという指標です。
人時生産性の計算式は、「粗利÷総労働時間」です。粗利とは、売上高から売上原価を引いた金額を意味します。人時生産性が高いほど従業員1人あたりの1時間で産出する金額が大きくなるため、短時間で効率的に利益を生み出せていることになります。
中小企業庁の「中小小売業・サービス業の生産性分析」では、中小企業における月間実労働時間(1人当たり平均)の人時生産性を示しています。業種別の人時生産性(業種平均)は、以下の通りです。
- 製造業: 2,837円
- 宿泊業: 2,805円
- 小売業: 2,444円
- 飲食店: 1,902円
製造業と比べて、小売業を含む非製造業の人時生産性は低い傾向にあります。
労働生産性
労働生産性は従業員1人あたりまたは1時間あたりの労働量に対する成果であり、計算式は「付加価値(粗利)額÷従業員数」です。
労働生産性は、さらに「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」に分けられます。物的労働生産性は、生産量(生産数量や重さ)に着目したものであり、企業の業務効率などを測るのに役立ちます。付加価値労働生産性は、生み出した製品やサービスの金銭的な価値に着目したものであり、商品の機能的な価値などを測れます。
中小企業庁の「中小小売業・サービス業の生産性分析」によると、中小企業における月間実労働時間の労働生産性(業種平均)は以下の通りです。
- 製造業: 5,250円
- 宿泊業: 4,420円
- 小売業: 3,813円
- 飲食店: 2,329円
小売業の労働生産性は、製造業と比べて4割近く低いことが分かります。
日本の小売業の生産性が低い理由
日本の小売業の生産性は、国内だけでなく国際的にも低い水準です。生産性総合研究センターのレポートでは、卸売・小売業における主要国の労働生産性水準を示しています。主要19か国のうち、1997年時点で日本の順位は15位でしたが、2017年では17位に落ちました。
日本の労働生産性を100とした場合、オランダは1997年では275.4で3位でしたが、2017年では363.6で1位となっています。また、2017年時点で2位のデンマークは363.1、フィンランドは339.9であり、上位国は日本に比べて3倍以上の水準です。
他国と比べて日本の小売業の生産性は伸びが悪く、生産性が低いことが明らかになっています。なぜこのような状態になっているのか、下記で理由を解説します。
参照:公益財団法人 日本生産性本部 生産性総合研究センター「産業別労働生産性水準の国際比較~米国及び欧州各国との比較~」
中小企業が多い
中小企業庁編「中小企業白書」によると、2016年時点で中小企業の割合は全企業の99.7%を占めます。大企業に比べて中小企業の売上高は低く、設備投資についても、2016年以降は横ばいでしたが2020年以降は減少傾向となっています。
さらに、中小企業の労働生産性は長期間にわたり横ばいであり、企業規模に比例して労働生産性が高くなることが分かります。大企業と異なり、中小企業には大量に仕入れて安く販売することが難しく、投資の予算も不足しているのが現状です。
参照:中小企業庁編「中小企業白書 小規模企業白書 2021年版」
他業種と比べるとDX化が遅れている
総務省が2021年に公表した報告書によると、他業種と比べて小売業ではDX化が進んでいません。情報通信業や金融業、保険業ではDX化が進んでいますが、卸売業や小売業でDXの取り組みをしている企業は22.6%に留まります。今後実施予定の企業は19.4%である一方、今後も実施する予定がないと回答する企業は57.9%にものぼります。
また、農林水産省の資料によると、2015年の全産業の欠員率が2.1%であるのに対し、小売業の欠員率は平均を上回る2.9%でした。資料で示されている長時間労働、レジ打ちやバックヤードでのパッキング作業などの負担、物流管理におけるIT技術活用の遅れも問題です。
深刻化する労働力不足や長時間労働などの課題を解決するには、IT技術やツールを導入し業務を効率化する必要があります。従業員の負担が大きければ離職率も高くなり、接客の質低下による顧客離れ、不十分な在庫管理による機会損失などのデメリットにつながりかねません。
参照:総務省 情報流通行政局情報通信政策課情報通信経済室「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負 報告書」
参照:農林水産省「卸売業・小売業における働き方の現状と課題について」
属人化している業務が多い
属人化とは、担当者しか業務の実態や進捗状況を把握できていないことです。属人化している業務が多いと、担当者不在の場合は作業が進められません。そのため業務効率が低下し、品質管理も困難となります。ひいては属人化によって、各部門だけでなく企業の経営全体に影響が及ぶかもしれません。
属人化を招く要因は、コミュニケーション不足や多忙によって従業員間の情報共有がされないこと、一定の知識やスキルが要求される業務であることなどです。そういった原因を取り除くためには、特別なスキルや知識がなくても、多くの従業員が一定の品質を保ちつつ業務をこなせるようにしなければなりません。この状態を業務の標準化と呼びます。企業としては、生産性低下につながる属人化を防ぎ、業務の標準化を目指すことが重要です。
小売業の生産性を向上させるための対策
小売業が抱える問題を解消し、生産性を向上させるにはDXの推進をはじめとする対策が必要です。企業が取り組むべき代表的な対策について、以下に解説します。
IT化・DX化の推進
中小企業におけるITツールの導入や利活用は、十分に進んでいるとは言えません。IT化やDX化を推進し、現場の課題を解決しましょう。以下の例を参考にし、導入を検討することをおすすめします。
- キャッシュレス決済の導入
- 販売管理システムの導入
- オンライン接客の活用
- リモートワークの環境整備
キャッシュレス決済の導入やオンライン接客の活用によって従業員の負担が減り、顧客の待ち時間も減らせます。販売管理システムで在庫管理や販売管理、発注などをデジタル化すれば、ミスや無駄を減らすことが可能です。さらに、ツールや機器に蓄積された情報はマーケティングなどに活用できます。従業員が家や出張先からでも働ける環境を整えれば、長時間労働の必要もなくなり、情報も共有しやすくなります。
IT化やDX化推進によって従業員の負担が軽減され、少人数でも無理なく仕事ができるようになります。また、システムやツールの連携によってさらに効率化を推進できる場合があるため、自社にあった形態でDX化を進めましょう。
商慣習の見直し
生産性向上のためには、非効率な商慣習の改善や見直しが重要です。経済産業省の資料では、生産性の低下につながる商慣習への取り組みとして以下の例を挙げています。
- 小売店舗への納品期限(3分の1ルール)緩和
- 賞味期限の年月表示化
3分の1ルールとは、商品を賞味期限の3分の1以内までに小売店舗に納品しなければならない商慣習です。また、多くの食品の賞味期限は年月日で表示されていますが、小売業の商慣習によって在庫商品より賞味期限が古い商品は納品できません。納品できなかった商品は、廃棄される可能性があります。
農林水産省は、上記の商習慣の見直しを呼びかけ、多くの企業が参加するようになりました。納品期限を緩和することで食品ロスが減り、商品の賞味期限を大括り化(年月のみ、または日を10日単位で統一)することで在庫商品と納品する商品の賞味期限を同一にできます。こういった取り組みが小売業全体の食品ロスを低減させ、生産性向上につながると期待されています。
参照:経済産業省「小売業・卸売業の活性化・生産性向上について」
マニュアルの整備
マニュアル整備によって不透明だった作業が可視化され、業務の属人化を防げます。マニュアルを作成するメリットは以下の通りです。
- 作業手順や業務の全体像を把握でき、誰でも作業可能になる
- 業務や作業の必要性や重要性を理解できる
- 作業が効率化され、1人の従業員が複数の業務をこなせる
- 新入社員でも即戦力になり得る
マニュアルには特定の業務や作業の手順、業務の前提となる情報が記載されています。マニュアルの浸透によって作業で生じていた無駄やムラがなくなれば、誰もが同じ作業をこなせるため業務品質が保たれます。不明点はマニュアルで確認すればよいため、人に尋ねる必要もありません。
小売業の生産性向上はマニュアルの整備からはじめましょう
上述の通り、小売業の生産性を向上させる対策は複数ありますが、中でもマニュアルの整備は取り組みやすくおすすめです。効果も大きいため、マニュアルの整備から始めましょう。
マニュアル整備の方法
生産性の向上につながるマニュアルとは、内容が分かりやすく実践しやすいマニュアルです。マニュアル作成の前に、まずは作成期間や期日を決めましょう。期日から逆算して作成スケジュールを決めるとスムーズです。
スケジュール決定後に、マニュアル作成に必要な業務手順や内容などの情報を整理しましょう。想定されるマニュアル利用者や利用場面を洗い出したうえで、マニュアルに記載する業務範囲を決めます。ただし、業務範囲を広げすぎると内容をカバーしきれないため注意しましょう。
マニュアル制作の主なポイントとしては以下のものが挙げられます。
- マニュアルの目的、テーマを明確にする
- 構成と目次を決める
- 画像や図を挿入して分かりやすく説明する
- 重要な点を明確にする
なお、マニュアルは作成して終わりではありません。マニュアルが現場の人に受け入れられたか、効果が上がっているかを確認し、常に改善を繰り返してブラッシュアップしていく必要があります。
マニュアル作成が進まない時の対処法
マニュアルを作成するには手間や時間がかかるため、現在抱えている業務に影響が及ぶ可能性があります。さらに作成後、業務に変更が生じた場合には更新しなければなりません。
マニュアル作成がうまくいかない時には、ツールやサービスの活用がおすすめです。手間や時間をなるべく省き、スムーズにマニュアルが作成できるはずです。
Teachme Bizのマニュアル作成・共有システム
Teachme Bizは、マニュアル作成や運用に役立つサービスです。Teachme Bizを利用すれば、テンプレートに画像や文字を入れるだけでマニュアルを作れます。直感的に操作でき、動画の切り出しや画像編集も簡単です。作業手順をステップ構造で示せるため、構成やデザインを考える必要もありません。
作成したマニュアルは社内で共有でき、キーワード検索も可能です。さらに、マニュアルのタスク配信によって、従業員が閲覧したのかどうかも確認できます。外部へ公開をすれば、ログインせずにユーザーはすぐに疑問を解消できるため、問い合わせ対応も効率化できます。マニュアルの閲覧回数や検索ログを分析することで運用状況も確認でき、分析結果を活かしてより分かりやすいマニュアルを作成することにもつながります。
Teachme Bizで作成したマニュアルは、ITツールに不慣れな従業員にも分かりやすいため、DX化の推進にも役立つでしょう。マニュアルを人材育成や社内研修に利用すれば、人件費の削減につながる点もメリットです。Teachme Bizを導入した企業からは、マニュアル作成時間や人材育成の時間が大幅に減少し、コストカットに成功したという成果があがっています。
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まとめ
小売業の生産性が低い理由としては、中小企業の多さやDX化の遅れ、業務の属人化などが挙げられます。生産性を向上させるにはDX化を推進して商慣習を見直し、マニュアルを整備しましょう。
Teachme Bizは、マニュアル作成や共有に役立つサービスです。これを利用すれば、マニュアル作成をはじめとする多くの課題を解決できます。業務効率化やDX化の推進、人件費削減や人材育成といった効果も期待できるため、生産性向上につながります。便利なツールやサービスを利用して、小売業の生産性向上に努めましょう。