製造業におけるAIの必要性は? 導入が進む分野、導入事例をご紹介!

最終更新日: 2024.03.21 公開日: 2024.03.15

製造業におけるAIの必要性は? 導入が進む分野、導入事例をご紹介!

近年では、製造業の抱えるさまざまな課題を解決するために、AIを導入する企業が増加しています。この記事では、製造業がAIを活用する必要性に関して、製造業が解決しなければならない課題やリスク、実際にAIの活用が進んでいる分野などを解説します。AIの導入を検討している場合には、ぜひ参考にしてください。

製造業におけるAIの必要性

労働人口の減少による人手不足と後継者不足

製造業界における人手不足や後継者不足の問題は、年々深刻化しています。なかでも若い人材の減少が著しく、大きな課題のひとつです。経済産業省・厚生労働省・文部科学省が発表した「2023年版ものづくり白書」によると、製造業の若年就業者数(34歳以下)は2002年から減少が続き、現在もほぼ横ばいながら減少傾向にあるとしています。

就業者のうち若年就業者が占める割合は、2002年には30%を超えていました。ところが、2022年には約25%まで低下しています。ほかにも熟練の技術者の引退が多いため、技術を受け継ぐ後継者も減少し、人手不足が進んでいます。

人手不足の原因は、少子高齢化による労働人口の減少などです。2022年の「労働力調査」では、15歳から34歳までの人口が2012年には2,735万人だったものの、2022年には2,456万人まで減少しました。全体的に人口が減少している現在では、人手不足に対応できる環境の整備が求められています。

参考:経済産業省 厚生労働省 文部科学省「2023年版ものづくり白書」
総務省統計局「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の概要」

社会情勢の変化によりサプライチェーンの混乱が生じている

新型コロナウイルスの拡大や、ウクライナ情勢といった他国の社会的措置などによって、近年では物資を安定して調達できない問題が発生しています。世界的に感染拡大が広がった2020年には多くの工場が可動を停止したため、さまざまな製品・部品が不足しました。

海外からの物資や部品の調達が欠かせない現在の製造業では、社会情勢の変化に影響を受けた部品の不足、原材料や部品価格の高騰、物流業界の人材不足といった課題の発生によって、サプライチェーンに混乱が生じています。

混乱するサプライチェーンを最適化するために、AIの活用が必要とされています。AIを活用してビッグデータを分析し、需要を予測する、プロセスを自動化するなどの方法で、サプライチェーンの最適化が可能です。

既存設備の老朽化により生産性低下のリスクがある

経済産業省が2020年に発表した「製造業を巡る動向と今後の課題」によると、製造業の設備投資の動向が2019年以降は横ばいになっています。工場の生産設備はこれまでよりも経過年数が増え、導入時から長期間継続して使用されているため、老朽化が進んでいます。

さらに2018年には経済産業省が「DXレポート」内で「2025年の崖」問題を発表しました。2025年の崖とは、国内の多くの企業でシステムの老朽化が進んでおり、2025年までに対策を取らないとさまざまな問題が発生するという社会課題です。国内企業の多くは、長期間稼働してきたレガシーシステムを使用してきました。レガシーシステムでは各部署で異なる内部システムを導入しているケースが多く、複雑化、統一性のなさといった問題もあります。レガシーシステムが故障すると、システムの古さや複雑性から、適切な修理が難しい場合もあります。

AIなどのIT技術を導入すれば、データを効果的に活用でき、生産性の向上にもつながります。生産性を高められるITシステムを導入し、設備にもIT技術を取り入れて適切にメンテナンスしながら利用していくことが重要です。

参考:経済産業省製造産業局「製造業を巡る動向と今後の課題」
経済産業省「DXレポート」

日本の製造業におけるAIの導入率

Google Cloudが2021年に発表した調査によると、製造業者が日常業務でAIを使用している割合は、日本の製造業の場合で50%との結果が出ています。調査は7カ国で従業員が1,000人を超える製造業の企業を対象に行ったもので、AIを使用している割合は地域によって大きな差があります。

AIの使用割合が高い国から並べると、イタリア80%、ドイツ79%、フランス71%、イギリス66%、アメリカ64%、日本50%、韓国39%の順です。日本がAIを業務で使用している割合は、他国と比べて低い導入率にとどまっています。調査は従業員数が多い企業のみを対象としているため、従業員数が少ない企業も含めた場合は、AIを使用している割合がさらに低くなると考えられます。

参考:Google Cloud「New research reveals what’s needed for AI acceleration in manufacturing」

製造業におけるAI導入の課題

専門的な知識を持つ人材の獲得

AIを導入する際には、AI技術を効果的に活用するために専門的な知識を持つICT(情報通信技術)人材の雇用が必要になります。クラウド環境やビッグデータといったICTを活用できる人材がICT人材です。ディープラーニングの技術を用いて製造現場の業務を自動化したり、音声認識によって手作業と入力作業を同時に行えるようにしたりなど、幅広い業務でAI技術の導入をサポートできます。

また、AIのアルゴリズムを理解して使用できるスキルを持つ人材や、AIを活用しているシステムの管理ができる人材など、AIを活用できる人材の獲得も欠かせません。人材不足が問題視されている製造業では、人材を獲得するために魅力的な条件を準備することが大切です。

AIを活用できる人材は、雇用に加えて、AIの知識やスキルを持つ人材の育成に力を入れることも重要です。従来から働いている従業員に対してAIやICTの知識・スキルを習得する研修を行うなど、育成を実施すると不足しているICT人材の確保につながります。

情報漏えいのリスク

AIを導入する際には、情報漏えいのリスクも考慮しなければなりません。AIで売上などのデータ分析を行うと、分析に使用したデータをAIが学習します。その後、AIがハッキングされてしまうと、学習した機密情報が外部に流出する恐れがあります。
さらに、AIにアクセスできる従業員が不正にAIを使用した場合にも、学習済みのデータが外部に漏れるリスクがあるため注意が必要です。従業員が問題のある使い方をしないために、従業員に対するリスクマネジメントを徹底することが大切です。

導入・運用コスト

AIの導入によって業務効率化が実現すると、将来的にはコスト軽減につながります。ただし、AIの導入時には多額の初期費用がかかる点を考慮しなくてはなりません。AI導入時にかかる費用としては、コンサルティング、PoC、AIモデル開発、周辺システム開発、運用などが挙げられます。開発期間が3カ月、エンジニアが1人で開発を行った場合には、合計で約740万円~2,400万円ほどの導入費用がかかります。

AIの導入時に一時的な負担が増加することを踏まえて、スモールスタートを行い段階的にAIの活用を進める、導入する機能を整理して費用を抑えるなどの工夫が大切です。また、AIを導入する際には、導入や運用以外にも、専門的な知識を持つ人材の獲得に費用がかかります。

製造業においてAIの活用が進んでいる分野

故障を未然に防ぐための設備メンテナンス

設備メンテナンスとは、製造業で使用する機器の故障・不具合を防ぐために、機器を管理して整備や修理を行うことです。設備メンテナンスはこれまで熟練の作業員が手作業で行っていたことが多く、作業には時間がかかっていました。
近年では、人手不足のためメンテナンス作業にかかっていた人員・時間の削減が求められており、設備メンテナンスでAIを活用する企業が増加しています。AIの活用によって、24時間休みなく設備に不具合が生じていないかの監視が可能になり、効果的に設備メンテナンスが行えます。

仕分け作業や梱包などの製造業務

AIを導入し、人が行っていた作業を分担して行う協業ロボットを活用すると、仕分け作業・梱包などの単純な製造業務をAIに任せられます。AIの自己学習能力によって徐々に業務の精度が向上するため、ヒューマンエラーが生じることもなく製造業務の効率化が可能です。
なかには、AIロボットによる倉庫業務の完全自動化が進んでいる企業もあります。在庫管理、ピッキングなど、さまざまな製品における倉庫業務の自動化が可能になり、人手が取られる業務の効率化につながっています。

製造から出荷までの適切なスケジュールを決める生産計画

製造業では、生産物の種類、量、部品などを決めたり、生産スケジュールを立てたりする生産計画を立てることが重要です。生産計画の立案は、顧客のニーズや消費の変化などから需要を予測して行います。需要が適切に予測されていると、製造された製品が過剰に売れ残ったり、生産数が不足したりするリスクが低下します。
AIを導入すると、売上データ、天候データなどの膨大なデータを活用して分析できるため、精度の高い需要予測から生産計画の立案が可能です。需要に応じた生産数で計画が立てられ、部品の調達不足、過剰生産、売上の機会損失などのリスクを抑えられます。

企業の利益に関わる品質検査

人手不足が深刻な製造業では、品質検査の作業が充分に行えないケースもあります。そういった場合にAIを活用すると、高性能なカメラと画像解析技術によって不良品の検知が可能です。正常品と不良品の外観データを学習することで、外観から不良品を予測する高精度な判別業務も可能になります。
機械学習によって、AIが熟練検査員レベルの品質検査を実施できるようになると、不足している検査員の補填を可能にし、疲労などが原因で生じるヒューマンエラーの軽減にもつながります。

製造業におけるAI活用事例

AI実装のICT導入で品質や生産性を向上

大手タイヤメーカーの株式会社ブリヂストンは、品質、生産性の向上を目指して、AIを実装した最新鋭のタイヤ成型システム「EXAMATION」を導入しました。EXAMATIONは、タイヤの生産システム「BIO/BID」の動作を自動制御する人工知能です。
材料加工に関するデータや生産工程のデータ、技能員のノウハウから形成されたアルゴリズムを搭載するBIO/BIDにAIが搭載されたことで、生産工程の動作・品質判断が全て自動化されました。あらゆる部材が最適な条件で組み立てられるように自動で制御されるため、品質のばらつきを抑えて品質向上が実現しています。

参考:ブリヂストン独自のモノづくりICTを搭載 最新鋭タイヤ成型システム「EXAMATION」を彦根工場に初導入

AIの活用で量産体制を強化

ドイツの自動車メーカーであるアウディでは、品質管理業務にAIを導入して量産体制の強化につなげています。車体製造におけるスポット溶接は、これまで生産スタッフが手動で行っていました。車両1台に約5,000カ所あるスポット溶接部分を、ランダムに選択して超音波を使用する検査を行いデータを分析してきたため、検査に多大な時間と手間がかかっていました。
AIを搭載した検査システムの導入によって、スタッフの負担となっていた品質管理業務を軽減、人件費の削減や業務効率化が実現できるようになります。検査システムには、膨大な量の部品画像や高次元データによって機械学習を行ったAIが搭載されているため、高精度での不具合検出が可能です。

参考:アウディ、スポット溶接の品質管理にAIを導入

原料の検査をAIに任せることで商品の安全性を向上

食品メーカーのキユーピー株式会社では、製品の原料に使用するカット野菜の検査ができるAIを独自で開発しました。このAIは、ポテトサラダなどに使用するニンジンを検査する工程で用いられています。検査装置には、ディープラーニングで良品の色や形などを学習したAIが導入されており、正常値に該当しないものは全て不良として自動検出されます。
もともとは目視で検査して、不純物などを取り除いていたニンジンの検査を効率化できたため、商品の安全性が向上しました。スタッフの負担が軽減されたことから、AIによって働きやすい環境づくりが実現しています。

参考:AIを活用した原料検査装置をグループに展開

AIの導入で生産計画を最適化

サントリー食品と日立は、「人とAIの調和」をコンセプトに、生産計画を立案するシステムを共同で開発しました。サントリー食品の計画立案におけるノウハウと日立のAI技術を組み合わせて開発したもので、消費者のニーズや天候などさまざまな条件で変わる需要の変動にも対応可能です。
サントリー食品では、スキルと経験のある担当者が、膨大な時間をかけて生産計画を立案していました。AIを活用した生産計画立案システムの導入によって、エリアごとに平均約40時間かかっていた計画立案の作業時間は約1時間まで短縮が可能になりました。

参考:サントリー食品と日立が協創を通じてAIを活用した生産計画立案システムを開発

AIによる安全サポート技術で作業の安全性を向上

JFEスチール株式会社では、製鉄所で働く作業員の安全を守るために、AIの画像認識技術を導入しています。活用するAIは、大量の人物画像を用いたディープラーニングで学習し、明るさ、姿勢などに関わらず、実用レベルでの人物検知を可能にします。
立ち入り禁止エリアへの侵入をカメラが認識した場合などには、サイレンや警告灯などで警告を行い、製造ラインが停止するといった安全対策が取られます。ベルトコンベア設備にも、設備異常や操業異常を監視するAIの自動監視システムを導入しています。

参考:国内業界初となるAI画像認識による安全行動サポート技術の導入について

AIによる品質検査で高品質な製品を生産

自動車用バックミラー製造会社の村上開明堂では、製造技術の向上を目指してAIの導入を行っています。自動車用バックミラーの検品作業にAIを導入したことで、製造過程で発生するミラーのキズ・ひび割れの判定にかかっていた人員を3分の1まで削減し、作業負担の軽減を実現しました。
AIを活用した検品作業は、試行の段階で誤差を2%以内まで抑えています。判定には「自信度」もついているため、自信度が低い判定の場合は手作業での検査も行い、品質の維持に役立てています。

参考:村上開明堂のものづくり

AIの導入で変調予知や運転の最適化

化学メーカーの株式会社ダイセルは、AIを活用した自律型生産システムを開発し、プラント稼働の最適化とモノづくりの競争力強化を目指しています。
ダイセルでは、「ダイセル式生産革新手法」と呼ばれる、現場データを一元化して複数工場で最適化を実現するバーチャルファクトリーの仕組みを採用しています。ダイセル式生産革新手法にデータを解析するAIを導入することで、トラブルを未然に防いだり、生産量やコストなどをリアルタイムに予測したりといった運転の最適化を実現させています。また、自律型生産システムによって現場管理者が別の業務に集中でき、不具合の未然防止にもつながっています。

参考:「自律型生産システム」を開発 「ダイセル式生産革新手法」が AI で進化

AIで職人の技術力をサポート

酒蔵の南部美人では、日本酒業界で初めて、AIによって職人の技術を継承するシステムを導入しています。
職人の経験や勘などをもとに、さまざまな工程を行っている酒蔵の仕事は技術の承継が難しい分野です。そこで、AIの画像処理技術を活用することで、職人の作業データを大量に蓄積し、酒蔵の職人による最適な判断を学習します。このシステムは、実際の製造をAIに任せるためではなく、職人の判断のサポートや職人の技術承継を目的に活用が進められています。

参考:AIと日本酒

製造業でのAI活用は安全性を確保したうえで

日本の製造業には、人手不足や後継者不足などの課題が生じています。現在発生しているさまざまな課題を解決するためには、AIの導入が役立つでしょう。AIを導入すれば、製造工程の自動化や検査作業の効率化、生産計画の立案など、これまでかなりの労力と時間をかけて行ってきた業務の削減・短縮が可能です。
AI活用の課題に注意して安全に活用するには、従業員が活用方法を習得できるマニュアルの作成が役に立ちます。マニュアル作成には、作業工程を画像や動画を使ってわかりやすくマニュアル化できる「Teachme Biz」などの専用システムを使用するのがおすすめです。

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