物流における働き方改革関連法の改定内容とは? 2024年問題の対策
働き方改革関連法案の施行によって、さまざまな業界が改革に乗り出しています。物流業界でも働き方改革の推進は望まれていますが、さまざまな問題があるためなかなか進まないといった企業も少なくありません。本記事では、物流における働き方改革関連法案の改定内容や、2024年問題の対策などを解説します。
目次
【物流】働き方改革関連法における2024年問題とは?
2024年問題とは、働き方改革関連法案の施行によって、さまざまな問題が物流業界に生じることを指します。同法案は2018年に公布されたものの、6年間の猶予期間が設けられました。
その猶予が明ける2024年4月1日以降、自動車運転業務における時間外労働に上限が設けられることで、物流業界にさまざまな影響を及ぼします。
【物流】時間外労働の上限規制内容
法改正前は、残業時間に上限も罰則もありませんでした。一方、法改正後は残業時間の上限規制を超えると罰則が適用されます。気になる上限は、月45時間、年360時間です。ただ、これは原則であり、変形労働時間制を採用するようなケースでは月42時間、年320時間まで認められます。
特別な事情があるケースでも、年に720時間を超えることはできません。また、複数月平均80時間以内、月100時間未満を超えられないと定められており、なおかつ月45時間を超過できるのは1年のうち6ヶ月までと決められています。
参照:「働き方改革に関する取組について」
上限を超えた場合の罰則は割増賃金率50%
法改正前は月に60時間を超える残業の場合、大企業は50%、中小企業は25%の割増賃金を支払わなければなりませんでした。一方、法改正後は中小企業も大企業と同じように、残業割増賃金率が50%となってしまいます。単純に考えて今までの倍の残業代を支払わなければならないため、企業にとっては重大な問題です。
また、時間外労働の上限に関する罰則が法律で定められたため、違反すると6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
参照:「しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-」
上限を超える場合は36協定の締結・届出が必要
法律で上限が設けられたとはいえ、さまざまな事情で残業時間の上限を超えるようなケースは出てくると考えられます。ただ、このようなケースでも企業の判断で勝手に延長することはできません。
上限を超えるときは、36協定の締結が必要です。1日8時間、1週40時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結と労働基準監督署への届け出をしなくてはなりません。
参照:「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」
新技術・新商品等の研究開発業務は適用外
新技術や新商品などの研究開発業務に関しては、上限規制の適用が除外されます。ただ、労働安全衛生法の改正によって、1週間に40時間以上業務に従事した時間が、月100時間を超過した場合、該当する従業員には医師の面接指導を受けさせなくてはなりません。
なお、これは義務であるため免れられず、守らなければ罰則が適用されます。面接指導を行った医師からの情報に基づき、事業者は必要に応じて業務内容の変更や休暇の付与といった対処をしなくてはなりません。
【物流】働き方改革が推進される背景
物流業界において働き方改革が推進される背景として、ドライバー不足による長時間労働の常態化が挙げられます。また、他の産業と比較して低所得であること、デジタル化が遅れていること、EC市場が拡大したことなども推進される背景です。
ドライバー不足による長時間労働
公益社団法人 全日本トラック協会が公表した資料によれば、あらゆる産業の平均と比べて大型トラックの運転者は432時間、中小型トラックの運転者は384時間も年間労働時間が長いとの結果になっています。
なぜこのような結果なのかといえば、ドライバーが不足しているためです。トラックドライバーの給与はそれほど高くなく、しかも圧倒的に男性の労働者が多くを占めています。給与が低いうえに女性が参入しづらい業界ゆえに、ドライバー不足に陥っていると考えられます。
他産業に比べて低所得
かつて、トラックのドライバーといえば高給取りのイメージがありました。ただ、現在ではそうでもありません。既出の資料によれば、令和3年における年間所得額は、全産業平均が489万円であるのに対し、大型ドライバーは463万円、中小型ドライバーは431万円となっており、決して高い数字とはいえません。
しかも、これは令和3年だけに限った話ではなく、何年も前からこのような状態が続いています。
参照:「トラック運送業界の2024年問題について」
デジタル化の遅れ
さまざまな産業において業務のデジタル化やDX化が進んでいます。一方、運送業界はデジタル化がそれほど進んでいません。株式会社ドコマップジャパンが実施した、運送業界のDX実態に関する調査によると、全体の51.3%がDXに関するノウハウがないと回答しています。
なお、DXを十分進められていると回答したのは12.9%に留まりました。この結果からもわかるように、運送業界のデジタル化やDX化は一向に進んでいません。
また、この調査では全体の過半数以上が、ドライバーの高齢化を理由にDX推進が重要であると答えています。ただ、DXの重要性を理解しつつも、ドライバーの高齢化が進んでいるためデジタルをうまく扱えず、現実にはデジタル化やDX化が進まないというジレンマに陥っています。
参照:「運送業界のDX実態に関する調査」
EC市場の拡大
日本国内におけるEC市場は拡大の一途を遂げています。経済産業省が公表した電子商取引に関する市場調査の結果を見ると、2013年から2021年まで右肩上がりが続いている状態です。2020年における市場規模は19兆2,779億円、2021年は20兆6,950億円となっており、いかにEC市場が拡大しているかが窺えます。
EC市場の拡大に伴い、運送業界も忙しくなりました。また、近年における新型コロナウイルスの影響により、お取り寄せをする方が増えたのも運送業界が忙しくなっている背景です。
参照:経済産業省「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」
【物流】働き方改革で懸念されること
働き方改革の推進で懸念される事態として、売上の減少が考えられます。また、中小企業にも割増賃金率50%が適用されることによる人件費の増加、運送料アップによる顧客離れなどが懸念されます。
全体の売上が減少
労働時間の上限規制によって、ドライバーが荷物を運べる時間が従来よりも少なくなると考えられます。1日に運べる荷物の総量が必然的に少なくなれば、売上も利益も減少します。
また、人手不足の状態が続くとなれば、これまでと同じように受注ができません。利益が減少しているなかで新たに人材を採用するのはリスクがあるため、どんどん悪循環に陥るおそれがあります。
割増賃金率による人件費の増加
法改正前は大企業のみに割増賃金率50%が適用されていましたが、改正後は中小企業も同様の割増賃金率となりました。そのため、ドライバーが月60時間以上残業をすると、50%も割り増しした賃金を支払わなくてはなりません。ドライバーにとっては喜ばしいことですが、企業にとっては深刻な問題です。
もともと25%だった割増賃金率が倍になるため、出費が相当増えると考えられます。人件費の増加により利益を圧迫してしまうかもしれません。
運送料アップによる顧客離れ
1日に扱える荷物の量が少なくなり、ドライバーに支払う賃金も増えるとなれば、運送料の値上げを考える企業も増えるでしょう。運送料を値上げすれば、諸々の理由で減少した売上や利益を元に戻せる、もしくは増やすことができます。
ただ、これはあくまで数字上のことであり、実際にはそううまくいかないでしょう。クライアントはなるべくコストを抑えられる企業に依頼するため、顧客離れが起きるおそれがあります。顧客を取り戻そうと値下げをすると、競合も値下げを敢行し、激しい価格競争へと突入する可能性があります。
【物流】今後取り組むべきこと
運送業界が今後取り組むべきことは、全日本トラック協会がアクションプランとして整理しています。今後は、「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」を参考に取り組みを始めてみましょう。
荷物の待ち時間の削減
荷物の待ち時間を削減できれば、より効率よく業務を遂行できます。具体的な策としては、荷役のパレット化やアシスト機器の活用などが挙げられます。
また、トラック予約受付システムの導入も待ち時間削減に有効です。システムを導入して予約制を採用すれば、余計な待ち時間の発生を抑制できます。さらに、検品の時間を削減できるアイデアを導入することによって、さらなる待ち時間の短縮が可能です。
高速道路の有効活用
高速道路を利用すれば、一般道を使用するよりも早く目的地へ到着できます。目的地まで早く到着できれば、浮いた時間でほかの荷物を運送するといったことも可能です。また、高速道路の活用によってドライバーの業務時間短縮にもつながります。
ルートの見直しも図ってみましょう。トラックが空になるルートがあると、そのあいだの運行は利益につながりません。可能な限り空車にならないルートがないか、今一度見直しをしてみましょう。
中継輸送の拡大
中継輸送とは、1人のドライバーが出発地から目的地まで運送するのではなく、複数人で分担して輸送する仕組みです。中継輸送には、トラクターだけを入れ替えて中継するトレーラー・トラクター方式のほか、貨物積み替え方式、ドライバー交代方式などがあります。
中継輸送の拡大によって、ドライバーの負担軽減を実現できる点がメリットです。1人で長距離輸送するケースでは、車中泊になるケースが少なくありません。中継輸送であれば、途中で引き継げるためドライバーは自宅などでゆっくりと休養をとれます。
中継輸送を実現するには、トラック運送事業者同士による協力が不可欠です。また、SAやPAを活用した中継方法の確立も求められます。
ドライバーの処遇改善
ドライバーは過酷な業務を遂行しているにもかかわらず、給与は高くありません。他の産業と比べても給与の低さは顕著であるため、ドライバーの処遇改善に努めるのも大切です。
賃金の引き上げが考えられますが、おそらくそう簡単にはいかないでしょう。賃金を引き上げるには財源が必要です。ぎりぎりの状態で経営しているような企業であればなおさらでしょう。業務効率化などの推進に伴う、さまざまな部分のコストダウンが先決です。
週休二日制の導入も検討してみましょう。運送企業のなかには、いまだに週休一日といったケースが少なくありません。週休二日の導入によりドライバーの負担も軽減できます。
経営基盤の強化
経営基盤の強化に取り組むのも、働き方改革の実現に近づきます。今よりもビジネスの規模を大きくする、ドライバーの給与アップを踏まえた原価計算などにより経営基盤の強化が可能です。また、輸送の実務を担うドライバーだけでなく、事務方の働き方改革を進めるのも大切です。
参照:「トラック運送業界の働き方改革 実現に向けたアクションプラン」
作業のマニュアル化で人手不足を解消しよう!
作業のマニュアル化によって効率よく業務を遂行できるようになれば、人手不足の解消につながります。物流業界にもさまざまな単純作業があるため、それらをマニュアル化すれば業務効率化が可能です。
マニュアル作成を1から手作業で進めるのは手間がかかります。Teachme Bizであれば、誰でも簡単に見やすいマニュアルを作成できます。動画マニュアルや、画像を用いたステップ構造のマニュアルも作成できるため、誰が見てもわかりやすいマニュアルを作成できる点が魅力です。
作業のマニュアル化によって、業務の属人化も解消できます。特定の人しかできない作業をなくし、誰でも同じ成果を出せるようになるため、人員を増やさずとも業務効率化が進みます。
Teachme Bizは、見たいときに求めるマニュアルをすぐ見つけられる点も魅力です。スマートフォンやタブレット端末からスピーディーに検索できるため、業務の手順や疑問の解決法などを即座に探せます。
【物流】業務効率化の成功事例
マニュアルの整備によって業務効率化を実現した企業は少なくありません。実際の成功事例を見れば、マニュアル化によるメリットや有用性が理解できます。
ニチレイロジグループ様
ニチレイロジグループは、事務所ごとに内容がまったく異なるマニュアルを使用していたこと、ナレッジが共有されないといった課題を抱えていました。これらの課題を解決すべく導入したのがTeachme Bizです。
動画などを使ってわかりやすいマニュアルを作成でき、情報も共有できるツールを探していたところ、Teachme Bizにたどり着きました。また、同社はRPAも導入し、年間20,000時間もの業務自動化にも成功しています。
年間で20,000時間の業務をRPA化!労働力不足の問題をクリア
ワコール流通株式会社様
ワコール流通株式会社は、従業員個々の業務に個人差が生じている課題を抱えていました。また、マニュアル改修がおざなりになっていたため、これらの課題を解決するためにTeachme Bizを導入しています。
同ツールとウェアラブルカメラを併用することで、複雑でわかりにくい業務のマニュアル化にも成功しました。生産性の向上効果も実感できたほか、現場でのコミュニケーションが増加する副作用もあったとのことです。
Teachme Bizは、現場の力を引き出す「コミュニケーションツール」
まとめ
働き方改革関連法案の施行によって、2024年以降にさまざまな課題が顕在化する物流企業は増えると考えられます。働き方改革の推進が望まれる一方で、推進によってさまざまな懸念が生じる点にも注意が必要です。
物流業界が今後取り組むべきことは、待ち時間の削減や適切なルートの見直し、中継輸送の拡大などです。また、従業員の処遇改善にも力を入れましょう。人手不足の解消には業務のマニュアル化が有効なので、これも併せて考えるべきです。Teachme Bizなら、伝わりやすいマニュアルを簡単に作成でき、業務効率化や生産性向上の実現にも寄与します。