リーンオペレーションとは?生産性を高める方法論をまとめて解説
少子高齢化の進む日本において、企業の生産性向上は急務と言える課題です。確実に生産性向上を実現するには、やみくもに改革を遂行するのではなく、根拠のある取り組みを行う必要があります。この記事では、組織の生産性を高める「リーンオペレーション」について、その具体的な方法やステップを解説します。
目次
リーンオペレーションとは?
リーンオペレーションとは、組織の生産性向上に向けて、オペレーション改善と価値強化を継続的に行っている状態のことを指す言葉です。組織のオペレーション(業務や作業)を効率化し、それによって生まれた余力を再投資することで、生産性が高まります。
常に改善を繰り返し、長期にわたって継続していくことが、リーンオペレーションの本質です。つまり、短期的な成果や絶対的な完成形を追い求めるものではなく、企業の長期的なビジョンやスタンスを定着させることが鍵となります。
生産性向上とは何か?
生産性とは、投入する資源(インプット)に対する生産量や付加価値(アウトプット)の比率を指します。つまり、投入したヒトやモノ(設備・機械・ソフト)などに対して、どれだけの成果や付加価値を作り出せたかが生産性の指標です。投入資源の大きさに対して得られた付加価値が小さければ、生産性は低いと判断できます。
生産性向上は、インプットに対してアウトプットの比率をいかに増やすかが焦点となります。しかし、生産性向上の取り組みとして広く実施される経費削減や採用抑制は、企業として我慢を強いる施策であり、時として必要なインプットまで削ってしまいかねません。
真に生産性向上を目指すのであれば、「アウトプットの増加」と「インプットの削減」を別々に行うのではなく、一体的な取り組みとして捉える必要があります。
すなわち、現状のオペレーションを改善して余力を生み出し、それを必要な箇所へ再投資するということです。
そのような取り組みが実現できれば、同じ人員・設備でも効率的に成果を出せます。むやみにインプットを削るのではなく、目的を果たすための再投資をサイクル化させることが、生産性向上のあるべき形です。
リーンオペレーションが必要となる背景
リーンオペレーションの実現は、今後の日本社会において欠かせません。その背景には、将来的な人口減少が挙げられます。
日本は人口減少が加速しており、その中でも生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)の減少は深刻な課題です。2020年時点の7,406万人から、2065年には約40%減の4,529万人になると推測されています。
(参照元:第1章 高齢化の状況(第1節 1)│内閣府)
それに伴い、GDPの低下も危惧されています。労働人口が減ることは確実であるため、企業もこれまでと同じ体制では収益を維持できません。また、グローバル競争が激化している中で、高品質かつ低コストな製品・サービスが求められています。
これらの背景から、より少ない人員でより多くの付加価値を生み出す必要があり、その方法としてリーンオペレーションが重要であるといえます。
リーンオペレーションの概要
リーンオペレーションでは、オペレーションの「可視化」から始まり、「標準化」「単純化」「徹底化」のステップを経て、投入資源を最適化するための余力を生み出すことで「価値強化」を図ります。これらは一時的な取り組みで終わるのではなく、常に循環させていくことが重要です。
また、新たな考え方を組織に定着させるためには、誰から見ても明確なフレームワークが必要です。リーンオペレーションのフレームワークは、以下に挙げる「5つの視点」と「5つのステップ」の組み合わせから構成されます。5つの視点に対して、5つのステップでオペレーションの無駄をなくしていきます。
例えば、「ヒト」の視点から5つのステップを進めていくと、以下のような流れになります。
- STEP1-可視化: 人数やスキルの現状を把握する。
- STEP2-標準化: 必要な人員やスキルを整理し、一定の型に落とし込む。
- STEP3-単純化: 不要な業務や工程があれば削減・集約・委託などでシンプルにする。
- STEP4-徹底化: 周知徹底とシステム構築で、改善したオペレーションを定着させる。
- STEP5-価値強化: ここまでの流れを基に、生産拡大・販売促進・改善活動への積極投資を行なう
このように段階分けすることで、現状のオペレーションの全体像と進捗を把握しやすくなります。自社が今どの段階にいるか、取り組みに過不足がないか、といったことを逐一確認できるため、スムーズに生産性を向上することが可能です。
リーンオペレーションにおける「5つの視点」
まず前提として、効率的なオペレーションを構築するためには、企業や事業としてのゴールを明確にする必要があります。そうすることで企業としての判断基準が生まれ、オペレーション構築の方向性がはっきりとするからです。
では、どのような観点からゴールを設定すれば良いかですが、これは業界やビジネスモデルによって異なります。例えば商品・サービスのコンセプトや、価格・数量、顧客接点など、要素が関係します。
より具体性のあるゴールを設定し、自社に不足しているものや余分なものを把握することで、効果的なオペレーション遂行が可能です。
オペレーションを構成する「5つの要素」
リーンオペレーションにおける5つの視点は、そのまま「企業のオペレーションを構成する要素」とも言い換えられます。
そして、その要素を3つの階層に分類することで、より関係性が明確になります。具体的には、土台の部分に「ルール」、その上に「プロセス」があり、さらに「リソース(ヒト・モノ・時間)」があるというイメージです。
この階層構造で考えた場合、どれだけリソースをつぎ込んでも、土台であるルールが不明確だと揺らぎやすくなることが分かります。良いオペレーションを構築するためには、ルールをしっかりと固めた上でプロセスを定義し、その後にリソースを投入することが大切です。
ルール
土台となるルールは、「原則」や「前提」とも言い換えられます。これらを明文化し、遵守意識を現場レベルで定着させることが重要です。
企業における原則や前提を突き詰めると、以下の2点に集約できます。
- 従業員として重んじるべき価値観(Value)
- 行動する上での規範(Principle)
これらは、従業員に「どうあるべきか」あるいは「どうあってはいけないか」を示す判断基準です。社内の基本方針として、価値観や行動規範の認識を共有することで、全員が同じ方向を向いて業務に取り組めるようになります。
ただし、実際に原則や前提を定着させるためには、より具体的で分かりやすい定義が必要です。企業によって内容は異なりますが、短いフレーズで直感的に表現した方が定着しやすくなります。
顧客・製品への向き合い方や、組織のあり方と個々の役割、成長意識などの規範を定着させることが、リーンオペレーションの土台となります。
プロセス
企業におけるプロセスとは、部署や人の間をまたぐ「業務の流れ」を指します。リーンオペレーションの実践は、業務プロセスをいかに最適化していくかが根幹です。
しかし、業務プロセスは大抵の場合、全体像が見えにくいという課題があります。工場のラインのような例外もありますが、ほとんどの業務はさまざまな部署・人が関わるため、分断されて捉えにくくなっています。
業務プロセスを最適化するためには、まずそれぞれの業務を洗い出して定義し、定量的に把握する必要があり、具体的な流れを記述して可視化しなければなりません。業務と呼ぶべきものがどれだけあるか、その業務を誰がどのような順序で行っているか、といったことを整理することが、業務プロセス最適化の第一歩となります。
リソース(ヒト・モノ・時間)
ルールとプロセスをしっかりと構築したら、そこに投入するリソースに目を向けます。
第一のリソースである「ヒト」は、単純な必要数だけでなく、どのようなスキルを持った人が必要かを考えます。業務遂行に必要なスキルはどのようなもので、それを保有しているのは誰か、過不足はないかなど、スキル面からの実態把握が重要です。
第二のリソースである「モノ」は、道具や設備を指します。これらは最新・高性能なものほど良いと思われがちですが、あくまで業務プロセスに必要十分なものを投入することが鍵となります。用途や場面、機能・性能、使用時の要求スキルなどを考慮し、最適なものを選ぶことが重要です。
最後のリソースである「時間(工数・時期)」においては、スムーズに業務が進むよう、無理のないスケジュールの組み立てが求められます。業務にかかる時間を正確に把握し、いつからいつまでの間に終わらせるのかという適切なコントロールが必要です。
なお、ここまでの解説に「カネ(資金)」が含まれないことに疑問を持つ人もいるかもしれません。しかし、資金はあくまで「手段」であることに注意が必要です。
つまり、カネそのものはオペレーションを構成する要素ではなく、それらの要素を用意するための媒介的存在に過ぎません。資金だけがいくらあっても意味がなく、5つの要素を適切に準備して整えることが、オペレーション構築の基本であることに留意しましょう。
リーンオペレーション実現への「5つのステップ」
ここからは、リーンオペレーションを実現するためのステップをどのように進めるのか、具体的な内容を紹介します。各ステップの要点を把握し、適切なアクションを起こしていきましょう。
STEP1-可視化
可視化のステップでは、最初に業務アセスメント(業務の全体像を洗い出す作業)の観点に沿って、業務項目の整理、定量評価、定性評価を行います。特に定性評価においては、業務タイプのABC区分(重要度に応じた分析)と、デスクワーク・ノンデスクワークの視点をかけ合わせる方法が有効です。
次に、業務工程の測定を行います。デスクワークに対しては「工数測定システム」というツールがあり、PCログ取得型やタイムスタンプ型、カレンダー連動型などから、業態や測定目的に応じて利用すると便利です。ノンデスクワーク(フィールドワーク)に対しては、アナログ的手法で手間はかかるものの、ビデオカメラやストップウォッチを用いた実測が有効です。
これらと併せて、スキル測定による人員の把握を行います。スキル項目やレベル定義を定めた上で、従業員のスキルレベルを評価する「スキルマップ」の手法が一般的です。
最後に、現状の業務原則や従業員の意識についての測定が必要ですが、これらは定性的で測定が難しい要素です。そのため、アンケートで従業員の声を収集する「組織サーベイ」の手法などを活用することで、職場の雰囲気や慣例、コミュニケーションの実態などが把握できます。
STEP2-標準化
標準化のステップでは、業務の基準を定め、プロセスを統一します。ここで重要なのは、最初から完璧な基準を求めず、「まずは決めてみる」という柔軟性なスタンスを持つことです。すでに存在する各部署・各人のやり方を変えることになるため、意見の対立を引き起こす可能性もありますが、まずはとにかく動き出すことが重要です。場合によっては標準化する部分としない部分に分けて、議論を着地させることを優先しましょう。
また、ハードルを上げすぎて現場が対応できないようでは無意味であるため、常に再現可能なレベルに抑えることも重要です。
具体的な標準化の方法としては、しっかりとしたマニュアルの作成が基本です。大まかな原則論やあいまいな理想論ではなく、現場の業務に即した具体性のあるマニュアルを作りましょう。
STEP3-単純化
単純化では、業務の無駄な部分を削ぎ落とし、プロセスをスリム化します。ここでは、以下に挙げる「ECRSの法則」を使ったアプローチが効果的です。
- なくす: 過剰、不要な業務をやめる
- 減らす: 業務の頻度や量、時間を減らす
- 寄せる: 分散していた業務等を集める
- 任せる: 自動化、機械化、外注化などによりやり方を変える
「なくすか続けるか」といった二項対立で考えるのではなく、あくまで必要な業務か否かで判断することが重要です。
STEP4-徹底化
徹底化のステップでは、単純化までに至った業務を、現場に定着させていきます。しかし、ただ声がけや書面通知をしただけでは、なかなか現場に浸透しません。しっかりと定着させるためには、以下のように段階を踏んで取り組む必要があります。
- 「知っている」状態: 社内通達を行う。
- 「分かる」状態: マニュアル作成や勉強会・理解度テストを実施する。
- 「できる」状態: 実践や実技試験を実施する。
- 「できている」状態: 継続的にチェックする。
重要なのは、一方的に押し付けるのではなく、従業員が自発的に実践するような「しかけ」を作ることです。阻害要因を排除し、自然と行動に移してしまうような環境を整えましょう。
STEP5-価値強化
ここまでのステップを経て、構築された新しいオペレーションのもと、価値を高めた製品やサービスを提供します。ただし、ステップを一巡しただけで終わりではなく、継続して取り組むことが重要です。企業としてありたい姿に向かって、常に改善を続けていくことがリーンオペレーションの本質です。
ここまで解説したリーンオペレーションのシステムについては、下記の書籍でも詳しく解説しています。自社の生産性向上を確実に実現したい場合は、ぜひ参考にしてください。
『結果が出る仕事のムダ取り 確実に生産性が上がる実践法 リーンオペレーション』
庄司 啓太郎 著
まとめ
リーンオペレーションとは、生産性向上のためにオペレーション改善と価値強化を繰り返し行っている状態のことです。ここで重要となるのは、客観的な分析と無駄のないオペレーション構築、そして「継続的な改善」を意識付けることです。リーンオペレーションの取り組みを組織に定着させて、常に最善の生産性を実現しましょう。