育成就労制度とは? 新制度の概要、メリットや注意点

最終更新日: 2024.07.04 公開日: 2024.06.18

育成就労制度とは?

日本の生産年齢人口が減少し続けているなか、外国人材はさまざまな現場で産業を支える存在になっています。しかし、外国人材を受け入れるための技能実習制度には、適切な労働環境の確保や実習生の権利保護などさまざまな問題があり、新制度へ移行される予定です。本記事では、新たな育成就労制度の概要や現行制度との違い、受け入れ先企業が注意すべきポイントなどについて解説します。


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育成就労制度とは?

育成就労制度とは、特定技能(1号水準)を持つ人材の育成と、特定産業分野における人材の確保を目的とした制度です。特定技能とは、特定産業分野において相当程度の知識・経験が必要とされる技能を持つ外国人向けの在留資格のことです。

令和4年(2022年)12月14日の第1回から計16回にわたって開催された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」での議論を踏まえ、令和5年(2023年)11月30日に最終報告書が法務大臣(関係閣僚会議共同議長)に提出されましたが、本報告書に盛り込まれた10項目の提言のうちのひとつが、技能実習制度に代わる育成就労制度の創設です。

令和6年(2024年)2月9日、政府は新たに育成就労制度を設ける方針を取り決め、その後、3月15日には現行の技能実習制度を廃止し、新制度の創設を含む改正法案を国会に提出する閣議決定を行いました。新制度の具体的な内容や運用方法については、今後もさらに議論が継続される予定ですが、方向性としては、労働環境をはじめとした現行制度の問題点を解決し、外国人労働者を適切に育成して、就労支援を図ることを目指しています。

育成就労制度はいつから?

上述した育成就労制度の創設を含む改正法案は2024年開催の通常国会で審議され、5月21日に衆議院で可決されたため、同年中には成立する見通しです(2024年5月24日現在)。参議院でも順調に審議が進み、改正法案が成立した場合でも、施行されるのは2027年またはそれ以降だと見込まれています。新制度の開始後も現行制度の利用者が不利益を被らないようにとの配慮から、3年間程度の移行期間が設けられる予定です。移行期間中は現行制度を利用することも、新制度を利用することも可能です。技能実習制度から育成就労制度への完全移行は2030年ごろになる見通しです。

育成就労制度の対象となる職種は?

育成就労制度の対象となる職種(業種)は、特定技能制度と同様になる見込みです。具体的には以下の16分野の業種です。

  • 介護
  • ビルクリーニング
  • 工業製品製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業を統合)
  • 建設
  • 造船・舶用工業
  • 自動車整備
  • 航空
  • 宿泊
  • 自動車運送業
  • 鉄道
  • 農業
  • 漁業
  • 飲食料品製造
  • 外食
  • 林業
  • 木材産業

参照元:法務省|特定技能 ガイドブック
参照元:出入国在留管理局|特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針

このうち自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野の業種は今回新たに特定技能制度に追加されたもので、育成就労制度の対象にもなる予定です。現行の技能実習制度では、特定技能制度との間で対応する職種に乖離が見られていましたが、新たな育成就労制度との間では乖離がなくなるとともに、より日本の労働市場のニーズに適した労働力を確保できるものと期待されています。

現行の技能実習制度が見直しされた背景

厚生労働省が公表している「改正法の概要(育成就労制度の創設等)」によれば、制度見直しの背景として挙げられているのが「外国人にとって魅力を感じにくい」ものであった現行制度を「外国人に魅力のある制度で『選ばれる国』へ」変えたいという思いです。現行制度の問題としては、以下のようなことが挙げられています。

  • キャリアパスが不明瞭である
  • 労働者としての権利保護が不十分である
  • 失踪問題やブローカーの介入問題が存在する
  • 不適正な送り出しや受け入れ、監理事例が存在する

労働環境が厳しい業種で人手不足を解消する手段として技能実習生が利用され、過重労働や賃金未払いも多く報告されています。本来、技能実習制度の目的は発展途上国に技術移転し、国際貢献することにありましたが、現実と目的との間に大きな乖離が生じているとの指摘を受けていました。改正後には上述した問題点に対して、以下のようなことが提示されています。

  • キャリアアップの道筋を明確化する
  • 労働者としての権利性を向上させる
  • 関係機関の要件などを適正化する
  • ブローカー対策を適切に行う
  • 受け入れ機関における人材流出などへの懸念にも配慮する

参考元:厚生労働省|改正法の概要(育成就労制度の創設等)

育成就労制度と技能実習制度の違い

両制度の間には、目的や受け入れ可能な職種、在留期間、転職・転籍の可否などに違いがあります。上述した通り、現行の技能実習制度の主な目的は本来、国際貢献や技術の移転などでした。一方、新たな育成就労制度では人材の確保と育成を主な目的としており、より日本国内の労働力不足の解消を重視した制度として設計されています。

受け入れ可能な期間に関しては、現行制度では最大で通算5年間の在留が可能でしたが、新制度では基本的に3年間とされています。ただし、3年が経過した場合でも、特定技能の在留資格を取得すれば、より長期で就労することが可能です。

制度を利用した在留外国人の転職・転籍にも、両制度には違いがあります。現行制度では原則として、転職や転籍は認められていませんでした。しかし新制度では、同一企業で1年以上就労した実績があるという条件付きながら、転職・転籍することが認められています。在留外国人労働者にとってはキャリアアップの機会が増えたり、より労働環境のよい職場に移れたりできる一方、受け入れ側の企業にとっては、せっかく育成した人材が転籍によって離職してしまうというリスクを抱えることになります。

移行期間を考えれば、それぞれの持つ特徴や違いを十分に把握したうえで制度を運用することが重要です。育成就労制度はより現実的な労働力の確保を目指しており、在留外国人労働者にとっては、柔軟な就労環境の獲得機会となることが期待されます。以下は、両制度の違いを一覧にしたものです。

育成就労制度 技能実習制度
期間 最長3年間 最長5年間
転籍可否 できる(一定の条件あり) 原則できない
業種 特定技能と同様の16業種 特定技能の16業種以外も可
日本語能力 技能検定試験基礎級等及び一定水準以上の日本語能力に係る試験への合格 第1号技能実習・第2号技能実習のみ基準あり
※日本語能力は不問
目的 人材育成・確保 技術習得・母国発展への寄与

参照元:厚生労働省|改正法の概要(育成就労制度の創設等)
参照元:厚生労働省|技能実習制度及び特定技能制度の在り方については
参照元:厚生労働省|技能実習生に関する要件

育成就労制度のメリット

育成就労制度には、雇用する企業側にも、就労機会を得る外国人材側にも、さまざまなメリットがあります。ここでは、企業側と外国人材側とに分けて、それぞれが受けるメリットについて解説します。

企業側のメリット

育成就労制度が実施されることによる企業側の大きなメリットとしては、(1)高い日本語能力を持った人材を受け入れられる、(2)長期での雇用が可能である、といったことが挙げられます。

高い日本語能力を持った人材を受け入れられる

現行の技能実習制度では、日本語能力は原則として問われていませんでした。しかし、新たな育成就労制度では、日本語能力A1レベル(日本語能力試験N5などの合格)が求められます。新制度のもとでは、日本語を一から教える必要がなく、就労当初から一定の日本語能力を持った人材か、または就労時点で上記の日本語能力を持たない場合には、認定された日本語教育機関などで講習を受けることが受け入れ条件となります。ただし、認定日本語教育機関などでの講習が、受けさせる企業側の責任となるのか、受ける外国人材側の責任となるのかといったことについては明確に示されていません。今後の詳細な策定が期待されます。

令和元年(2019年)に施行された「日本語教育の推進に関する法律」においても、以下の内容が明記されています。

    国は、事業主がその雇用する外国人等(次項に規定する技能実習生を除く。)に対して、日本語学習の機会を提供するとともに、研修等により専門分野に関する日本語教育の充実を図ることができるよう、必要な支援を行うものとする。
    2 国は、事業主等が技能実習生(出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の技能実習の在留資格をもって在留する者をいう。)に対して日本語能力の更なる向上の機会を提供することができるよう、教材の開発その他の日本語学習に関する必要な支援を行うものとする。

引用元:日本語教育の推進に関する法律(令和元年法律第四十八号)|(外国人等である被用者等に対する日本語教育)第十四条

外国人材に対しては、より高度な日本語教育の機会を提供し、支援することが求められており、受け入れ企業側にも責任があるのではないかと考えられています。

長期での雇用が可能である

上述した通り技能実習制度において、外国人労働者就労期間は最長でも5年までしか認められていませんでしたが、育成就労制度では原則3年間と就労期間は短縮されたものの、3年経過後に特定技能1号の在留資格を取得すれば、引き続き日本で働けます。さらに、より上位の在留資格である特定技能2号を取得すれば、母国にいる家族を日本に呼び寄せ、永続的に就労を続けることも可能です。

外国人材を長期雇用できれば、企業にとっては人材確保において長期間の安定化を図ることができ、雇用される外国人材にとっても安定した生活基盤を築くことができます。ただし、企業側には資格取得に際して費用負担が発生する可能性もあるため、その点には注意が必要です。

外国人材側のメリット

育成就労制度が実施されることによる外国人材側の大きなメリットとしては、(1)負担する費用が減る、(2)転籍が可能になる、といったことが挙げられます。

負担する費用が減る

技能実習制度のもとでは、送り出し機関やそれ以外の仲介業者に支払う手数料・渡航費を、制度を活用した外国人材が自己負担する必要がありました。そのため多くの外国人材が就労開始前に多額の借金を抱える状況に陥ってしまっていました。しかし育成就労制度では、渡航のための費用は受け入れる企業側が負担することになります。外国人材側の負担する費用は大幅に減ることになり、借金返済にともなう精神的負担が軽減されるだけでなく、生活基盤の安定化を就労後の早い段階で図れるようになります。

転籍が可能になる

上述した通り、技能実習制度では原則として転籍が認められていませんでした。そのため最悪の場合には、就労先から突然、失踪してしまうようなケースもあり、問題となっていました。これに対して育成就労制度では、一定の条件を満たすことによって、外国人材の転籍が認められます。外国人材側にとっては職場の選択肢が増える一方で、渡航費用を負担する受け入れ先の企業にとっては、せっかく人材を育成したとしても、転籍されてしまっては長期的な展望は描けません。そのため、人材の確保と同時に「長期間、この企業で働きたい」と思ってもらえるような労働環境作りが求められます。

育成就労制度で注意すべき点

現行の技能実習制度を改善した育成就労制度にも、もちろん課題はあります。(1)企業の費用負担が大きくなる可能性がある、(2)受け入れ可能な職種が減る見込みである、(3)企業は転籍による影響を受けるおそれがある、(4)教育や研修を充実させる必要がある、といったことです。

企業の費用負担が大きくなる可能性がある

育成就労制度では、外国人が借金をして日本に入国するという問題を解消するために、受け入れ先の企業が費用を負担がすることになります。渡航費用と手数料は受け入れる外国人材の居住国や利用する機関によって金額が異なりますが、一般的には一人あたり500,000円程度を負担することになる可能性があります。

受け入れ可能な職種が減る見込みである

育成就労制度では、受け入れ可能な職種が、従来の特定技能12分野に4分野が加わった、計16分野となる予定です。特定技能の対象が増えた分、育成就労制度でも受け入れ可能職種は増えることになりますが、現行の技能実習制度の90職種165作業に比べると、受け入れ可能な職種は減ってしまいます。ただし、今後の議論によって追加されることも考えられます。

転籍による影響を受けるおそれがある

繰り返しになりますが、現行の技能実習制度では原則として職場の転籍が認められていませんが、育成就労制度では一定の条件を満たせば、転籍や転職が可能になります。外国人労働者にとっては大きなメリットですが、受け入れる企業側にはリスクがともないます。企業は費用を負担して育成した労働者が転籍してしまう可能性があるため、労働環境や給与に配慮し、転籍を防ぐための努力が求められます。外国人材がよりよい条件を求めた結果として賃金の高い都市部に転籍してしまうと、地方の人手不足がさらに深刻化するおそれもあります。

教育や研修を充実させる必要がある

育成就労制度では「技能の習得」や「知識の向上」が重視されており、受け入れ先の企業には外国人材に対する教育や研修を充実させる施策が求められます。しかし、人手不足の状態ではさらに現場の負担が大きくなるリスクがあるため、教育内容の拡充と同時に研修の効率化を図る必要があります。具体的な方法としては、例えば外国人材向けのマニュアル整備などが挙げられます。一つひとつの作業に対してマニュアルが整備されていれば、教育担当がつきっきりにならなくても、外国人材の自主学習を促せるだけでなく、受け入れ企業側担当者の工数削減にもつながります。

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まとめ

育成就労制度は日本の国際的な競争力を高めるために創設した外国人受け入れの制度です。新制度には現行の技能実習制度とは異なる、根本的に刷新された内容が盛り込まれており、外国人材を受け入れている(あるいはその予定がある)企業であれば、早めに準備を進めるおく必要があります。

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