テレワーク先駆者に選ばれたレガシー業界企業のDX~社内外の業務を急速にデジタル化できた秘訣とは?~
ここ数年で検討段階から実践段階に移行した、「DX」というトピック。しかしDXは、方針を決めるだけでも、ITツールを導入するだけでも不十分です。真のDXを実現するためには、社内外の関係者から協力を得る必要があります。本セッションでは、レガシー業界の企業でありながら、積極的にDXを進めている株式会社船場様をお招きし、DX推進のポイントを伺いました。TOKYOテレワークアワード大賞を受賞し、内装業で初のDX認定事業者に選ばれた船場様は、どのようにデジタルツールを活用してDXを進めているのでしょうか。
目次
レガシーな内装業界で事業領域を広げる「船場」
スタディスト 木本(以下、木本):このセッションでは、「テレワーク先駆者に選ばれたレガシー業界企業のDX」と題し、株式会社船場の岩本さん・小谷口さんにお越しいただきました。本日はよろしくお願いいたします。
岩本さん・小谷口さん:よろしくお願いいたします。
木本:貴社はDXにかなり力を入れており、TOKYOテレワークアワードで大賞を受賞、内装業で初のDX認定を取得されています。本日は、貴社のDXへの具体的な取り組みや、Teachme Biz活用の詳細についてお話を伺います。まずは、簡単に貴社のご説明を頂けますでしょうか。
株式会社船場 小谷口さん(以下、小谷口):はい。弊社は大阪府の船場地区を発祥とした企業で、創業から75年を迎えます。事業内容としては、「建設業と近接した内装業」というレガシーな業界で、商空間の調査・企画・設計等を行っております。近年では教育施設やオフィスなどさまざまな業界からもお引き合いを頂き、イオンモール白山をはじめとした大型施設や、ファンケル銀座スクエアをはじめとした専門店・飲食店を手掛けるなど、事業領域を広げております。
代表の強い思いで始まったテレワーク 電子化の推進で労働力不足をカバー
木本:貴社はレガシー企業でありながら、数々のテレワークに関する賞を受賞されていますが、DXの推進においてテレワークをどのように位置づけていますか。また、どのようにテレワークを進めていかれたのでしょうか。
小谷口:弊社のテレワーク推進は、代表・八嶋の強い課題意識とリーダーシップから始まったものです。2021年1月に公表しました弊社のDX戦略では、労働力の不足や労働生産性のハンデといった、弊社を取り巻く課題を取り上げています。そして、デジタル技術を取り入れることで、働き方の抜本的な見直しや生産性の向上等を目指しています。テレワークは、そのデジタル化の一部として注力しているものです。
中期経営計画や代表の方針をふまえ、2019年から在宅勤務のトライアルを、2020年には緊急事態宣言発出による在宅勤務を開始。代表自ら社内SNS上でテレワークの推進を発信するなど、推進の意識づけも行っていました。
具体例な取り組みとしては、社内申請やパートナー様との仕入先登録に関する業務を、SalesforceやBoxなどを通じて電子化。また、TeamSpiritを自動連携し、社内ポータルにリアルタイムの出社率を表示。そうすることで、社員各自が出社するかどうか判断しやすくなり、出社率のバランスを取ることが可能となりました。そのほか、Teamsでのウェブ会議、月1回のオンラインストレッチ講座を行っています。
木本:そうしたテレワークへの取り組みの結果、どのような成果が得られましたか?
小谷口:まず、課題に挙がっていた労働力不足については、2020年度は電子化前と比べ、年間2,328時間の労働時間が削減されました。2021年度は集計中ですがさらに電子化が進み、年間4,752時間の削減になるものと予測しています。また、現時点で新型コロナウイルスのクラスター発生はありません。在宅勤務以外にもサテライトオフィス利用、時差出勤など、多様な働き方を社員が選べるようになっています。
「DXとは?」定義を周知するところから始めた、レガシー企業のDX
木本:お2人はDX本部に所属されていますが、レガシー企業である貴社がDX関係の部署を作られるまでには、どういう経緯があったのでしょうか。
株式会社船場 岩本さん(以下、岩本):まず、2014年に上場の準備として、情報管理部ができました。ここでSalesforceやBoxを導入しており、当時は内部統制が主な業務でした。そして2018年、BIM(Building Information Modeling)推進室が作られます。BIMとは、2Dや3Dの設計システムであるCADに、時間軸や素材といった情報を組み込めるような、モデリングシステムです。そして2019年に、この両チームで一緒に仕事をしようということで、DX本部を設立しました。責任者を任されたのですが、実はBIMの「び」の字も知らないところからのスタートでしたね。
木本:DXに対して、当時の社内の反応はいかがでしたか?
岩本:当時は社員たちもあまりDXに馴染みがなく、「DXって何のことやろ?」という感じでした。代表には「DXとは、働き方と考え方をトランスフォームすること」というイメージがあったので、それを社内でまず発信しました。DXの定義の社内周知から始まった形ですが、「働き方を変える」という意味では、それまで推進してきたテレワークとの親和性がかなり高かったですね。そのため、社員たちにもDXの意味が伝わりやすかった印象です。
木本:定義の周知からDXを推進されていくなかで、その効果や進捗はどのように確認されていたんでしょうか。
岩本:DX戦略の中で、2つの指標を置いています。それは、労働時間と労働生産性です。まず労働時間については、「残業時間を一定のレベルに抑制しよう」という目標を立てていました。また、弊社のような内装業・建設業の大きな課題として、労働人口の不足があります。それを補うために、労働時間の削減は必須です。結果、ここ2年間は目標値を維持できています。レガシー企業としては、非常に良い結果が出せていると思います。
労働生産性については、「一人当たりの労働生産性がどれくらいになるのか」という指標を立て、その推移を追っていました。こちらは残念ながらコロナ禍の影響で下がってきていましたが、2021年の第3四半期辺りから、プラスに転じてきています。DXの取り組みがそろそろ効いてきたのでは、という印象です。
木本:複数のデジタルツールを使いこなしていると思うのですが、ツールを選ぶ際、注意していることや大事にしていることはありますか?
岩本:若いメンバーの意見をよく聴くようにしています。特にUIは大事にしていて、見た目や使いやすさ、感覚的に使えるかなどをよく見ています。また、レガシーな時代は社内にサーバーを置いていたのですが、そこを脱却してクラウドに移行しよう、という点も意識しています。
自社でのセキュリティ保護やサービス向上は規模的に難しいので、どんどん進化していくクラウドツールを選ぶようにしていますね。たまにクラウドのサービス障害がニュースに載ることもありますが、自社サービスだと数時間で復旧させるのも至難の業なので、デジタルに取り組みやすい環境になったなと感じています。
年間で2,000時間の削減!? DXにおけるマニュアルの価値
木本:具体的に、DXに役立っているツールを教えていただいても良いでしょうか?
小谷口:まずは基盤としているSalesforceが一番。それからストレージのBox。あと、コミュニケーションツールで使っているTeamsの3つが大きいですかね。
岩本:そうですね。その3つがコアな基盤かなと思います。
あとは、それらを束ねる、HENNGE Oneさん。Teachme Bizとも連携して使っていますが、仮想的に1個のサービスを支えているような感覚でセキュアにツールを使えるのが良いですね。
個人的には、インフォマートさんのBtoBプラットフォームもコロナ前に入れておいて良かったなっていうサービスです。
木本:ありがとうございます。デジタルツールをたくさん使っている中で、Teachme Bizを導入された経緯も教えていただけますか?
小谷口:DXに際し大きな課題だったのは、社員への教育です。これまでは各部署がそれぞれ別のツールを使い、独自にマニュアルを作成していたため、フォーマットが統一されていませんでした。また、作成工数や作成技術についても課題を感じており、簡単に分かりやすく、短時間でマニュアルを作れないかと思っていたんですね。便利なツールを探していたところ、Teachme Bizがニーズにピッタリだったので2020年1月に導入しました。
木本:Teachme Bizはどう活用されてますか?
小谷口:まずはSalesforce上にもFAQを作成し、テレワーク時の業務負担を軽減できるよう準備しました。ほかにも、稟議申請の方法やWeb会議ツールの使用方法のマニュアルを作成・共有しています。また、トレーニング機能を使い、エシカルやBIMに関する教育も行っています。
木本:どのような効果を感じておられますか?
小谷口:説明会が不要になったのが大きいです。これまでは社内に新システムを導入する際、全国の拠点で説明会を行っており、手間も時間もかなりかかっていたんです。しかし、Teachme Biz導入後は説明会が不要となり、新システムをスピーディーに導入できるようになりました。マニュアルを一瞬で全国に共有できるので、情報伝達の地域差もなくなったと思います。
木本:どれくらい業務のスピード感が変わるものなのでしょうか?
小谷口:Salesforceに限定して言うと、マニュアルに変えたい部分が出てきた場合、その日のうちに変えてリリースまでできるほどのスピード感になりました。数日~数週間の単位で期間短縮できています。以前であれば年間に十数回しかできなかったマニュアル変更が、今は月に数回単位でできるようになりましたね。
木本:他にも感じる効果はありますか?
小谷口:導入前と比べて、2倍のマニュアルを作成できたのですが、作成工数は1年で2,000時間ほど削減できたと推計しています。
あとは、質問があったことはすぐにマニュアル化しているので、社内の問い合わせ対応時間も削減できてますし、試算しにくいですが色々な効果が出ていることは感じていますね。
木本:ありがとうございます。最後に、DXの推進における今後の展望について、一言メッセージをお願いいたします。
岩本:2019~2021年の3年間は、中期経営計画に沿って「働き方」を変えてきました。テレワークをはじめとして「どうやって働くか」を変えていき、社員もその点には非常に満足してくれています。この結果を受け、今後の3年間は「考え方」の変化にシフトしていきます。しかし人の考え方を変えるには、1回教えるだけでは足りません。Teachme Bizを使いながら、何度も表現を変えて、社員たちにメッセージを伝えていきたいです。今後3年間も、Teachme Bizには非常にお世話になっていくと思います。
木本:こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。それでは改めまして、岩本さん、小谷口さん、本日はどうもありがとうございました。
岩本・小谷口:ありがとうございました。
今回のセッションの内容にもあったDXを推進するためのポイントについてぎゅっとまとめたホワイトペーパーもご用意しています。併せてご覧ください。