【建設業の2024年問題】内容と今後取り組むべき働き方改革について解説

最終更新日: 2023.08.10 公開日: 2022.12.22


建設業界では2024年4月より「働き方改革関連法」が適用されるため、「時間外労働の罰則付き上限規制」のスタートに向けて労働環境を変革していかなくてはなりません。本記事では、建設業界を取り巻く環境を踏まえながら「2024年問題」について解説するとともに、働き方改革関連法への対策や企業事例などを紹介します。


建設業WP

建設業が直面する2024年問題とは

2024年問題とは、2024年4月以降に開始される新たな法規制に伴って、建設業界が労働環境を大きく変革する必要に迫られる中で生じる、さまざまな問題を指します。この問題の起源は、2019年4月に施行された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」、いわゆる「働き方改革関連法」にあります。

この働き方改革関連法では、国内のさまざまな分野で労働環境の抜本的な変革をすることが重要課題となっています。働き方改革の本質的な目的は、一億総活躍社会の実現に向けた労働環境の再構築です。その実現に向けて長時間労働の是正や公正かつ公平な待遇の確保、女性の社会進出促進、高齢者の就業機会の拡大、柔軟性と多様性に富むワークスタイルの確立などが推奨されています。

ここではとくに労働時間の適正管理が重要課題となっており、法改正によって時間外労働に対して罰則付きの上限規制が設定されました。大企業では2019年4月から順次施行され、中小企業では2020年4月より適用されています。建設業に対しては5年間の猶予期間が与えられていましたが、その猶予も2024年3月末で切れてしまいます。したがって、建設業は、働き方改革関連法に対応できるよう、2024年4月までに労働環境を再構築しなければいけません。

2024年4月働き方改革関連法の内容

建設業が2024年4月以降に対応すべき働き方改革関連法の具体的な内容は、以下の通りです。

時間外労働の上限は年720時間

労働時間の上限は原則として1日8時間、週40時間と労働基準法第32条(※1)で定められており、これを「法定労働時間」と呼びます。そして、時間外労働の上限規制は月45時間、年360時間です。法改正以前は「特別条項付き36協定」を締結した場合、6ヵ月まで上限規制を超える時間外労働が可能でした。しかし、法改正後は特別条項付き36協定でも上回れない上限規制が設けられ、休日労働を含む時間外労働を年720時間以内に抑えなくてはなりません。

また、時間外労働が月100時間未満かつ2~6ヵ月の平均が80時間以内、そして月45時間を超えられるのは6ヵ月までという制限があり、超過した場合は労働基準法違反により罰則の対象となります。この規制が2024年4月より建設業界でも適用されるため、従来と同等以上の労働生産性を確保するためには、既存の労働環境の見直しと変革を推進しなくてはなりません。ただし、災害からの復旧・復興に関わる場合、月100時間未満かつ2~6ヵ月の平均80時間以内の上限規制は適用外となります。

    ■36協定を締結(※1)

  • 時間外労働の上限は月45時間・年360時間
  • ■特別条項付き36協定を締結(※2)

  • 時間外労働の上限は年720時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えられるのは6ヶ月まで
  • 時間外労働の合計が月100時間未満、2~6ヶ月の平均が月80時間以内(災害の復旧・復興に関しては適用外)

(※1)労働基準法|e-Gov法令検索
(※2)建設業における働き方改革(p.4)|国土交通省

上限を超える場合は36協定の締結・届出が必要

原則として、法定労働時間を超過した労働は違法であり、1日8時間、週40時間を超えた時間外労働を可能にするには「36協定」を締結し、労働基準監督署長に届け出なくてはなりません。その場合は月45時間、年360時間までの時間外労働が認められます。ただし、先述したように特別の事情があっても時間外労働は年720時間以内が限度であり、月45時間以上の時間外労働は6ヵ月まで、そして月100時間未満で2~6ヵ月の平均が80時間以内という制限は超えられません。(※3)

(※3)時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(p.2)|厚生労働省

2024年問題を前に建設業が抱える課題

建設業で働き方改革の実現が喫緊の経営課題となっている理由は、2024年4月より時間外労働の上限規制が施行されることのみではありません。それに加えて建設業界そのものが抱えている「人材不足の深刻化」「長時間労働の常態化」という2つの課題が関係しています。

少子高齢化による若手不足

日本の総人口は2008年の1億2,808万人(※4)を頂点として下降し続けており、総人口に占める高齢者の割合は29.1%(※5)世界で最も高い水準となっています。このような社会的背景も相まって国内のさまざまな分野で人材不足が深刻化しており、建設業では就業者の高齢化が進み、若年層の入職者は減少傾向にあるのが実情です。国内の生産年齢人口が減少するなか、そう遠くない未来に団塊世代の大量離職が見込まれており、帝国データバンクの調査では61.5%(※6)の企業が「後継者不足」に悩まされていると回答しています。

(※4)平成27年版 厚生労働白書(p.4)|厚生労働省
(※5)統計からみた我が国の高齢者(p.1)|総務省
(※6)全国企業「後継者不在率」動向調査(2021 年)(p.1)|株式会社帝国データバンク

長時間労働・休日出勤

国土交通省の資料「最近の建設業を巡る状況について(※7)」によると、建設業はその他の産業と比較して年間実労働時間・年間出勤日数ともに高く、長時間労働が常態化しているのが実情です。

具体的には、2021年度における建設業の年間実労働時間は1,978時間、年間出勤日数は242日でした。これに対して、調査産業全体の年間実労働時間は1,632時間、年間出勤日数は212日です。つまり、建設業は他産業と比べて年間実労働時間が255時間、年間出勤日数が30日も多いことになります。長時間労働が常態化している業界としては製造業も有名ですが、建設業はその製造業と比べても年間実労働時間が104時間も多い状況です。

しかも、他産業では労働時間の減少が大きく進んでいるのに比べて、建設業ではその減少幅が非常に小さいことも問題として指摘できます。具体的な数字を挙げると、調査産業全体では1997年度に比べて年間実労働時間が255時間も減少している一方、建設業では48時間しか減少していません。この結果は、建設業における働き方改革が他産業と比べて非常に遅れている現状を示しています。

こうした状況は、建設業界のビジネス構造に起因するところが大きいと見られます。建設業では、大きな建設現場ほど複数の下請け業者や孫受け業者が関わり合う多重請負構造になっており、下流工程を担う企業が工期の遅れを取り戻さなくてはならないケースが少なくありません。基本的に3次や4次と下層になるほど受注額も低くなるため、取引における立場の弱い下請け業者は長時間労働が避けられない構造となっているのが建設業界の現状です。

(※7)最近の建設業を巡る状況について(p.7)|国土交通省

国土交通省の働き方改革ガイドライン

建設業を営む企業が2024年問題に対応するためには、長時間労働の是正や多様な働き方に対応できる労働環境の整備、既存の商慣習の見直し、取引条件の適正化、公正な人事評価制度の確立など、さまざまな問題を乗り越えなくてはなりません。新しい時代に即した生産体制を構築するためには、戦略の指針となるガイドラインを参考にするのが有効です。

たとえば、国土交通省は「建設業における働き方改革について(※8)」という資料で、建設業の抱える課題や取り組むべき事項を提示しています。また、「建設業働き方改革加速化プログラム(※9)」という資料では、労働時間をはじめ、給与・社会保険、人事評価制度、生産性の問題など、より具体的な課題に触れています。建設業における働き方改革を推進する企業は、これらの資料を適宜活用するのがおすすめです。

(※8)建設業における働き方改革について|国土交通省

(※9) 建設業働き方改革加速化プログラム|国土交通省

【建設業】今後取り組むべき働き方改革

建設業に携わる企業が働き方改革を実現するためには、業界そのものが抱えている課題をクリアしなくてはなりません。そのために取り組むべき課題として以下の四つが挙げられます。

  • 長時間労働の是正
  • 技能にふさわしい給与・社会保険 加入の徹底
  • ICT(情報通信技術)の活用による生産性向上
  • 建設キャリアアップシステムの登録

長時間労働の是正

「建設業における働き方改革」のデータを見ると、建設工事全体の約64%が4週4休以下で就業しており、週休2日制を導入している企業は1割以下となっています(※10)。働き方改革を実現するためには、週休2日制の導入や建設現場の休日拡大を推進するなど、長時間労働の常態化を是正しなくてはなりません。しかし就業時間の減少は工期へのしわ寄せを招く要因となりかねないため、いかにして各発注者の特性を踏まえた適正な工期設定を推進するかが重要な課題です。

(※10)建設業における働き方改革(p.2)|国土交通省

就業者の待遇改善

建設業界は「きつい」「危険」「汚い」という3Kの業種といわれており、さらに健康保険や厚生年金保険などの未加入が多く、法定福利費を適正に負担しない企業が少なくないとされています。就業者の高齢化が進み、若年層の入職者が減少傾向にある建設業が働き方改革を実現する上では、優秀な人材の確保に取り組まなくてはなりません。そのためには、技能・経験にふさわしい処遇や社会保険への加入をミニマム・スタンダードにするなど、労働環境の抜本的な変革が求められます。

ICT(情報通信技術)の活用による生産性向上

働き方改革の推進による懸念事項のひとつは、就業時間の減少による労働生産性の低下です。生産年齢人口の減少と人材不足が加速し、長時間労働の是正や時間外労働の規制が進むなか、従来と同等以上の生産性を確保するのは容易ではありません。このような状況を打破するためには、ICTの戦略的活用によるDXの推進が不可欠です。そして限られた人材・資機材の効率的な活用に取り組み、事業活動のデジタル化を推進する企業文化と組織風土を醸成する必要があります。

建設キャリアアップシステムの登録

建設キャリアアップシステム(※11)とは、建設業に従事する労働者のさまざまな情報を蓄積するシステムです。国土交通省の資料では「技能者の資格、社会保険加入状況、現場の就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積する仕組み(※12)」と定義されています。建設キャリアアップシステムの目的は、技能に応じた給与や待遇を確保し、若年層のステップアップを促すことです。建設キャリアアップシステムの登録により、従業員の能力を客観的に評価できます。また、働き方改革を推進する優良企業として認知される可能性が高まります。

(※11)建設キャリアアップシステム|一般財団法人建設業振興基金
(※12)建設業働き方改革加速化プログラム(p.3)|国土交通省

【建設業】働き方改革成功事例

働き方改革を推進する上で有効な施策のひとつは、他社の成功事例から学び、その本質を自社の経営体制に応用することです。ここでは、働き方改革の推進によって高い成果を創出した企業事例を紹介します。

コミュニケーションツールの導入で生産性を向上

総合設備工事やシステム設計などを営む八巧機電設備株式会社では、勤怠管理システムやビジネスチャットなどのソリューションを活用し、社内コミュニケーションの活性化を推進しています。コミュニケーションツールの活用によって有事の安否確認にもつながるため、業務効率化のみならずBCP対策として機能する点が大きな特徴です。こうしたデジタル活用の推進体制が評価され、川崎市生産性向上・働き方改革推進事業者として川崎市長より表彰されています。

【参照元】川崎市生産性向上・働き方改革推進事業者として川崎市長より表彰されました。|八巧機電設備株式会社

仕事の無駄を省き効率・顧客満足度をアップ

アパートやマンション、商業施設などの建設事業を展開するみづほ工業株式会社は、働き方改革の推進を目的としてグループウェアの戦略的活用に取り組んでいる企業です。スケジュール管理や書類の承認作業などのデジタル化を推進し、作業効率の向上を図ることで仕事の無駄を排除して、自分のため・大切な人のために使う時間を作り出し、顧客満足にもつなげるようにしています。また、デジタル技術の導入だけでなく、3S活動やCS活動、改善提案書の作成推進など、職場環境そのものの抜本的な改善に取り組んでいるのも同社の大きな特徴です。

【参照元】金沢市働き方改革取り組み事例|金沢市はたらくサイト

「見て覚える」から「組織で育成」へ

総合建設業や宅地建物取引業を営む平和建設株式会社は、「技術を目で見て盗む」という旧態依然とした組織風土の変革を推進している企業です。仕事を見て覚えるという理念は自分で考えることの大切さを意味しますが、熟練工の技術を見て会得するのは容易ではありません。同社は熟練の技術者をメンターに任命する「マイスター制度」の導入によって若手育成を推進し、「見て覚える」から「組織で育成」という新しい時代に即した組織風土の醸成に取り組んでいます。

【参照元】200年企業へ、ビジョンを見える化した「働きがい改革」業界の常識にとらわれない週休2日の実現へ|Hintひろしま

マニュアル化で作業効率を上げよう!

働き方改革の推進における重要課題のひとつは、長時間労働を是正しつつ、いかにして労働生産性を高めるかという点です。そこでおすすめしたいのが「Teachme Biz」の導入です。Teachme Bizはマニュアルの作成・管理を効率化するソリューションで、情報共有の円滑化と労働生産性の向上に寄与します。属人化しがちな熟練工のナレッジをデジタル上で統合的に管理し共有できれば、経営基盤の総合的な強化につながるでしょう。

あわせて読みたい
働き方改革とは?基本知識や取り組み方を徹底解説

まとめ

2024年4月より建設業界においても働き方改革関連法が適用され、他の産業と同様に時間外労働の罰則付き上限規制がスタートします。特別条項付き36協定を締結した場合においても、明確な上限が設定された点に注意しなくてはなりません。建設業に携わる企業が働き方改革を実現するためには、長時間労働の是正や公正な人事評価制度の確立、労働環境の見直しなど、さまざまな課題を乗り越える必要があります。ぜひ、本記事を参考にして新しい時代に即した労働環境の構築に取り組んでみてください。

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