業務改革(BPR)とは? 業務改善やDXとの違い、進め方などを解説

最終更新日: 2024.07.04 公開日: 2024.03.15

業務改革(BPR)とは? 業務改善やDXとの違い、進め方などを解説

生産性や企業価値向上につながる取り組みとして近年注目を集めるBPR(業務改革)について、関心はあるけれど詳しくはわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、BPRの概要と期待できるメリット、業務改善やDX(デジタルトランスフォーメーション)との違い、実行する際のポイントなどを解説します。


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業務改革(BPR)の意味とは?

BPR(ビーピーアール)とは、Business Process Re-engineering(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の略称です。業務プロセス(ビジネスプロセス)や組織構造の全面的な再構築を行い、組織全体の効率化・最適化を図る取り組みのことを指します。日本では、業務改革、業務プロセス改革と呼ばれることも少なくありません。

BPRの原型は、著名なマネジメント論者であるマイケル・ハマー氏が、1990年代に提唱したとされています。経営コンサルタントのジェイムズ・チャンピー氏との共著がベストセラーになったことを機に、世界的に広まりました。

BPRが日本で取りざたされるようになったのはバブル崩壊後です。組織改革の手法として一躍脚光を浴びました。しかし、当時はリストラによる人員削減のみで終わる企業も多く、必ずしも成果には結び付きませんでした。

近年、BPRが再び注目を集めています。急速に発展を遂げたICTを利活用することで、以前は叶わなかったBPRによる継続的な企業価値向上が期待されています。

業務改革と混同されやすい業務改善やDXとの違い

BPRは、業務改善やDXと混同されがちです。BPRを実行に移す前に、それらとの違いを改めて確認しましょう。

業務改善との違いは目的や範囲

BPRと業務改善は似ていますが、その性質には明確な違いがあります。

まず業務改善は、現状の業務プロセスを肯定した上で、個々のフローからムリ・ムラ・ムダを省くことによって、コスト削減や生産性向上といった部分的な効果を得ることを意味します。そのため、実行する範囲は限定的です。

それに対してBPRは、ビジネスプロセス全体を疑問視し、全体効率に照らして再構築するという取り組みです。その規模は広範囲で、個々の業務フローだけでなく、人事評価、情報システム、サプライチェーンなどにも及びます。そのため、BPRの一環として業務改善があると考えてください。

DXとの違いは改革部分

DXとの違いも明確です。DX(デジタルトランスフォーメーション)は、顧客や社会のニーズを起点として、データやICTなどを利活用しながら、より競争力のあるビジネスモデルへと変革させることです。

例えば、売り切りの販売からサブスクリプションに切り替えるといった取り組みがDXにあたります。ビジネスモデルの変革に伴って組織や業務プロセスの最適化も行いますが、それはDXの主目的ではありません。

対してBPRの目的は、ビジネスモデルの変革ではなく、業務プロセスの最適化そのものです。DXの一環としてBPRがあると考えて問題ありません。

業務改革によって期待できる効果

BPRは業務改善よりも対象範囲が広く、将来的なDXの土台ともなる取り組みです。それによって次のような効果が期待できます。

業務効率化によって生産性を高められる

BPRでは、全社レベルで個々の業務フローと組織構造を可視化します。その過程で、生産性向上を阻害しているボトルネックを発見できることも少なくありません。ボトルネックが発生している原因や背景を探ることは、新たな業務プロセスや経営戦略を再設計する上でも有用です。そうして組織全体の業務最適化に取り組むことで、結果的に生産性の向上につなげられます。

業務プロセスと個々のフローの課題点を可視化・分析するには、社員のPC操作のログなどを収集・分析できる「プロセスマイニング」や「タスクマイニング」のツールを活用するのも効果的です。

業務の属人化解消につながる

一定の社員に対する業務の偏りや依存があると、業務がブラックボックス化し、業務効率の低下や品質のバラつきが発生しやすくなります。「担当者が不在の際に周囲がフォローできず、業務が停滞する」といったものが属人化の代表的な弊害です。

さらに、マネジメント層が業務内容を把握できないと品質管理やリスクマネジメントが機能しづらくなるため、場合によっては社会的な信用まで低下させかねません。

BPRによって業務プロセスを可視化し、最も効果的な手順へと再構築することで、属人化の防止・解消につながります。属人化を防ぎ組織でノウハウ・ナレッジを共有することは、優れた実績の再現性を保つことにもなり、競争力も高まります。

業務のムダを省いてコストを削減できる

慣例に従い漫然と行われてきた業務など、既存のシステムや手順には、見過ごされてきたムダが存在しがちです。今までのやり方を疑問視し手順を再考することで、人件費を始めとするさまざまなコストの削減につながります。

業務プロセスの可視化・分析を行った結果、単純な繰り返し作業や定型作業が見つかれば、それをクラウド型のRPA(Robotic Process Automation)などで自動化した上で、新たな業務プロセスに組み込むのが有効です。

基本的なRPAの導入例としては、顧客データの登録・管理、セールスレターの自動送付、在庫管理、請求書・見積りの自動発行、入金消込、問い合わせ対応などが挙げられます。できるだけ人による作業を減らすことで、ヒューマンエラーを削減しながら、リードタイムの短縮、残業時間を含めた人件費の削減などを目指せます。

また、クラウド型のサービスならオンプレミス型と異なり、サーバーメンテナンスやセキュリティ対策といった維持管理に関する人員を自社で用意する必要がないため、コスト軽減が可能です。

一定の作業を自動化することで、限られた人員がより付加価値の高いコア業務に集中しやすくなるのもメリットです。ただし、システムを導入する際は、BPRの基本計画に則り、自社に適したものを選定しましょう。

従業員の満足度を高められる

業務が効率化・最適化されることで、社員一人ひとりの負担が軽減され、時間外残業などを削減できます。さらに、非効率な作業やルーチンワークを自動化すれば、社員の「やらされ感」が軽減されるのもメリットです。業務に対する主体性と満足度の向上が期待できます。

BPRでは人事の最適化も求められます。人事規定をより明確化・簡素化し、可能な限り従業員にオープンにしましょう。その際は、人的資本経営の視点も取り入れるのが有効です。経営戦略に沿った人材戦略を策定し、各社員のスキル・パフォーマンス・価値観などを可視化することで、適材適所の配置を実現しやすくなります。それによって、社員のモチベーションやエンゲージメントの向上につながります。併せて、社員の働き方やキャリア構築の幅を増やすために、テレワークやハイブリッドワーク、時短勤務などにも柔軟に対応できる体制を構築しましょう。

顧客の満足度を向上できる

BPRの推進は顧客満足度の向上につながり得ます。そのためには、まず「自社はどういった価値を、どのようにして継続的に顧客へ提供できるのか」を熟考しましょう。それを軸として、新しい業務プロセスや組織構造の変革を進めていくことが必要です。

自社の価値を改めて定義・認識し、それに沿った新たな業務プロセスや組織構造を構築することで、自社の製品やサービスの安定化・高品質化が実現できます。また、業務プロセスの最適化に伴って、時代に即した新しい製品・サービスの開発やプロモーションにリソースを充てやすくなります。

業務改革を実行するための手法

一般的にBPRの取り組みは、企業規模が大きいほど難易度が高まります。そのため、BPRの費用対効果をあらかじめ算出し、取り組みを行う価値があると判断してから実行に移すことが重要です。

コストや時間を要しますが、BPRで非効率なプロセスを一新することは、将来的に事業規模を拡大する土台となり得ます。BPRの具体的な手法としては、次に挙げるものがあります。

アウトソーシング

業務の一部を外部の企業や人材に委託するアウトソーシングの需要は高まっています。マネジメントの父と称されるピーター・F・ドラッカー氏も、ビジョンやミッションを定め社会的な責任を負うトップマネジメントの業務以外は、全てアウトソーシングの対象となり得るとしています。

アウトソーシングの大きなメリットは、自社では不足している外部組織の専門的なノウハウを得られることです。また、ノンコア業務をアウトソーシングすることで、自社の強みを発揮できるコア業務に注力できるようになります。近年では、プロセスの一部を一括して継続的に委託する「BPO(Business Process Outsourcing:ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」も活用され始めてきました。

ただしドラッカーは、人事など人材を育成する業務まで安易にアウトソーシングし、人材育成やマネジメントのノウハウ蓄積を放棄することは、長期的な企業の弱体化につながるため危険だとも指摘しています。「自社に強みのある業務か」「企業戦略上、内製化すべき業務か」という視点でも、アウトソーシングを行うべき業務かどうか見極めましょう。

また、外部組織と社内のデータなどを共有することになるため、漏えい防止なども含めた適切なセキュリティ対策を講じなければいけません。委託先に業務を任せきりにしないことも大切です。

シェアードサービス

シェアードサービスとは、同一グループ内の各社で重複している部門を、自社内の一か所に集約・統合することで、経営のスリム化を図る手法のことです。

シェアードサービスでは、財務・経理、人事、総務、情報システム、法務、物流など、グループの各社がそれぞれ管理していた部門をシェアードサービスセンター(SSC)が一括して行います。グループ全体で重複していた部門の業務を標準化し少人数で行うことにより、人件費や管理費など諸経費の低減につながり、人材の効率的な配置も可能になります。コーポレートガバナンスの強化につながるのもメリットです。

ただし、初期投資が多大になるという点には留意しなければいけません。また、SSCの業務は単調になりやすいため、社員のモチベーション低下防止も重要な課題です。統合する部門を見極めると同時に、人員配置は慎重に行い、キャリアパスを描きやすい体制を構築することが大切です。

BSC(バランススコアカード)

BSC(Balanced Scorecard:バランススコアカード、バランストスコアカード)とは、企業の目標やビジョン、戦略を可視化することで、実行・管理するためのフレームワークです。

BSCは、従来の「財務」面の指標だけでなく、「顧客」「業務プロセス」「学習・成長」も加えた合計4つの視点から多角的な評価を行うのが特徴です。具体的には、収益面における成功をどう導き出すのか、顧客にどのような価値を提供していくのか、これらを実現するためにどのような業務プロセスを構築・運用するのか、企業の経営戦略実現のためにどのように組織と人材を成長させるのか、といった多角的な視点から、包括的に企業のパフォーマンスを分析・評価します。

BPRは財務視点のみで行うと、長期的にはマイナスになるコストカットを断行してしまう恐れなどもあります。しかし、このBSCを活用することで、現状とビジョン、戦略に沿ったBPRを実行しやすくなります。

システム化

ICTツールを導入して、定型業務を自動化するのも有効です。従来は人間が行っていた作業の一部もしくは全てを各種ICTツールが代行することで、業務プロセスの抜本的な最適化、人材の適正配置、属人化の防止・解消、それによる生産性向上・コストカットなどが期待できます。

導入にあたっては、まず組織内の業務プロセスを視覚化した「業務フロー図」を作成しましょう。その上で、経営方針と照らし合わせながら、システム化の目的や背景を明確にします。その後、システムを入れるフローの範囲の検討を行ってください。

その際、経営層やIT部門、ベンダーだけで行うのではなく、実際にシステムを用いる社員にもヒアリングを重ね、現状の課題などを把握し、意思統一を図ることが大切です。そうすることで、過不足のないシステムの導入につながります。

ただし、不具合や災害が起きた際は、業務が遅延・停滞する恐れがあるため注意が必要です。場合によっては、復旧作業が数日に及ぶ場合もあります。トラブルに備えて、手作業で最低限の作業ができるような体制とマニュアルを整備しておきましょう。

業務改革の基本的な進め方

BPRでは、既存のフローを一度リセットします。そこから、得たい成果へたどり着けるような業務プロセスを再構築しなければいけません。BPRの実行は大規模な変化をもたらすため、段階を踏み計画的に行うことが重要です。企業によって異なりますが、一般的には次のようなステップでBPRを進めていきます。

1.目的や対象の業務プロセスなどを検討する

BPRでは、BPRの目的とゴール、メリットを社内で共有し、意思統一を図ることが何よりも重要です。経営陣だけでなく、各部門のリーダーの協働、各社員の理解が欠かせません。

それを大前提として、まずはBPRの基本方針を策定します。データだけで判断するのではなく、各部門の担当者から現状の課題・困りごとなどもヒアリングして、改善点を明確化しましょう。その後、BPRの対象範囲を確定させます。そして、結果が出るまでの期間や予算など、さまざまな事情を勘案しながら、基本方針に沿った実行シナリオを作成してください。

BPRでは最終目標の達成に長期間がかかるため、KPI(Key Performance Indicator :重要業績評価指標、中間目標)を定めておきましょう。実行度合いが定量的に測れるため、全社的なモチベーションの維持につながります。

2.現状の業務プロセスを分析する

目的と対象範囲が明らかになったら、次に行うのは現状の分析です。各業務を可視化・細分化し、仕分けします。その際も、各部門の担当者からヒアリングを行いましょう。同時に、業務フロー図や業務体系表なども活用します。

それらを照らし合わせた結果、ほかの業務を阻害する業務、重複している業務、形骸化している業務、不必要な業務、複雑化した業務、必要ではあるものの優先順位が低い業務などがあれば、BPRを機に廃止・統合などを検討しましょう。このステップで、前述のBSCや、優先度の決定・管理に用いるABC分析などを活用するのも有効です。

3.改革に向けて業務プロセスを設計する

抽出し優先順位を付けた課題をもとに、新たな組織構造や業務プロセスを設計します。必要に応じて、RPAやAI、クラウドなどのITツールを新たな業務プロセスに組み込みましょう。業務のシェアードサービスやアウトソーシングの活用も検討してください。その際は、最初に決定した基本計画から外れないようにしましょう。常にBPRの目的とゴールを組織全体で共有し、各部門が密に連携することが、BPRの成功につながります。

4.設計に基づいて業務改革を実行する

新たな業務プロセスで業務を開始するにあたっては、リスクヘッジのために、まずは小規模な範囲で実行するのが有効です。また、経営陣からBPRの目的・目標を改めて伝え、現場の理解を得ることも大切です。トレーニングの期間を十分に設けることも欠かせません。新たな業務プロセスに移行すると、特に初期は予期せぬトラブルが発生する可能性が高まります。あらかじめ、素早いトラブルの把握・対処を行う体制を構築しておきましょう。

5.効果測定・達成度の評価を行う

新たな業務プロセスを導入した後は、BPRの最終的な目標を実現するために、各部門のKPIから実際のBPRの達成度を評価しましょう。その後も、継続的に効果測定を行い、問題が生じている場合はその都度改善を行うことが大切です。

業務改革を成功させるためのポイント

BPRは、各部門で分断が生じている業務プロセスなどを見直し、組織全体の業務プロセスを最適化させる取り組みです。広範囲・長期間の取り組みとなるため、次に挙げる点によく注意を払って推進するようにしてください。

業務プロセスは一から作り直すつもりで設計する

BPRは、既存の組織構造や業務プロセスを徹底的に見直し、一から再構築するつもりで行わなければいけません。検討を重ねた結果として既存のプロセスを一部残すのは問題ありませんが、既存のシステムに縛られて中途半端にBPRを実行したり、方向性が定まらないままスタートしたりすると、全社的に混乱するだけの結果ともなり得ます。固定観念を排除し、多角的な視点からプロセスを検討するには、各部門の担当者も含めた社内外のステークホルダーと意見交換を行うのも有効です。目指すべきゴールを明確に意識しながら、目的達成に最適なシステムの構築を目指しましょう。

PDCAサイクルを継続的に回していく

新たな業務プロセスを導入した後は、継続的にPDCAサイクルを回していくことが大切です。業務プロセスが適正に機能しているか、新たに生じた課題はないかなどを継続的にモニタリングしましょう。BPRの基本方針を策定する際、数値を用いた具体的な目標を定めておくと、効果測定がしやすくなります。

業務マニュアルを作成する

業務平準化の一環として、マニュアルを作成するのも有効です。業務の属人化を防ぎ品質の均一化につながるだけでなく、マニュアルを作成する中で改善すべき点を見つけやすいという利点があります。

マニュアルはただ単純に手順を紹介するだけでなく、読み手の立場に立ったストーリー性のあるものを作成しましょう。そうすることで、一連の流れとして業務プロセスを理解しやすくなります。その際は「どういったタイミングでどういった失敗をしやすいか」など、あらゆる情報を具体的に書くことが大切です。

業務のマニュアル化は人材育成にも有効です。新しく着任した社員でもスムーズに実践知を身に付けられるだけでなく、疑問点が生じてもマニュアルを読めば自ら解消できるようになるため、教育コストの減少にもつながります。

マニュアル化に向かない業務もある

手順や形式が決まっている場合、マニュアルは特に効果を発揮します。しかし、マニュアル化があまり適さない業務も存在します。例えばクレームを含む顧客対応、コンテンツ制作、SNS運用など、マニュアルにとらわれ過ぎることで柔軟な発想が阻害される恐れがある分野です。

ただしその場合でも、現場経験者ならではの知見やノウハウ、ありがちな失敗やクレーム・炎上の具体例、関連する法律などの予備知識をマニュアルとして整備することで、業務に不慣れな社員が判断する際の有効な助けとなります。

社内業務を整理して効果的な業務改革を

BPRは、業務プロセスなどをゼロベースで見直し、組織全体の最適化を行う取り組みです。一度最適化した業務プロセスや個々のフローを再び属人化させないためには、「Teachme Biz」などのシステムを使い、平準化のためのマニュアルを作成することも大切です。

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