【インタビュー】澤円が疑い、手放した仕事の「無駄な当たり前」 生まれた余白を何に生かせば企業は成長できるのか?

公開日: 2023.11.06

企業勤めをしていて「この仕事、無駄だよなぁ」と一度も感じたことがない人は少ないだろう。それでも、手放すことができない「無駄な当たり前」は存在し続けている。

コロナ禍が収束しつつある今、多くの企業がリスタートのときを迎えている。労働人口減少が深刻化する中でいかに人を育て定着させるか。限られたリソースを生かすためどのように効率化を図り生産性を向上させるか。そのために必要なのは、組織に染みついている既存の価値観や古い常識を疑い、見直し、取捨選択することだ。

企業成長を阻む「無駄な当たり前」とは何か。どう手放し、生産性の高いチームを作ればいいのか。圓窓 代表取締役で、多くの企業変革を支援する澤円氏に取材した。

ITmediaビジネスオンライン
2023年2月14日掲載記事より転載

 


澤円(さわまどか):生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年に大手外資系IT企業に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。最新のITテクノロジーに関する情報発信の役割を担う。2006年よりマネジメントに職掌を転換し、社内外のメンタリングも幅広く手掛ける。15年より、サイバー犯罪に関する対応チームに参加。19年10月10日より、圓窓 代表取締役就任

 

“かもしれない”思考を生み出す、日本企業の特性

※以下、敬称略

――なぜ日本企業は不要なルールに縛られてしまうのでしょうか?

澤: 日本の組織は「会社が正しい」という前提で物事が進む傾向にあります。会社が正しかった時代は確かにありました。だけど「失われた30年」が出てきたとき、その常識は崩れた。売り上げも給料も上がらない、なのに原理原則は古い価値観を主体にデザインされている。決まったものを変えることが苦手なんです。

例えば、仕事をする中で「怒られるかもしれない」という言葉を使ったこと、考えたことはありませんか。「これをやったら(やらなかったら)怒られるかもしれない」と、起きてもいないことを想像した結果、無駄な業務に時間を使う。人の感情を中心にして物事や業務が決まりやすいと感じます。

「怒られる」ことは、日本の組織ではかなり致命的なネガティブインパクトを与えてきたんですよね。終身雇用前提なので、怒られると居心地の悪い状態で長い時間を過ごすことになる。あと日本では階層型組織が一般的ですけど、この場合、逆転現象が起きにくい。年次が上がる=リスペクトされる度合いが高まる構図になっているので、得た立場、発言力や決定権、こういったものを手放すことに抵抗感が生まれやすい。加えて人材流動性も低いので、「○○さんが決めたルール」が踏襲されやすいんです。

――次世代が「無駄」と思っていても、変えることが難しい環境なんですね。

澤: 例えば外資系企業は、明文化された目標の達成がトッププライオリティです。目標に対してどのような数値を示し達成したか、ということですね。最近はまた潮流が変わって数値よりCX(=Customer Experience/顧客体験)が中心になっていますが、ユーザーがどういうハッピーな体験をするかという「目標」から逆算して業務設計をします。だけどトッププライオリティが人の顔色や感情になりやすい日本の組織は、目標達成に寄与しない無駄な業務が残り続けてしまうのではないでしょうか。

何が「無駄」で何が「必要」? 澤氏の判断基準は

――澤さんが考える「無駄」な業務はなんですか?

澤: 一例ですけど、全体の6割以上の時間が報告に費やされている会議は無駄だと思います。報告内容を全てツールに集約していつでも見られる状態にすれば会議時間は半分にできる、もしくは時間全てを未来の話に使えます。過去の話をする上で、同時性は必要ありません。過去は動かしようがないため、おのおの好きな時間にチェックして、会議体にはより同時性が求められる未来のディスカッションに時間を使う方がいいですよね。

また、社内会議で用意する資料はただの一過性の情報なので、時間をかけず数字データで傾向が分かるようにしておけば十分です。

――とはいえ、下振れしている数字の原因確認など、報告についてのディスカッションも必要なのでは?

澤: その場合「なぜ下振れが小さい間にチェックできなかったのか」を考えた方がいいですね。予算を達成できなかったことは個別対応するたぐいの課題です。改善案を出し合ったり、どのようなアクションが求められるのかをメンバーにインプットしたりといった時間には価値があります。逆に上振れしているときも称賛で終わるのではなく、「なぜ」という視点を持って成功体験を共有する。個々のベストケースを開放することで再現性を強化でき、さらに上振れる可能性が高まります。

その業務で「幸せになる人」は定義されているか?

――何を基準に「無駄」か「必要」かを判断すればいいのでしょう。

澤: その業務によって「未来が良くなるというコンセンサスが取れているかどうか」を考えてください。何のための業務なのか、誰も説明責任を果たせない状態は幸せになる人や得をする人が定義されていないということなので、削除ないしは形を変えてもいいと判断できます。

加えて「私は何をするのか、何をしたいのか」を全メンバーが考える必要があります。お客さんを喜ばせてこれだけの売り上げを出したいとか、マーケティング施策を打ってこれだけのPVを稼ぎたいとかですね。そのためにどういう仕事をして一日を終えるのがベストなのかを想像し、そこから逆算していくと自ずと必要な業務が分かります。そうすると「あの会議いるんだっけ?」とか、多分出てくると思うんですよ。

――「何をするのか、何をしたいのか」が分からない人もいそうです。

澤: 僕は以前、ITコンサルタントや技術営業として働いていたとき「あなたは何をしたら褒められますか」と、お客さんによく聞いていました。「自分が褒められる行動」は、最終的には企業がもうかることにつながるはずです。なぜなら、人事戦略は個が活躍することで企業成長できるように作られているからですね。業務が細分化されていたとしても、必ず褒められる行動、業務はあるはずなので、そういった視点で考えてみるといいかもしれません。

――ちなみに澤さんはどのような「無駄」を省き、逆に何を残しましたか?

澤: 日本マイクロソフトでテクノロジーセンターのセンター長を務めていたときは、定例会議をやめましたね。センターの稼働状況――例えばメンバーの誰が何回セッションを行って、そこにどれくらいのお客さんが訪れていて、満足度はどれくらいだったか……こういった情報を全てダッシュボードで管理できるようにして、メンバーの会議に出る時間、報告資料をまとめる時間を削減しました。同時性が必要ないと判断した僕からのインプット情報はMicrosoft Teamsのチャンネルに放り込み、メンバーには「ここを見ておいてね」と伝えて終わりです。

でも1on1と、雑談の機会は残しました。「何曜日の何時から何時まで、澤はここにいる」という情報をオープンにしたんです。「どうぞ雑談をしにきて」と。対面でもオンラインでも、誰か来たらおしゃべりをする。来なかったら自分の仕事をする。これは僕を探すというメンバーの無駄を省く意味もありました。

マネジャーの仕事は「ボトルネックを取り除く」こと 自走力も育てるマニュアルとは?

――日本マイクロソフト時代といえば、澤さんはマネジャーとしての手腕も有名でした。生産性の高いチームを育成する秘訣はなんでしょう。

澤: 僕は、マネジャーは「その人が成長する上でボトルネックを取り除く」ことが大事だと思っていて。「道を整える」イメージでしょうか。

例えばマニュアルは「道を整える」ことに直結しますよね。メンバーが10人いたとして全員が関係している業務かつ「それさえ理解していればよい」というルールがあるなら、マニュアル化することでマネジャーとメンバー双方の無駄を省けます。

一方で自走能力を高めるという視点も重要です。これは業務内容によりますが、マニュアルで「こうしなさい」と指示するのではなく、「これはしないでください」というように“犯してはならないことは何か”を示す。行動を引き出すための言葉で、環境をデザインするんです。メンバーの行動を制限せず「どうしたらうまくいくのか、自分はパフォーマンスを出せるのか」を考えてもらって結果にコミットしてもらう。

そのためにマネジャーは邪魔なものがあれば取り除くし、足りないものがあるなら差し出す――ぜひマネジャーのみなさんには「How can I help you?(どうしたらあなたを助けられますか)」を口癖にしていただきたいですね。

競争力の源泉を生むのは「余白」 生まれたリソースを何に投資?

――「無駄」を省いて生まれたリソースを、どのようなことに投資すべきですか。

澤: 例えば僕自身は、人間関係を築くことにできる限り時間を割いた方がいいと思っているんです。信頼関係を築くことによっていい仕事ができるし、楽しくなる。ハッピーに働くことがいかに重要か、多くの人や企業は気付き始めています。これは昨今、人的資本経営やウェルビーイング経営に注目が集まっていることからも明らかですよね。

――確かに今、企業成長という話題には従業員エンゲージメントというキーワードがリンクしているように思います。エンゲージメント向上に寄与する環境構築にリソースを割く重要性は今後増していきそうです。

澤: 特に日本は、成長することで成功体験を得られる時代が終わったという悲しい現実があります。高度成長期、バブル期は頑張った分だけ見返りがあった、頑張りがいがあった。だけど、この低成長時代において重労働や長時間労働=成長にはならない。おまけに国内のマーケットはシュリンクしていて、世界を見ればビッグテックがずっと先を歩いています。

だとすると、まずは従業員エンゲージメント向上を阻害するような精神的なハードル、無駄な業務による負担をぐっと下げて、のびのびと楽しく仕事ができる環境作りに目を向けてみる。それが整ったとき、効果が表れる可能性は大いにあります。

具体的な「効果」が何かは、正直分かりません。だけど少なくとも今、多くの企業はイノベーションが極めて起きにくい環境を必死になって守っているように思えます。

――「効果」を得るイノベーションを起こすためにも、余白が必要なんですね。

澤: 「フェイルファスト(fail fast)」ってご存じですか? これは「早めに失敗しなさい」という意味です。準備ができてから何々をするという考え方は、時間を食います。たっぷり準備してから失敗するとダメージが大きい。まずは実行して、小さな失敗を繰り返しながら改善するサイクルを回す方が前進できます。実行して「ダメだ」と思えば次に行けばいいんです。これは余白を生まなければ実現できません。

最近では、観察、状況判断、意思決定、行動――これをぐるぐる回す「OODA(ウーダ)ループ」※というキーワードがビジネスやスポーツで使われるようになりました。外の物差しを持ち、視野を広くして「観察」することで「状況判断」の材料を増やすこと。階層型組織をフラットにして「意思決定」スピードを速めること。そして余白を生み出し、フェイルファストの考えに基づいて「行動」すること。企業はこういったサイクルによりイノベーションを起こすことで、成長できるのではないでしょうか。

※古くは航空戦に臨むパイロットの戦術、戦略に用いられていたフレームワーク

イノベーションは「新結合」です。今まで遠くにあって出合わなかった組み合わせによるシナジー効果で、新たな何かが生まれる。これがイノベーションの本質です。遠くのものを組み合わせるのは、余白がないとできませんよね。余白ができるということは、新たなチャレンジができるということ。イノベーションの源泉がどんどん生まれてくる、そんな土台を作れるはずです。

――イノベーション、付加価値の高いアウトプットにリソースを投資するためにも、時間や情報といったインプットの最適化を図ることが大切になりそうですね。本日はありがとうございました。

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