ウェルビーイング経営とは? 事例やメリット・デメリットを解説

最終更新日: 2024.07.04 公開日: 2024.01.18

ウェルビーイング経営とは?事例やメリットを解説

近年、世界的に広まっている「ウェルビーイング経営」は、企業の存在意義や個人のワークライフバランスを見直すうえで重要な考えとされています。
本記事では、ウェルビーイング経営の概要と目的、導入するメリット、企業や自治体の事例を紹介します。ウェルビーイング経営に対する理解を深め、労働環境の改善に向けた取り組みを始めましょう。


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ウェルビーイング経営とは?

「ウェルビーイング経営」とは、企業の利益だけを重視せず、社員が身体的・精神的・社会的に良好な状態を保ちながら、やりがいを持って働けるよう労働環境を整備することです。ウェルビーイングの意味と目的をよく理解したうえで、労働環境の改善につながる施策を検討しましょう。

ウェルビーイングの起源

「ウェルビーイング(well-being)」を日本語に訳すと「良い状態」という意味です。世界保健機関(WHO)憲章の前文に用いられたことから、ウェルビーイングの考えが世界に広まったとされていますが、明確な定義は定められていません。

近年では、一般的に「それぞれの権利や自己実現が保証され、精神的、肉体的、社会的に満たされた状態」を指す言葉として使われています。「幸福」と訳されることもあるウェルビーイングですが「Happiness」よりも長期的であり、精神的なニュアンスを含んでいるのが特徴です。

SDGsのゴール3「Good health and well-being(すべての人に健康と福祉を)」では「福祉」と訳されています。ウェルビーイングは「ポジティブ感情、没頭・没入、人間関係、意味・意義、達成」という5つの要素から構成されると唱えられています。

参照:世界保健機関憲章(全文)
持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取組 | 外務省(p.2)

ウェルビーイング経営の目的

「ウェルビーイング経営」の考えでは、従業員の持続的な幸福の追求を重要視します。その結果、企業がさまざまなメリットを享受できるという経営手法です。日本では、労災が減少した一方、強い不安やストレスを感じる従業員が増加しているといった背景があります。女性や高齢者、働く意欲があったとしても何らかの事情で働けない方などに対して、選択肢や機会が十分に用意されていないことも問題視されています。

ウェルビーイング経営の導入は、人材確保に有用です。幅広い業界で人材確保が困難となっている昨今、従業員の健康維持に対する配慮だけでなく、安心して働ける環境を整えることが大切です。

ウェルビーイング経営のメリット

ウェルビーイング経営は、今や企業戦略のひとつとして欠かせない手法です。ウェルビーイング経営の実践は、社会的貢献や人手不足の解消、労働環境を見直すきっかけになるなど、企業に多様なメリットをもたらします。

SDGsの目標達成に貢献できる

企業がウェルビーイング向上に取り組むことで、SDGsのゴール3である「Good health and well-being(すべての人に健康と福祉を)」と、ゴール8「Decent Work and Economic Growth (働きがいも経済成長も)」の達成に貢献できます。

日本は健康寿命が長い反面、ウェルビーイングと高い関係性のある「幸福度ランキング」はG7の中で劣位です。これらの課題を解決するには、各従業員がより精神的・心理的安全性を感じながら働ける環境づくりを意識することが大切です。ウェルビーイング向上に向けた取り組みにより、全体のクリエイティビティや生産性アップが実現すれば、企業価値の向上も見込めます。

人手不足の解消につながる

魅力的な労働環境づくりは、人材の流出防止に効果的です。近年では、消費者が製品・サービスを購入するにあたり、各企業が持つ世界観や存在意義を重視する傾向にあるとされています。これと同様に、組織の世界観を重視する従業員も少なくありません。

ウェルビーイングを基軸とした経営戦略を構築し、共有することで、従業員の社会貢献意識や心理的安全性の確保に対する期待は高くなります。ウェルビーイングによってエンゲージメントが向上すれば、離職率の低減が見込めます。また、ウェルビーイング対策に熱心な企業には、優秀な人材が集まりやすいというのも注目すべきメリットのひとつです。

労働環境の改善が期待できる

「ウェルビーイングを向上させる」という目的や具体的な目標を掲げ、その内容に沿った企業運営を行うことで、労働環境が改善されます。残業時間の削減や休暇の取得、時短勤務のしやすい体制づくりなど、自社の状況をよく把握したうえで取り組むべきポイントを見出し、有効な施策を練ることが大切です。

近年浸透しているテレワークもウェルビーイングにおいて有効ですが、プライベートとの境界があいまいになってしまった場合、ストレスの増加が懸念されます。テレワークを推進する際は、孤立しないための対策を講じることも忘れないようにしましょう。

ウェルビーイング経営の課題と注意点

ウェルビーイング経営は、やみくもに実践してしまうと逆効果になる恐れがあります。あらかじめウェルビーイング経営で陥りやすい課題と注意点を整理したうえで、よく理解しておきましょう。

目標の達成基準が明確ではない

達成基準を明確にしないままウェルビーイング経営に踏み切ってしまった場合、施策の効果を正しく比較・評価できず、成功の判断があいまいになってしまいます。また実際とは異なり、あたかも環境に配慮しているように装った表面上だけのウェルビーイング対策は、批判の的になりかねないため、企業の価値が低下する恐れもあります。

このような状況に陥らないためにも、ウェルビーイング経営を行う際は、自社の人材戦略や人材活用の課題と照らし合わせ、目的や達成基準を明確にすることが大切です。取り組みの評価を分かりやすく視覚化できる体制を整え、内実を伴った情報開示が求められます。

短期的に利益・売上が低下する可能性がある

ウェルビーイングの実現に向けた取り組みは、従業員のパフォーマンス向上だけでなく、エンゲージメントやモチベーションアップにも高い効果が見込めます。

たとえば「従業員が働く上での自由度を上げるために、環境性能の高いワークプレイスを新設する」という考えを実行する際には、相応の費用を投じなければなりません。しかし、従業員のウェルビーイングを高めるために必要なコストは、投資と考えることが大切です。

ウェルビーイング経営では、長期的な目線が求められます。継続的な取り組みと改善を繰り返していくことで、従業員の働きがいや満足度が向上するとともに、企業の価値も高まるはずです。

ウェルビーイング経営と健康経営の違いとは?

ウェルビーイング経営と「健康経営」は混同されがちですが、目指すべき状態が異なります。

ウェルビーイング経営と健康経営の目的の違い

健康経営は、従業員の健康維持が目的です。人材という企業の大切な成長資源を確保するために、従業員の健康面に配慮しながら企業の発展を目指す経営手法を指します。

一方、ウェルビーイング経営では、生きがいや働きがいなど、より幅広い視点が求められます。従業員が肉体的・精神的に心身の健康を維持しながら働けるよう、企業が配慮するという点では同じですが、ワークライフバランスや同僚・友人・家庭での円滑なコミュニケーションなど、人間関係を良好に保ちながら幸福度を高めていくことが重要です。

ウェルビーイング経営と健康経営の視点の違い

ウェルビーイング経営と健康経営には、視点の違いも存在します。健康経営は「会社のために、健康を維持してほしい」という経営者側の希望が前に出ていることから、基本的には一方通行の取り組みです。そのため「〇〇制度を導入」「〇〇認定」など一定の成果が現れやすく、可視化されやすい傾向にあります。

これに対してウェルビーイング経営は「こういう環境であれば、より意欲的に働ける」といった従業員のニーズが起点となる手法です。目には見えない満足度を測るため、成果を可視化するには明確な基準を設けなければなりません

ウェルビーイング経営を実施している企業・自治体の事例

今後、ウェルビーイングの実現に向けて自社がどのようにアプローチすべきか悩んでいるのなら、さまざまな企業の事例からヒントを得るのもひとつの手段です。

楽天グループ株式会社

楽天グループ株式会社では、経営層にウェルネス部を設置し、ウェルビーイングが業績に及ぼす要因を分析したうえで戦略的にアクションプランを策定しています。定期的に行われる「ウェルビーイングサーベイ」では、従業員の健康課題を抽出し、具体的な取り組みを練っています。栄養バランスの取れた食事の提供やフィットネスジム、スパを設置するなど、福利厚生が充実しているのも注目すべきポイントです。

また、新しいオフィスは各ゾーンの領域をあいまいにすることで、それぞれのスペースとリズムを保ちながら、ゆるやかな一体感が持てる構造を採用しています。オフィス空間を多様な仲間とアイディアを共有するための「道具」と捉えることで、従業員の社会的な満足度が向上し、イノベーションの原動力となっています。

詳しくはこちら
楽天グループ株式会社|ウェルビーイング経営の取り組み

日本システム開発株式会社

日本システム開発株式会社では、2022年からウェルビーイング経営を全面的に開始しました。衛生委員会の実施、ハラスメント相談窓口の設置、禁煙外来の費用補助など、企業が主体となって、ウェルビーイングの基礎となる心身の健康維持・増進に向けて取り組んでいます。

また、一人ひとりが主体的にキャリアプランを描けるよう「社員ファースト」「社員の幸せ」をキーワードに掲げ、会社を自己実現の場としてもらえるように積極的なサポートを提供しています。

さらに、従業員が本来の業務に注力できるよう、DX(デジタルトランスフォーメーション)の専門部署を立ち上げ、古いシステムを刷新しました。利便性が高まったことにより、従業員のモチベーションアップに結びついています。

詳しくはこちら
日本システム開発株式会社|ウェルビーイング経営の取り組み

富山県

富山県では「幸せ人口1000万人」を掲げ、成長戦略の中心にウェルビーイングを位置づけています。ファーストステップでは、県民の意識調査をもとに10のウェルビーイング指標を独自に設定し、これらの指標が持つ要素がお互いに影響し合うことで、それぞれの多様なウェルビーイング実現を長期的な目標に掲げました。

また、2022年の「ジェンダー・ギャップ指数」で日本が146か国中116位と低いことを重く受け止め「男女共同参画の推進による『ウェルビーイング先進地域、富山』」を掲げ、女性のウェルビーイング実現にも注力しています。スタートアップ企業を積極的に支援するなど、県全体で誰もが住みやすく働きやすい街づくりに向け取り組んでいます。

詳しくはこちら
富山県|ウェルビーイングの推進

社内でウェルビーイング経営を推進させるポイント

ウェルビーイングの向上につながる取り組みは多岐にわたりますが、始めやすいものから徐々に取り入れ、必要に応じて拡大していく方法もあります。それぞれ導入のポイントを整理したうえで実践してみましょう。

従業員の健康管理を徹底する

ウェルビーイング経営の基本は、フィジカル面の健康管理です。上述したように、企業が主導できる取り組みは、成果が出やすい傾向にあります。たとえば、インフルエンザなどの予防接種をはじめ、女性社員を対象とした婦人科検診などの費用を負担するといった取り組みもが挙げられます。

最近では、メンタルヘルスケアも重要視されるようになりました。企業側ができる取り組みとして、定期的なストレスチェックの実施、相談窓口の開設、メンタルヘルスに対して正しい知識を身に付けるためのセミナーを開催するなどの活動が考えられます。

なお近年では、マイクロブレイクに注目する企業が増えています。マイクロブレイクとは、同僚と雑談したり体を動かしたりするために数分から10分程度の短い休憩のことです。疲労を防ぎ集中力をアップする効果が期待できるマイクロブレイクは、精神面の安定と組織のパフォーマンス向上に有効な取り組みのひとつと言えます。

社内の福利厚生を充実させる

福利厚生は、経済的なウェルビーイングの実現に有用です。中でも、飲食に関する福利厚生は従業員に喜ばれやすい傾向にあり、コーヒーマシンやウォーターサーバーをはじめ、軽食やお菓子の自販機、サラダやフルーツ・総菜を設置した社員食堂を完備する企業もあります。従業員のニーズを聞き取りながら、自社に適したものを検討することが大切です。

他にも、宿泊やレジャー、飲食の費用補助などもウェルビーイングの実現に有効とされています。ただし、家でゆっくり過ごしたいという従業員も少なくないため、補助が一定の従業員に偏らないよう配慮しなければなりません。

業務効率化による労働環境の改善

業務に潜む「ムリ・ムダ・ムラ」を取り除き、業務の効率化・平準化を行うことは、労働環境の改善につながります。従業員の能力に対して負荷のバランスが取れた環境は、長時間労働の課題解決に結びつきます。

労働環境の抜本的な改善に向けて、ツールを導入することも視野に入れ検討してみましょう。業務がスムーズに進められるようになると、より創造性の高い仕事に注力できるため、従業員のモチベーションアップが期待できます。

たとえば、マニュアルの作成・共有を支援する「Teachme Biz」を活用すれば、視覚的に分かりやすいマニュアルで各工程の作業を明確化することが可能です。タイムパフォーマンスが上がれば、肉体的・精神的な余裕が生まれるだけでなく、ウェルビーイング向上の鍵となるコミュニケーションの円滑化にも結びつきます。

社内でウェルビーイング経営の導入を検討しよう

ウェルビーイング経営は、従業員の心身だけでなく、社会的な幸福も追求する経営手法です。企業が積極的にウェルビーイングの向上に取り組むことで、多様な人材が能力を発揮できる場面が増え、結果として生産性やエンゲージメント向上につながります。

具体的な取り組みの内容は企業の課題や目的によってさまざまですが、ウェルビーイング経営の促進に必要なツールを新たに導入する場合、使いやすさを考慮して選定することも重要です。

「Teachme Biz」は、画像や動画を活用したマニュアルを簡単に作成できるシステムです。属人化を解消し、業務最適化を実現することで、労働環境の改善を実現に導きます。

業務における「ムリ・ムラ・ムダ」を省いて業務効率化を図ることはもちろん、業務品質の均一化を実現するためには、業務マニュアルは必要不可欠です。マニュアル作成にはその他にもさまざまなメリットがあります。業務フローをマニュアルにまとめることで、作業工程を見直すことができたり、業務の属人化を防ぎ、ノウハウやナレッジを継承したりすることにも役立ちます。マニュアルの活用によって継続的に業務改善に取り組みましょう。
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まとめ

企業が従業員のウェルビーイング向上に努めることは、人的資本の活用面でも意義のある取り組みです。企業の世界観や存在意義が注目されている昨今、ウィルビーイング経営で成果を上げることは、自社の価値を高めることに結びつきます。

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