人手不足はなぜ起こる?解消へ向けた6つの対策方法をご紹介
大企業・中小企業を問わず、働き手の不足は深刻化しています。少子高齢化が大きな要因と言えますが、実際にはどのような業界が人手不足に悩んでいるのでしょうか。離職率増加・就職率減少といった原因は複雑で、業種により異なる部分です。
そこで本記事では、人手不足を抱える業種とその理由について解説していきます。後半では業務の効率化・自動化についてもピックアップしているので、この記事を参考にして人手不足解消を目指しましょう。
目次
高まる「人手不足」のリスク
最近「人手不足」のニュースを目にすることが増えてきました。震災復興やオリンピックで需要が高まる「建設業」や、深夜のアルバイトスタッフが集まらず営業に支障が出ている「飲食業」など、話題にのぼる業界もさまざまです。
「人手不足」という社会的課題に対し、どのように立ち向かっていくべきでしょうか。
人手不足の背景
そもそも「人手不足」はなぜ起きているのでしょうか?ここでは、人口×地域×職種の3つの切り口でデータを読み解いてみましょう。
1.人口減少と高齢化
日本は人口減少に転じており高齢化率は高まる一方です。2060年時点では、人口8,674万人(2010年比4,132万人減(32.3%減))、高齢化率39.9%(2010年から16.9%上昇)との将来人口推計も発表されています。つまり労働力人口が減り続け、若者の”希少価値”は高まっていく傾向にあるのです。
2.都市部への一極集中
東京・名古屋・大阪を中心とした三大都市圏への人口集中は続いています。正確には、東京圏への一極集中が進み、名古屋圏・大阪圏は横ばい、他の地方は慢性的な転出超過(過疎化)というのが適切かもしれません。東京圏への転入超過数は、毎年10万人~20万人。これは地方都市1つ分が毎年東京に飲み込まれているような状態です。
3.職種による求職ニーズの違い
労働環境の厳しい職種は相対的に敬遠されます。有効求人倍率(=求人数÷求職者数(1を超えると人手不足))は職種によるバラツキが大きく建設業では3倍を超えています。つまり1人の労働者に対し3つの求職枠がある状態です。
つまり、これらが同時に発生しているのが、今の状況なのです。
・若者が、東京の、人気職業に殺到する → 就職難
・若者は、地方の、労働環境の厳しい職種には集まらない → 人手不足
人手不足が蔓延している業界とは?
日本国内の多くの会社が人手不足問題を抱え、さまざまな対策を実施しています。特に、サービス・建設・運送といった業界の人手不足の深刻さは多くの方がご存知でしょう。
離職率の高さはもちろん、就職率の減少も大きな問題点です。人手不足が蔓延する業界とその主な理由について、3つの業界に分けて解説していきます。
飲食・サービス業界
全業種のなかで、特に人手不足が深刻化しているのが飲食・サービス業界です。農林水産省の調査結果によると、製造業や小売業と比べて約2倍の人手不足に陥っています。その理由のひとつに、離職率の高さが挙げられます。
2014年時点で、飲食・サービス業界における大学卒業者の就職後3年以内の離職率は約半数にものぼります。全業種での離職率が約32パーセントであることを鑑みると、2人に1人の離職はかなり高い数字と言えます。
離職理由には、出産・育児が15パーセント以上を占めていることから、女性雇用者が多いことが大きな要因として考えられます。
飲食・サービス業界は所定外労働も多く見られ、「労働時間に適した報酬を得られない」と感じる方も少なくありません。こういった理由も、50パーセントを占める離職率につながっています。
>>参考:『外食・中食産業における働き方の現状と課題について』
建設業界
人手不足の理由として、若者の就職率減少が深く関係しているのが建設業界です。季節を問わず肉体労働を重ねる建設業は、体力の消耗だけでなく危険をともなう仕事でもあります。対して、賃金の低さは昨今でも問題視される部分です。
ほかの業種とは異なり、賃金が日給で支給されることが多いことも建設業界の特徴と言えます。月単位で固定された報酬ではないため、収入が安定しにくい点も就職率減少の理由のひとつです。時給に換算すると最低賃金を下回るケースもあり、「つらい仕事なのに低賃金である」というイメージを持つ方も多いでしょう。
こうして新しく建設業界に参入する若者世代の数が減ることで、全体の働き手は減少の一途をたどっているのです。
流通・運送・倉庫業界
サービス・建設といった業界とは違った理由で人手不足となっているのは、流通・運送・倉庫業界です。インターネット通販が普及したことにより、商品の配達や運送の需要が急激に高まったことが原因です
特に、個人宅へ配達するときには「受取人不在」によるリスクが問題視されています。一度営業所へ持ち帰って再度配達することが一般的な流れとなっているため、配達員への負担増大は否めません。拘束時間や休日を一定に保ちにくいことが、運送業界の離職理由につながっていると考えられます
インターネット通販では、配達時間の指定だけでなく当日配達・配送料無料といった便利なサービスも利用可能です。AI技術の発達により今や日常的な買い物になりつつありますが、最終段階となる配達人員の不足は深刻な問題と言えるでしょう。
今後は人手不足回復の兆しはあるのか
全国的に人手不足が深刻化するなかで回復させることは容易ではありません。人手不足を発生させる理由には、労働時間の超過・賃金低下・若者の就職率減少など非常にさまざまな問題点が挙げられます。
多くの業界で共通していることは、必ずしも業務内容に不満があるわけではないという点です。つまり、仕事自体へのやりがいが離職に直結するケースはそれほど多くありません。
「仕事は好きだが賃金が低く家族を養えない」「残業が多くプライベートに影響を及ぼす」といった理由も見られるため、転職で解決できる可能性も低いでしょう。
たとえば、人手不足を補うために現職者の労働時間を増やすと、所定外労働を理由に離職率も増加します。こうした負の連鎖を止めることは困難であるため、このままでは人手不足の解決にかなりの時間を要すると考えられます。
人手不足と働き方改革
現在日本が抱える少子高齢化問題は、人手不足にも大きく関わっています。労働人口が減少するなか、高齢者を支えるための業界は需要を高める一方です。
そんな深刻な人手不足問題を解決するため、厚生労働省は「働き方改革」を進めています。働き方改革について、詳しく見ていきましょう。
厚生労働省が推進する働き方改革
深刻な人手不足を阻止すべく、厚生労働省は働き方改革を推進しています。主な取り組みは、以下の3点です。
・時間外労働の上限規制
・年次有給休暇の時季指定
・同一労働・同一賃金
過労死を引き起こしたことで問題となった時間外労働については、原則月45時間・年360時間の上限が設けられました。やむを得ない場合は臨時的な残業が認められますが、年720時間以内・月100時間未満など細かい規定が設けられています。
年次有給休暇は年間最低5日の取得が定められ、半年間以上の継続雇用・全労働日の8割以上出勤の2点が条件です。会社員・パートを問わずすべての労働者が対象となり、有給休暇取得率の向上を目指しています。
同一労働・同一賃金は、正社員とパート・派遣労働者などの待遇差を禁止する取り組みです。待遇差の合理・不合理を規定するガイドラインをもとに、給与・昇給をはじめとする細かい待遇バランスを調整します。詳細条件は複雑ですが、雇用形態による待遇の格差を改善していくことが目的です。
人手不足にアプローチする生産性向上の取り組み
働き方改革が最終的に目指すのは、人手不足を解消して生産性を向上させることです。労働人口の減少だけでなく、育児・介護に追われて退職せざるを得ない労働者も少なくありません。よって、育児と仕事を無理なく両立できれば、離職率減少にも歯止めが効くと考えられます。
生産性を向上させるためには、やはりイノベーションが重要です。新しい働き方を日本全体で拡大させることで、労働者それぞれが適した働き方を選択できます。多種多様な働き方が認められると、人手不足問題も解決につながると言えるでしょう。
人手が不足している業界の今後の対策方法とは?
少子高齢化社会という大きな問題を抱える日本では、有力な人材による効率的な労働が求められています。そのためには、法律に則った取り組みだけでなくさまざまな観点から労働のあり方を改善していかなければいけません。
人手が不足する業界において、有力な対策方法はあるのでしょうか。6つの観点から実施すべき対策を解説していきます。
働き方改革を進める
厚生労働省が法律を改定して働き方を改めていますが、労働者を雇う会社のひとつひとつが個々の働き方改革を進めることも大切です。最低賃金・残業時間の規定などは、当然国の法律に則ります。加えて、労働者の生の声を取り入れて改善していく取り組みも重要でしょう。
入職率増加・離職率減少を目指すためには、多様な働き方を採用しなければなりません。指定の時間・日数での労働を強いるのではなく、育児との両立・リモートワークの容認といった取り組みが大きなカギになると言えます。
賃金の多い・少ないは労働者の感じ方で異なりますが、「最低賃金を上回っていればよい」というわけではありません。仕事にやりがいを感じ、十分な報酬を得られると時間対効果にもつながるでしょう。
業務効率化技術に対して投資をする
会社内の取り組みとして、効率化を望める技術に投資をすることも有効です。たとえば、AIやIT技術といった分野は、生産性の向上に大きく貢献します。これまで人の手で行っていた部分を任せられるため、人手不足の対策方法としては非常に役立つでしょう。
投資には少なからずリスクが発生するため、プラス要因がわかりやすいものを選択することが大切です。資料作成のデジタル化・研修内容のクラウド共有といった技術を活用する企業も増えているため、これからさらに役立つツールになるでしょう。
事業の成長可能性を高めて人材を確保する
人材を確保するためには、事業が成長している実績を提示しなければなりません。成長しないと判断した会社への就職意志は低下するため、いかに有望な会社であるかを労働者に的確に認識してもらう必要があります。
事業の成長を判断する材料は、会社の収益です。収益が右肩上がりになるような取り組みを実施し、会社とともに高みを目指せる人材を確保していきます。成長産業には多くの人が集まり、結果が出るとさらに優良な会社へと発展していくでしょう。
採用に力を入れつつコストを削減する
大手企業・中小企業を問わず直面しやすい問題が、採用コストの増加です。新しく入職者を探す際には、会社ごとに採用コストが発生します。採用担当者の人件費・交通費などの内部コスト、広告掲載料のような外部コストが主な内訳です。
内定辞退率が上がると、全体の採用コストが高くなります。内定辞退は人手不足に直接関わるため、なるべく少ないコストで優秀な人材を確保する必要があるのです。SNSが普及する昨今ですから、Facebookのようなツールを活用した企業内容・実績の発信も有効でしょう。人件費を抑えながら、効率的な採用活動へシフトしていくことが大切です。
優秀な人材に長く働いてもらえる環境を作る
人材を確保したあとは、この先も長く業務を続けてもらわなければなりません。優秀な人材を育てるためには、研修制度の見直しを行うのもひとつの方法です。研修制度が充実している会社では、業務に慣れやすく上達も早まります。研修内容は業種によりさまざまですが、煩雑でない・習得しやすい内容であることが重要です。
社内のあいだで認識の違いがある場合は、インナーブランディングで方向性を再確認することも有効でしょう。新入社員の成長だけでなく、会社全体の意志を高めることで離職率の減少にもつながります。
自動化・効率化を進める
人の手による作業を機械に置き換えられるのであれば、自動化・効率化を進めることで業務の省力化が可能です。適切な方法を選択するために、まずは業務の精査を行います。これまでと同じ方法で実施できること・何らかの形で変更すべきことを見極め、生産性の向上を図りましょう。
特に、工場での業務は自動化できる部分も増えています。ロボット技術の向上により人力が不要になるケースもあるため、人手不足の解決に大きく貢献してくれるでしょう。
人手不足という構造的課題に対し、国は「全員参加型社会」を施策として掲げています。全員とは、若者・女性・高齢者・障害者を指し、彼らに対する「就労支援」と企業に対する「雇用促進」の両面からの働きかけを行っています。(参考:厚生労働白書)また外国人労働者の受け入れを活発化する動きも出てきています。
一方で、せっかく採用した人材をうまく活用しきれず、職場に定着させられないといった課題も顕在化しています。
「人手が足りない」→「人手を補う」という採用面の対策だけでは不十分。「より少ない人数で業務を回せるしくみ」や「採用した人材が定着できるしくみ」という業務面の対策と、セットで行わなければいけません。
穴の開いたバケツにいくら水を入れても漏れるだけ。まずは穴を塞ぐための対策もしっかり講じることが重要です。
効率化・自動化が可能な業務とは?
業務の効率化・自動化が有効となるのは、単純な作業や標準化が可能な業務です。製造から経理まで幅広い業種で取り組みが可能なため、実際に導入している方、または導入を検討している方も多いのではないでしょうか。ここからは、製造部門・小売店舗・経理それぞれでマニュアル化が可能な業務を解説していきます。
製造部門における単純作業
業務の自動化が可能な作業は、「誰が実施しても同じ工程・結果であること」が前提です。梱包やライン作業はこれに該当するため、製造部門での単純作業は自動化に適していると言えます。大型の部品を扱う分野ではケガ・事故の危険も避けられるため、労働者への負担が大きく減少するでしょう。
製造部門の自動化は、ロボット技術の向上により採用する企業も増えています。予算の関係で手作業を続ける会社も少なくありませんが、人員不足の解消や人口減少に備える意味では費用対効果を望める方法です。
経理・事務仕事の自動化
AIが担う仕事のなかでも、経理・事務の業務内容は比較的導入しやすいと言われています。人が計算するよりも正確性が高まる利点もあり、人件費削減には多いに役立てられるでしょう。スマートフォン上でも、すでにいくつかの会計アプリが登場しています。
身近なサービスは、「レシートを撮影して内訳を読み込む」「確定申告書を作成する」といったツールです。個人・法人を問わず活用できるシステムの認知度が高まり、今後さらに導入数が増えると予想されます。経理や事務作業に費やす時間が大幅に減るため、人員不足解消も期待できるでしょう。
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