IT導入補助金とは?補助金の対象範囲と申請方法について
企業の業務効率化や生産性向上の手段として注目を集めているのが、ITツールの導入です。しかし、こうしたツールの導入には初期費用がかかるため、導入をためらう企業も少なくありません。そこで経済産業省では、企業の負担を軽減する目的で「IT導入補助金」にかかる制度を推進しています。
本記事では、中小企業や小規模事業者が積極的に活用できる「IT導入補助金」について、その対象範囲や申請方法を詳しく解説します。ITツールの導入によって業務環境を整備し、生産性向上を目指しましょう。
目次
IT導入補助金とは「ITツールの導入を支援」するもの
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際に、一部費用を国が補助する制度です。この補助金により、企業は最新のITツールをコストを抑えて導入でき、競争力を強化できます。2017年以降、毎年度公募されているIT導入補助金ですが、2024年度には4つの異なる枠組みで提供されており、各企業のニーズに応じた支援が受けられます。
第1に通常枠は、基本的な業務改善や効率化を目的としたITツールの導入を支援する枠組みです。会計ソフトや顧客管理システムなど、幅広く対象となり、企業が日常的に使用するITツールの導入を補助します。
第2にインボイス枠は、2023年10月に開始されたインボイス制度に対応するためのITツール導入を支援する枠です。一定の会計ソフトや受発注システムの導入費用が補助対象となり、企業が円滑に新制度に対応できるようサポートします。
第3にセキュリティ対策推進枠は、サイバーセキュリティ対策強化目的でのITツールを導入する際に利用できる枠組みです。近年増加しているサイバー攻撃から企業を守るために、ウイルス対策ソフトなどのセキュリティツールの導入が推奨されており、これらの費用が補助されます。
第4に複数社連携IT導入枠は、複数の企業が連携してITツールを導入するプロジェクトに対して支援を行う枠です。この枠組みでは、業界全体の効率化や競争力強化を目的とし、共同でシステムを導入することでの大規模なIT投資の実現を促します。
また、IT導入補助金の申請にあたっては、IT導入支援事業者のサポートが制度上必要です。この事業者はIT導入事業のパートナーとして、補助金申請に要する書類の作成から導入後の運用補助まで、幅広くサポートを行います。
参照元:IT導入補助金2024
対象は中小企業・小規模事業者
IT導入補助金の補助対象となるのは、中小企業や小規模事業者です。これらに当てはまるかは、業種や規模によって異なります。以下の基準を満たせば中小企業や小規模事業者に該当します。
【一般法人・個人事業主の基準】
業種 | 資本金 | 従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業(※1) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業(※2) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業、情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
その他業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※1ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業以外
※2自動車・航空機用タイヤ・チューブ製造業、工業用ゴムベルト製造業以外
【その他法人の基準】
組織形態 | 従業員数 |
---|---|
医療法人、社会福祉法人 | 300人以下 |
学校法人 | 300人以下 |
商工会・都道府県商工会連合会、商工会議所 | 100人以下 |
・中小企業団体(中小企業支援法第2条第1項第4号に規定) ・特別の法律によって設立された組合、その連合会 ・財団法人(一般・公益)、社団法人(一般・公益) ・特定非営利法人 |
主たる業種に記載の従業員規模 |
【小規模事業者の基準】
業種・組織形態 | 従業員数 |
---|---|
商業・サービス業(※3) | 5人以下 |
宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
製造業その他 | 20人以下 |
※3宿泊業・娯楽業以外
出典:IT導入補助金とは
2024年度の申請枠と対象になるもの
2024年度のIT導入補助金では、中小企業や小規模事業者がデジタル化を進めるためのサポートとして、4つの申請枠が設けられています。各枠には異なる特徴があるため、導入を検討するITツールがどの枠に該当するかを把握しましょう。
以下は、各申請枠で補助される製品の特徴や補助率の一覧です。
通常枠 | インボイス枠 (インボイス対応類型) |
インボイス枠 (電子取引類型) |
セキュリティ対策推進枠 | 複数社連携IT導入枠 | |
---|---|---|---|---|---|
要件 | 業務効率化、DX推進などに役立つITツールの導入 | インボイス制度対応の会計・受発注・決済機能付きITツール、ハードウェアの導入 | 発注者がインボイス制度対応の上で受発注機能付きITツールを導入し、受注者が無償利用 | サイバーセキュリティお助けサービスの導入 | 複数の中小・小規模事業者の連携によるITツール・ハードウェアの導入 |
対象 | ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費など | ソフトウェア購入費、ハードウェア購入費、導入関連費、クラウド利用料など | クラウド利用料(最長2年) | お助けサービス利用料 | ソフトウェア購入費、ハードウェア購入費、導入関連費、クラウド利用料など |
補助率 | 中小企業:1/2以内 | 50万円以下:3/4以内(小規模事業者は4/5) 50万~350万:2/3以内 ハードウェア購入費:1/2以内 |
大企業:1/2 中小企業:2/3以内 |
中小企業:1/2以内 | インボイス枠対象経費:インボイス枠と同様 消費者動向等分析経費・事務費・専門家費:2/3以内 |
出典:IT導入補助金2024 複数社連携IT導入枠の概要 P.2
通常枠
通常枠は、IT導入補助金の中で最も広く利用されている枠組みです。中小企業や小規模事業者が、業務の効率化や生産性向上を目的としてITツールなどを導入する際に、費用の一部が補助されます。特定の業務やシステムに限定されず、幅広い用途に対応しているため、あらゆる業種の企業にとって利用しやすいのが特徴です。
補助の対象となるITツールには、会計ソフト、顧客管理システム(CRM)、在庫管理ソフト、販売管理システムなど、企業の日常業務を効率化するための基本的なものが含まれます。これらには、クラウド型やオンプレミス型を問わずさまざまな選択肢が用意されているため、企業のニーズに合わせた導入が可能です。
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【補助率】
1/2以内
【補助額】
1プロセス以上→5万円以上150万円未満
4プロセス以上→150万円以上450万円以下
インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)
インボイス枠は、2023年10月に導入されたインボイス制度に対応するためのITツールを支援する枠組みです。この枠では、インボイス制度に適応するための請求書管理ソフトや電子取引データの保存システムなどを導入する企業に対して、一定の費用を補助します。
インボイス枠は、インボイス対応類型と電子取引類型とに分かれています。前者はインボイス制度に対応した請求書発行ソフトや会計システムが対象で、企業が新しい請求書フォーマットに対応し、税務処理を適正に行うためのITツール導入を支援します。
後者は受発注機能を備えたITツールが対象です。機能としては、電子的にやり取りされる請求書や契約書の保存、管理が含まれます。
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【補助率】
インボイス対応類型:
・50万円以下:3/4以内(小規模事業者は4/5)
・50万~350万:2/3以内、ハードウェア購入費:1/2以内
電子取引類型:中小企業 2/3以内
【補助額】
下限なし~350万円
※インボイス対応類型はもっと細かく分かれています。
セキュリティ対策推進枠
セキュリティ対策推進枠は、近年増加しているサイバー攻撃や情報漏えいのリスクに対応するため、企業がサイバーセキュリティの強化目的でサポートを受ける際に支援を行う枠組みです。この枠は、企業が安心して事業を継続できるよう、最新のセキュリティ対策を手軽に導入できるように設けられています。
補助の対象となるのは、「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載され、かつIT導入支援事業者が提供する、事前登録サービスを導入する際の、サービス利用料です。このお助け隊サービスとは、異常の監視やIT事業者などの駆付け対応、保険をパッケージングして提供するサービスを指します。サービス提供事業者のリストは、情報処理推進機構(IPA)が公表しています。
セキュリティ対策推進枠を利用することで、企業はコストを抑えながら強固なセキュリティ対策のサポートを受けられ、ビジネスの信頼性と安全性を高めることができます。特に中小企業は大企業に比べてセキュリティ対策が遅れがちであるため、この枠を活用してセキュリティの強化を図ることが重要です。
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【補助率】導入費用の1/2以内
【補助額】5万円~100万円
複数社連携IT導入枠
複数社連携IT導入枠は、複数の企業が協力してITツールを導入するプロジェクトに対し、支援を行う枠組みです。この枠は、業界全体の効率化や生産性の向上を目指して、企業が共同でシステムを導入・運用する際の費用を補助します。連携する企業が共同でプロジェクトを実施することで、個々の企業が単独で導入する場合よりも効率的かつ効果的なIT環境を構築できます。
対象となるプロジェクトには、流通業界で複数の小売業者が連携して在庫管理システムを導入するケースや、製造業でサプライチェーン全体を管理するためのシステムを共同導入するケースなどがあります。これにより、企業間で情報を共有して業務プロセスを最適化すると同時に、コストの分担やリスクの低減が実現されます。
複数社連携IT導入枠を活用することで、企業は単独では達成しにくい大規模なシステム導入を可能にし、業界全体の競争力を高められます。また、共同での導入はシステムの効果を最大化し、長期的なコスト削減や効率化につながることが期待されます。
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【補助率】
インボイス枠対象経費:
・50万円以下:3/4以内(小規模事業者は4/5)
・50万~350万:2/3以内、ハードウェア購入費:1/2以内
消費者動向等分析経費・事務費・専門家費:2/3以内
【補助額】
補助対象やグループ構成員数に応じて異なる
IT導入補助金でITツールを導入するメリットや効果
制度を活用してITツールを導入することのメリットは、主に以下の3点です。
返済義務なく資金調達ができる
IT導入補助金を利用するメリットのひとつは、返済義務のない資金を調達できることです。通常、企業がITツールを導入する際には、大きな初期費用がかかりますが、補助金を活用することでその負担を大幅に軽減し、企業は自己資本を温存しながら設備投資を進められます。
また、IT導入補助金は再度申請することも可能であり、継続的にデジタル化を推進する企業にとっては、複数回にわたって資金支援を受けることができます。そのため、企業は段階的にDXを進め、競争力を高めることも可能です。
業務効率化につながる
ITツールの導入により、業務効率化が大きく進展します。例えば、会計ソフトや在庫管理システム、顧客管理ツール(CRM)などを導入することで、煩雑な業務が自動化され、作業時間が大幅に短縮されます。これにより、従業員はより生産性の高い業務に専念でき、全体の業務効率が向上します。
さらに、クラウド型のITツールを導入すれば、社内外からアクセスが可能となり、リモートワークの推進や業務の柔軟性も向上します。業務の効率化を図ることで、企業は働き方改革を進め、従業員の満足度や生産性を高めることも可能です。
売上アップが期待できる
ITツールを効果的に活用することで、売上の向上にも期待できます。例えば、マーケティングツールや営業支援ツール、顧客管理ツールを導入することで、顧客との接点が増え、販促活動の精度が向上します。これにより、より効果的なマーケティング戦略を展開し、売上を伸ばすことが可能です。
また、近年注目を集めているRPAの導入も、業務の自動化をさらに進め、コスト削減と売上拡大の両立に寄与します。RPAを活用すれば、受発注管理や在庫管理などのオフィス業務が効率化され、人的ミスが減少します。このようなITツールの導入は、企業の競争力を高め、持続的な成長を支える観点でも重要です。
「IT導入補助金2024」の申請の流れ
IT導入補助金2024は、中小企業や小規模事業者が業務の効率化や生産性の向上を図る目的でITツールの導入に利用できる補助金です。申請にはいくつかのステップがあり、適切に進めなければなりません。ここでは、IT導入補助金2024の申請の流れについて、10ステップに分けて詳しく解説します。
事業理解と事前準備
IT導入補助金2024の申請には、事前の理解と準備が重要です。申請手続きは、中小企業や小規模事業者自身が主体的に取り組む必要があります。以下のステップに従って準備を進めていきましょう。
ステップ 1: 公募要領等の確認
最初に、補助事業について十分に理解することが求められます。本サイトや公募要領を丁寧に読み込み、補助金の詳細や要件を把握しましょう。
ステップ 2: gBizIDプライムアカウントの取得とSECURITY ACTION宣言の実施
補助金申請には、「gBizIDプライム」アカウントの取得が必須です。gBizIDプライムとは、政府が提供する法人向けのID管理システムで、補助金申請や行政手続きに必要なアカウントです。アカウント取得には通常2週間程度かかるため、早めに申請を行ってください。
加えて、「SECURITY ACTION」の宣言も必要です。これは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が提供する制度で、企業が情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言するものです。「★一つ星」または「★★二つ星」のどちらかを選択して宣言することが求められます。
ステップ 3: みらデジ経営チェックの実施
次に、「みらデジ経営チェック」を実施します。「みらデジ」とは、中小企業庁が提供する、経営課題をデジタル化によって達成するためのサポート制度です。gBizIDを用いて「みらデジ」ポータルサイトに登録し、経営チェックを行うことで、自社の経営課題の達成に適したITツールを見極められます。特に通常枠では、このチェックが申請要件に含まれるため、必ず実施しましょう。
ステップ 4: IT導入支援事業者の選定とITツールの選択
それから、IT導入支援事業者と導入したいITツールの選定を行います。IT導入支援事業者とは、補助金の申請手続きやITツールの導入をサポートする事業者です。
出典:新規申請・手続きフロー(中小企業・小規模事業者等のみなさまの手続き)
補助金交付の申請
ここからの申請プロセスでは、IT導入支援事業者がサポートを行うため、連携が重要となります。
ステップ 5: 交付申請の作成と提出
まず、IT導入支援事業者と共に、交付申請に必要な事業計画を策定します。そして、以下の流れで申請を行います。
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1. IT導入支援事業者から『申請マイページ』の招待を受け、申請者基本情報を入力
2. 交付申請に必要な情報を入力し、必要書類を添付(事業計画や導入するITツールの詳細情報など)
3. IT導入支援事業者が、導入するITツールと事業計画値を入力
4. 『申請マイページ』上で入力内容を最終確認し、申請に対する宣誓を行い、事務局へ提出
なお、複数社連携IT導入枠を利用する場合は、申請フローや手続きが異なるため、「IT導入補助金2024 公募要領 複数社連携IT導入枠」を参照してください。
参考:IT導入補助金2024 公募要領 複数社連携IT導入枠
ステップ 6: 交付決定
交付申請が事務局に提出されると申請内容の審査が行われ、審査完了後に交付決定通知が送付されます。この通知を受けた時点で、申請者は補助事業を正式に開始可能です。
出典:新規申請・手続きフロー(中小企業・小規模事業者等のみなさまの手続き)
ITツールの発注
IT導入補助金の交付決定を受けた後、いよいよITツールの発注や契約、支払いを行います。なお、発注や契約、支払いは必ず交付決定後に行ってください。交付決定前にこれらを行ってしまうと、補助金を受け取ることができなくなります。
ステップ 7: ITツールの発注・契約・支払い
交付決定後、事業者は選定したITツールの発注を行い、IT導入支援事業者と契約を結びます。契約が完了したらITツールの納品を受け、支払いを行います。一連の手続きは補助事業の実施として正式に記録され、事業者は補助金を受けるための条件を満たす形です。
ステップ 8: 事業実績報告
ITツールの発注・契約・納品・支払いが完了したら、事業実績報告を行います。ここで必要なのは、実際に支払いが行われたことを証明する書類(領収書、契約書、納品書など)の提出です。具体的には、以下の手順で進めます。
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1. 『申請マイページ』にて必要情報の入力と証憑の添付を行い、事業実績報告を作成
2. IT導入支援事業者が報告内容を確認し、必要に応じて追加情報を入力
3. 最終確認の完了後、事務局へ事業実績報告を提出
事業実施効果の報告
ここまでの一連の手続きにより、補助金の交付が行われ、企業は資金を受け取ることができます。
ステップ 9: 補助金交付
補助金額の確定通知を受けた後、申請者は『申請マイページ』で内容を確認し、補助金が交付されます。この段階で、ITツールの導入にかかった費用が補助される形です。
ステップ 10: 事業実施効果報告
補助金交付後、事業者は一定の期限内に事業実施効果報告を行いましょう。この報告は、導入したITツールがどのように業務効率化や生産性向上に寄与したかを記録するもので、事業の成果を示すために必要です。報告は『申請マイページ』から行い、IT導入支援事業者の確認を経て事務局へ提出します。
以上でIT導入補助金の全手続きが完了です。申請から補助金交付までのスケジュールについての最新情報は、以下からもご確認いただけます。
https://it-shien.smrj.go.jp/schedule/
まとめ
IT導入補助金を活用することで、新たなITツールの導入に伴うコストを大幅に軽減し、積極的に最新のテクノロジーを取り入れることが可能です。この補助金は、単に業務効率化を図るだけでなく、業態転換や業務効率化によるコスト削減など、新たなビジネスチャンスを創出する可能性も秘めています。
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