GX(グリーントランスフォーメーション)とは? 国内外の事例も紹介

最終更新日: 2022.08.01 公開日: 2022.06.30

GXとは

世界的な気候変動による異常気象が急激に加速している現在、地球温暖化対策として脱炭素が急務とされています。本記事では、資源の枯渇や環境破壊、それに伴って発生するさまざまな課題を解決するためのGXについて、国内外の事例を交えて解説しています。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、経済産業省が提唱する取り組みのひとつです。GXの目的は、気候変動が懸念されている地球環境の保護を目指し、持続可能な社会づくりや温室効果ガスの排出量を削減するカーボンニュートラルを実現しながら経済社会システムの変革を行うことにあります。

各組織がGXへの積極的な取り組みを実践する場として、GXリーグも設立されました。現在、世界的に注目を集めているGXに関連する「持続可能な社会」や「カーボンニュートラル」、また「GXリーグ」について、それぞれの概要を詳しく解説していきます。

持続可能な社会とは

持続可能な社会とは、「地球の環境が保全され、将来の世代になってからも変わらない生活が続けられる社会」のことです。産業革命以降には、経済の発展とともに環境汚染や限りある資源の枯渇が進み、現在は世界的に気候変動や貧困、エネルギー不足など深刻な課題が次々に発生しています。

そこで、豊かな地球や社会生活の持続を目指す「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」が国際的な目標として掲げられました。
SDGsは2015年9月に開催された国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された内容です。17項目の目標と169のターゲットが設定され、2030年までのSDGs達成のためには、発展途上国と先進国すべての国が積極的に取り組む必要があります。

SDGsの17のゴールは、3つの大きなテーマにわかれて設定されています。ゴールには、基本的な人権や生活に関する「貧困をなくす」「飢饉ゼロ」「健康と福祉」「教育」「ジェンダー平等」「安全な水とトイレ」の6項目と、「クリーンなエネルギー」「経済成長」「産業と技術革新の基盤」「人や国の不平等をなくす」「持続可能なまちづくり」「つくる・つかう責任」の6項目があります。そして地球環境に関するゴール5項目が「気候変動への対策」「海の豊かさを守る」「陸の豊かさを守る」「平和と公正」「パートナーシップ」です。
これらSDGsの目標で見られるように、持続可能な社会の実現にはあらゆる課題を解決していかなければなりません。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラル(脱炭素)とは、温室効果ガスの排出を全体でゼロにすることです。2020年10月の臨時国会で宣言された「2050年カーボンニュートラル」では、2050年までに日常生活や経済活動で生じる温室効果ガスの「排出量」と「吸収量」の差額をゼロにすることを目的としています。排出量を完全にゼロに抑えることが難しい場合でも、自然に除去される程度に抑え、排出した分の温室効果ガスを削減する活動も同時に行うことで実現が可能です。

2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組みは2015年に「パリ協定」で決定しており、「2050年カーボンニュートラル」は、パリ協定に基づいた成長戦略として日本が掲げた取り組みです。パリ協定では、温室効果ガスの削減により、「世界的な気温上昇を産業革命以前から2℃以内に保ち、1.5℃に抑える努力をする」(2℃目標)の実現を目指しています。

さらに脱炭素化社会に向けた活動を経済成長につなげるための実施計画として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」も策定されました。グリーン成長戦略では、太陽光発電などのグリーンエネルギー導入・拡大と自動車、船舶、物流、住宅など14の重要分野でCO2排出量を削減し、経済社会の改革を目指します。
これらの目標達成のために、製造や流通、インフラ整備などの産業を担う企業の多くがビジネスモデルを根底から覆すような変革を求められます。

GXリーグとは

GXリーグとは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、企業群が官(行政)・学(大学や研究機関)・金(金融機関)とともに炭素削減目標に対して積極的に取り組み、議論を行う場のことです。
GXの推進には、排出量削減において高い目標を立て、企業がカーボンニュートラルへの素早い移行に向けた挑戦を行うことが必要とされています。GXリーグの設立により、企業だけでなく、官・学・金が協力して経済社会システム全体の変革と新たな市場開拓を目指す議論と実践が可能です。

GXリーグでは「経済社会システム全体の変革」の実現を目指します。企業意識や事業活動を刷新し、新しい市場を創造して生活者に受け入れられること、そしてさらに新しい企業の意識・事業活動へ変化する循環型の構造によって変革が実現します。これは、企業の成長や生活者の充実、地球環境の保全すべてに貢献できる取り組みです。

経済社会システム全体の変革を実現するには、「企業の排出量削減」「企業に関連するバリューチェーンへの排出量削減」「生産者が自発的に選択できるGX市場の拡大」を必要とします。GXリーグでは、これに賛同する企業が参加して「生活者にとってのカーボンニュートラル時代の未来像」「未来像を踏まえた新たなGX市場のルールについての議論」「社会において効率的に排出削減を行うための排出量取引の試行」などにより、変革を目指します。

GXが注目されている理由

GXが注目されている理由には、世界的な地球温暖化などの環境問題への意識の高まりや、脱炭素化への取り組みの拡大があります。これらの理由について以下で解説していきます。

地球温暖化など環境問題への取り組み

現在、世界中で台風や豪雨などの異常気象による大洪水や干ばつなどの自然災害が増加傾向にあります。全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)の評価報告書によると、1850年以降に工業化が進んでから、2020年までに世界の平均気温は1.09℃上昇がみられました。直近の約30年においては気温上昇の速度も早くなり、このままでは2100年までに3.3~5.7℃もの気温上昇につながるとされ、今後の環境問題への不安がさらに高まっています。

(参照:https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge01

世界の平均気温が3.2℃上昇した場合、異常気象や自然災害はさらに増え、気候変動による食糧難や難民の増加、貧困などさまざまな問題が発生し、人間の生活そのものが困難になるケースも考えられます。環境問題への対策を行いながらビジネスにも活かし、経済の発展につなげるためには、カーボンニュートラルやグリーン成長戦略などGXへの取り組みが重要です。

世界中が脱炭素を掲げ始めている

地球温暖化を止めるためのCO2削減は、EUなど欧州諸国をはじめとしてアメリカや中国などの大国も国をあげて取り組みを始めています。
これまでアメリカと中国は脱炭素に向けた活動への取り組みに消極的でした。しかし、2021年10月開催のCOP26においては、パリ協定の目標達成に向けた取り組みを協力して行うと共同声明を発表しました。
このような発表に他の国々も影響を受け、120ヶ国以上の国や地域が2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを始めています

企業がGXに取り組むメリット

企業がGXへ取り組むと、「企業ブランディングにつながる」、「コスト削減」や「人材の確保」を可能にするなどのメリットがあります。今後欠かせないものとなる脱炭素社会への取り組みは、他の企業に率先して行うことでより大きなメリットが見込めます。

企業ブランディングにつながる

前述のように、GXは地球温暖化対策として世界中が注目している取り組みです。企業がGXへの取り組みを行っていると、経済成長とともに地球環境保護にも貢献していることが対外的に認められ、企業イメージの向上が期待できます。また、GXリーグに参画した企業は、カーボンニュートラルに革新的に取り組んでいる企業として国からも協力的な姿勢と信頼できる取り組みが証明されます。
このように国から認められたブランド価値は、取り組みを行っていない競合他社と比較して、高い市場競争力を発揮してくれるでしょう。

コストの削減ができる

GXへの取り組みでは、光熱費や燃料費の節約が必要不可欠です。温室効果ガスの排出量よりも除去する量を増やすことが環境の保護につながるため、GXを通じて使用するエネルギー量を削減するとコスト削減が実現します。また、化石燃料の使用から再生可能エネルギーの使用へ変更すること、再生可能エネルギーを生産することもGXの取り組みです。自社で再生可能エネルギーを生産・使用することで、他社から購入する場合と比較してコスト低下が見込めます。

人材の確保につながる

脱炭素社会の実現に向けた活動を行う企業は、先進的な活動に取り組む将来性がある企業としてイメージが向上します。地球環境保護による社会貢献度も上がるため、就活生などによい印象が形成されるなどのメリットから応募者が増加するかもしれません。人材確保においては売り手市場とされる現在、多数の就職希望者がいれば、事業活動のみならずGXへの取り組みをリードできる優秀な人材を採用しやすくなるでしょう。

GXに関する経済産業省の取り組み

経済産業省は2022年2月1日に「GXリーグ基本構想」を公表し、3月31日までの期間でこの構想に賛同する企業を募集しました。この募集では、エネルギー企業、CO2多排出産業、製造業、サービス業などあらゆる業種の企業が440社集まり、「基本構想賛同企業」として4月からGXリーグの詳細設計について議論を行っています
GXリーグは2023年度に本格稼働を開始する予定です。経済産業省は賛同企業とともに稼働に向けて話し合いを重ね、2023年度の炭素削減目標をリードする企業による排出量削減への投資、企業主体の排出量取引の成功を目指しています。

国内におけるGXの事例

国内には、すでにGXを開始している企業もあります。参考として、国内におけるGXへの取り組みの事例をご紹介します。

自動車メーカーの事例

ある自動車メーカーによるGXへの取り組みでは、電動化技術と生産技術の革新に力を入れています。2030年代から生産する新型車をすべて電動自動車に切り替えていき、将来的に販売する自動車をすべて電動自動車に変えることを目標に掲げています。電動自動車を普及させることで、化石燃料を使用していたこれまでの自動車による温室効果ガスの排出量の削減を実現し、2000年と比較して2050年までに排出量を9割削減できると公表しています。電動自転車は再生可能エネルギーを利用して動くだけでなくバッテリーとしての利用もできるため、新しい使い方による可能性を広げられます。

(参照:経済産業省「GXリーグ基本構想」への賛同について

建設会社の事例

ある建設会社は、2009年の経済産業省による「2030年までに新築建物全体でZEB化を実現する」とのビジョンを受けてオフィスビルのZEB化(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を目指し、技術開発に力を入れています。また、大規模な太陽光発電、バイオマス発電への取り組みを行い、子会社によって日本で初めての浮体式構造物を利用する浮体式洋上風力発電を設置、実証運用を行いました
洋上風力発電は、再生可能エネルギーのなかでも今後主力として活躍する可能性が高いエネルギーとされています。一方で、深い海溝のある日本では風の強い沖合に着床式の洋上風力発電を設置することが困難であり、設置工事による海底や漁場への影響も少ない浮体式の実現が急がれていました。
このように、再生可能エネルギーの新技術を開発し、取り入れることで、大幅な省エネルギー化の実現を目指しています。

(参照:温室効果ガスの発生抑制 | 地球環境のために | 戸田建設

電気通信会社の事例

ある電気通信会社は、日本企業のなかでもトップクラスで電力消費量が多い企業です。近年では災害による停電被害に何度も悩まされていることから、再生可能エネルギーへの投資を実施し、2030年までに電力消費量のうち半分程度を自社所有の再生可能エネルギーでまかなうことを発表しました。
さらに災害への備えとして、全国に7,300箇所もある通信ビル内に大容量の蓄電池を設置し、全国1万台以上の社用車の電気自動車化も予定しています。2030年には2013年度比でグループ企業のCO2排出量80%削減、モバイル、データセンターのカーボンニュートラルを達成、2040年にはグループ全体でのカーボンニュートラル達成を目標としています。

(参照:NTT グループ グリーンボンド フレームワーク

国外におけるGXの事例

国外においては、製造業やインフラ関係の企業のみならず、ソフトウェアの開発会社などによる実践例もみられます。以下に国外企業のGX事例も解説します。

テクノロジー企業の事例

国外のあるテクノロジー企業では、風力発電によるクリーンエネルギーの生産によるカーボンニュートラルの計画が実施されています。さらに2020年7月には製造サプライチェーン、製品ライフサイクルなどすべての取り組みにおいて、2030年までにカーボンニュートラルを目指すと表明しました。社内だけでなく取引先まで幅広く協力を募り、脱炭素化への取り組みを率先して行っています。

(参照:Apple、2030年までにサプライチェーンの 100%カーボンニュートラル達成を約束 - Apple (日本)

ソフトウェア開発企業の事例

あるソフトウェア開発企業は、2020年1月時点で、毎年排出するよりも多い量のCO2を除去する「カーボンネガティブ」を2030年までに達成すると発表しています。
CO2の削減・回収・除去技術の開発支援に向けて、10億ドル(約1,055億円)の気候イノベーションファンドも設立しました。また、自社のみならずサプライチェーンやバリューチェーンの排出に対してCO2排出量を半分以下に削減するプログラムを計画し、温室効果ガス排出量レポートおよび排出量削減の計画について提出を求めるなどの活動を行っています。

(参照:2030 年までにカーボンネガティブを実現 - News Center Japan

まとめ

環境破壊が進む現在では、GXをはじめとする地球環境の保護を目的としたSDGsやカーボンニュートラルの実現に世界各国が注目を集めています。多くの企業が社会を変える先進的な技術の開発・普及に取り組み、環境保護と経済成長の両立に向けた働きを開始しています。

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