タイ進出時の留意事項とインセンティブ
日系企業のタイ進出は、以前に比べて落ち着いてきている傾向がありますが、国民性、市場の安定性、政治、宗教といった観点から、タイは依然としてASEANの中でも魅力的な市場のひとつと捉えられています。本記事では、タイ進出を検討する際に押さえておきたい留意事項とインセンティブについて解説します。
1.外国資本出資比率の規制
タイでは、規制業種を3種類43業種に分け、それらの業種への外国企業の参入を規制しています。販売業(卸売業や小売業)やサービス業(飲食業やITサービスなど)は、第3種の外資規制対象リストにおいて「その他のサービス業」とされており、すべてのサービス業が同法の規制対象となります。
本規制は、現地法人だけでなく、支店や駐在員事務所にも適用されます。タイで行おうとする事業が規制業種に該当する場合、外国資本が50%以上では原則として事業を行うことができません。そのため、日系のコンサルティングファームや銀行系列の会社が友好的パートナーとして株主となり、外資規制の対象とならないようにするスキームがよく活用されています。
独資で進出を検討する企業は、BOI(タイ投資委員会)からのライセンス発行や、商務省からの外国人事業許可証(FBL)の取得を検討する必要があります。
2.外国人の就業規制
タイで外国人が就労(労働許可証を取得)するためには、資本金として1人あたり200万THBが必要です。また、Bビザ(ビジネスビザ)の延長申請には、タイ人4名分の雇用に対する個人所得税申告書や社会保険の納付書のデータが求められます。
そのため、日本人1名に対しタイ人4名を雇用していない場合、実務上ビザの延長ができず、タイに滞在できないという状況に陥る可能性があります。ただし、BOIやIEAT(タイ工業団地公社)の恩典を受けられる場合、この4:1の規定の対象外となり、日本人の就労手続きが簡易になるというメリットがあります。
3.会社設立にかかる期間
BOIのライセンスや特殊なライセンスの取得が不要な場合、タイでの設立登記は1ヵ月弱で完了します。その後の口座開設やVATの申請を含めても、2ヵ月ほどで手続きを終えることができるため、他国と比較しても事業開始までのスピードは速いと言えます。一方、BOIのライセンスを申請する場合、事業内容にもよりますが、3ヵ月から半年ほどの時間を要します。
4.BOI(タイ投資委員会)による優遇措置
前述の通り、製造業を除くほとんどの事業(サービス業や販売業など)は外資規制の対象となり、独資での進出ができません。そのため、まずはBOIの対象リストに該当する事業か否かを確認する必要があります。
サービス業や飲食業は基本的に該当しませんが、卸売業や統括機能を持つ企業、運送業などは該当するライセンスがあるため、事前に確認しておくことが推奨されます。また、製造業の場合でも、BOIのライセンスを取得できれば、土地の取得や外国人労働に関する規制の緩和、さらに事業によっては税務上の恩典を受けることができます。
5.IEAT(タイ工業団地公社)による優遇措置
外資規制の緩和はありませんが、BOIを取得していない外国企業でも、土地の取得が可能になるといった恩典が付与されます。また、IEATの特定の場所では、税務上の恩典や別途得られるメリットがあるため、製造業での進出を検討する際は、IEATの内容を一度確認することをお勧めします。
次回以降は、ASEAN各国における業種別進出難易度の比較や、外資規制を考慮した進出形態などについて解説していきます。