タイ駐在員の個人所得税 会社負担時の納税ポイント

公開日: 2024.11.11

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本記事では、在タイ日系企業が10月に実施すべき会計業務と、最近アップデートされた吸収合併時の税務の取り扱いについてご紹介します。また、多くの企業で用いられている会計基準「TFRS for NPAEs」の改定について、最新情報も交えながら深掘りします。

【TODO】11月にやるべき業務

12月期

期中監査への対応

会計事務所による監査は、①期中(予備)監査(Interim Audit)と②期末(本)監査(Fiscal Year End Audit)の2つに大別されます。①の期中監査は、期末前に進行期(現在の会計年度)の会社の状況を把握し、問題点を認識することで②の本監査に備える役割があります。最近では、決算の早期化を図るため、期中監査で本監査と同等のチェックを行い、決算後の報告書発行までの期間を短縮するケースも増えています。12月決算の企業は、期中監査やその後の対応を含め、十分な準備が必要です。

個人所得税年末調整予想

来月12月は、会社の給与源泉徴収における年度の最終月です。タイでは、年間の所得予想額に基づいて毎月の源泉徴収額が計算されますが、予想が実際よりも高く、過大に源泉徴収されている場合、個人所得税の確定申告で還付が発生することがあります。こうした事態を防ぐためにも、11月の段階で年間予想を見直し、適切な調整を行うことが重要です。

3月期

法人税中間申告の納税

事業年度を6ヵ月経過した日から60日以内
(3月決算の場合は11月末が期限)

【UPDATE】デジタルトークン取引に関わる税金について

デジタルトークン(いわゆるビットコイン等)の売買や投資に関する税金について、9月に税務当局よりVATと所得税に関する通達(Royal Decree No. 788&No.789)が公布されました。タイではデジタルトークン投資への環境整備が進められており、今回の措置もその一環と言えます。

VAT非課税:これまでは2024年末までの時限非課税でしたが、SEC認定業者との取引を含み恒久的に非課税となりました。

源泉税率15%と分離課税・総合課税の選択的適用:個人は、デジタルトークンからの収益(配当や売買益)について源泉税率15%が課せられますが、所得税申告においてこの収益を分離課税(15%の源泉税のみで他の所得と合算しない)、もしくは総合課税(他の所得と合算し、源泉税を税額控除する)のどちらかを選択できます。なお、詳細は別途発表される予定です。

【TOPICS】駐在員の個人所得税について

タイで給与所得を得ている個人は、①毎月の給与からの源泉徴収と②確定申告(翌年3月末申告・納付期限)の2つの方法で個人所得税を納税します(ちなみに日本では、①の給与源泉徴収のみが適用される制度があります)。駐在員にとって留意が必要なケースは次のとおりです。

通常の給与以外に、
(a) 家賃補助や子女教育費などの実費補助が出ている場合
(b) 日本で給与の一部が支給されており、これが毎月の源泉所得税計算に含まれていない場合

さらに、これらにかかる税金が「会社負担」となっていることが多く、特に(b)の日本支給分については「会社負担」となっているケースがほとんどです。このように「会社負担」の税金がある場合、“Tax on Tax計算”が必要になるとともに、「毎月の源泉税に含まれない所得」がある場合には、確定申告で追加納付も必要になります。

1. Tax on Tax計算(グロスアップ計算)とは

「税引き後の金額から税引き前の金額を求める計算」です。例えば、税率が10%で、税引き後の金額が90であった場合、税引き前の金額は100(90÷(1-10%))となります。家賃補助としてB90,000を受け取っていた場合、個人所得税率が仮に10%であれば、税引き前B100,000を補助されたとみなし、その10%分を会社が負担して納税することになります。この計算方法は、いわゆる手取り保証されている給与や補助金に適用されますが、個人所得税の累進課税制度により税率が変動するため、税引き後の手取り額から税引き前の金額を求める計算はやや複雑になることがあります。

2. 確定申告における追加納付

タイの会社で勤務することに伴うすべての報酬が源泉徴収で納付されている場合、確定申告での納付や還付は発生しません。しかし、日系企業で多く見られるケースとして、タイで支給された分のみ毎月の源泉徴収で納付し、日本での給与については確定申告で納付するパターンがあります。この場合、日本での給与は通常手取り額となっているため、前述のTax on Taxを用いて納税額を計算し、確定申告で追加納付を行う必要があります。

タイの個人所得税の累進課税における最高税率は35%です。たとえば、給与が100あった場合、単純に100×35%=35の税額ではなく、Tax on Taxの計算では100÷(1-35%)-100=54となり、税額が思ったより大きくなる点に注意が必要です。

【COLUMN】居住者の海外所得への課税について

今月は個人所得税について解説しましたが、昨年、居住者の海外源泉所得に関して大きな改正がありました。これについては改めて解説しますが、従来は居住者の海外所得は「発生した年にタイに持ち込まなければ課税されない」とされていたのが、「2024年以降に発生した所得は、タイへの持ち込み時期にかかわらず課税される」という形に変更されました。

これまで、所得が発生してからしばらく経ってタイに持ち込むことで課税を回避する方法が取られてきましたが、国際的な富裕層の税金回避策に対抗する動きが強まっており、タイでも節税が難しくなってきています。

この記事を書いた人

小出 達也

Forvis Mazars (Thailand) Ltd.

Japan Desk Partner

小出 達也

1987年京都大学法学部卒業。日系メガバンク勤務の後、会計士資格を取得。2008年にマザー・タイランドのJapan Desk責任者に就任した。現在は、フォルビスマザー・タイランドのパートナーとして、企業財務に関する豊富な実務経験をもとに、タイ進出企業のサポートを行っている。

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