法人税中間納税における過少申告リスクと過払い問題

最終更新日: 2024.09.19 公開日: 2024.09.18

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タイにおける会計や税務、財務に関する情報は、インターネットや情報誌などで豊富に取り扱われており、諸外国と比べてもタイの情報環境は充実しています。その中で、本連載では、①わかりやすさと使いやすさ、②タイムリーさ、③読みやすさと面白さを心がけた情報を提供していきます。

TODO:8月にやるべき業務

ここでは、決算期が12月または3月の場合を前提に、会計や税務、財務の観点から実施すべきことや実施した方が良いことを挙げていきます(決算期が他の月の場合は、読み替えてご参照ください)。

12月期

法人税中間申告納税

事業年度を6ヵ月経過した日から60日以内
(12月決算の場合は6月+2ヵ月=8月末までが期限です)

3月期

法人税確定申告納税

確定申告を決算日から150日以内
(3月決算の場合は3月+5ヵ月=8月末が期限です)

移転価格開示フォーム

売上高2億バーツ以上で関連会社取引がある場合は、移転価格開示フォーム(Transfer Pricing Disclosure Form)も税務署に提出しなければなりません。

商務省への財務諸表、株主リストの提出

定時株主総会を7月に行なった3月期決算の会社は、商務省に財務諸表を1ヵ月以内、株主リストを14日以内に提出する必要があります。3月決算の場合、年一回の定時株主総会を期限の7月末までに開催されている場合が多いかと思いますので、ご注意ください。

UPDATE:会社都合解雇者に対する 個人所得税の取り扱い変更

会社都合解雇者に対する個人所得税の取り扱い変更

2024年7月の税務規定において、会社都合で解雇された従業員が受け取る解雇補償金について、これまでは「最終300日分以下の賃金で上限30万バーツ」とされていましたが、「最終400日分以下の賃金で上限60万バーツ」と大きく拡充されることになりました。

この最終400日というのは、労働法における解雇補償金支給計算テーブルが、2019年に改訂されたことが反映されています。ただし、自己都合退職や定年退職の場合は対象外です。適用は2023年1月以降となっており、昨年の分については還付を請求することも可能です。

TOPICS:法人税の申告について

タイにおける法人の税金支払いは年2回、上記のように、中間申告(半期+2ヵ月)と確定申告(決算から5ヵ月)があります。どちらの申告においても検討や準備が必要ですが、今回は特に中間決算について解説します。

1. 中間納税の税額計算と罰金

中間納税の利益予想が実際の年間利益より25%以上下回ると罰金が発生!

中間納税を行う場合の税金額の計算には、少し注意が必要です。タイの場合、基本的な考え方は、「年間の利益予想をして税金を計算し、その半分を納める」というものですが、この利益予想が外れると罰金が発生するという、少し無茶な制度になっています。具体的には、その年度が終わった時の実際の利益が、中間期で見積もった利益より、25%以上上振れすると(例:中間納税の年間利益を100と見積もっていたところ、実際の年間利益が125以上になった場合)、中間納税額が“利益を過小見積もりしていた”と見なされ、“実際の利益をもとにした年間税額の半分”と“中間納税額”の差額に対して罰金が発生してしまいます。いわゆる「過少申告問題」です。

この制度は、本来、中間納税額を意図的に少なくすることを防ぐために設けられたものと思われますが、考えようによっては、下期に頑張って業績を上げれば罰金がかかってしまう少し変な制度です。ただし、前年度に納税を行なっている企業には、前年度納税額の半分以上を納めれば良い(=25%上振れでも過少申告とは見なされない)という、日本の予定納税と同じような考え方の制度もあります。

2. 中間納税と税金還付

還付請求には時間がかかるため利益予想を慎重に行い過払いを避ける!

1の場合、注意すべき点は金額不足ですが、タイでは「中間納税払い過ぎ」問題にも気をつけなければなりません。中間納税で税金を支払ったものの、下期に業績が急降下して年間納税額が中間納税額を下回った場合―例えば、極端なケースでは中間納税時点では利益を予想していても、下期の業績悪化により年間では赤字になるケース(実際に2011年のタイの洪水発生時にこうしたケースがありました)―には、中間納税した税金は還付請求の対象となります。こうした利益予想が外れるといった要因以外にも、財務諸表と税金計算の差異により、年間税金計算時に大幅に税額が少なくなってしまい、結果として中間納税額を下回ることもあります。

いずれにせよ、「払い過ぎ」の場合には「税金の払い戻し請求(還付請求)」となるのですが、タイにおける還付請求には「税務調査」が入るため、還付もなかなか進まないのが現状です。したがって、年間利益が少なくなる事が確実に予想されている場合には、1で述べた「前年度納税額の半分以上を収めれば良いという制度」を利用せず、実際の利益予想に基づいた納税を行われることをお勧めします(ただし、「過少申告」問題は依然として残ります)。

COLUMN:年間所得予想について

今月のトピックスでは、法人税の中間納税における年間所得税予想の問題について取り上げましたが、タイでは他にも個人所得税計算に「年間所得予想」が取り入れられています。他の国では、月次や中間期の税金納付をする場合は、その月や半年の確定した利益に対して課税されるのが一般的ですが、タイでは納税者が年間の所得を予想し、それを12等分する(個人所得源泉税の月次納付)、または半分にする(法人税中間納税)という、独特な税金計算方法がとられています。これもタイの税金計算の特徴の一つです。

この記事を書いた人

小出 達也

Forvis Mazars (Thailand) Ltd.

Japan Desk Partner

小出 達也

1987年京都大学法学部卒業。日系メガバンク勤務の後、会計士資格を取得。2008年にマザー・タイランドのJapan Desk責任者に就任した。現在は、フォルビスマザー・タイランドのパートナーとして、企業財務に関する豊富な実務経験をもとに、タイ進出企業のサポートを行っている。

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