中小企業こそSNSでの発信を

公開日: 2024.11.11

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筆者は3年ほど前から、Twitter(現X)で実名顔出しの発信を始めました。当初は、中小企業経営者としてのSNS活用に不安もありましたが、発信を続ける中で、その可能性への考え方が変わりました。今回は、実際に得られた成果や経験を振り返り、SNS活用のメリットやリスクについて考察します。

人材募集の投稿が沢山のリツイートを得る

もともとSNSはFacebookやInstagramの個人アカウントを主に使っていましたが、Twitterは2019年に興味本位でアカウントを作ったものの、ほとんど使っていませんでした。ある時、知人から「タイのXXのアカウントが面白い」と聞き、それ以来Twitterをよく覗くようになり、たまに投稿もするようになりました。会社公式アカウントにするつもりで、最初からアカウント名(@以下)を「NomuraThai」にしていたため、開き直ってそのまま個人アカウントとして使い始めました。そして2021年11月、経営者の知人から「Twitterで人材募集をしたら効果があった」と聞き、日本人営業マネージャー職をTwitterで募集してみることにしました。

かなりドキドキの投稿だったのですが、意外にも「日系製造業がTwitterで募集とは珍しい」と、在タイ日本人コミュニティで多くのリツイートをいただきました。その結果、3名からDMで応募がありました。この募集は人材紹介会社にも同時に依頼していましたが、最終的な採用はTwitterから応募のあった中の一人に決定しました。

当時の投稿
(当時の投稿:https://x.com/NomuraThai/status/1459039632507617283

素をさらけ出した事でマッチ度合いが向上

このTwitterで採用した営業マネージャーには、入社直後から原材料費の高騰に伴う製品価格の値上げ交渉というお客様行脚が待っていました。下請け製造業にとってはこれまで値下げ一辺倒で、値上げなどあり得ないという文化が根強くありましたが、当時の原材料費の高騰は凄まじく、販売価格への転嫁ができなければ事業が立ち行かなくなる状況でした。

「はじめまして、XXと申します。早速ですが、値上げのお願いです」という非常に難しいスタートにも関わらず、彼女は細かい見積もり準備から顧客訪問まで、獅子奮迅の活躍を見せてくれました。相当なハードワークを泣き言ひとつ言わずにこなしてくれましたが、応募の動機を聞いてみると、「転職活動をしていたわけではないが、投稿を見てなんとなく面白そうだと思った」ということでした。SNSを通じて、上司となる自分の人となりが伝わっていたことで、ミスマッチが防げたのかもしれません。今でも彼女は、日本出張や他の事業でタイ工場に頻繁に行けない私に代わり、営業部門をしっかりまとめてくれています。

多くの出会いのきっかけに

僕は、最近市民権を得てきた(と思われる)「アトツギ」という立場にいます。簡単に言うと、家業のX代目として事業承継を控えている、または済ませた20代から40代くらいの経営者候補や経営者のことです。日本では、青年会議所や業務上のつながりを通じて同じ立場の知り合いができる機会がありますが、タイにいる僕は同じ立場の人と会う機会が少なく、独特の悩みに心を削られていました。

しかし、Twitterを始めたことで、日本にいるアトツギの方々と一気に繋がりができました。アトツギの家業は高度経済成長期以前から続く産業が多く、市場と共に成長できる可能性は基本的に限られています。さらに、古くからのネガティブな遺産を多く抱えており、悩みは尽きません。それでも、同じ立場で奮闘する仲間との出会いは本当に貴重です。この繋がりから「アトツギ甲子園」という新規事業のピッチ大会を知り、出場をきっかけに新規事業もスタートしました。

また、より実利的な面では、前回の記事テーマである「中国企業との競争」についてnoteにまとめたところ、地方紙のバンコク特派員の方から取材を受け、大きく紙面で取り上げられました。その他のメディアへの露出もTwitterがきっかけです。そもそもこの媒体で執筆陣の一人として迎えていただいたのも、普段の発信があったからこそです。少なくとも、これまでの企業活動において、Twitterをやって損をしたと思ったことは幸いにもありません。

本社の採用にも活きる

最近、僕は本社の専務という肩書きも持って日本とタイを行き来していますが、古い企業体質を持つ本社では採用難が深刻で、これまでのやり方ではまったく応募がありませんでした。今年、本社で営業社員を募集した際、人材紹介会社の方が僕のSNSを調べて、「この会社にはこんな専務がいる」と候補者に伝えたところ、その候補者が「この人がいるなら面白そうだ」と入社を決めてくれたそうです。僕自身は採用面接には一切関わっていませんでしたが、SNSがタイだけでなく、日本の採用ブランディングにも活きることに大変驚かされました。

節度を持ちつつ自分らしさをさらけ出す

ただ、実名や顔出しで知名度が上がることは、同時に炎上のリスクも伴います。僕が普段の投稿で心がけているのは、「ネガティブな話題には反応しない」、「特定の誰かを傷つける発言はしない」、「主語を大きくしない」などです。何よりも「お客様が見ているかもしれない。社員が見ているかもしれない」という前提で投稿を行うようにしています。そう意識すれば、自然と一線を超えるような投稿はしなくなります。ただ、一番怖いのはお酒に酔ってしまった時で、朝起きてから「なんでこんなことを言ってしまったんだろう」と慌てて削除することもあります。「飲んだら書くな」と肝に銘じていますが、それでも、ついやらかしてしまうこともあります。

周りの目を意識すると、投稿内容は当然制限され、極端に面白いネタでバズらせるのは難しくなります。しかし、くだらないことも言いつつ、一定の自制をしながら投稿を続けていると、自分のアカウントの質が保たれ、ある種の信用が生まれてくるはずです。投稿内容は、ある意味「きれいごと」が多いかもしれませんが、それも自分らしさの一部で、それを気に入ってくれる人も一定数いると感じています。正直、「もっと今の黒い気持ちを吐き出したい」と思うこともありますが、今のところ自制心を持って大きな事故もなく続けています。

会社員の方は、公式アカウントや会社公認でない限り、実名で所属企業に関する情報を投稿するのは簡単ではないでしょう(ほぼ身バレしている強者アカウントもたまにお見かけますが)。ただ、特に僕と同じような中小企業のアトツギや社長、起業家、フリーランスの方でSNSをやっていない方は、一度試してみてはいかがでしょうか。今の状況がすごく良くなくても、「良い状態に向けて動いているんだ」という姿勢を見せていけば、そこに希望を見出してくれる人が出てくるかもしれません。やってみて向いていないと思ったらやめればいいですし、もしフィットしたら儲けもの。ぜひお試しください。

この記事を書いた人

野村 亮太

K.U. Nomura Thai Ltd.

Managing Director

野村 亮太

PR会社での経験を経て、シンガポール大学でMBA取得。現在は家業の押出成形メーカー株式会社ノムラ化成の取締役およびタイ法人K.U. Nomura Thai Ltd.のManaging Directorを務める。タイ法人を軸に、デジタル事業の新会社Wadfun Digital Solution、Google Workspace導入支援のストリートスマートタイでも活動中。
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埼玉県に工場を構えるノムラ化成のタイ子会社として、冷蔵庫用ドアガスケットなど、主に家電業界向けの樹脂製品を生産。Googleのツールを駆使して全社的な業務改善に取り組んだ結果、そのノウハウを社外へ提供する新事業を開始。2024年に新会社Wadfun Digital Solutionを設立し、同年にGoogle事業でストリートスマートタイと事業提携。

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