ボトムアップのカイゼンは根付くまでトップダウン

最終更新日: 2024.09.19 公開日: 2024.09.18

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業務の効率化や品質の向上を目的とし、特に製造業では伝統的に取り組まれている「カイゼン」。その導入や定着に悩む企業様も多いのではないでしょうか。本連載では、樹脂成形メーカーの創業三代目として、日本とは価値観も働き方も違うタイで、現場カイゼンや組織運営、DXに奮闘する筆者の経験をお届けします。

常態化していた納期遅延と離職、中国企業参入を契機に開始したカイゼン活動

主に冷蔵庫用ドアガスケットを生産する当社。私がタイに赴任したのは11年前のことです。他業種からの転職ということを差し引いても、当時の私は「なかなかとんでもない環境に来た」と思いました。生産と出荷の遅れが日常茶飯事、人を雇ってもすぐに辞めてしまい、ボロボロの什器をそのまま使い続ける。部門間ではいがみ合い、助け合う姿勢が見られないなど、問題は山積みでした。その時、中国の最大手ドアガスケットメーカーがタイ市場に参入し、販売価格が大幅に下がり、売上も奪われるという事態に直面しました。これを機に、当時常態化していた休日残業をゼロにするという目標を掲げ、カイゼン活動を始めました。

外部コンサルタントの指導に基づいて、次のやり方を導入しました。まず、①部門ごとにチームを組成し、②チームで「カイゼントピック」、つまり部門内の問題点を見つけ出し、③その現状をBefore、改善後の結果をAfterとして、月に一回か二回のカイゼンミーティングで発表するというプロセスです。

「初期はとにかくやる気を出してもらうために簡単な5Sから始め、何が出てきても否定せず肯定する」というコンサルタントのアドバイスに従い、最初の頃は「床に落ちていたペットボトルを拾ってゴミ箱に捨てました。これが1トピックです」といった報告に対しても、「よくやったね!もっと沢山出して!」と褒めまくりました。

現場の反発に伴い低下する経営陣の熱意

この活動、始めてみるとそれなりの工数が必要になります。自らトピックを発見しに行き、解決策を提案して実行に移すというのは、要するに「面倒くさい」わけです。カイゼンは経営陣からすると重要な活動であることに間違いないのですが、現場の人々にとっては、いきなり高い目標など達成できるわけがない、なぜ仕事量を増やさなければいけないのかとネガティブな気持ちが先行します。さらに、休日残業ゼロという目標は、多くの従業員の実入りを大きく減らすことになります(タイでは日給契約の場合、休日の営業時間内労働は2倍、時間外は3倍の割増賃金が適用されます)。そのため、最初のうちは提出されるトピックの数も伸びませんでした。

また、良かれと思って始めたにもかかわらず、社員からネガティブな反応が出ると、カイゼンを推進した経営サイドのやる気も削がれることになります。さらに、経営サイドはその時々でリソースの投下対象が変わってくるわけで、新たに海外拠点を設立するなど新しい注力領域が生まれると、カイゼン活動に毎回出席して監督していたとしても、次第に関与が薄れ、当初の情熱も薄れていくのは無理もありません。

カイゼンには飽くなきトップダウンが必要

当時の当社では、本社社長がタイのMDを兼任し、月に一度タイを訪れていましたが、実質的な責任者は日本人のゼネラルマネージャー(GM)が務めていました。このGMがカイゼンのキーマンとなり、社員から不満が出ようが離反者が出ようが、「カイゼンは意地でもやる」と、毎回のミーティングに部門責任者を必ず出席させ、強引にでも社内全体に方針を浸透させていきました。当時、私は営業購買マネージャーという立場で、現場中心のカイゼン活動とは関わりが薄かったのですが、カイゼンの日には全マネージャーが参加しなければならないというルールがあり、その日が来ると「今日もかあ」と憂鬱な気持ちになっていたのが本音です。

しかし、結果として休日残業は2年でゼロになり、それから10年弱を経て、初年度275件だったカイゼントピックの数は、現在では年間4,000件に達するまでに増加し、カイゼンは当社に根付きました。

私を含め、当初は懐疑的だった人々も徐々に参加が当たり前になり、本当に嫌だと思う人は会社を去りました。新しく入社する人には、「この会社にはカイゼンという活動があって、全員参加が必須です」と必ず説明し、少人数で行うカイゼン発表会議に新人を参加させることで、本当にやらなければいけないことだと実感してもらいます。今では、人事評価制度にも「カイゼンへの貢献度」という項目を取り入れ、カイゼンを会社の文化として浸透させることができました。これが、「嫌な役割」を担って旗を振ったGMの奮闘の成果であることに疑いの余地はありません。

カイゼンが生み出した ボトムアップの文化

カイゼンを成功させるポイントを表す画像

カイゼンが根付いたことにより、現場の問題点を積極的に探し、上長に報告することが当たり前になりました。その結果、「変なモノ・コトが誰にも触れられずにずっと放置されている」状態が大幅に減り、マネージャーたちの指摘がなくても、問題があれば当たり前にチームで解決策を模索する組織へと変わっていきました。もちろん、ヒト・モノ・カネのリソース不足で解決できない問題はあるものの、この超トップダウン型のカイゼンが生み出したボトムアップの仕組みは当社の強みになっていて、今後もこの活動は維持していくしかないと思っています。

私が最近専務に就任した日本の本社は、冒頭に書いたようなタイ工場の「before」状態に似ています。これから私自身がタイのGMのように旗振り役となり、カイゼンを進めていこうと思っています。「カイゼンをやるべきだけど、続くか心配」「一度試してみたけどうまくいかなかったし、もう無理」そんな風に思っていたものの、本稿を読んで少しでも気持ちが動いた方がいらっしゃれば、お知らせください。カイゼンの進捗を共有しながら、一緒に頑張りましょう。

この記事を書いた人

野村 亮太

K.U. Nomura Thai Ltd.

Managing Director

野村 亮太

PR会社での経験を経て、シンガポール大学でMBA取得。現在は家業の押出成形メーカー株式会社ノムラ化成の取締役およびタイ法人K.U. Nomura Thai Ltd.のManaging Directorを務める。タイ法人を軸に、デジタル事業の新会社Wadfun Digital Solution、Google Workspace導入支援のストリートスマートタイでも活動中。
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埼玉県に工場を構えるノムラ化成のタイ子会社として、冷蔵庫用ドアガスケットなど、主に家電業界向けの樹脂製品を生産。Googleのツールを駆使して全社的な業務改善に取り組んだ結果、そのノウハウを社外へ提供する新事業を開始。2024年に新会社Wadfun Digital Solutionを設立し、同年にGoogle事業でストリートスマートタイと事業提携。

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