変質する東南アジアの位置づけ
東南アジアを取り巻く環境は、コロナ後の大きなグローバルトレンドや地政学動向によって大きく変化している。日本との経済的な繋がりも深いこの地域での動向は、日本企業にとって更なる活用の機会をもたらし得る。その概要と各トピックの深掘りを行う。
米中対立やインド台頭の中で浮かび上がる東南アジアの安定成長
約7億人の人口を抱え、日本との経済的な結びつきも深い東南アジアを取り巻く環境が大きく変化している。コロナ後の脱炭素といった大きなグローバルトレンドに加え、米中対立、インド人口世界一等の地政学動向によって、東南アジアの相対的な位置づけが大きく変化しており、日本企業にとっての活用方法にも大きな変化をもたらすだろう。アジアにおける東南アジアの相対的な位置づけの変化は、過去10年におけるGDP成長率の変化に顕著に表れている(図表1)。
中国は、世界最大の人口と安価な労働力を抱える世界の工場として、積極的に外資系企業を受け入れると共に、地場企業との合弁により技術移転を進め着実に力を付けてきた。一方、通信やデジタル領域ではファーウェイやアリババといった企業が大きく成長し、グローバルにおいても自社展開、あるいは海外企業投資を通じて飛躍的にプレゼンスを高めた。
結果、米国は中国への警戒心を高め、2018年の追加関税賦課を契機に米中対立が顕在化し、輸出産業の減速をきっかけに不動産市場の低迷等も重なって経済が急減速しており、IMF予測によると、2024年のGDP成長率予測はASEAN-5(シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン)と同等、2025年以降はASEAN-5を下回る見込みとなっている。
一方、インドは長年成長ポテンシャルの高い国と見られ、日系企業も過去何度も事業展開を検討してきたが、多民族・言語、階級制度、州別で異なる法制度等の要因で伸び悩んできた。だが、2014年のモディ政権誕生以降、中央政府主導の各種政策・法整備が進められ、外資呼び込み、地場企業成長の基盤が整いつつあり、コロナ期を除けば概ね中国よりも高い成長率を維持している。2023年に人口で中国を抜いて世界一となったことで、更に成長の機運が高まっており、IMF予測によると2025年以降も6.5%という非常に高い成長率が見込まれている。
翻って東南アジアは、この間相対的に安定した成長を遂げている。米中対立前の中国や直近のインドほどの高い成長に及ばないものの、コロナ期を除けば4〜5%程度で安定しており、2025年以降は中国よりも高い成長率が見込まれている。東南アジアは、中国とインドという大国に挟まれながら、これらの国々や日米欧といったグローバルな大国とも外交的に絶妙なバランスを保つことで、地政学的な緩衝地帯として機能するだけでなく、各国からの投資を時流に応じてバランスよく受け入れることで、経済的な安定を維持していると考えられるのではないか。
アジア展開の橋頭保としての東南アジア活用
では、東南アジアの位置づけが変化する中で、日本企業は今後どのようにこの地域を活用すべきだろうか。目下のインドや今後期待される他アジア・新興国の成長を取り込むための橋頭保としての活用が考えられる。具体的には、安定収益によるキャッシュ創出、新規事業創出を含む海外事業ノウハウの蓄積、そして海外事業運営・開発人材の育成拠点としての活用だ。
これまで日系企業は、数十年にわたって東南アジアに投資を続け、各国で産業育成に貢献し、共存共栄を図ってきた。さらに、農業分野でのアグリ・フードテックやバイオマス、エネルギー分野での水素・アンモニアといった新エネルギー・代替燃料など、様々な分野で海外展開可能な強みを持っている。また、「タイ・ベトナム+1」戦略や脱炭素対応、地域統括・子会社再編を通じて、既存事業の収益性を高めることも可能だ。これらの取り組みを通じて東南アジア各国との共存共栄の関係を一層強化することで、インドをはじめとする他アジア・新興国への展開の足がかりとなるだろう。
次回以降は、東南アジアの更なる活用を模索する日系企業の動向について、アグリ・フードテック、新エネルギー・代替燃料、モビリティ、タイ・ベトナム+1(カンボジア・ラオス)、脱炭素、地域統括強化・子会社再編の各トピックごとに詳しく解説する。さらに、「東南アジアから見るインド活用」についても触れていきたい。