「非 IT の現場でも、みんな本当はITツールを使う意義を知っている」──Salesforce World Tour Tokyo 2019 セッションレポート(前編)
2019年9月25日(水)-26日(木)に、国内最大規模のグローバル クラウドイベント「Salesforce World Tour Tokyo 2019」が開催されました。
◆SalesforceWorld Tour Tokyo 2019
主催:株式会社セールスフォース ・ドットコム
World Tour Tokyo | 2019年 9月 25日(水)- 26日(木) ザ・プリンス パークタワー東京/東京プリンスホテル | セールスフォース・ドットコム
私、木本 俊光(事業戦略室・Teachme Bizプロダクトマネージャー)は、Teachme Biz for Salesforceをご利用されているMipox株式会社の千野様をゲストに迎え、「Salesforce定着は社内でどう進むのか?」という対談セッションに登壇いたしました。
かなり遅くなってしまいましたが、セッション資料を 260 社以上にダウンロードいただくなど好評でしたので、改めて対談内容を整理しつつ、内容を一部紹介したいと思います。
まず前編では、製造業の会社にSalesforceを定着させたMipoxさんの経験を振り返ります。これからSalesforceを導入〜定着される企業の方に「ITシステムに慣れている現場じゃなくても、ここに気をつければ前に進みやすくなるよ」ということを伝えられればと思います。
話の流れとしては、下記のようになります。
- - Mipoxさんについて軽くご紹介
- - 非IT系の企業が、Salesforceに限らず驚くほど多くのITツールを活用されている背景
- - 導入後、研修とマニュアルをどのように準備するのか
- - 実はLEXにも移行済。業務効率化のスピード感はどう生み出しているのか
- - 後編(Salesforceを定着させる上で、効率化できそうなポイント等)につづく
目次
Mipox株式会社のIT化状況
まずは私が対談させていただいた千野さんと、Mipox株式会社について簡単にご紹介します。
Mipoxさんは製造業の会社で、ハイテク機器向けの研磨剤などが主力製品になっています。国内外20か国に拠点があり、社員数はグループ全体で400名弱ほど。
製造業の会社ではありますが、Salesforceや弊社のTeachme Bizをはじめ、さまざまなITツールを活用されています。
Salesforceは雇用形態も関係なくユーザーアカウントを配布しているので、アドミン(管理者)としては500名ほどの規模で活用されているとのこと。
千野さんは、これらのシステムを導入推進〜管理している IT チームの部門長を務められています。
Salesforceのコミュニティ活動にも積極的で、Salesforce World Tourには3年連続で出られており、昨年末にはTrailbrazerコミュニティの中でも発表されました。
そんな千野さんとの対談セッション内では「製造業の会社で、なぜSalesforceなどのITツールをフル活用できているのか?」というお話を聞かせていただきました。
みんな「ITツールを使えば効率よく作業できる」こと自体は知っている
そもそも、ITツールに慣れていない現場の場合は、導入するだけでも大きな負荷がかかると思います。
ただ、MipoxさんはSalesforceをはじめとしたIT化に多くの知見があるため、ツールを導入する際に成功しやすいパターンが分かってきたそうです。
たとえば教育関連のツールでは、まず社内の用語をまとめるためにWikipedia風のページ「Mikipedia」を立ち上げられました。次に、単なる用語ではない “手順” を伝えるためにTeachme Bizを導入。
さらに、複数の解決策・アプローチがある問題をまとめるためにSalesforceナレッジを、時間のかかる研修をデジタル化するためにmyTrailheadを検証中とのことです。確かに、身近かつ覚えやすいものから導入されていますね。
また、導入時の現場への伝え方もポイントになるそうです。
Salesforceも、意義をうまく伝えることができれば、納得してもらえてプロジェクトがうまく進みます」
では、Salesforceを導入する際はどんな意義を伝えられたのでしょうか。Salesforceはできることが多いので、さまざまな角度からアプローチしてこられました。
まず『あなたの取引先は何件ですか?』『その集計には毎回どれくらいかかってますか?』という質問を投げかけました。営業の社員としては、データの集計よりも取引先とのコミュニケーションに時間を使えるほうが良いはずですので、Excelと比較してもらいました。
見込み顧客の売上を考えれば、レポートによる可視化は費用対効果が分かりやすい取り組みになります」
“脱・Excel” は、多くの企業で聞かれるテーマです。営業管理ではよく Excel が使われますが、どうしてもExcelで続けなければならないかは一度考えてみてもよいでしょう。
Salesforceを使えば、データ集計の手間が削減できる上、リアルタイムな結果の共有もできます。そのあたりがSalesforce導入の意義を理解してもらうポイントになりそうです。
すぐにアクセスできるマニュアルと、マニュアルでは伝えきれない内容を話す集合研修
多くのツールを社内に導入してきたMipoxさんだからこそ、使い方を教育する際に気をつけるべきポイントを理解されているはず。そう思って質問すると、千野さんは複数のアプローチを使い分けているそうです。
Salesforceを導入した当初も、毎月の朝礼のタイミングで山梨工場に行き、15分程度の研修を実施していました。それこそ『活動とは』というテーマで、活動を登録する目的をしっかり理解してもらう機会を作ったんです」
Salesforceには、独特の用語や概念があります。たとえば活動でも”ToDo” と “行動” の違いなどは、初めて利用する際に戸惑われる方も多いと聞きます。
また、10〜20種類ほどの主要な項目に関しても、入力方法だけでなく「どういう時に、誰が使うのか」ということを理解してもらうと活用されやすくなります。
そして、マニュアルやナレッジは、すぐに取り出せることが重要です。教える側も教わる側も、日中はそれぞれ別の仕事があるので、その合間に見られるような工夫が求められます。ですので、ITチームとしては、よく『あるべき検索の窓口はどこなのか』と考えています」
新ツールの導入時、集合研修や個別での問い合わせ対応には大きなコストがかかります。とはいえ、用語の意味を知らずにコンテンツを見るだけでは理解しづらい概念もあります。
簡単な内容はすぐにアクセスできるマニュアルに記載し、難しいものは対面でしっかりと教育する。そして、一度理解してもらったあとも業務をしながら簡単に振り返りができるデジタルコンテンツを整備すれば、効率的に教育が進むはずです。
ビジネスの成長についていくために「細かいことは気にするな」
現場のメンバーへの教育を工夫することでSalesforceを定着させた Mipoxさんですが、実はその後、LEXへの移行も実現されています。
製造業の会社なので、堅牢なシステムを目指しておられるのかと思っていたのですが、IT部門長である千野さんの考えは意外にも「スピード重視」だそうです。
システムの移行など大きな変化をする際は、20〜30 年使い続けられるような堅牢なものを作ろうという気持ちになるのも分かります。しかし、ビジネスは急速に進むのに、そのシステムを数年かけて準備するのは本末転倒ですよね。
あらかじめ細かい調整をするための期間を設けておいて、まずは一気に移行してしまえばいいんです」
さらに、研修をできるだけ減らすという教育体制と同様に、労力をかけるべき部分を見極めることも重要だといいます。
Mipoxはモノづくりの会社ですし、営業データをそこまで丁寧に入力していないからといって、モノづくりが雑になるわけではありません。
一方で、資産台帳や人材関連のデータはルールを作って厳格に管理すべきものなので、ある程度は時間をかけます。そこは明確に線を引いています」
実は、Salesforce導入実績の豊富なプラチナパートナーである株式会社サンブリッジさんへのインタビューでも、「移行に手間取るほど『何のために導入したんだ?』と疑問視されるので、Salesforce定着は時間との戦い」だとおっしゃっています。
そのためには、まず一つの営業部などに絞ってスモールスタートをするというアプローチも有効です。
参考:移行に手間取るほど「何のために導入したんだ?」と疑問視される。新システム定着は時間との戦い──Salesforce 導入 〜 定着 の道のり Vol.8 株式会社サンブリッジ様(前編)
Mipoxさんの事例からも、「まずSalesforceを使う意味を理解してもらい、導入が決まったらスピードを重視して一気に定着させる」ことが重要だと分かりました。
後編では、千野さんがSalesforceを現場に定着させた経験をもう少し詳しく振り返っていただき、「スピード感をもって定着させるために、ここに気をつければ効率が良くなるよ」というお話を紹介します。
・参考:このセッションで使った登壇資料