悩む箇所や失敗パターンはみんな同じ。コミュニティ運営で学んだ、新人管理者がやるべきこと ── Salesforce 導入 〜 定着の道のり Vol 7. 本橋 孝昭様(Salesforce Saturday 池袋・主催)

よくある課題と解決のアクション
「いきなり Salesforce の導入・管理をやれと言われてしまった」──そんな悩みを抱えた方がよく訪れるのが、初心者歓迎のコミュニティ「Salesforce Saturday 池袋」。これまで 7回開催され、初心者から熟練者まで計 100 名が参加しました(2019年7月時点)。
コミュニティの主催者である本橋 孝昭さん自身も、Salesforce の運用・システム管理者専門の人材派遣会社に勤め、クライアント企業に常駐して仕事をされています。自身の経験とコミュニティメンバーの話で数十社の事例を知る本橋さんは、「DevelopersSummit 2019」でハンズオンの講師も務められました。
「会社の上司や協力会社には『わからない』って言いづらいじゃないですか。どんなことでも気軽に質問できるのが、コミュニティの魅力です。」
オンラインの Salesforce コミュニティでは Q&A にて日本人最多となる質問回答数を記録しており、初心者にこそ気軽に質問をしてほしいと語ります。
今回は初心者の悩みや失敗談をよく知る本橋さんに、設計・導入〜定着のフェーズごとに新人管理者が気をつけるべきポイントを伺いました。
目次
数名規模から数千名規模の事例まで聞けるのがコミュニティ活動のメリット
──まずコミュニティ活動について伺いたいのですが、「Salesforce Saturday 池袋」の参加者はどんな方が多いのですか?
初心者はもちろん、Trailhead のバッジを数百個持っているような上級者まで幅広く参加いただいています。所属されている企業も、数名規模から数千人規模までバラバラです。
「Salesforce Saturday 池袋」は、企業のオフィスではなく会議室を借りて勉強会を開いているので、会社の関係に縛られず、さまざまな方が参加できます。
自分自身も Salesforce の導入〜定着化を仕事にしているので、さまざまな業種・規模の企業の話を聞けるのは今でも新鮮で、参考になります。
──管理者という立場的には、小規模な組織を一人で管理される方から、大企業の全社導入を大勢で管理される方までいらっしゃるのですね。
そうですね。仕事の内容も悩みも変わってくると思います。数千人規模の企業になると、全体のプロジェクト推進チームのほかは、専任の管理者が数名に兼任の方も 10 名ほどいて、さらに外部企業に協力してもらったりもしていますから。
──そもそも Salesforce の管理者って、規模ごとにどんな人が・どのように増えていくものでしょう?
最初に必ず必要になるのは、現場の社員に Salesforce を使い方を教える教育担当者ですね。役職者や現場のエースなど、現場の社員を引っ張っていける方をアサインするほうが上手くいく傾向にあります。
次は開発関連のメンバーですね。多くの部署に導入を拡大していく場合、部署ごとに特化したレコードタイプやページレイアウトをつくるといった開発が必要になります。
そして導入範囲が広くなるほど、使い方が分からないという現場からの質問が増えてきます。そこで問い合わせの窓口担当も専任で必要になります。
──大企業だと、コールセンターもかなり人員が必要そうですよね。
全国に支社がある規模の企業だと、問い合わせの対応だけで専任の担当者が数名必要になったと聞きました。使い方以前に「パスワードを忘れた」というレベルの質問も多かったそうです。また、本社の方が窓口を担当しても地方の支社とは接点が無かったり、部署間での関係性にも左右されたりと、大企業ならではの悩みも出てくるようです。
大企業になると悩みの種類も数も増えるので、システムや仕組みで解決することも重要になりそうです。
──本橋さんのコミュニティでは色々と興味深い話が聞けそうですね(苦笑)。
そうですね。自社の状況が変わったときの参考にはなると思います。
ただ私としては、他社の事例を聞くというより「そもそもどうすればいいか教えてほしい」という気持ちでも来てもらって構いません。
私のコミュニティに来てくださった方々から聞くと、どうも世の中には「上司に言われて、急に Salesforce の管理者になってしまった」と困っている方が多いみたいなんです(苦笑)。
コミュニティは誰でも歓迎。未経験で担当者になったらまずは気軽に質問を
──Salesforce のコミュニティって、実際のところ初心者でも入れるものなのですか?
初心者でも入れるものも多いと思いますよ。“システム管理者向け” や “開発者向け” などと 掲げられていると経験者のみを対象にしている場合もあるので、いくつか探していただくと自分に合うところが見つかると思います。
Salesforce は特徴的な文化が多く、例えば土曜日にみんなで集まって Salesforce を一緒に勉強しようという「Salesforce Saturday」もその一つです。日本でも徐々に浸透しつつあり、赤坂や日本橋など、東京の各地で勉強会が開かれています。
私が主催する「Salesforce Saturday 池袋」は誰でもウェルカムですし、初心者こそ社内プロジェクトを始める前にコミュニティメンバーに会うのがいいと思っています。
──とはいえ、お互いが黙々と作業をするために集まる「もくもく会」は参加しやすそうですが、「勉強会」に参加するのはやはり初心者には敷居が高いと思います。事前にある程度学習しておいたほうがいいのでしょうか...。
Trailhead があるので個人でも勉強できないことはありませんが、簡単ではないと思います。
「Salesforce Trailblazer Community」という Web サービス内に質問コーナーがあるのですが、独学で頑張っていて詰まってしまった方からとても多くの質問が届いているんですよ。ちなみに、最近では私が日本人の中で最も多く回答させてもらっています。

3ヶ月で199件もの回答!
──すごい! オンラインでもユーザーのトレーニングをされているのですね。
ただ、オンラインではほとんどテキストだけで説明しなければいけないので大変なんです。質問者からすると詳しく説明しづらいですし、回答者からしても相手の作業環境や状況がわからない。
私は慣れてきましたが、それでも画面の向こうの相手の状況を特定するだけで数分かかっていると思います。
──Salesforce 導入企業の問い合わせ窓口の方も同じ経験をされていそうですね…。重複する質問も多そうですが、同じ質問に何度も答えさせられることはありませんか?
確かにありますが、それは仕方ないですよ。初心者ですから、独りでずっと考えているとどんどん分からなくなって、エラーが出たらパニックになることもあります。「それ、ヘルプに書いてありますよ」と言っても、探している部分が英語のままで翻訳されていないと、辿り着くことも難しいじゃないですか。
サラリーマンって、会社でわからないことを先輩に聞いたら嫌な顔をされた…という経験がある人は多いと思うんです。私もその気持ちはわかるので、自分のコミュニティでは優しくあろうと思っています(笑)。
──そうやって気軽に相談できる相手がいると、Salesforce 未経験で管理者になっても頑張れそうですね。
リアルのコミュニティの良さは、まさに Salesforce について分からないことを気軽に聞けるようになることだと思います。ただの “協力会社の人” という関係性だと気軽には聞きづらいですけど、友人や知り合いなら「わからないんだけど…」と正直に言えますよね。
私も社外に常駐して Salesforce の定着支援をしていますが、「担当者には何も聞かれないし、大丈夫そうだな」と思っていたら現場がパニックになっていた…というケースがよくあるんです。
Salesforce のカスタム開発は “手術”。未経験の管理者は慎重に設計を
──事前に詳しい人に相談できれば避けられたトラブルって多そうですよね。本橋さんがよく遭遇すると感じるトラブルや、初心者がやりがちなミスはありますか?
Excel が Salesforce 定着の壁になるという話をよく聞くのですが、「使い慣れた Excel からスムーズに移行してもらうために、Excel のようにカスタム開発したい」と考えるケースは多いようです。
ただ、私はそれは違うんじゃないかと思うんです。たとえば私たちがスマートフォンに移行したとき、ガラケーと比べると使いづらかったじゃないですか。でも、今では全然違うツールとして活用できていますよね。
明確な目的があるならいいのですが、ただ Excel への意識だけでカスタム開発をすると、Salesforce の性能を活かしきれず、何者でもないシステムを生み出してしまうことになります。
──カスタム開発できることが Salesforce のメリットではあるものの、慎重に考えなければいけないということですね。
過剰にカスタム開発をすると、開発費がかさむだけでなく、あとから修正・追加開発がしづらくなってしまいます。今のバージョンでは動いても、その後ソフトウェアのアップデートがあったときに動かなくなるリスクもあります。
ですので、経験豊富な管理者でも、Salesforce はなるべく標準機能・標準の画面だけで慣れてもらうほうがいいと考えています。私はSalesforceでのカスタム開発は“手術” のようなものだと考えています。
──手術と言われると、どういう扱いなのかがイメージしやすいですね。
あとは、設計〜導入のフェーズで、言葉をしっかり定義したほうがいいです。たとえば “リード” という言葉は人によって解釈が分かれてしまうと聞きます。
「顧客とは、“取引先” を指します」という風に単語の意味を統一しておかないと、Salesforce を使う部署が拡大したり、新しい社員が入ってきたりしたときにトラブルが起きがちです。
──現場での運用が始まってから管理者が注意しておく点はありますか?
設計と似た話ですが、項目をたくさん作りすぎてしまうことに注意してほしいです。Salesforce はエンジニアでなくてもカスタマイズできるので、新しいことを覚えると楽しくなり、どんどん新しい項目を作ってしまうことがあります(笑)。
結果、同じような項目がたくさんできてしまったり、数式で呼び出すフィールド名がどこを指しているのか分かりづらくなったりすると、運用で苦労しがちです。
現場への定着作業は永遠に続く。システムとマニュアルは改善・更新しやすい体制を
──本橋さんの感覚で、Salesoforce の現場定着はどんな状態になればゴールだと思いますか?
Salesforce 上にデータが蓄積された段階ですね。どんなに頑張って開発しても、現場でデータが入力されていなければ使えません。
商談の情報が貯まれば、受注できた理由や営業成績の良い社員がどんな商談をしていたのかなどをリアルタイムに調べることができ、効果を感じてもらいやすいです。大企業での Excel 管理だと、営業成績の比較ができるまでに 1 ヶ月ほどのタイムラグが生まれることもあります。この差は歴然ですよね。
──定着完了までどれくらいの期間を見込んでおいたほうが良いでしょうか?
企業の規模にもよりますが、十分なデータが貯まるまで 1 年以上はかかると思います。
──長期戦ですよね…。定着化のフェーズを乗り切るためのポイントはありますか?
社内に協力者を徐々に増やしていき、定着の流れをつくることです。 まずはある程度の役職がある方に Salesforce の良さを理解していただき、システムの移行をトップダウンで推進してもらう。次に何名か現場の社員にも協力してもらい、「こういう風に打ち込んでほしい」「この項目も欲しい」という要望をまとめて使いやすく改善する。そしてマニュアルを整備して教育し、部署全体で使ってもらうという流れです。
私の場合は最初に数ヶ月ほど、試行錯誤しながら使いやすく改善していく期間を設けています。
──まずはマネージャに協力してもらうわけですね。
はい。システムを移行する際は使い慣れたものが恋しくなってしまいがちなので、役職者に決断してもらうことが重要です。
まずは Salesforce にある程度のデータを入力して、レポートとダッシュボードを確認してもらうといいと思います。さらに「あの Excel がこんな画面になりましたよ」と比較したり、Backlog や Slack、Google カレンダーなど使い慣れた他のサービスとも連携できる部分を見せると、便利さが伝わりやすいです。
──現場全体への定着の際の、マニュアル作成に関しては注意点などありますか?
私の経験では、 ”探す手間を省くこと” が大切になると思っています。PowerPoint でマニュアルを作成して共有すると、Salesforce の操作がわからなくなったとき、該当するファイルと記載箇所を探す手間がありました。
──「Teachme Biz for Salesforce」では Salesforce を使いながら同じ画面で該当箇所のヘルプを見ることができますが、こういったフローであれば効果が出そうでしょうか?
なるほど、いいですね。私なら、使い方だけでなく、Salesforce 特有の単語や概念の説明も載せたいですね。
マニュアルというとデータ入力の方法がメインに思われそうですが、現場では Salesforce 特有の単語というか、概念の説明も重要になります。
Excel などから移行すると “フェーズ” や “完了予定日” という単語自体を初めて聞く方も多いですが、Salesforce で商談を記録する際にはこれらの項目の入力が必須になります。そこで用語の意味を理解せず、とりあえず先に進むために適当な値を入力されると、結局データのクリーニングに手間がかかってしまいます。
入力ミスを無くすためにも、特に単語の意味のような簡単なヘルプは同じ画面ですぐに見せたいですね。
──なるほど。入力してもらうことだけではなく、「間違えられない」ことも大切ですよね。
あとは、システム管理者も異動などで交代することがあるので、管理者向けのマニュアル整備も重要です。 Salesforce で便利な “ワークフロー” や “プロセスビルダー” の作り方って、一度覚えてしまえばすごく簡単なんですけど、だからといって何もマニュアルがない状態で引き継がれると未経験者は辛いんじゃないかと思います。
──意外にマニュアルが必要な場面が多いんですね。
Salesforce 管理者と入力者で理解の差はかなり大きいですから、分かりやすいマニュアルは重要ですよ。
しかも、一度作って終わりというわけではないですからね。 Salesforce はアップデートで新しい機能が頻繁に出てきますし、現場の業務フローが変わったりすると、新たに作成・修正が必要になりますから。
アップデートで画面のデザインが変わったとき、スクリーンショットを PowerPoint ファイルに貼っていると意外に更新の手間がかかった経験があります。
──システムの運用だけでなく、マニュアルにも更新が必要という視点は未経験だと気付かなさそうですね。
特に、社員数や拠点数が多かったり、どんどん Salesforce を改善・更新していく意欲のある企業は、マニュアルの作成・更新の負担を減らすメリットが大きいでしょうね。マニュアル整備や定着に時間をかけている間は、次のことにも着手できないですし。
そう考えると、システム面でもマニュアルでも、常に改善しやすい体制や仕組みを整えておくことが大切なのではないかと思いますね。
ー ありがとうございました。メンテナンスまで視野に入れた計画が、継続的な運用には不可欠なんですね。
<執筆:Hiroaki Takahashi (Web / 所属先)、写真:内野秀之>
Teachme Bizでは、SalesforceにTeachme Bizで作成した操作手順書を表示する"Teachme Biz for Salesforce"を提供しております。
Salesforceの使い方が分からない際、その画面内で画像ベースの操作手順をそのまま閲覧できるようになります。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
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