自社の商流と The Model を理解した PM が正しい要件定義のカギとなるーーSalesforce 導入〜定着までの道のり Vol 2. リベロ・コンサルティング合同会社
<スライド:Salesforce 導入フェーズごとの課題とアクション>
「Salesforce を契約したものの、まったく使えていない」
今回お話を伺ったリベロ・コンサルティングの武内さんのもとにはこのような悩みを持つ企業からのコンサルティング依頼がいくつも寄せられるといいます。武内さんは過去に所属していた会社で Salesforce の管理者経験を持ち、現在では数十名~数百名規模の企業に対して Salesforce 導入を含む業務設計のコンサルティングを実施されています。
しかし Salesforce を有効に活用するためには、コンサルタントやベンダーに任せきりになるのではなく、社内での意識合わせや推進者の巻き込みが不可欠であるといいます。
そこで、今回は導入側企業が事前にしておくべき準備や、正しい活用によって実現できる未来像についてのお話を中心に、Salesforce の導入における重要なポイントを詳しくお伺いしました。
目次
ビジネスの加速フェイズに Salesforce で組織を一気にアップデートする
ーーSalesforce を導入するべき企業規模やタイミングはあるのでしょうか?
良いタイミングは、売上が格段に伸び始めた時期、ビジネスが加速フェイズに入ったときですね。マーケティング費用もすごく増え、売上が前年比 150〜200% 程度に伸びるような段階になると、Excel でのデータ管理がほぼ不可能になります。物量の増加に耐えきるような効率化やデータ管理を考えたときに Salesforce なら一気にアップデートすることができます。大変ではありますが、売上が伸びているタイミングで入れるのが一番変えやすいし、うまくいきやすいですね。
逆に、売上が横ばいの状態の会社や、変化をするつもりがない会社が Salesforce を入れると、ただの高すぎるデータベースのような扱いになるので、おすすめしません。
ーー規模が大きくなることによって増えてくる負債のようなものを Salesforce で刷新するという印象でしょうか。
感覚的には 会社全体で 100 人ぐらいの規模になり、営業やマーケティングの組織が機能別に分かれてくる段階で、Salesforce が必要になるケースが多いです。この規模で各自の Excel 管理をやっていると、今月の売上はいくらなのか、請求書は発行されたのかどうかも把握することが困難な状況になります。本当は 50 人くらいの時期から 100 人になることを見据えて入れるのがいいと思いますが、組織として統制が取れなくなってくる限界値が 100 人くらいですね。
ーー現在 Salesforce の導入支援をされている会社の規模はどれくらいですか?
直近でやっているのは社員数 300 人から 400 人くらいの企業で、会計と顧客管理と工数管理のシステムを一気に入れ替えるという難易度の高いプロジェクトです。すべて同じタイミングで刷新するのはリスクが高いので、フェーズを分けて段階的に機能を追加する対応をしています。
ーー様々な会社にとって、導入するメリットのあるツールではあるんですよね。
そうですね、Salesforce の一番いいところは自社内で PDCA が素早く回せて、ビジネススピードをどんどん上げていけることです。半分くらいの機能がプログラミング無しでカスタマイズできるので、エンジニアではない社員でも小さな修正や自動処理のロジックの実装がその場ですぐにできたりします。そのスピード感は圧倒的ですね。
実現したい結果や営業フローを理解した上で、Salesforce の機能へと落とし込む
ーー導入する際に導入企業側の期待値に勘違いがあることもあると思いますが、どういうものが多いですか?
Salesforce を導入すれば魔法のように困ったことが解決すると思われてることが少なくありません。Salesforce が前提としている “The Model” の考え方を理解せずに、Salesforce を入れさえすればいい感じにしてくれる、という勘違いが多いですね。
ーー「魔法の杖のようになんでもやってくれる」という期待から、現実的にはどのように理解してもらうんですか?
弊社のコンサルティングでは、まずツールは横に置いた状態で、ビジネスモデルや商流を整理して可視化し、それをクライアントと一緒に見ながら、業務フローやシステム要件をどのようにするべきかを徹底的に掘り下げていきます。
要件というと「ここは自動で計算して欲しい」という割と細かい話が散発的に出てきがちですが、全体フローを大枠でとらえ、整理して伝えることを必ず時間をかけてやります。それを踏まえた上でどこが絶対に実装しなければいけない機能で、それが今の業務にどういうインパクトをもたらすのかを整理し、データの流れやシステム要件を決めて、オブジェクト構成図を作成していきます。
そこからはスケジュールを切って、導入、定着、改善にフェーズを分けて、顧客自身でやらなければならないことを明確にするところまでやります。Salesforce というツールを顧客自身がどのように活用するか、というイメージをこのプロセスの中で持ってもらうことが重要です。要件がある程度固まれば、エンジニアとディスカッションをして、それを実装していきます。
ーー導入にあたって社内でしておいて欲しいコミュニケーションはありますか?
Salesforce はどうしても現場が入力する項目が多くなるので、誰がどうやって入れるかという話に終始しがちですが、「これを入れることで、これまで見えなかったこういうデータが見えるようになりますよ」というゴールからしっかりと説明すべきだと思います。
なんのためにこれをやるのか、これをやることでどういう未来が見えるのか、そのためにここは大変だけどがんばって越えよう、っていうゴール志向で見せるのが正解だと思います。それを見せないと個々の説明が腑に落ちないですし、単純にやることが増えて面倒だと思われてしまいます。
導入の壁を超えるには商流を理解した PM が社内に必要
ーーその他に、導入を成功させるための準備として導入企業側にリクエストしたいことはなんでしょう?
100 人を超えるような規模だと、少なくとも導入プロジェクトに専任の PM (プロジェクトマネージャー) を置いてほしいです。
自分たちの商流やビジネスモデルを理解するだけでなく、自社の特性や将来、今までのやり方を踏まえながら、Salesforce というツールを使ってどう変えていくべきか、逆に変えられない部分はどこか、ということを自分ごと化して整理できる方が社内にいないと難しいと思います。弊社も開発会社も色々なサポートはできるのですが、機能だけ用意しても結局は「社内に定着させて、活用できるかどうか」がすべてなので、社内で Salesforce 導入プロジェクトを推進する方が必要不可欠です。
ーー社内の PM にはどのような資質を持った方が適しているのでしょうか?
経営企画や情シスの方がアサインされることが多いのですが、結局ビジネスに関する様々な処理を Salesforce 上でどう実現するかということが重要なので、自社のビジネスモデルや全体のフローを分かっている人の方がいいですね。
お客さんをどうやって獲得してきて、どこでスタックすることが多いか、年間どれくらいの取引があって、アップセルの余地がどれくらいあるかなど、営業目線を含めて自社の流れが一気通貫して見える方が必要不可欠です。
ーー実現したい流れが頭の中にある人が PM をやるのが理想的ということですね。
イメージとしては営業マネージャーぐらいのレイヤーで物事を見てる人が最適ですね。逆に機能面に関しては、勉強したり情シスのサポートを受けたりすれば全然追いつけると思います。
ーー導入、定着、改善の期間はどれくらいが目安ですか?
100~300 名規模なら各フェーズを 3 カ月区切りでスモールスタートするイメージですね。
まず標準機能に加えて最低限のカスタマイズで 3 カ月間回してもらって、その上で 4 カ月目から諦められるところ、カスタマイズしなければ運用が回らないところを再度要件に落として 3 ヵ月間で改善していき、また 3 ヵ月ぐらい回して改善、という流れを繰り返していきます。
最初から全部やろうとすると稼動するまでに時間がかかりすぎますし、結局運用に乗せてみると変えたいところが色々と出てくるので、まずはスモールスタートで進めていく方がいいと思います。小さな改善がサクッと出来てしまうのが Salesforce の良いところなので、はじめから作り込み過ぎずにずっと改善し続ける感覚で浸透させていきましょう。
「移行の谷」を跳び越えるには強引に引っ張る力も必要になる
ーー営業の商流が分かっている PM 以外にはどういう人が必要ですか?
現場から上がってくる「あれをやりたい」「これもやりたい」という要望を整理して、優先順位をつける人がいると心強いです。やりたいことを全部やるのが正解ではない場合も多いですし、全体の構想の中では不要になってくるケースも結構あります。Salesforce で実現する少し未来の姿をイメージしつつ、それらを整理するタイミングで活躍します。
また、 多くは Excel などの「何でもカスタマイズ出来る」ツールからの移行になるので、Salesforce になかなかデータが入力されず Excel 管理が残り続けるという問題が良く起こります。そういう場合は導入推進者として部長や役員クラスなどの上席者が入って、「Salesforce に入力されていないものは数字として認めない」などの方針を打ち出して移行をさせるという手法を使わないと、なかなか「移行の谷」を跳び越えられないことが多いです。
Salesforce にデータが入り始めると効果が見えてくるので、不満は減っていくのですが、最初の移行期は多少強引なやり方を使ってでも定着を加速させるべきなので、弊社が支援するときは必ず推進力のある上席の方にも入ってもらうようにしています。
ーー推進力のある上席者を動かすための方法も必要になると思いますが、どういった点を伝えれば動いてもらえますか?
上席者には、「最初の壁を超えると今まで見られなかったデータが可視化される状態になるので、その壁はどんなことをしてでも越えさせてください」という話はするようにしています。Salesforce は優れたツールではありますが、使う側も覚悟を持って使おうとしないといけないものだと理解していただきます。
ーー社内の各所から Salesforce の導入プロジェクトに参加してもらうにあたって、彼らの本来の業務と兼業になることも多いと思いますが、どのような形でコミットしてもらうのでしょうか?
営業マネージャーや部長、役員のような人が専業で要件定義まで仕切る PM になるというのは難しいと思うので、社内のタスク管理やスケジュール管理などは事務局のような形で立ち上げないと回らないということは結構ありますね。
PM の機能を全部社内で対応することが難しければ機能を分けて、一部は社外に頼る選択肢もありだと思います。弊社に対しては、営業フローや請求フローをヒアリングしながら要件定義して、全体像を設計する役回りを外注いただくことが多いですね。
活用結果の継続的な発信により、社内にフォロワーを増やすことが定着のカギ
ーーSalesforce 導入の意義を現場のメンバーに理解してもらうには、どのように伝えるのがいいのでしょうか?
メンバーにとって Salesforce のいいところは、レポートなどで色々な分析が誰でも簡単にできることです。そうすれば自分で、あの人はこれくらいやってるとか、自社の売り上げはどうといった、全体的な数字が見られるんです。
「レンガを積んでるのか家を作ってるのか」という話に近いんですけど、ただ営業を頑張るという状態から、今期の営業目標の中で自分のチーム、部署、そして全社でどういう動きをするべきなのかが考えられるかどうかは、大きな違いを生みます。メンバーの方には、全体を見られた方が楽しいし、関心を持ってやれば目線も上がるという話をして、「データを活用するために Salesforce を使っているんだ」と理解してもらうことが多いです。それが腑に落ちた人はどんどん活用を推進していってくれますね。
ーーそういった「熱い人」を増やして良さを伝えてもらうには、社内でどういう機会を持つといいのでしょうか?
全員が使うようになるまでにそれなりに時間がかかるので、Excel 管理だと集計に一週間かかっていた表がレポート機能で一瞬で作成できる、などの圧倒的な結果を月に 1 回くらいは社内全体に発信することですね。
こういうものが見られるようになりましたっていうのをどんどんアップデートして、発信していくことで実感を得てもらってフォロワーを増やす、といったことを地道にやると効果的です。
ーーSalesforce の効果は導入してどれくらいから実感できますか?
半年くらい使って、ある程度データが貯まってきたあたりだと思います。営業の行動履歴やチャーンした原因分析などをするには最低でも半年くらいのデータが必要です。
データが貯まったときに営業のプロセスや原因分析をレポーティングして見せてあげることで、「ちゃんとやっといてよかった」っていう実感を得てもらえるはずです。
ーーSalesforce の活用が浸透しはじめると、次にどういう未来が目指せますか?
Salesforce の哲学は、一回失注して終わりではなく、そこから継続的にフォローアップすることで、最終的に受注できるケースはたくさんある、というものです。ここがこれまでの営業と大きく違うところです。
今まで焼畑的にひたすら新規を開拓していくだけになっていたところに、リードナーチャリングという新しい概念を導入すれば、今までよりも売上を伸ばせると理解することが重要です。
この理解にもとづいて Salesforce を整備することで、日々の活動記録やリード、商談への入力の意味が理解できますし、それによる成果が見えるようになると、後はその精度を上げていくだけ、というサイクルに入ります。特に経営陣や営業には、そういった未来を見てもらっています。
またバックオフィスも含めて社内のデータが綺麗に見える化され、一気通貫でデータを活用できるようになります。データが綺麗に上流から下流まで流れる世界が見えるようになりますね。
読まれない FAQ よりも現場視点の独自のヘルプの活用が定着を加速させる
ーーTeachme Biz for Salesforce のように Salesforce 内に自社独自のヘルプを作れるとすると、どういう効果が見込めますか?
独自のヘルプを作るのは最初は大変ですが、何度も同じ質問に答える必要がなくなるのでトータルで見ると非常に負担を下げる効果があると思います。
新しい人が入ってきたり、異動があった都度、社内から問い合わせが来てアドミンや情シスの方が疲弊するケースが非常に多いです。ただ、管理者側が一方的に FAQ やヘルプを作っても読んでもらえないことも多いので、現場からもヘルプを作れるようになると、より活用の実感が湧いて定着が加速するでしょうね。
ーーFAQ を作っても読まれない辛さというのはありますよね。
そうですね、なので独自のヘルプが常に Salesforce の画面の端に置いてあったり、「取引先」に移動すると自動的にそのヘルプの内容が変わったりするのはめちゃくちゃいいと思いますね。
今までだとヘルプテキストをがんばって書くか、レコードタイプや入力規則などでガチガチ制限をかけるしかなかったんですが、そうなると非常にメンテナンスが大変になります。
Salesforce は頻繁に画面レイアウトが変わったり現場でのカスタマイズも多いため、ヘルプが古いままだと、結局また管理者に問い合わせが集まって、負担が増えることになってしまいます。
Teachme Biz なら操作がしやすいので手順書を作るのもステップだけ、差し替えたりするのも簡単そうです。Teachme Biz for Salesforce のようにある程度オープンにしてマニュアルで見てもらうという世界にする方がいい気がします。
ーー現場の自己解決が進む体制を作っていくことで、定着スピードはさらに上がる気がしますね。本日は様々な視点からお話しいただきありがとうございました!
<執筆:山根英彦、撮影:大杉 明彦 (Web)>
Teachme Bizでは、SalesforceにTeachme Bizで作成した操作手順書を表示する"Teachme Biz for Salesforce"を提供しております。
Salesforceの使い方が分からない際、その画面内で画像ベースの操作手順をそのまま閲覧できるようになります。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
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