ゴールを解像度高く共有し、プロセスの障壁を取り除く。管理者はメンバーの“利益”を第一に──Salesforce 導入〜定着の道のり Vol.5 株式会社ブレインパッド様
<導入フェーズごとの課題とアクション>
「使い方がわからない以前に、使う必要性を感じない」──新たなシステムを導入し、移行しようとする際には常にそんな反発が付きまといます。
ビッグデータを活用して企業の経営課題を解決する株式会社ブレインパッドは、2008 年の時点で全社に Salesforce を導入しました。しかし、営業の現場ではなかなか商談管理ツールとして活用されず、使い慣れた Excel を併用した現状把握に留まっていたそうです。
2016 年末に管理部門から営業推進の現場に配属された上村 篤嗣さんは、Salesforce の知識と活用経験を期待され、SFA としての定着を推進することになりました。徹底した “相手目線” で定着を進めた上村さんは短期間で目的を果たし、同年の「Salesforce 活用自慢チャンピオン大会」では本プロジェクトを発表して準優勝に輝きました。
今回はそんな上村さんに、当時の導入~定着化のエピソードと、運用開始から約 2 年が経った現在の状況・成果について伺いました。
目次
誰もが Excel と Salesforce の二重管理に疲弊していた。だからこそ、この解消は現場に大きな “利益” があると思った
──ブレインパッドさんでは Salesforce 自体は早い時期に全社で導入されていて、それぞれ部署ごとに定着を進めた時期が異なると伺いました。
はい。Salesforce の導入自体は 2008 年です。導入後は部署ごとに運用が始まり、管理部門でも活用したり、最近ではインサイドセールス現場への導入など、毎年のように社内プロジェクトが走っています。
事例として参考になりそうなのは 2017 年、所属している事業部の営業現場で SFA として活用するために始めたプロジェクトです。当時は Salesforce がインストールされてはいるものの、見積もりをつくるような後半の段階でしか使われていませんでした。
──PM は上村さんがお一人で担当されたのですか?
そうです。過去に Salesforce を使った経験があるということで依頼されました。
通常の業務との兼任なので大変でしたし、移行に時間をかけるのは良くないと思い、3 ヶ月区切りで終わらせるつもりでやりきりました。
──それまではどうやって商談の管理をされていたのでしょう?
Salesforce と並行して使っていた Excel のほうがメインになっており、毎週のように新しいファイルが生まれていました。営業社員は Excel で案件・ステータス・完了予定日を入力し、定例会議では部長が「この案件、どうなってるの?」と確認する程度で、“商談管理” とは程遠い状態でした。
当時の状態では、データを活用して戦略的に営業活動をしたくても、「紹介の案件は受注率が高いから、今後は紹介を増やせばいいのではないか」というレベルの意見しか出ていませんでした。
──とはいえ、使い慣れた Excel から Salesforce に移行・統合となると現場の説得には苦労しそうですよね。
Excel と Salesforce の二重管理にはメンバーはおろか、Excel 管理を推進する営業部長さえも疲弊していました。この解消はみんなが望んでいるものだと思って、現場の利益を推して訴えかければいいのではないかと考えました。
Excel を使っていた目的は「誰が、どれだけの確度の商談を持っているのかを把握したい」という在庫管理だったので、Salesforce でも当然対応できます。統合先の Salesforce でも今までの Excel ファイルと同じようなものが見られるなら、部長も採用してくれると思ったんです。
──結果として、部長に採用してもらえたのですか?
はい。システムを Salesforce に一本化し、早い段階で Excel 管理を止められたことは大きな一歩でした。
そして、営業部長に納得していただき、協力してプロジェクトを進めるということは、その後も全体を通して重要になりました。
「ここだけ見てもらえればいい」と、チェックと入力の範囲を極限まで減らした
──いざ Salesforce に移行すると、現場の社員から使い方で問い合わせを受けることはありませんでしたか?
ありました。ただ、「入力が難しい」という問題は UI と技術による工夫で解決できました。
現場にとっては入力する項目が少ないほうが手間がかからないので、「なんとなく入れなければいけない気がする」ような項目は削減し、商談データは 6 つのみに絞りました。 中でも「担当営業名」「取引先名」「商談名」は一度入力すれば変わらないので、都度更新が必要なものは「完了予定日」「フェーズ」「想定月額」の 3 項目だけです。
──なるほど。でも、管理側からは少なすぎるという声はなかったのですか?
管理側からすると、たとえば「いつ更新されるか」という次回アクションの項目も欲しいという気持ちは分かります。ただ、私が前職で営業をやっていた頃の経験を振り返ると、項目が増えるほど、現場には入力してもらえなくなると思いました。
──現場目線で入力項目を絞り込んだのですね。他に現場から多かった問い合わせはありますか?
「そもそも入力画面がどこにあるのか分かりづらい」という声も多かったです。商談と活動履歴でデータを二回入力する手間があったり、何回も画面を遷移したりと、確かに使いづらい状態だったんです。
そこで、レポートから活動入力画面まで 1 クリックで遷移し、同時に商談の 3 項目も更新できるようにしました。とにかくみんなの事務作業を減らしたいんだという意図を説明し、「このレポートページだけをブックマークしておいてもらえれば簡単に商談と活動履歴が入力できる」という状態をつくりました。
──ちなみに、その入力項目や画面遷移を説明したマニュアルは作成されましたか?
その時は「レポートページをブックマークしておいてください」「このボタンから更新してください」だけで運用いただけたので、SFA としてはマニュアル整備に労力を割きませんでした。
──マニュアルを作らないのは珍しいですね。何か意図があったのでしょうか?
過去の経験からの学びです。このプロジェクトの約 2 年前、販売管理のシステムを ZAC から Salesforce に移行したタイミングでは対照的に、マニュアルをしっかり整備したんです。
営業事務の社員はそのマニュアルを活用してくれて Salesforce を使えるようになりましたが、現場の社員は読まずに営業事務の社員に問い合わせることもあり、一人ひとりにまで定着したと言える状況ではありませんでした。
ですので、現場の社員に対してはマニュアルを作りこんでも効果は薄く、むしろシンプルな UI をつくることに力を割くほうがいいと思いました。
「会議は Salesforce だけを見て進める」など、やるしかない状況を生み出す
──UI 面で工夫されて入力の手間を省いたことで、現場での定着は進みましたか?
いえ。それだけだと不十分でした。当社の場合「Salesforce の使い方がわからないから使えない」社員よりも「使う必要を感じないから使わない」という社員が多かったんです。
営業メンバーは、必要最小限の労力で目標を達成しようと考えている人たちなので、本当にみんな賢くて合理的だと思います(笑)。
──管理職はメリットを想像しやすいですが、現場からすると「面倒なだけ」という声をよく聞きますよね。
逆に言うと、必要になれば、たとえば営業部長が注視しているとわかれば力を入れてくれるので、うまく体制をつくることが重要だと思います。
私が特に効果を感じたのは、営業部長に合意をもらって週次の営業会議で Salesforce のみを利用するようにしたことです。Excel ファイルの更新・生成を止め、全員で Salesforce のダッシュボードを見ながら商談と各自の活動履歴を確認する流れになれば、データを入力していない社員はまるで仕事をしていないような扱いになります。
──もう Salesforce を使うしかない状況ですね。その他に工夫したことはありますか?
Salesforce の入力ルールやマニュアル作成にも通じる話ですが、私はゴールに行き着くための手順よりも目指すべき状態を解像度高く具体化し、「この状態に行き着いてくれるなら、プロセスは任せる」と示すことを重視しています。
当社の場合、営業社員がやるべきことは月間目標を達成することと、Salesforce を見れば商談・活動の状況が分かるようにすることです。そして、商談データが入力された状態とはどういうことなのかを理解しやすいよう、活動入力画面の UI を工夫し、Wiki で “入力完成形” や “更新範囲” をシンプルに説明しています。
そうして各自のやるべきことを最小限にした上で管理職の要望を満たせるよう、最適な形で業務を設計することが、現場での定着には重要なのかなと思います。
思考の基本は「相手が何をしてもらえたら喜び、何をされたら困るのか」
──営業現場で Salesforce が使われるようになった結果、効果を実感する声などはありましたか?
「営業会議で各自の状況把握に時間を取られず、目標を達成するための手段を話し合えるようになった」という声はありましたし、数ヶ月後には営業部長が事業部の振り返りで「Salesforce の活用で、未来を見据えた営業活動ができるようになりました」と仰ってくれました。
また、営業活動の正確なデータが貯まってきたので、数百件の商談を元に分析できるようになりました。「どの業界の受注が多いのか」「企業の規模によって受注率が違うのか」というデータが分かるようになったので、営業企画としてはマーケティング対象の絞り込みに活用できる生の情報が得られました。
──Salesforce のメリットとしては、やはりデータを活用できることだとよく言われますね。
そうですね。これまでも肌感覚で相性の悪い業種があることを感じてはいたのですが、「せっかく問い合わせをいただいたのだから…」「一度話を聞いてみたいから」と、常に対応していました。しかし約 2 年分のデータが揃ったことで、優先対応すべき案件かどうか根拠を持って判断できるようになりました。
そのデータに基づいて営業プロセスを見直した後、営業の受注率が前年の 1.4 倍になりました。
──振り返ってみて、これから Salesforce を導入する企業に向けてアドバイスを送るならどんな内容になるでしょう?
技術面では、現場の手間を省くためにも「入力をシンプルに」ということに尽きると思います。
文化づくりという面では、相手を理解することですね。何をしてもらえたら嬉しくて、何をされたら困るのかを考え、提案する際には相手の目線でどんな良いことがあるのかを訴えかけること。
そして今の業務フローに定着を妨げる障壁がある場合、半ば強制的にでも一度壊すことが重要です。イメージとして、「隣に新しく良い椅子(Salesforce)を用意したよ」と言っても多くの人は「今座っている普通の椅子(Excelとの二重管理)」から動かないと思いました。ですので、プロジェクトの第一歩として今座っている椅子(Excel)を完全にどかすことから始めました。
──ちなみに、運用を始めてから発覚した課題などはありますか?
導入から 2 年ほど経っているのですが、最近になって現場から「継ぎ接ぎでルールが増えているから分かりづらい」という意見をもらいました。確かに運用していく中で追記を重ねてきたので、「どこから更新すればいいのか」「どこをチェックすればいいのか」といった内容を改めてシンプルにまとめ、社内の Wiki を使って一か所に統合しました。
──「Teachme Biz for Salesforce」のようにSalesforce で今開いている画面に合わせたヘルプをつけられるとしたら、御社ではどう活用できそうでしょうか?
操作中の画面のヘルプや関連する業務のルールがそのページから見られるなら、現場の社員も迷いませんよね。画面ごとに最新版の情報に差し替えやすいのなら管理者側も便利そうです。
今は Wiki を整理して「このページを読んでおいてください」と示すだけですが、組織がもっと拡大すると今よりも問い合わせが増えると思います。特に商談など重要なページにはその場で確認できるヘルプをつけておくと、継続的な教育コストは下がりそうですね。
その上でヘルプの内容を「Salesforce を使って売上をアップする方法」のように記述すれば現場の社員もさらに読む気になってくれると思います。
──ありがとうございました。今までされていた定着ノウハウを組み合わせると、より確実に定着が進みそうですね。
<執筆:Hiroaki Takahashi (Web / 所属先)、撮影:大杉 明彦 (Web)>
Teachme Bizでは、SalesforceにTeachme Bizで作成した操作手順書を表示する"Teachme Biz for Salesforce"を提供しております。
Salesforceの使い方が分からない際、その画面内で画像ベースの操作手順をそのまま閲覧できるようになります。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
>> 【関連】画像・動画ベースのビジュアルヘルプで、Salesforceの運用定着をもっと簡単に