「なぜ私が担当に?」状態から導入してわかった、注意すべき 3 つのポイント──Salesforce 導入〜定着の道のり Vol 3. アクシスコンサルティング株式会社様

導入フェーズごとの課題とアクション
企業が成長していく中では、顧客情報や面談情報を管理して効率的に業務を進めるための IT システムが必要になってきます。
総合人材サービス業を展開するアクシスコンサルティング株式会社は、将来的なビジョンの実現のために Salesforce が必要だと判断し、「社内に誰も詳しい人がいなかった」という状態ながら導入を決定。導入・社内定着 を担当した南 薫さんは、社外コミュニティでの学習や社内でのさまざまな取り組みによって従来のシステムからの移行を推進しました。
今回は IT 業ではなく社内にエンジニアがいない企業の導入~定着プロセスを辿りながら、Salesforce 未経験の担当者が苦労するであろう点と、これから導入を進める企業が注意しておくべきポイントを伺いました。
目次
社内に開発者がいなくても、業界の変化に対応しながら顧客を中長期的にフォローできると思った
──まずは Salesforce を導入し、それまでのシステムから移行することになった理由を教えてください。
Salesforce の導入前は、人材紹介業に特化していたシステムを使っていました。当然、業界特化型なので使い勝手はよかったのですが、当社の基本方針である、中〜長期的なフォローとは合わないことを感じていました。
当社は理念として「生涯のキャリアパートナー」を目指しているので、一度の転職を仲介しただけでお付き合いを終えるわけではありません。その後もキャリアに関する情報やご相談の機会を提供をするためには、継続的なお付き合いのための CRM が必要でした。
──多くのツールがある中で、Salesforce を選ばれた理由は何だったのでしょう?
今の人材業界では、職種や業種が時代と共に変わっていきます。Salesforce はエンジニアでなくてもカスタマイズできるので、新しい項目をつくるだけで開発を依頼する必要がないことはメリットだと思います。
──とはいえ CRM を移行するとなると、社内に提案する際には苦労されませんでしたか?
もちろん最初から歓迎されたわけではありませんが、社内では「もっとデータベースを活用すべき」という課題意識がありました。
以前のシステムでは面談した日時を時系列で残せる程度で、どんなメールを送ったかなどの詳細なデータは残せていませんでした。膨大なデータがあるので、どうしても埋もれてしまっていたんです。
また、転職希望者の方へのメールも “送りっぱなし” で、開封率すら把握できていないという課題がありました。ですので MA ツールを導入することも決まっており、Salesforce のプロダクトラインに Pardot があることも一つのきっかけになりました。
社内に Salesforce 経験者がおらず、社外のユーザー会やコミュニティで知識を吸収
──Salesforce の導入プロジェクトは営業や IT、経営企画の方が主導されることが多いと聞きますが、御社では “マーケティング室(現・事業推進部)” の南さんが抜擢されたのですね。
IT 系のシステムに詳しいわけでもなかったので、「なぜ私が?」とは思いました(苦笑)。社内には情シス部門がなく、経験者もいなかったため、大きなくくりでいえば “顧客管理” だということで当時マーケティング室所属だった私が担当になりました。
そして専任ではなく、自社サイトのユーザー集客など、通常のマーケティング業務と並行してプロジェクトを進めることになりました。
──Salesforce 未経験かつ兼業で進めるのはかなり大変に思えますが…。
プロジェクトを終えてみての感想ですが、何も知らない状態で担当になっても対応できることは Salesforce の一つのメリットではないかと思います。
──そもそも、どうやって Salesforce に関する知識をゼロから習得されたのでしょう?
私は有志が集っているユーザー会やコミュニティに足を運びました。Salesforce のコミュニティには親切な方が多く、わからないことを質問すれば同じユーザーという立場の方がすぐに回答してくださいました。
──コミュニティを頼れる環境は良いですね。他にも社外から協力いただいたことはありますか?
当社にはエンジニアがいないので、インプリは Salesforce 社の方に紹介していただいたベンダーさんに依頼しました。
あとは Salesforce を使ったマーケティングに強い社外の方にアドバイザリーを依頼し、経営陣に向けてメリット・活用法などを分かりやすく説明していただきました。
──導入〜定着のスケジュールとしてはどのように進められましたか?
当社ではマーケティング系の職種のみを対象に Salesforce を導入する一次開発と、その約 1 年後、フロント全員を対象にした二次開発がありました。
一次開発は元から利用していたシステムと並行して、かつ標準機能のみで導入したので、私と上司の二人だけで進めました。期間も 3 ヶ月ほどだったと思います。
二次開発は元のシステムを解約して完全に移行することになったので、現場のキャリアアドバイザー・営業・事務など他職種のメンバーも含めて設計・開発を進めました。開発と移行準備で半年ほどかかりましたが、現場での定着はさらに時間がかかりました。
マニュアルや仕組みの整備に加え、さらに個別のコミュニケーションで粘り強く対応
──まず、マーケティングチームを対象とした一次開発の流れを教えてください。
Salesforce と Pardot を導入する前は各自が Outlook を使ってメールを送信しており、業務が属人化していました。しかし現場定着後は、今誰が何通・どんなメールを送っているかが分かるようになり、業務の見える化ができました。
「この求職者の方はフォローできていないのでは?」と声を掛け合いながら、適切なタイミングで施策を打てるようになったことは大きな成果だと思います。
──苦労されたことはどこでしょうか?
しいて挙げるなら、データのメンテナンス体制を整えたことでしょうか。当社の業務では、たとえばデータベースにフィルタをかけて求職者の方のデータを抽出する際にも、常にデータが綺麗に入っている必要があります。
Salesforce の導入により自分たちで管理がしやすくなったので、「将来的にはこういう風にしたいよね」と話し合いながら、データ整備のための AppExchange を使い始めました。
──マーケティング現場では自主的に活用されたのですね。1 年後の二次開発、フロントの現場全体ではどうでしたか?
二次開発では今まで使っていたシステムを解約し、顧客の管理や面談日程の調整などのフロント業務を完全に移行したので、やはり一次開発よりは定着に苦労しました。
そもそも Salesforce を使わないと仕事ができない状況になるので、マニュアルはたくさん作りました。今も社内の共有フォルダに PowerPoint 資料として管理して、いつでも見られるようになっています。
──かなり作り込んでますね...しかも数も多い。
数十時間はかかっていると思います。新しいことが増えるたびに対応しているので、トータルでは 100 時間を超えているかもしれません…。
ただ、そもそもどれだけ読んでもらえていたのかもわからないですし(苦笑)、入力必須の項目にデータが入っていないというミスは毎週起きていました。
──これだけのマニュアルを整備しているのに…。
人が介入すると余計な手間がかかってしまうと思ったので、入力規則の設定とマシンチェックで、必須データが入力されていないと次の画面に進めないようにしました。それでも「こんなエラーが出ちゃったんだけど…」と直接質問されることが少なくありませんでした。
──結果的に、直接のコミュニケーションによる指導にもかなりの工数がかかっていそうですね…。
導入当初は、社内のグループごとに数時間の説明会を 2〜3 回ずつ実施しているんです。
その説明会とマニュアルがあっても定着には苦労したので、ちゃんと入力できていない場合に検知できるようなレポートを作って都度対処していました。
レポートで検知された人には、隔週で 1 回 30 分ほど、1 対 1 で相談できる場を設けましたね。ただ、Salesforce の使い方を教えるだけの場というわけではなく、タスクの整理や「こういうことがしたい」というヒアリングも兼ねて業務に組み込んでいました。
──現場に定着したと感じるまでにはどれほどの期間がかかりましたか?
1 年以上かかって、最近やっと浸透したきたなと感じます。今は個別の対応がほとんど必要なくなって、「何かあったら声をかけてください」という状況になりましたよ。
──それだけ定着に苦労したのは、少なからず移行に反対する意見もあったからでしょうか?
いえ、当社は若い社員が多いおかげかシステムを変えることに抵抗はなく、素直に受け入れてくれていました。
「Excel で管理したい」「こういうデメリットがあるんじゃないの?」などと反発されていたわけではなく、単純に Salesforce の使い方を覚えてもらうことに時間と労力がかかりました。
──現場の説得に苦労される企業も多いので、素直に受け入れてもらえるのはありがたいですね。
そうですね。だから私も、直接質問を受けたとき「それ、マニュアルに書いてあるよね?」と感じることはありましたが、何も言わずに素直に答えるようにしていました(笑)。
自ら勉強しながら導入〜定着を支えた担当者が教える「つまずきポイント」
──フロント全体に Salesforce が定着したところで、今後新たに開発・改善したい機能はありますか?
逆に、もっとシンプルにしたいです。項目も少なくできると思いますし、今が 100 だとしたら 50 まで削ぎ落とすことはできると思います。
当社の場合は「前に使っていたシステムと同じ感覚で使えるように」と設計した結果、標準機能でできることをカスタム開発してしまい、追加開発がしづらくなってしまいました。 ですので、三次開発をする場合は開発というよりも “戻す”、選択と集中のフェーズになると思います。
──未経験だと、導入時にやってしまいそうなミスですね。
どうしても現場からすると「この情報もほしい」「一応入れておいたほうがいい」という声が出ますよね。そういった要望はもっとよく考えて検討すればよかったです。
今では、むしろ業務を Salesforce のシステムに合わせていきたいと思っています。
──定着のフェーズで「もっとこうしておけばよかった」という反省点はありますか?
「Salesforce のマニュアル」を作るのではなく、業務のマニュアルに Salesforce の使い方を紐づけて編集すればよかったと思います。
当社は成長期ということもあって社員が増えているので、新しいメンバーが入社した都度、2 時間ほど Salesforce の研修をしています。ただ、まだ当社の業務の流れも把握していない状態なので、特に中途の社員は苦労しています。
──「Teachme Biz for Salesforce」では Salesforce を使いながら同じ画面で該当箇所のヘルプを見ることができますが、こういったフローであれば効果が出そうでしょうか?
そうですね。マニュアルをつくらないわけにはいかないので、つくるからには業務を進める流れで読めるほうが効果的だと思います。あとは、読まれているかがわかるならやっぱり嬉しいですね。
──これから昔の南さんのような立場で Salesforce 導入を推進する方がいるとしたら、どんなアドバイスをしますか?
シンプルな運用とマニュアルで定着化の効率が上がったとしても、トレーニングとフィードバックを受ける場はあったほうがいいと思います。 Salesforce は標準機能だけでも、エンジニアでなくてもやれることが多いのですが、フルに活用するためにはユーザーのフィードバックが必要です。
──南さんは使い方を教える相談の場でたくさんフィードバックをもらえたんですよね?
そうですね。私はフロントの人間ではないので、彼らの業務についてわかっていないこともたくさんあります。
逆に彼らは Salesforce でカスタマイズできる範囲と実装の手間は分からないので、「こういうことはできないの?」と気軽に聞いてくれます。意外と簡単に役立てることもあるので、話をしてくれることがありがたかったです。
──定着フェーズは設計に工夫の余地がたくさんありそうですね。今後導入する企業が参考にできそうなお話、ありがとうございました!