タイ会計基準の改訂と決算書表記の変更
本記事では、在タイ日系企業が10月に実施すべき会計業務と、最近アップデートされた吸収合併時の税務の取り扱いについてご紹介します。また、多くの企業で用いられている会計基準「TFRS for NPAEs」の改定について、最新情報も交えながら深掘りします。
目次
【TODO】10月にやるべき業務
ここでは、決算期が12月または3月の場合を前提に、会計や税務、財務の観点から実施すべきことや実施した方が良いことを挙げていきます(決算期が他の月の場合は、読み替えてご参照ください)。
12月期:移転価格対応
12月期決算で関連会社取引のある企業については、決算まで残り3ヵ月となり、今期の利益率の見直しが必要な時期に差し掛かっています。特に利益率が低い場合や赤字が予想される場合、関連会社取引があると移転価格の指摘を受けるリスクが高まります。可能であれば、関連会社取引における価格改定や移転価格調整金による調整を行い、一定の利益水準確保に向けた検討を進めるべき時期かと考えます。
3月期:法人税中間申告の翌月納税準備
事業年度を6ヵ月経過した日から60日以内
(3月決算の場合は6月+2ヵ月=11月末までが期限です)
本コラム9月号「法人税中間納税における過少申告リスクと過払い問題」で解説した注意点に気をつけて、利益予想と納税方法の選択を進めてください。
【UPDATE】企業の吸収合併時の税務取扱について
タイにおける合併の方法については、長らく新設合併(元の会社が全て解散し、新しい会社となる方法)のみが民商法(いわゆるタイの会社法)で許可されてきましたが、2023年の同法の改正により吸収合併(元の会社のうち、一つの会社が残り、他の会社がその会社に吸収される方法)が許可されるようになりました。
この新しい方法の税務上の取り扱いについては不明確でしたが、2024年2月に税務当局よりルーリング(解釈通達)が出され、「吸収合併については、税法上の『完全事業譲渡(Entire Business Transfer)』と同様の取り扱いとする」とされました。詳細については改めて解説できればと思いますが、吸収合併を行うにあたっての障害が一つ取り除かれたかと思います。
【TOPICS】タイ会計基準の改訂について
大多数の在タイ日系企業に適用されている会計基準「タイ非上場会社会計基準(Thai Financial Reporting Standards for Non-publicly Accountable Entities:TFRS for NPAEs)」の2022年の改定(2023年初から適用)に伴い、商務省から決算書の記載変更に関する通達が最近出されています。2022年の改定の概要と今回の変更について、2024年末以降の決算に影響を及ぼす可能性ある項目を中心に解説します。
1. 2022年の改定の概要
2022年の改定においては、それまでの会計基準が全く変わるわけではなく、利用できる基準のオプションが増えたという形になりました。例えば、これまでは連結財務諸表の作成は認められていませんでしたが、この改定により作成のガイドラインが示され、連結財務諸表の作成が可能になっています。このように「これまでできなかったものができるようになった」という点が多く、「これまでしていた方法を変更しなければならない」という事はほとんどありません。したがって、これまでのやり方を変えずに決算書を作成をすることもほぼ可能です。
一方で、以前の非上場会社基準では、国際的なスタンダードである「国際会計基準(IFRS)」およびそのタイバージョンである「タイ上場会社基準(Thai Financial Reporting Standards:TFRS)」との間に大きな差があり、本社との連結作業における障害となっているケースもありました。しかし、この改定における“オプション”を利用することにより(例:タイ国内グループ会社で連結決算)、その差を一定程度埋めることが可能になったと言えます。
2. 決算書表記の変更(商務省からの通達)
今年の決算から適用される表記の変更は以下の通りです。
(1)タイ語表記の変更:英語表記は変わらず、タイ語表記のみが変わる項目が若干あります。
(2)タイ語・英語表記の変更:以下のような名称変更があります。(例:“Trade and other receivables”→“Trade and other current receivables”)
(3)TFRSの適用や会計方針の変更があった場合はその内容の記述が必要:TFRSの一部適用の場合には、その適用されている基準の詳細を述べるとともに、基準変更の場合には理由や影響等についても記載する必要があります。
今回の商務省の通達のポイントは、(3)の点かと思います。(1)と(2)は手続き的なことで、表記のみ変更すれば良いのですが、(3)については2022年改定に沿って、オプションを適用した場合等において、財務諸表を利用する人がどの項目でどの基準が適用されているかを一目でわかるようにするためのものであり、基準改定と一体となった表記の改定と言えるでしょう。
【COLUMN】会計基準と連結決算作業について
在タイ日系企業に関係する基準として、上述のようにタイでは「非上場会社基準(TFRS for NPAEs)」と「上場会社基準(TFRS)」が存在します。一方、日本の親会社では「日本基準」「国際会計基準(IFRS)」および「米国会計基準(US-GAAP)」、「中小企業会計指針・要領(日本の上場企業・大企業以外)」などが適用されています。会計基準は会計で使っている言葉のようなものと言われ、TFRSとIFRSはほぼ似たような言葉ですので、読み替えもしやすく、連結作業も容易です。しかし、IFRSと日本基準は、少し違った言葉のためテクニックが必要です。ただし、その翻訳(=読み替え)方法も確立されています。
タイにおいて多くの企業が使っているTFRS for NPAEsを日本の連結に使用する場合は、親会社の使っている基準との差を考慮しながら対応していかなければならない部分もあり、国際的に統一された基準の適用は難しいなと感じます。